クリスの物語

daichoro

文字の大きさ
140 / 227
第三章 悪魔の儀式

第26話 優里のピューラ

しおりを挟む
 しばらくして、紗奈と優里がクワインダーに乗ってリビングへ上がってきた。クリスの隣に紗奈が座り、その隣に優里が座った。優里の手にはテステクが握られている。



 クテイラに座るなり優里が『先ほどは、ありがとうございました』と、クレアに頭を下げた。クレアは『別に』と、肩をすくめた。

 それから優里は落ち着かない様子でうつむきながら、エランドラとラマルを上目遣いにちらちらと見た。

 それに気づいた紗奈が、「さっきドラゴンだったエランドラとラマルだよ」と二人を紹介した。



 どうやら優里は、この場に座る金髪の女性と、青い髪の少年が誰だか分かっていなかったようだ。

 改めて紹介されると、優里は「え?」と言って両手で口を押さえた。



「普段はこうやって、人間の姿にシェイプシフトしているの」

 紗奈が説明すると、優里は驚きを隠せない様子で、口元を押さえたままラマルとエランドラに会釈した。



「ラマルがここまで優里を乗せて来てくれたんだよ」と紗奈が言うと、優里は頬を赤らめて『ありがとうございます』と、もう一度頭を下げた。



『そんなことより』と、クレアが口を挟んだ。

『とりあえず、あなたも一緒に行くからにはピューラに着替えるべきね』

「え?」

 クレアに言われて、優里は戸惑うように紗奈を見た。



「ピューラって、わたしたちが今着ているこの服のことだよ」

 紗奈がそう言って身に着けている白いワンピースのスカート部分を、指でつまんで少し持ち上げた。

 キラキラと光沢を放つワンピースは、光の加減で七色に色を変えた。



「ドラゴンの生命エネルギーを封じ込めた糸を使って縫製したもので、この服を着るとその特定のドラゴンの特性に応じた効果が表れるの。ベベみたいに空を飛べるようになったり、クリスのなんて水の中で呼吸ができたりするみたい。ね?」

 クリスは、うなずいた。



「わたしのは、まだどんな特性なのか分からないんだけどね。でも、気づいてるかもしれないけど、どのピューラも着ただけでこうやって少し宙に浮くんだよ」

 紗奈はその場に立ち上がってみせた。紗奈の足は、床から5㎝ほど浮き上がっていた。

「えー、すごーい!いいなあ」と、優里は目を輝かせた。



 そういうわけで、優里のピューラを仕立ててもらうためベスタメルナへ向かうことになった。

 しかし全員連れ立って行くことでもないのでクレアと紗奈、優里の女子3人だけで行くことになった。

 それ以外のメンバーはメシオナで留守番だ。



 クテイラに座るクリスとエランドラのために、ラマルが水を持ってきてくれた。

 それと“メリナムム”という丸いクッキーのようなお菓子も持ってきた。口の中に入れるとほろほろと溶ける、変わった口どけのお菓子だった。味はほんのりと甘く、少しだけシナモンの風味がした。



『そういえば、ぼくエランドラやラマルたちのことについてあまり詳しい話を聞いたことがなかったけど、ドラゴン族ってそもそもどういう存在なの?』

 メリナムムをつまみながら、クリスが気になっていたことを質問した。



『どういう存在とは?』と、エランドラが聞き返した。メリナムムをもぐもぐ食べながら、ラマルもクリスを見た。

『さっき、地上へ転生するぼくをサポートするためにエランドラはぼくと契約したと言っていたけど、ドラゴン族とか他の守護獣って、人間をサポートするために存在しているの?』



 質問の意図を理解すると、エランドラは優しく微笑んだ。

 それから、ドラゴン族と人類の関係についてゆっくりと語り始めた。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...