164 / 227
第三章 悪魔の儀式
第50話 未知なる孤島
しおりを挟む
「きゃっ」
紗奈の叫び声とともに、カラカラっと石が落下した。
一行が転移した先は、切り立つ崖の上だった。
足場は狭く、一歩踏み間違えたら崖下へ真っ逆さまだ。
周囲は岩壁に囲まれ、上方からかすかに光が差し込んでいるだけであたりは薄暗かった。
そんな中で田川先生とクリスのルーベラピスが放つ光がより輝きを増し、照明代わりとなった。
「なるほどね」と田川先生がつぶやいた。
「ここは、エンソルゾーソより更に南下したところに位置しているわ。普段は決して姿を現さない孤島ね。その中央に位置する名もなき山の内部よ。
銀河連邦の情報にもないくらいだもの。なかなか見つからないわけだわ。恐らく、先ほどの隠し転移装置と連動して出現するようになっているのね」
独り言のようにそう話すと、先生は振り返って剣を抜いた。そして照明を掲げるようにルーベラピスで周囲を照らした。
それにならって、クリスも短剣を抜いて明かりをかざした。
山の内部だというその空間は、そこそこの広さがあった。円形に広がる空間に、人がひとりやっと通れるくらいの幅の狭い道が壁に沿ってぐるりとらせんを描くように下へと続いている。
「足もとに気をつけて」
先生は片手にルーベラピスを掲げ、壁をつたいながら細く足場の悪い道を下り始めた。一行は、一列になってその後に続いた。
下へ下りるにつれて、先生とクリスどちらのルーベラピスも発する光が増大した。
最深部に到達する頃には手に掲げておく必要がないほど、その光は十分な明るさを放っていた。
最深部には、ステージのように円形に広がるスペースがあった。そのステージの周りは、水の流れるお堀で囲われている。
最深部に到達した一行は、ステージへ架けられた橋を渡った。
ステージの中央には台座が設えられ、そしてその上に黒く輝く丸い大きな玉が載せられていた。
それは、風のクリスタルエレメント“ウェントゥス”に間違いなかった。
少し緑がかった黒い石の玉を前に、クリスは安堵感と共にいくらかあっけなさを感じた。
アクアの時と違って、ルーベラピスを発動させることもしていない。
「なんか、意外とあっけなかったですね」
隣に立つ田川先生を見上げて、クリスは思ったことを口にした。
「そうかしら?」と、先生は意外そうな顔をした。
「はい。なんていうか、もっと見つけにくい場所に隠されているのかと思いました。しかも、ルーベラピスを発動させることさえしなかったし」
先生はふふっと笑った。
「そう?でもわたしがこうして案内してあげたから、あの隠し転移装置だって分かったのであって、本来であればあの転移装置だって見つけられなかったんじゃないかしら?」
「それはもちろんそうですけど・・・。でも、先生は転移装置の在りかを知っていたわけですよね?それなら、なんか他にも知られていてもおかしくないような気がするんですけど・・・」
「他にもって?」
「たとえば、風光都市の人たちとか、闇の勢力の人たちとか」
先生は、肩をすくめた。
「わたしが見つけられたのは、本当に運が良かったのよ。現に、これまでこうして誰にも見つからずに眠っていた訳だしね。恐らく、他のクリスタルエレメントが発見されたことで銀河連邦も場所の見当がつけられやすくなったのだと思うわ」
「そうなんですか」と返事をしながらも、クリスは首を傾げた。
たしかに、田川先生に案内してもらわなければ隠し転移装置を見つけ出すことはできなかった。それにソエンゾ山まで歩くという発想すら湧かなかったかもしれない。
しかし、風光都市のネットワークへ侵入して都市を制圧した闇の勢力が未だ探し出せていないというのに、それを出し抜いてこうもあっさりと見つけられるものだろうか。
しかし、ウェントゥスは闇の勢力に奪われることなく実際にこうして目の前にある。だからここへ導かれたのはラッキーなだけで、そうでなければ発見するのはやはり困難なのだろう。
「それじゃあ上村君、いい?」
クリスがひとり納得していると、先生が頭を傾けてウェントゥスを目で示した。
「ぼくがやるんですか?」
「そうね。わたしは今回サポートするように命じられただけであって、入手するように言い渡されているわけではないから、ここは上村君にお願いするわ」
ゆっくりとうなずいて、先生は言った。
すると、『おっと、先客がいたか』という声がどこからか響いた。
その場にいた全員が、上方を振り向いた。
紗奈の叫び声とともに、カラカラっと石が落下した。
一行が転移した先は、切り立つ崖の上だった。
足場は狭く、一歩踏み間違えたら崖下へ真っ逆さまだ。
周囲は岩壁に囲まれ、上方からかすかに光が差し込んでいるだけであたりは薄暗かった。
そんな中で田川先生とクリスのルーベラピスが放つ光がより輝きを増し、照明代わりとなった。
「なるほどね」と田川先生がつぶやいた。
「ここは、エンソルゾーソより更に南下したところに位置しているわ。普段は決して姿を現さない孤島ね。その中央に位置する名もなき山の内部よ。
銀河連邦の情報にもないくらいだもの。なかなか見つからないわけだわ。恐らく、先ほどの隠し転移装置と連動して出現するようになっているのね」
独り言のようにそう話すと、先生は振り返って剣を抜いた。そして照明を掲げるようにルーベラピスで周囲を照らした。
それにならって、クリスも短剣を抜いて明かりをかざした。
山の内部だというその空間は、そこそこの広さがあった。円形に広がる空間に、人がひとりやっと通れるくらいの幅の狭い道が壁に沿ってぐるりとらせんを描くように下へと続いている。
「足もとに気をつけて」
先生は片手にルーベラピスを掲げ、壁をつたいながら細く足場の悪い道を下り始めた。一行は、一列になってその後に続いた。
下へ下りるにつれて、先生とクリスどちらのルーベラピスも発する光が増大した。
最深部に到達する頃には手に掲げておく必要がないほど、その光は十分な明るさを放っていた。
最深部には、ステージのように円形に広がるスペースがあった。そのステージの周りは、水の流れるお堀で囲われている。
最深部に到達した一行は、ステージへ架けられた橋を渡った。
ステージの中央には台座が設えられ、そしてその上に黒く輝く丸い大きな玉が載せられていた。
それは、風のクリスタルエレメント“ウェントゥス”に間違いなかった。
少し緑がかった黒い石の玉を前に、クリスは安堵感と共にいくらかあっけなさを感じた。
アクアの時と違って、ルーベラピスを発動させることもしていない。
「なんか、意外とあっけなかったですね」
隣に立つ田川先生を見上げて、クリスは思ったことを口にした。
「そうかしら?」と、先生は意外そうな顔をした。
「はい。なんていうか、もっと見つけにくい場所に隠されているのかと思いました。しかも、ルーベラピスを発動させることさえしなかったし」
先生はふふっと笑った。
「そう?でもわたしがこうして案内してあげたから、あの隠し転移装置だって分かったのであって、本来であればあの転移装置だって見つけられなかったんじゃないかしら?」
「それはもちろんそうですけど・・・。でも、先生は転移装置の在りかを知っていたわけですよね?それなら、なんか他にも知られていてもおかしくないような気がするんですけど・・・」
「他にもって?」
「たとえば、風光都市の人たちとか、闇の勢力の人たちとか」
先生は、肩をすくめた。
「わたしが見つけられたのは、本当に運が良かったのよ。現に、これまでこうして誰にも見つからずに眠っていた訳だしね。恐らく、他のクリスタルエレメントが発見されたことで銀河連邦も場所の見当がつけられやすくなったのだと思うわ」
「そうなんですか」と返事をしながらも、クリスは首を傾げた。
たしかに、田川先生に案内してもらわなければ隠し転移装置を見つけ出すことはできなかった。それにソエンゾ山まで歩くという発想すら湧かなかったかもしれない。
しかし、風光都市のネットワークへ侵入して都市を制圧した闇の勢力が未だ探し出せていないというのに、それを出し抜いてこうもあっさりと見つけられるものだろうか。
しかし、ウェントゥスは闇の勢力に奪われることなく実際にこうして目の前にある。だからここへ導かれたのはラッキーなだけで、そうでなければ発見するのはやはり困難なのだろう。
「それじゃあ上村君、いい?」
クリスがひとり納得していると、先生が頭を傾けてウェントゥスを目で示した。
「ぼくがやるんですか?」
「そうね。わたしは今回サポートするように命じられただけであって、入手するように言い渡されているわけではないから、ここは上村君にお願いするわ」
ゆっくりとうなずいて、先生は言った。
すると、『おっと、先客がいたか』という声がどこからか響いた。
その場にいた全員が、上方を振り向いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる