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第四章 パラレルワールド
第10話 旅の支度
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その後、3人は出かける準備をするためそれぞれ一度家に帰った。
マーティスによれば、すべて向こうで買い揃えられるし資金は用意されているから、何も持っていく必要はないということだった。しかし、クリスはミラコルンを取りに帰りたかった。それに紗奈も優里もとりあえずの着替えなどはやはり持っていきたいということで、家に帰ることになった。
3人は11時にまたクリスの家で待ち合わせることにした。
クリスが帰宅したとき、家には誰もいなかった。
クリスは早速、マーティスから受け取った“ピューネス”という黒いつなぎに着替えた。
綿のようなしっかりとした生地だが、身に着けていないのかと思えるほどとても軽い素材だった。今にも飛び立てそうな感覚がある。
先に着せたベベは、背に羽はついてなくともピューラと同じように宙を飛んでいた。
マーティスの話では、ピューラよりも飛翔能力をアップしてあるということだった。
試しに、クリスはその場でジャンプしてみた。
「いたっ」
ドンと、大きな音を立ててリビングの天井に頭をぶつけてしまった。
軽く飛んだつもりだったのに、予想以上の跳躍力だった。
『飛ぼうとするんじゃなくって、浮き上がるようにするんだよ』
頭をさするクリスに、ベベがアドバイスをした。
『浮き上がる?』と聞き返したクリスは、以前お城で緑色の髪の少年と空を飛んだときのことを思い出した。
そして、マーティスから渡されたブーツを履いて家を飛び出した。
クリスは目を閉じ、優しく頬を撫でるようにそよぐ風を感じた。
『風と自分とを隔てるその思いを捨てて』
突然、あの少年の声が聞こえたような気がした。そして、ふわっと体が浮き上がる感覚があった。
クリスは目を開けた。徐々に、徐々に体が宙に浮かんでいく────
「やったー!」
宙に浮き上がって、クリスはガッツポーズをした。
2階の窓から、父親の書斎がのぞき込める。
『そうそう。その調子だよ』
そう言いながら、ベベはクリスの周りを悠々と飛び回った。
クリスも真似て両手を前に突き出し、飛びたい方向へ進んだ。
慣れてしまえば、コントロールするのはそう難しいことではなかった。
それから、クリスとベベは追いかけっこするように家の周りを飛び回った。
そんなことをしている内にも、待ち合わせの時間はあっという間にやってきた。
クリスは、慌てて部屋に戻って仕度をした。リュックサックにTシャツや下着、それにお土産用のお小遣いも持った。ミラコルンを腕に巻き付け、部屋を出たところでインターホンが鳴った。
紗奈も優里も、ピューネスに着替えていた。紗奈は髪をポニーテールにして、両耳にピアスをつけていた。
三連のチェーンに、それぞれ小さな星がついた黒いピアスだった。優里は、おさげにした髪をゆるく三つ編みに結っていた。
「あれ?自転車は?」
ふたりの自転車がないことに気づき、クリスが尋ねた。
「エンダに乗ってきたの。紗奈も乗せて」と、優里が答えた。
「どうせ今から別の世界に行くし、見られてもいいかなって思って」
優里は、そう言っていたずらっぽく笑った。
「でも、たぶん誰にも見られていないと思うけど」
同意するように、紗奈も笑顔でうなずいた、
「そっか。そうしたら、ふたりともお城までまたエンダに乗っていきなよ。ぼくとベベは飛んでいくから」
クリスがそう言うと、ふたりとも不思議そうな顔をした。
クリスが思っていたとおり、ふたりはまだピューネスで空を飛べることに気づいていないようだ。クリスは得意になって、その場で飛んでみせた。
「え、すごーい!」と優里が感嘆の声を上げると、その隣で紗奈が「えーずるい・・・」と悔しそうな顔をした。
クリスは笑いながら、ベベと一緒にお城まで飛んでいった。
お城の裏の空き地に停められたヘリコプターは、すでにエンジンがかけられていた。
サングラスをかけたマーティスが、お城の上で爆風に吹かれながら佇んでいる。クリスとベベがお城の上に着地すると、マーティスは軽く頭を下げた。
それから間もなくして、紗奈と優里を乗せたエンダが裏の空き地に降り立った。
ふたりがエンダの背から降り立つと、マーティスは早速ヘリコプターに案内した。操縦席には、髭を蓄えた外国人男性がひとり座っていた。ヘッドホンを装着し、色の濃いティアドロップをかけている。
3人が機内に乗り込むと、「ハーイ」とその操縦士が笑顔で握手を求めた。雰囲気からして、銀河連邦の人間ではなさそうだ。大きな手を握り返して「ハーイ」と、3人も挨拶をした。
横一列に3つ並んだシートの奥からクリス、紗奈、優里という順で座った。ベベはクリスの膝に乗り、エンダは小さく姿を変えて優里の手の上に乗った。荷物はそれぞれうしろのシートに置いた。
最後に乗り込んだマーティスは、ドアを閉めるとパイロットの隣に座った。それから『どうぞ、こちらのヘッドセットをお付けください』と言って、マイク付のヘッドホンをそれぞれに配った。
3人は言われた通りそれをセットし、それから指示された通りにシートベルトを装着した。
すると機体が浮き上がった。ヘリは方向転換しながら空高く上がり、空港へと針路をとった。
クリスが眼下に移り過ぎていく景色を眺めていると、紗奈が袖を引っ張った。そして『あとでピューネスの飛び方教えてよね』と、すねるように言った。
その後間もなくして、クリスは急激な眠気に襲われた。ズーンと頭が重くなる、例のアレ・・だった。
風光都市以来、久しぶりにその症状に見舞われた。クリスはたまらず目を閉じて、シートに頭を預けた。
マーティスによれば、すべて向こうで買い揃えられるし資金は用意されているから、何も持っていく必要はないということだった。しかし、クリスはミラコルンを取りに帰りたかった。それに紗奈も優里もとりあえずの着替えなどはやはり持っていきたいということで、家に帰ることになった。
3人は11時にまたクリスの家で待ち合わせることにした。
クリスが帰宅したとき、家には誰もいなかった。
クリスは早速、マーティスから受け取った“ピューネス”という黒いつなぎに着替えた。
綿のようなしっかりとした生地だが、身に着けていないのかと思えるほどとても軽い素材だった。今にも飛び立てそうな感覚がある。
先に着せたベベは、背に羽はついてなくともピューラと同じように宙を飛んでいた。
マーティスの話では、ピューラよりも飛翔能力をアップしてあるということだった。
試しに、クリスはその場でジャンプしてみた。
「いたっ」
ドンと、大きな音を立ててリビングの天井に頭をぶつけてしまった。
軽く飛んだつもりだったのに、予想以上の跳躍力だった。
『飛ぼうとするんじゃなくって、浮き上がるようにするんだよ』
頭をさするクリスに、ベベがアドバイスをした。
『浮き上がる?』と聞き返したクリスは、以前お城で緑色の髪の少年と空を飛んだときのことを思い出した。
そして、マーティスから渡されたブーツを履いて家を飛び出した。
クリスは目を閉じ、優しく頬を撫でるようにそよぐ風を感じた。
『風と自分とを隔てるその思いを捨てて』
突然、あの少年の声が聞こえたような気がした。そして、ふわっと体が浮き上がる感覚があった。
クリスは目を開けた。徐々に、徐々に体が宙に浮かんでいく────
「やったー!」
宙に浮き上がって、クリスはガッツポーズをした。
2階の窓から、父親の書斎がのぞき込める。
『そうそう。その調子だよ』
そう言いながら、ベベはクリスの周りを悠々と飛び回った。
クリスも真似て両手を前に突き出し、飛びたい方向へ進んだ。
慣れてしまえば、コントロールするのはそう難しいことではなかった。
それから、クリスとベベは追いかけっこするように家の周りを飛び回った。
そんなことをしている内にも、待ち合わせの時間はあっという間にやってきた。
クリスは、慌てて部屋に戻って仕度をした。リュックサックにTシャツや下着、それにお土産用のお小遣いも持った。ミラコルンを腕に巻き付け、部屋を出たところでインターホンが鳴った。
紗奈も優里も、ピューネスに着替えていた。紗奈は髪をポニーテールにして、両耳にピアスをつけていた。
三連のチェーンに、それぞれ小さな星がついた黒いピアスだった。優里は、おさげにした髪をゆるく三つ編みに結っていた。
「あれ?自転車は?」
ふたりの自転車がないことに気づき、クリスが尋ねた。
「エンダに乗ってきたの。紗奈も乗せて」と、優里が答えた。
「どうせ今から別の世界に行くし、見られてもいいかなって思って」
優里は、そう言っていたずらっぽく笑った。
「でも、たぶん誰にも見られていないと思うけど」
同意するように、紗奈も笑顔でうなずいた、
「そっか。そうしたら、ふたりともお城までまたエンダに乗っていきなよ。ぼくとベベは飛んでいくから」
クリスがそう言うと、ふたりとも不思議そうな顔をした。
クリスが思っていたとおり、ふたりはまだピューネスで空を飛べることに気づいていないようだ。クリスは得意になって、その場で飛んでみせた。
「え、すごーい!」と優里が感嘆の声を上げると、その隣で紗奈が「えーずるい・・・」と悔しそうな顔をした。
クリスは笑いながら、ベベと一緒にお城まで飛んでいった。
お城の裏の空き地に停められたヘリコプターは、すでにエンジンがかけられていた。
サングラスをかけたマーティスが、お城の上で爆風に吹かれながら佇んでいる。クリスとベベがお城の上に着地すると、マーティスは軽く頭を下げた。
それから間もなくして、紗奈と優里を乗せたエンダが裏の空き地に降り立った。
ふたりがエンダの背から降り立つと、マーティスは早速ヘリコプターに案内した。操縦席には、髭を蓄えた外国人男性がひとり座っていた。ヘッドホンを装着し、色の濃いティアドロップをかけている。
3人が機内に乗り込むと、「ハーイ」とその操縦士が笑顔で握手を求めた。雰囲気からして、銀河連邦の人間ではなさそうだ。大きな手を握り返して「ハーイ」と、3人も挨拶をした。
横一列に3つ並んだシートの奥からクリス、紗奈、優里という順で座った。ベベはクリスの膝に乗り、エンダは小さく姿を変えて優里の手の上に乗った。荷物はそれぞれうしろのシートに置いた。
最後に乗り込んだマーティスは、ドアを閉めるとパイロットの隣に座った。それから『どうぞ、こちらのヘッドセットをお付けください』と言って、マイク付のヘッドホンをそれぞれに配った。
3人は言われた通りそれをセットし、それから指示された通りにシートベルトを装着した。
すると機体が浮き上がった。ヘリは方向転換しながら空高く上がり、空港へと針路をとった。
クリスが眼下に移り過ぎていく景色を眺めていると、紗奈が袖を引っ張った。そして『あとでピューネスの飛び方教えてよね』と、すねるように言った。
その後間もなくして、クリスは急激な眠気に襲われた。ズーンと頭が重くなる、例のアレ・・だった。
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