クリスの物語

daichoro

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第四章 パラレルワールド

第47話 クリスの使命

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『ハスールさんたちは、なんでザルナバンが地球消滅の儀式を行っても失敗すると思っていたのですか?』



 クリスタルエレメントの受け渡しを見ながら、紗奈が質問した。

 万一、ザルナバンが儀式を行ってしまっても失敗するとマーティスから聞いていた。しかし、その理由まではマーティスも知らされていないと言っていた。



 ハスールは、にやりと悪だくみするような笑みを浮かべた。

『クリスタルエレメントをひとつ、すり替えておいたのです』



 ハスールによれば、地のクリスタルエレメント“テラ”はとっくに田川先生が入手していたということだった。

 つまり、実際に田川先生は選ばれし者でもあったのだ。そして、あらかじめ見た目も周波数の測定値もテラとまったく同じ偽の石を用意して、それをソレーテには渡しておいた。

 ソレーテも、まさか銀河連邦に騙されるとは思っていないから、疑うこともしなかった。



『ですから、実はこれは偽物なのです』

 少し茶色がかったクリスタルエレメントを取り出すと、ハスールはそれを魔法で粉々に砕き、吹き消してしまった。



『さて』

 パンパンと手をはたくと、ハスールがクリスを見た。顔にはにこやかな笑みを浮かべている。

『これからどうされますか?』



 その質問を受けて、クリスは皆の顔を見回した。

 選ばれし者としての任務を終えた今、クリスも正直どうしたらいいのか分からなかった。地球での使命を、もう終えたような気がしていた。



『もちろん地球の元の生活に戻っていただいても結構ですし、今後私たち銀河連邦に加わり、一緒に活動していただくというのも大歓迎です』



 クリスは隣に座る紗奈と、その手の上で眠るグリフォンを見た。それから優里のうしろに寝そべるエンダに視線を向けると、エンダが大きな瞳をぱちくりとさせた。



 地球に戻ったら、エンダは地表世界にはもう置いておけないだろう。クリスは、いつからか膝の上で眠るベベを撫でた。



 ここでの生活だったら全員が共存できて、しかも気候も穏やかだし、望みの物は何でも思い描いただけで手に入る。

 もし地球へ戻ったら行きたくもない学校生活が待っているし、その後高校や大学へ進学してやりたくもない仕事をし続けるような毎日を送ることになるのだろう。周りの大人たちのように。



『地球がアセンドしたら、この子たちとも一緒に地上で生活できるようになるんですよね?』

 手のひらで眠るグリフォンを、そっと指先で撫でながら紗奈が聞いた。

『そのとおりです』と、ハスールは笑顔でうなずき返した。



 そうか。これから地球はアセンドするのだ。そうしたら、まったく別世界になっていくはずだ。

 地球が光に変わっていくことによって、ネガティブな思想も徐々になくなっていくだろう。そして、人類が光に向かって、喜びに満ちた生活を送るようになる。



 以前、“お城”で出会った緑色の髪の少年が言っていた。魂の輝きを放って与えられた役割を精一杯生きること。そうすることで魂は成長できるし、周りの存在にも光を灯すことができる、と。



 ぼくは地球と共に歩み、ぼく自身が光を発して世界を変えていこう。そして、かつてエランドラたちドラゴン族とも共存できていた頃のように、地球を愛に溢れる光の星にする。それが、これからのぼくの使命だ。



 クリスの決心を悟って、ハスールは満足そうに微笑んだ。



『お気持ちは、十分理解いたしました。それでしたら、もしよろしければ地球へお戻りになる前にこちらへもうしばらく滞在されてはいかがでしょう?地球へは、いつでも戻りたいときにお送り差し上げますよ』



 このマザーシップも地球とは別次元にあるため、地底世界などのように時間の経過が違う。

 そのため、どれだけ滞在しても地球時間はほとんど経過しないのだ。



『それに』と、横からハーディが言った。

『地球へ戻っても、まだしばらく夏休みなんだろう?それなら、僕の別荘にも招待してあげるよ。海へ行ってイルカと泳いだり、山へ行ってラフティングしたり、世界中巡って地球の素晴らしさを体感するといいよ』



 それを聞いて、クリスたちは地球に帰るのが楽しみになった。よく考えてみれば、地表世界だけでも行ったことのないところばかりなのだ。

 生まれ育った地球のことをもっと知りたい、という思いがクリスの中で芽生えた。



 歓迎会もお開きとなり、カフェテリアを後にするときにクリスはハスールと握手を交わした。

 ハスールは感謝の言葉を再度述べた後に、『もしクルストンをご覧になるようでしたら、図書館へ行ってみてください』と言った。

 地球のために犠牲になった田川先生のことを、後世に伝えるためにも見ておいた方がいいのだろう。



 クリスは『分かりました』と、ハスールの目を見つめてうなずき返した。




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