216 / 227
第四章 パラレルワールド
第47話 クリスの使命
しおりを挟む
『ハスールさんたちは、なんでザルナバンが地球消滅の儀式を行っても失敗すると思っていたのですか?』
クリスタルエレメントの受け渡しを見ながら、紗奈が質問した。
万一、ザルナバンが儀式を行ってしまっても失敗するとマーティスから聞いていた。しかし、その理由まではマーティスも知らされていないと言っていた。
ハスールは、にやりと悪だくみするような笑みを浮かべた。
『クリスタルエレメントをひとつ、すり替えておいたのです』
ハスールによれば、地のクリスタルエレメント“テラ”はとっくに田川先生が入手していたということだった。
つまり、実際に田川先生は選ばれし者でもあったのだ。そして、あらかじめ見た目も周波数の測定値もテラとまったく同じ偽の石を用意して、それをソレーテには渡しておいた。
ソレーテも、まさか銀河連邦に騙されるとは思っていないから、疑うこともしなかった。
『ですから、実はこれは偽物なのです』
少し茶色がかったクリスタルエレメントを取り出すと、ハスールはそれを魔法で粉々に砕き、吹き消してしまった。
『さて』
パンパンと手をはたくと、ハスールがクリスを見た。顔にはにこやかな笑みを浮かべている。
『これからどうされますか?』
その質問を受けて、クリスは皆の顔を見回した。
選ばれし者としての任務を終えた今、クリスも正直どうしたらいいのか分からなかった。地球での使命を、もう終えたような気がしていた。
『もちろん地球の元の生活に戻っていただいても結構ですし、今後私たち銀河連邦に加わり、一緒に活動していただくというのも大歓迎です』
クリスは隣に座る紗奈と、その手の上で眠るグリフォンを見た。それから優里のうしろに寝そべるエンダに視線を向けると、エンダが大きな瞳をぱちくりとさせた。
地球に戻ったら、エンダは地表世界にはもう置いておけないだろう。クリスは、いつからか膝の上で眠るベベを撫でた。
ここでの生活だったら全員が共存できて、しかも気候も穏やかだし、望みの物は何でも思い描いただけで手に入る。
もし地球へ戻ったら行きたくもない学校生活が待っているし、その後高校や大学へ進学してやりたくもない仕事をし続けるような毎日を送ることになるのだろう。周りの大人たちのように。
『地球がアセンドしたら、この子たちとも一緒に地上で生活できるようになるんですよね?』
手のひらで眠るグリフォンを、そっと指先で撫でながら紗奈が聞いた。
『そのとおりです』と、ハスールは笑顔でうなずき返した。
そうか。これから地球はアセンドするのだ。そうしたら、まったく別世界になっていくはずだ。
地球が光に変わっていくことによって、ネガティブな思想も徐々になくなっていくだろう。そして、人類が光に向かって、喜びに満ちた生活を送るようになる。
以前、“お城”で出会った緑色の髪の少年が言っていた。魂の輝きを放って与えられた役割を精一杯生きること。そうすることで魂は成長できるし、周りの存在にも光を灯すことができる、と。
ぼくは地球と共に歩み、ぼく自身が光を発して世界を変えていこう。そして、かつてエランドラたちドラゴン族とも共存できていた頃のように、地球を愛に溢れる光の星にする。それが、これからのぼくの使命だ。
クリスの決心を悟って、ハスールは満足そうに微笑んだ。
『お気持ちは、十分理解いたしました。それでしたら、もしよろしければ地球へお戻りになる前にこちらへもうしばらく滞在されてはいかがでしょう?地球へは、いつでも戻りたいときにお送り差し上げますよ』
このマザーシップも地球とは別次元にあるため、地底世界などのように時間の経過が違う。
そのため、どれだけ滞在しても地球時間はほとんど経過しないのだ。
『それに』と、横からハーディが言った。
『地球へ戻っても、まだしばらく夏休みなんだろう?それなら、僕の別荘にも招待してあげるよ。海へ行ってイルカと泳いだり、山へ行ってラフティングしたり、世界中巡って地球の素晴らしさを体感するといいよ』
それを聞いて、クリスたちは地球に帰るのが楽しみになった。よく考えてみれば、地表世界だけでも行ったことのないところばかりなのだ。
生まれ育った地球のことをもっと知りたい、という思いがクリスの中で芽生えた。
歓迎会もお開きとなり、カフェテリアを後にするときにクリスはハスールと握手を交わした。
ハスールは感謝の言葉を再度述べた後に、『もしクルストンをご覧になるようでしたら、図書館へ行ってみてください』と言った。
地球のために犠牲になった田川先生のことを、後世に伝えるためにも見ておいた方がいいのだろう。
クリスは『分かりました』と、ハスールの目を見つめてうなずき返した。
クリスタルエレメントの受け渡しを見ながら、紗奈が質問した。
万一、ザルナバンが儀式を行ってしまっても失敗するとマーティスから聞いていた。しかし、その理由まではマーティスも知らされていないと言っていた。
ハスールは、にやりと悪だくみするような笑みを浮かべた。
『クリスタルエレメントをひとつ、すり替えておいたのです』
ハスールによれば、地のクリスタルエレメント“テラ”はとっくに田川先生が入手していたということだった。
つまり、実際に田川先生は選ばれし者でもあったのだ。そして、あらかじめ見た目も周波数の測定値もテラとまったく同じ偽の石を用意して、それをソレーテには渡しておいた。
ソレーテも、まさか銀河連邦に騙されるとは思っていないから、疑うこともしなかった。
『ですから、実はこれは偽物なのです』
少し茶色がかったクリスタルエレメントを取り出すと、ハスールはそれを魔法で粉々に砕き、吹き消してしまった。
『さて』
パンパンと手をはたくと、ハスールがクリスを見た。顔にはにこやかな笑みを浮かべている。
『これからどうされますか?』
その質問を受けて、クリスは皆の顔を見回した。
選ばれし者としての任務を終えた今、クリスも正直どうしたらいいのか分からなかった。地球での使命を、もう終えたような気がしていた。
『もちろん地球の元の生活に戻っていただいても結構ですし、今後私たち銀河連邦に加わり、一緒に活動していただくというのも大歓迎です』
クリスは隣に座る紗奈と、その手の上で眠るグリフォンを見た。それから優里のうしろに寝そべるエンダに視線を向けると、エンダが大きな瞳をぱちくりとさせた。
地球に戻ったら、エンダは地表世界にはもう置いておけないだろう。クリスは、いつからか膝の上で眠るベベを撫でた。
ここでの生活だったら全員が共存できて、しかも気候も穏やかだし、望みの物は何でも思い描いただけで手に入る。
もし地球へ戻ったら行きたくもない学校生活が待っているし、その後高校や大学へ進学してやりたくもない仕事をし続けるような毎日を送ることになるのだろう。周りの大人たちのように。
『地球がアセンドしたら、この子たちとも一緒に地上で生活できるようになるんですよね?』
手のひらで眠るグリフォンを、そっと指先で撫でながら紗奈が聞いた。
『そのとおりです』と、ハスールは笑顔でうなずき返した。
そうか。これから地球はアセンドするのだ。そうしたら、まったく別世界になっていくはずだ。
地球が光に変わっていくことによって、ネガティブな思想も徐々になくなっていくだろう。そして、人類が光に向かって、喜びに満ちた生活を送るようになる。
以前、“お城”で出会った緑色の髪の少年が言っていた。魂の輝きを放って与えられた役割を精一杯生きること。そうすることで魂は成長できるし、周りの存在にも光を灯すことができる、と。
ぼくは地球と共に歩み、ぼく自身が光を発して世界を変えていこう。そして、かつてエランドラたちドラゴン族とも共存できていた頃のように、地球を愛に溢れる光の星にする。それが、これからのぼくの使命だ。
クリスの決心を悟って、ハスールは満足そうに微笑んだ。
『お気持ちは、十分理解いたしました。それでしたら、もしよろしければ地球へお戻りになる前にこちらへもうしばらく滞在されてはいかがでしょう?地球へは、いつでも戻りたいときにお送り差し上げますよ』
このマザーシップも地球とは別次元にあるため、地底世界などのように時間の経過が違う。
そのため、どれだけ滞在しても地球時間はほとんど経過しないのだ。
『それに』と、横からハーディが言った。
『地球へ戻っても、まだしばらく夏休みなんだろう?それなら、僕の別荘にも招待してあげるよ。海へ行ってイルカと泳いだり、山へ行ってラフティングしたり、世界中巡って地球の素晴らしさを体感するといいよ』
それを聞いて、クリスたちは地球に帰るのが楽しみになった。よく考えてみれば、地表世界だけでも行ったことのないところばかりなのだ。
生まれ育った地球のことをもっと知りたい、という思いがクリスの中で芽生えた。
歓迎会もお開きとなり、カフェテリアを後にするときにクリスはハスールと握手を交わした。
ハスールは感謝の言葉を再度述べた後に、『もしクルストンをご覧になるようでしたら、図書館へ行ってみてください』と言った。
地球のために犠牲になった田川先生のことを、後世に伝えるためにも見ておいた方がいいのだろう。
クリスは『分かりました』と、ハスールの目を見つめてうなずき返した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる