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転生・蘇る大帝
第4話 他人の眼
しおりを挟む馬車に揺られ、絶叫を上げ続ける日々を繰り返すこと2週間。
「お? だいぶ魔力の通りがよくなったな。やはり起こしてくれる人がいると効率がいい」
「「……」」
「ん? どうした? 二人とも」
「……いえ、とんでもない主人に仕えたものだな、と」
「本当ですよ! まさか本当にあの修行を2週間続けるなんて」
「おいおい、そんなに褒めるなよ。照れるぞ」
「「褒めてません!」」
「あっそう」
2週間の旅で二人ともレオンハルトの為人を知ったからか、かなりフレンドリーな態度をとるようになった。
レオンハルトもそれを受け入れている。
「っあ、見えて来ましたよ。あれがライネル領最大の都市、要塞都市ライネルです!」
「お? おお! なかなか立派な要塞ではないか!」
「はい、北の帝国の侵略から国を守る要でございます。近場に大型のダンジョンもあり、迷宮都市としても知られております」
「ダンジョンか~」
この世界にはダンジョンと呼ばれる魔物の発生源が存在する。魔物に関しても、ダンジョンに関しても不明な点が多い。いつから存在していたのか、なぜ生まれたのか、その一切が明かされていない。アレクサンダリアが大陸を統一する遥か前から存在していたと言えば、その歴史の深さがうかがえるであろう。
「ダンジョンか……楽しみだな」
「……まさかとは思いますが、レオンハルト様」
「ん? なんだ?」
「ダンジョンを探索するおつもりで?」
「そうだが? 何を当たり前のことを」
「当たり前ではありません! 貴族の、しかもまだ子供のレオンハルト様がなぜダンジョンに潜ろうとするのですか!?」
「そこにダンジョンがあるから」
「なんですか、それ! 大昔の登山家見たいなことを言わないでください。いいですか? レオンハルト様。レオンハルト様は公爵様の御子息であり、このライネル領の領主代理でもあります。そんなお方がダンジョンで万が一、などあってはなりません。ダンジョンの探索は不許可です!」
「まあまあ、分かったから落ち着け。俺も今すぐ潜るとはいっていない。しかるべき鍛錬を積んだあと十全な準備のもとでの話であって」
「そういう問題では……」
「お? 城門が見えて来たぞ!」
「はあ~」
セバスチャンの苦難はまだまだ続きそうなのであった。
城門を問題なく通過し、これからの仕事場である行政府へと馬車を進める一同。それの出迎えに初老の男性1人と真紅の長髪を後ろでひとまとめしている若い女性がやってきた。
「お待ちしれおりました。レオンハルト様。わたくし、このライネル領の代官をやっておりますケトリーと申します。よろしくお願い申し上げます。こちらは私の補佐を勤めておりますヒルダでございます」
「……ヒルダです」
「レオンハルトだ。よろしく。こっちは従者のセバスチャンとシリアだ」
「セバスチャンと申します。以後お見知りおきを」
「シリアです。よ、よろしくお願いします」
堂々としているセバスチャンとは反対に、若干おどおとしたシリア。
その理由ははっきりしている。ヒルダの敵意に満ちた視線のせいだ。レオンハルトだけでなく、シリアにも厳しい視線が向けられたため彼女はうろたえてしまった。
ヒルダの視線に当然気づいたレオンハルトは苦笑いをこぼす。こんな辺境にも噂は流れているのか、と。
しかし、ヒルダはケトリーの後ろに控えているため、ケトリーはヒルダの態度に気づかない。注意する者もいないため、ヒルダの態度は放置された。
挨拶を済ませた一同はケトリーに案内され、行政府の一室にやってきた。特別な装飾が施されることもなく、まさに執務室といった感じである。
「では、これからの仕事についてのご説明ですが」
「しばらくは今まで通りでいい」
「……は?」
「ん? ……しばらくは今まで通りでいい」
「あ、いえ、その、それは聞こえましたが、よろしいので?」
「ああ、構わん。追々俺も行政に参加するが、それは信頼を得てからだ。ぽっとでのボンボンがいきなり上に立つと不満も出てこよう……そこの女みたいに、な」
そこで初めてケトリーはヒルダの視線に気づいた。
「ヒルダ!」
「……だって」
「だってではない! 申し訳ございません、レオンハルト様! ヒルダ、君も謝罪しなさい」
「……申しわけ、ございません」
「ははは、良い良い。血気盛んなのはいいことだ。仕事が捗るというもの」
「はぁ……ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
渋々謝り、渋々お礼をいうヒルダを見て、レオンハルトは再び苦笑いをこぼす。
「それにしても、女性か……ケトリーといったか。お前が抜擢したのか?」
「……左様でございます」
「そうか……いいことだ。今後も続けよ」
「は? あ、ありがとうございます」
まさか褒められるとは思わずケトリーはうろたえてしまう。それもそのはず。この国では女性は重用されにくい。別にこの国に限ったことではないが。男性の方が優れているという非論理的な思考が世界を支配している証だ。
レオンハルトも当然そう考えだとケトリーは思ったのだが、そうではなかった。
実は、アレクサンダリア1世は性別関係なく、能力あるものを重用したと言う話は割と有名である。にもかかわらず男性の方が出世しやすい世の中になってしまったのは何の皮肉やら。
閑話休題。
「まったく、皇都の老いぼれども。どいつもこいつも、化石と化した腐れ脳味噌しか持たんから視野が狭いのだ。あっ化石は腐らんのか……おっと、愚痴っぽくなってしまったか。とにかく、しばらくは今まで通りだ」
「……そのしばらくとは具体的にどれほどでしょうか?」
「うーん、そうだな。俺が痩せるまででどうだ?」
「はい?」
「辺境の領主代理がこのような体型ではかっこがつかんだろ? 帝国にでも知られたら攻められてしまうわ」
「は、はぁ……」
周りに混乱を撒き散らしながらレオンハルトは退去し、再びダイエットに励むこととなった。
そして、彼は知らない。冗談でいったことが事実になるとは。
◆
魔力回路の開通がかなり進んだレオンハルトのダイエットは次のステップへと進んだ。
かつて、体力と魔力を別々で鍛えることしかできなかったが、魔力が体内を巡らせることで両方同時にできるようになっていた。
具体的には、魔力を全身に巡らせ、体を覆わせる。筋繊維の一本一本に覆いかぶさるように魔力を流す。この状態で魔力を巡らすことで魔力による身体強化がなされるのだが、レオンハルトの修行はそんな生やさしいものであるはずがない。
レオンハルトは筋繊維に流れる魔力を通して「重力魔法」を発動させる。するとどうなるか。筋繊維が自らの重力に耐えきれず、自壊する。
さらに、魔力を流していることで治癒能力が大幅に上昇している。そのため、筋肉は自壊と再生を繰り返し、その都度強くなっていく。
さて、このとんでもなく効率がいい修行法だが、デメリットがないわけでない。
そのデメリットとは、ずばり痛いこと、そして尋常ならざる集中力が必要とするとことである。
常に魔力発動させ続けること。
簡単なようでとても難しい。常人なら脳が焼き切れてもおかしくないが、レオンハルトは脳に流れる魔力の量を調整し、再生による自己補完でどうにか廃人にならずに済んでいる。
そして痛み。
これは例えるなら、腹筋で一番きついところ、腕立てで腕を曲げたところ、その状態を常にキープしているようなもの。ただの筋トレとは訳が違う。少しでも気が抜いたり、諦めたりするとすぐに魔法が解けてしまう。
そのトレーニングをレオンハルトは日中行うことにした。いつか寝ている間にもできるようにしたいとも思っている。もはや変態である。
しかし、それだけで終わらないのがレオンハルトクオリティ。魔法筋トレと同時にランニングも続行していた。
レオンハルト曰く、「使えない筋肉はただの筋肉」とのこと。
何をいっているのだといった感想が漏れるが、レオンハルトが言いたいのはそうではない。
筋肉があっても使えなければ意味がない、と言いたいわけだ。その鍛え上げられた筋肉を体に馴染ませるためのランニングである。
もっと言えば、体力を鍛えることにもなって一石二鳥である。
そんなこんなで順調にダイエットが進んでいたわけだが、その日の午後。レオンハルトはトレーニングを休んで、従者2人を従えてとある場所に来ていた。
「鍛冶屋、ですか?」
「ああ、ライネル領一と謳われる鍛冶士ガイアスがいる鍛冶屋だ」
「それは存じ上げております。しかし、その鍛冶屋に何の御用で?」
「鍛冶屋に行くんだから、武器を作ってもらうに決まってるだろ」
「ですが鍛冶士ガイアスと言えば、気難しいことで有名なはずです。人間嫌いなドワーフということもあるでしょうが……」
「ドワーフは気難しいのではなく、自分の仕事に誇りを持っているのだ。だから自分の武器を使うに相応しくないと思うと武器を売ってくれないこともある。つまり、腕のいいドワーフほど気難しいという評判になるし、気難しいと評判のドワーフは大抵腕がいい」
「はぁー。それはわかりましたが……失礼ながら、それではレオンハルト様も」
「大丈夫だ。こうして手土産も持ってきたわけだし」
そういってレオンハルトはシリアに目をやる。シリアは非属性魔法の中でも珍しく有能とされている影魔法の使い手である。その魔法の一つである影収納のなかに、今回のキーアイテムが入っている。
「では、武器を求めていざ行こう!」
そういって、レオンハルトたちは鍛冶屋に足を踏み入れた。
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