Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

文字の大きさ
34 / 108
学園・出逢いは唐突に

SIDE 皇国皇帝(憂鬱)

しおりを挟む
 皇国の皇城たる一室、俗にいう執務室で皇国のツートップが集まっていた。時は夜、国民の多くが就寝しており、城の中でさえ、寝ずの番の騎士以外は皆眠りについていた。

 こんな時間までなにをしているのか、というと、当然人に聞かれていはまずい話をするためである。

「手がかりなしか」
「ええ、全くもってしっぽが掴めませんなぁ。やりおる。5年もたっておるのに、気が長い事ですなぁ」

 5年前の帝国の侵攻によって明るみになった裏切り者、または内通者の存在。しかし、それが誰かまでは特定できずにいたのだ。

「どこまで洗った?」
「おおよそ洗いましたぞ。残っておるのは、アグリル子爵家、メーライド伯爵家、ローカム伯爵家、マーサラ侯爵家、ティルミス侯爵家ぐらいですな」
「……大物ばかりではないか」

 レオンハルトのクラスメイトであるエルサの実家がローカム伯爵家。そして、同じくクラスメイトであるフレデリックの実家がマーサラ侯爵家。合格発表の当日にレオンハルトに突っかかってきたカーティアの実家がティルミス侯爵家である。

 なんの因果か、その多くがレオンハルトのそばに集まっている。

「……もしかしなくても、これの中に内通者がいるのか」
「……その件なんですが、どうも妙でして」
「妙、とな?」
「この中に内通者がいない可能性もございます」
「いない? ……軍部に内通者がいないということか? では5年前の事件をどう説明する?」
「……」
「……言ってくれ」
「……非常に申し上げにくいのじゃが、軍部を動かせるのは軍家だけではございません。個人でも同等の役割を果たせるものがおります」
「おい、それって」
「護国の三騎士でございます」
「馬鹿な!?」

 皇国の最高戦力が内通者、と言われたら皇帝も落ち着いてはいられない。珍しく取り乱したご様子。

「あくまで可能性じゃ」
「可能性であろうとこれは看過できる問題ではない!」
「とはいえ、我らが打てる手などありませぬ。護国の三騎士を処分しては国が揺らぎますぞ」
「……」
「……」

 長い沈黙が訪れる。皇帝は頭を抱え、机に伏した。とても他人には見せられない姿だが、この部屋には宰相しかいないから問題はなかった。

 先に沈黙を破ったのは皇帝だった。

「……容疑者は?」
「確定ではございませぬが、消去法で行きますと……シュナイダーですな」
「……理由を聞こうか」
「アークはわしが貧民街で拾ってきた捨て子じゃ。拾ってきた頃は、1歳にも満たさなかったほどの赤子じゃったから、彼奴が間者という可能性は低かろう。セベリスも、代々皇国に仕えてきた騎士の家系じゃ。彼奴の祖父の代からわしは知っておる。なんなら彼奴が赤子の頃に一度抱いておるのじゃ。アークほどではないが可能性は低かろう」
「……だからシュナイダーか」
「ですな。彼奴だけが平民上がりですし。身元は特定できておるが、そのぐらいの工作は造作もなかろう……とはいえ、まだ確定事項ではありませぬ。どうぞご放念ください」
「……ここまで言われて、放念などできるか」
「おや? 陛下はこの老骨の戯言にも耳を傾けてる余裕がお有りとは、わし感激じゃ。つきましては、こちらの仕事もお願いしたいのじゃが」
「……勘弁してくれ」

 ここぞとばかりに宰相は皇帝を責め立てる。これぐらいしか、彼にとっての娯楽はないのだから当然かもしれないが。

「さて、陛下よ。戦争が近づいて参りました。そろそろ皇太子の任命をなさらねばなりませんぞ」
「わかってる……しかしなぁ、どうしたものか」
「困り果てたご様子ですなぁ」
「困り果ててるのだ、まったく。なぜ、あやつらはこの国のことが考えられんのか。内輪で揉める場合ではなかろうに」
「それが皇族、ひいては貴族のさだめでございますゆえ」
「……」

 現在の皇帝には、4人の子供たちがいる。

 第一皇子クリストファー、第二皇子レギウス、第一皇女ケイシリア、第二皇女オリービア。このうち、次期皇帝の座で争っているのはなんと、オリービアを除いた皇子皇女全員である。

 第一皇子クリストファー。優秀であり、聡明でもある。順当に行けば彼が次期皇帝となるはずである。しかし彼は正妻、つまり皇后の子ではなく、第二王妃の子である。そのことが彼の足枷となっていた。

 さらに、彼は生まれつき病弱ゆえに武術を嗜まない。本来ならそれでも問題はないはず。なんせ現皇帝がそうなのだから。

 しかし、それは比べる相手がいない場合の話である。第二皇子レギウス。正妻たる皇后の子であり、生まれつき剣の才に恵まれていた。このまま鍛え続ければ護国の三騎士にもかなうのではないか、とまで言われている。

 武がなくとも問題はないが、武があることに越したことはない、というのが皇国の考え方である。特に軍家ではそれが色濃く反映されている。

 そして、この二人と争うのが第一皇女ケイシリア。彼女自身はそれほど優秀というわけではない。無論無能というわけではないが、クリストファー、レギウスと比べるとどうしても見劣りしてしまう。

 しかし、彼女を皇帝に推すものたちは存在する。国を思う優しい心を評価したそうだ。そして、その勢力たるや、3人の帝位候補者の中で最大である。

 それもそのはず。なんせ、彼女は四大公爵家のうち二家から支援を受けているのだ。その家こそが、西の雄リングヒル公爵家、そしてレオンハルトの実家でもあるシュヴァルツァー公爵家である。

 特にシュヴァルツァー公爵家は、嫡男であるテオハルトがケイシリア皇女と婚約まで結んでいる。ケイシリアが皇帝となれば、テオハルトもその夫、そして側近として腕を振るえる。シュヴァルツァー家の更なる発展を遂げること間違いなし。

「今、世継ぎを決めてしまっては国が割れかねない。まだ、決断することはできん」
「御三方ともに引くきがないからのう……これもやむなしか」
「全く、少しはオリービアを見習って欲しいものだ」
「オリービア皇女は皇族の中でも特に異質じゃからのう。皇女でありながら剣を求める。皇女でありながら強さを求める。それ以外には目も向けずにひたすら鍛錬を積み重ねるのみ。歴代でもこれほどの皇女がおりましょうか」
「……オリービアが参戦すれば丸く収まると思うか?」
「無理でございましょう。確かに、素質だけを見ればピカイチじゃ。他の3人とは比べ物にならん。手本があるのではないかと疑うほどじゃ。しかし、今更オリービア皇女を推すものもおりますまい。四大公爵家が意思表明をした以上、他の貴族もおいそれと鞍替えできませぬ」
「……全く」
「いっそう帝国との戦争を利用しても良いかもしれませんなぁ。一番の戦功をあげた者がが次期皇帝、とか」
「そうしたらレギウスが勝つであろう?」
「いいえ、そうとも限りませんぞ」
「どういう意味だ?」

 ここで宰相が顔を歪ませ、実に愉快気に笑った。その顔には一切の邪気が感じられず、こうしてみると孫思いの優しいお爺さんにしか見えない。

「オリービア皇女について、気になる知らせがございます」
「お前はいつもそうやって勿体ぶるな」
「たまには年寄りの長話に付き合ってもばちは当たりませんぞ」
「たまにではなく、いつもだろうが」
「ごっほん、続けるぞい。オリービア皇女は先日、街へお忍びで出かけたそうじゃ」
「あの娘ならそれぐらいやるだろ? 別に珍しくもない」
「それが、そのお忍びにとある人物が一緒におりまして。あ、ちなみに男じゃぞ」
「なに?……つまり、どういうことだ?」
「平たくいうと、デート、ですな」
「……そのものを今すぐ連れてこい。斬首を下賜してやろう」
「まあまあ、そう怒ることでもありませんぞ。いずれ嫁に出す娘じゃ」
「だからと言ってどこの馬の骨とも知れぬ男とデートさせていいはずがないだろう!?」
「その男は陛下もよくご存知ですぞ」
「ここで勿体ぶるな……さっさと言え」
「……ほっほっほ。レオンハルトの小僧じゃ。陛下がオリービア皇女の降嫁候補としておったのじゃろう?」
「なに? ……どういう繋がりだ?」
「はて、そこまでは。まあ、大凡の検討は付きますがな」
「……学園か」
「でしょうなぁ。二人は学園で偶然出会い、そして惹かれあった、と。なかなかロマンチックですなぁ。これが運命というやつかのう」
「……」

 皇帝は思考のために、会話をやめる。そして考える。どうするのが最善か。そして出した結論が、

「放置だな」
「おや? よろしいので? ここで二人がくっつけば、次の戦で一等功間違いなしじゃ。それなら、帝位の話も現実味が帯びてくるのじゃろ?」
「そうかもしれんが、オリービアは帝位には興味がない。ならば無理しても結果はついてこん。あの子に関しては、自然なままに任せた方が良い気がするしな」
「……陛下がそういうのなら……わしはてっきり娘を外にやらんためかと思っておったぞ。この後に及んで尻込みしたか、と。いやあ、よかったよかった。陛下なりのお考えがあっての発言じゃったか。これはこれは、早とちりしてしまってお恥ずかしい。穴があったら潜りたいのじゃ」
「……」

 宰相の言ったことが、全て的外れというわけではない。

 むしろ一番真相に近い。それをわかっていながら、これ見よがしに騒ぎ立てる宰相には、皇帝もなんとも言えない顔をしていた。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...