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動乱・生きる理由
プロローグ
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戦争とは、必ずしも血みどろなものばかりではない。戦わずして勝つ、などという言葉もあるが、これはそういう意味ではない。
この戦場は清々しいものだった。まるで戦いなどなかったかのように。しかし、その下には無数の兵士の屍が眠っている。
現在、その戦場、いや、戦場だった場所を見つめているの二人の男がいた。他にも大勢の兵士はいるが、その全てが有象無象と思わせるほど、この二人の貫禄は凄まじいものだった。
先に口を開いたのは、赤髪を靡かせた大男。
「見事なものだな」
「ありがたき幸せ」
「敵も愚かだな。俺ならこんな見え見えの罠にはハマらなかったのだが」
「陛下を基準に物事を考えないでください。あなたはどうせ『嫌な予感がする』などと言って、迂回なりなんなりするでしょうが、普通は『嫌な予感』で軍を動かすものではありません」
「うむ。俺からしたら、なぜお前たちは自分の勘を信用できないかがわからん」
今、二人の目の前には巨大な川が存在していた。つい数分前まではそこに存在するはずのない川である。その底には、敵の兵士が多く眠っている。争い難き大きな奔流に呑まれた敵兵に残されるのは、死のみである。
これは、赤髪の男の隣に立つ、参謀である銀髪の男の献策である。
土魔法で地下トンネルを掘り、そのうちに火の魔法が込められた爆破の魔道具を仕込む。
あとは簡単。敵兵をこの地に誘い込み、タイミングを見計らって爆破する。これだけでは、敵も驚くだけで済んだかもしれないが、男の策はこれで終わらない。
トンネルの先を繋ぐのは大河。トンネルを爆破すると同時に川の水を誘導する。
要するに川の分流を一つ作り出す。それを水魔法で加速させ、さらに岩、流木なども混ぜて威力を増加させる。
流された兵士たちは溺死するか、岩、流木にぶつかって死ぬかのどちらかの道を辿ることとなる。
「これでこのサンクリラの地は問題ないな」
「っは」
「お前の理想にも一歩前進ではないか?」
「っは」
「お前は『っは』しか言えないのか?」
「っは」
「……軍を引き上げる。帰るぞ!凱旋だ!」
「「「っは!!」」
これにて軍が帰路を辿ることとなる。
その先頭と進む赤髪の男のそばには、いつの間にかついて行った銀髪の男の存在があった。
(アレク……お前ならきっと成し遂げられるだろう。大陸統一……我らが人間とともに大陸を謳歌できる日も、そう遠くないかもしれない)
◆
時は夜。人々が寝静まった時間帯。
ルドマリア帝国の中枢たる帝都、その白亜の宮殿のうちにある一室にて。あかりもつけず、わずかな月光が窓から差し込まれる。
その部屋にいる金髪碧眼の青年が虚空へ向かって話しかける。
「父上がそろそろ動く。そちらも準備を怠るな」
何か返事が返ってくるかけではない。それでも男は話し続ける。
「此度の戦は父上直々に指揮を取ることになっている。あの忌まわしい兄の出番はないだろう。だが、万が一ということもある。そうなった場合は、わかるな」
金髪碧眼の青年はわざとらしくため息をし、頬杖をつく。
「全く、父上はなぜあんな兄を皇太子に立てたのか。僕の方が優秀だというのに……っと、君に言っても仕方ないか。忘れてくれ。さて、計画通りに頼むぞ。あの男は危険だ。確実にしとめろ。行け」
そう言って青年は虚空から目をそらし、月へと目線を向けた。
◆
「指示は来ましたかな?」
「ええ、じきに戦争が始まります。我々もそれに同行することになるでしょう」
「それは上々。作戦の具体的な内容はご存知で?」
「いや、そこまでは」
「……我々を使い潰すつもりやもしれませんぞ」
「それはないしょう。まだ我々には利用価値があります。そう簡単には捨てられません」
「逆に言えば、利用価値がなくなれば……」
「わかっています。しかし、我々にはもう後がないのです」
「……」
◆
蝋燭の火がゆらめく一室。その机の上には手紙が置かれていた。一見意味のないないように見えるが、読む人が読めばすぐに意味を理解できるだろう。
「戦、近し、暗サツ、手配、皇、乱せ、か」
手紙を読むものはその意味を明確と捉えていた。
「なるほど、面白くなってきたぁ」
ここでも一つ、陰謀が渦巻いていた。
◆
曇天の空。今にも泣き出しそうな空の下には、ひと組の男女がいた。
妙齢の女性と、少年とよぶになんら不自然がない男の子。その図はなんとも歪な像を呈してた。
女性は地面に寝そべっていた。寝ているのだろうか。否、彼女の心臓は鼓動を打っていない。これから、鼓動することはないだろう。
それをそばで眺めている少年。顔を伏せているため、表情まではわからない。
しかし、その仕草には深い悲しみ、怒り、憎しみがにじみ出ている。それは果たして、人に向けてなのか、自分に向けてなのか、はたまた……
ぽつぽつ。曇り空が、雨空へと変わる。
豪雨に濡らされながらも、少年は動こうとしない。その頬を流れるは、雨か、涙か。
轟音を響かせる雷の音。
全ての音を掻き消す。少年の慟哭を聞くものはいない。
パチン!
白い光が地面を焼く。
そこで少年は我に返る。
(ああ、このままではいけない。風邪を引いてしまう)
自らのずぶ濡れの外套を脱ぎ、女性に被せる。それが無意味だと知りながら。
少年は体格さをもろともせず、女性の骸を抱き抱える。
先を見つめる目は、どこまでも禍々しい光を放っていた。
ーーーーーーーーーー
あとがき
三章スタート!
さあさあ、面白くなってきました!
多分、意味不明なシーンもあると思います。と言うより、意味がわかったら作者恐怖です。推測などがありましたら是非コメントをください。
この戦場は清々しいものだった。まるで戦いなどなかったかのように。しかし、その下には無数の兵士の屍が眠っている。
現在、その戦場、いや、戦場だった場所を見つめているの二人の男がいた。他にも大勢の兵士はいるが、その全てが有象無象と思わせるほど、この二人の貫禄は凄まじいものだった。
先に口を開いたのは、赤髪を靡かせた大男。
「見事なものだな」
「ありがたき幸せ」
「敵も愚かだな。俺ならこんな見え見えの罠にはハマらなかったのだが」
「陛下を基準に物事を考えないでください。あなたはどうせ『嫌な予感がする』などと言って、迂回なりなんなりするでしょうが、普通は『嫌な予感』で軍を動かすものではありません」
「うむ。俺からしたら、なぜお前たちは自分の勘を信用できないかがわからん」
今、二人の目の前には巨大な川が存在していた。つい数分前まではそこに存在するはずのない川である。その底には、敵の兵士が多く眠っている。争い難き大きな奔流に呑まれた敵兵に残されるのは、死のみである。
これは、赤髪の男の隣に立つ、参謀である銀髪の男の献策である。
土魔法で地下トンネルを掘り、そのうちに火の魔法が込められた爆破の魔道具を仕込む。
あとは簡単。敵兵をこの地に誘い込み、タイミングを見計らって爆破する。これだけでは、敵も驚くだけで済んだかもしれないが、男の策はこれで終わらない。
トンネルの先を繋ぐのは大河。トンネルを爆破すると同時に川の水を誘導する。
要するに川の分流を一つ作り出す。それを水魔法で加速させ、さらに岩、流木なども混ぜて威力を増加させる。
流された兵士たちは溺死するか、岩、流木にぶつかって死ぬかのどちらかの道を辿ることとなる。
「これでこのサンクリラの地は問題ないな」
「っは」
「お前の理想にも一歩前進ではないか?」
「っは」
「お前は『っは』しか言えないのか?」
「っは」
「……軍を引き上げる。帰るぞ!凱旋だ!」
「「「っは!!」」
これにて軍が帰路を辿ることとなる。
その先頭と進む赤髪の男のそばには、いつの間にかついて行った銀髪の男の存在があった。
(アレク……お前ならきっと成し遂げられるだろう。大陸統一……我らが人間とともに大陸を謳歌できる日も、そう遠くないかもしれない)
◆
時は夜。人々が寝静まった時間帯。
ルドマリア帝国の中枢たる帝都、その白亜の宮殿のうちにある一室にて。あかりもつけず、わずかな月光が窓から差し込まれる。
その部屋にいる金髪碧眼の青年が虚空へ向かって話しかける。
「父上がそろそろ動く。そちらも準備を怠るな」
何か返事が返ってくるかけではない。それでも男は話し続ける。
「此度の戦は父上直々に指揮を取ることになっている。あの忌まわしい兄の出番はないだろう。だが、万が一ということもある。そうなった場合は、わかるな」
金髪碧眼の青年はわざとらしくため息をし、頬杖をつく。
「全く、父上はなぜあんな兄を皇太子に立てたのか。僕の方が優秀だというのに……っと、君に言っても仕方ないか。忘れてくれ。さて、計画通りに頼むぞ。あの男は危険だ。確実にしとめろ。行け」
そう言って青年は虚空から目をそらし、月へと目線を向けた。
◆
「指示は来ましたかな?」
「ええ、じきに戦争が始まります。我々もそれに同行することになるでしょう」
「それは上々。作戦の具体的な内容はご存知で?」
「いや、そこまでは」
「……我々を使い潰すつもりやもしれませんぞ」
「それはないしょう。まだ我々には利用価値があります。そう簡単には捨てられません」
「逆に言えば、利用価値がなくなれば……」
「わかっています。しかし、我々にはもう後がないのです」
「……」
◆
蝋燭の火がゆらめく一室。その机の上には手紙が置かれていた。一見意味のないないように見えるが、読む人が読めばすぐに意味を理解できるだろう。
「戦、近し、暗サツ、手配、皇、乱せ、か」
手紙を読むものはその意味を明確と捉えていた。
「なるほど、面白くなってきたぁ」
ここでも一つ、陰謀が渦巻いていた。
◆
曇天の空。今にも泣き出しそうな空の下には、ひと組の男女がいた。
妙齢の女性と、少年とよぶになんら不自然がない男の子。その図はなんとも歪な像を呈してた。
女性は地面に寝そべっていた。寝ているのだろうか。否、彼女の心臓は鼓動を打っていない。これから、鼓動することはないだろう。
それをそばで眺めている少年。顔を伏せているため、表情まではわからない。
しかし、その仕草には深い悲しみ、怒り、憎しみがにじみ出ている。それは果たして、人に向けてなのか、自分に向けてなのか、はたまた……
ぽつぽつ。曇り空が、雨空へと変わる。
豪雨に濡らされながらも、少年は動こうとしない。その頬を流れるは、雨か、涙か。
轟音を響かせる雷の音。
全ての音を掻き消す。少年の慟哭を聞くものはいない。
パチン!
白い光が地面を焼く。
そこで少年は我に返る。
(ああ、このままではいけない。風邪を引いてしまう)
自らのずぶ濡れの外套を脱ぎ、女性に被せる。それが無意味だと知りながら。
少年は体格さをもろともせず、女性の骸を抱き抱える。
先を見つめる目は、どこまでも禍々しい光を放っていた。
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あとがき
三章スタート!
さあさあ、面白くなってきました!
多分、意味不明なシーンもあると思います。と言うより、意味がわかったら作者恐怖です。推測などがありましたら是非コメントをください。
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