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動乱・生きる理由
第6話 VS学園最強
しおりを挟む夏休みが始まり、そして瞬く間に終わっていく。
2週間ほど前には、2学期の始業式が終わった。そして、2週間経過した今日、学園中はお祭り騒ぎがった。なんせ、今日は武闘大会当日なのだから。
この武闘大会というのは、学園祭りと共に行われる。さまざまな演目のとりとして、武闘大会の決勝が設置されている。つまり、決闘進出者をその前に決めなくてはいけない。
立ち並ぶ屋台、忙しなく働く学生たち、踊ったり歌ったりする女子生徒。ありふれた学園祭。その中で、一際大きな人集りができているのは、やはり武闘大会の壇上である。
武闘大会はトーナメント形式で行われ、相手が降参、戦闘不能、または場外になった場合に決着とする。そして、そのトーナメントは当日のくじできまる。
(1回戦は三年のライゼン・フーゼリアって人か。順当にいけば、2回戦はリンシア、そして、決勝でオリービアっと)
トーナメント表を見ながらレオンハルトはそう計算する。
その後ろには同じく、トーナメント表を見にきた2年と思われる生徒がやってきて、
「お? ライゼン先輩の一回戦の相手って、あの噂の?」
「ああ、レオンハルトってやつだな」
「へー、そいつも運が悪いね。よりにもよってライゼン先輩とは」
「まあ、こればかりは運だからな」
「学園最強がどんなパフォーマンスを見せてくれるか、楽しみだなぁ」
そういって二人は立ち去る。レオンハルトがいたことに気づいてる様子はなかった。
(学園最強、ねー)
◆
一回戦第一試合はリンシア対三年のガリウスって人との対戦だったが、圧倒的すぎるため、場内にはシーンとした空気が流れていた。
敗れたガリウス本人も、信じられない顔で地にふしていた。そんな観客には目もくれず、リンシア悠々と控室へと戻った。
いよいよ、次の試合が始まろうとし、レオンハルトの名がよばれる。
壇上に上がるが、特に歓声もブーイングも見られない。皆、まだリンシアの試合の衝撃が抜けきってないのだろう。
しかし、次にライゼン・フーゼリアの名がよばれると、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「きゃー! ライゼン先輩かっこいい!」
「いけぇえライゼン! 学園最強を教えてやれ!!」
「「「いけいけライゼン! 押せ押せライゼン!」」」
レオンハルトの時とは天と地ほどの差があり、これにはレオンハルトも苦笑いを禁じ得なかった。
そんな中、ライゼンはレオンハルトに話しかける。
「やあ、君がレオンハルト君だね。いやあ、噂で聞くよりも二枚目だね」
「そりゃ、どうも」
「でも、二枚目でもなんでも、不正はよくないよ。今棄権するなら、僕も何も言わないからさ」
「不正などしてないし、棄権もしない」
「……いいのかい? 万人の前で恥をかくことになるよ」
「それはお前の方ではないか? 学園最強」
「あはは、いうねー。まあ、君がそこまで言うなら、僕がとやかく言うのも筋違いかなぁ」
対戦前の定番の会話をかわした二人は、互いの武器を構える。レオンハルトは槍を、ライゼンは盾のみを構えていた。
「では、これより第93回武闘大会一回戦第二試合をとり行う。両者、構え……よーい、はじめっ!!」
どちらかが動く前に、ライゼンは右手を高く掲げーー
「出よ! ライトセーバー!」
そう宣言すると、天より一筋の光が差し込み、その光は吸い込まれるかのようにライゼンの手に集まる。それがやがて形を形成し、一振りの剣となった。
「ほう、魔法剣か。名前からして光属性だな」
「よくわかったね。そう、これは魔法剣。属性魔法の一種さ。必要な魔力制御力が高く、学園では僕しか使えないんだ」
魔法剣。魔力のみで構築された剣であり、現代の属性魔法の一種とされている。何も依代にしていない分、魔力制御が大変になっているが、相手なら自分の属性を染み込ませることができると言うメリットがある。
つまり、火なら相手を焼き、水なら相手を凍らせるなどができると言うこと。
「それじゃー、いくよー」
そういってレオンハルトに向かって駆け出すライゼン。しかし、レオンハルトは何もしない。
(魔法剣か……なんとも時代錯誤な。骨董品でも見てる気分だぞ)
レオンハルトがいっているのは彼基準なので、一概には言えないが、少なくともレオンハルトから見たら、時代錯誤なのだろう。
「はあ~」
陸跡魔闘術ーー戦跡・焔
わずかな動きで、切先をライゼンのライトセーバーに向ける、そのままぶつけるとーー
ーーパッリン!
「え?」
「属性を付与できるのはいいが、その魔力制御ではいかんな。押したら簡単に砕けてしまうではないか」
ライゼンのライトセーバーは粉々に砕け、魔力に帰っていく。
そう、レオンハルトが時代錯誤だといったのはこのせいである。魔力のみをかき集めた剣など、自分の魔力を流し込めば、簡単に崩れてしまう。
未だに呆然としてるライゼンにレオンハルトは回し蹴りを放つ。ライゼンはそのまま地面を転がり、場外となる。
「しょ、勝者! レオンハルト!!」
リンシアの時と同じように、場内はシーンとした空気に包まれていた。
◆
その後、オリービアも無事勝ち上がったが、その試合内容は圧巻の一言だった。レオンハルト、リンシアの試合とは遜色ないほどの圧倒っぷり。
それを見て、もっとも衝撃を受けたのは、なんとレオンハルトである。
(あれは、魔纏!? それも恐ろしいほど高レベルな)
わかる人にしかわからないオリービアのすごさ。
(3ヶ月前までは、そんなそぶりは全くなかったのに)
「驚いたかい?」
レオンハルトの後ろに頻繁に出没するのはこの男、愉快犯のシュナイダーである。
「何か、知ってるのか?」
「うん、と言うより僕が鍛えたの」
「なんだと?」
「いやあ、皇女殿下はすごいねー。あそこまで根性を見せるなんて僕、感激だよ」
その後もシュナイダーは延々とオリービアの修行について語る。
魔力回路が開くまで、何度も気絶し、何度も起き上がったという。かつて、レオンハルトがライネル領に向かう馬車で行ったことと同じ。それを、この3ヶ月の間、絶え間なくやり続けた。
さらに、それだけではなく、実践訓練を積むために、ダンジョンに潜ったという。かなり大型のダンジョンのなかで、昼夜問わず戦い続けたそうだ。
皇女の身でありながら、なんと言う無茶を、と思うレオンハルトだが、自分も領主でありながらダンジョンで寝泊まりしたことがあるから、責めるに責めれない。
そのまるで助長抜苗のような訓練法だが、オリービアは見事に耐え抜いたという。
「……」
これがシュナイダーが出場を促し理由だと、レオンハルトは理解する。
そして、不意に、目が合う。
その美しく煌めくエメラルド色の瞳には、確固たる強さがあった。
途端、レオンハルトは身震いする。目を合わせたのは一瞬。だが、レオンハルトはその瞳の裏に隠された真意を正確に感じ取った。
(後悔?)
自分が知り尽くしている、あの感情。それが、オリービアの原動力だと、レオンハルトは感じ取った。なんの後悔かは知らない。だが、その覚悟をふみにじむわけにはいかない。
その責任感がレオンハルトの中に巻き起こる。
「ね、出てよかったでしょ?」
「……ああ、これ以上ないほどにな」
舞台の中央を見つめるレオンハルト。しかしーー
「「っ!!」」
レオンハルトは斜め後から、鋭い怒気を感じ、体をこわばらせる。
振り向いた先には、リンシアの姿があった。その顔に浮かぶ、熾烈なる戦意。それを見たレオンハルトは、不覚にも、恐ろしい、と感じてしまった。
しかし、それも一瞬。頬を流れる一粒の冷や汗とともに、笑みを浮かべる。
「……わたしの方が、先。浮気、しない」
(ああ、これは、しんどい戦いになりそうだ)
言葉とは裏腹に、二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
いざ、リベンジマッチへ!!
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