Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

文字の大きさ
53 / 108
動乱・生きる理由

第18話 再会

しおりを挟む

(知らない天井だ)

 しかし異世界転生ではない。月明かりが、窓から差し込まれる。それが、今は深夜であることを告げている。

「……レオ君?」

 ベッドの側でうつ伏せに寝ていたオリービアが目を覚ます。そして、レオンハルトを見るや否や、彼を抱きしめた。

「オルア?」
「……よかった。本当に、よかった」
「……心配かけたな」
「うん、だから、罰として、しばらく、このまま……」
「……ああ」

 流している涙を見ることはできないが、それでも相当心配をかけたのがわかる。正直、自分も今回ばかりは死んだと思った。そして、死のうと思った。

 それでも死ねなかったのは、なぜだろうか。さて、答えを持ち合わせるものはいるだろうか。

 しばらくたち、オリービアはレオンハルトを離した。

「……」
「……」

 沈黙と時が流れる。レオンハルトはなんと声をかけたらいいか分からなかったからだ。故に、必然的に沈黙を破るのはオリービアとなる。

「……あの二人は、今は休んでるよ。順番は交代交代で、今ちょうど私の番」
「……そうか」

 あの二人とは、もちろんシリアとリンシアのことである。

「でも驚いたなぁ。レオ君ってモテるんだね」
「別にモテてるわけじゃーー」
「あれはモテてるんだよ」
「……怒ってるのか?」
「まさか。嬉しいんだよ。レオ君にはちゃんと大切なものがあるんだって」
「……」
「安心したよ。これで、私に何かあっても、アレクみたいには、ならないから」
「……は?」

 フリーズ。レオンハルトの脳は完全に停止した。

「あ、ごめんね。こんな時に。でも、似てるんだよね。レオ君は。アレクって男の子と」
「……」
「無愛想で、不器用で、その上ちょっと理屈っぽくって、でも優しい、みたいな?」
「……」
「レオ君? どうしたの? お、怒ってる?」
「……」

 声を発することが、できなかった。目の前にいる少女が、彼女にしか見えないからだ。

 信じられない、でも信じるしかない。そう信じたい、でも少しだけ怖い。恨まれていたら、嫌われていたら、そう思うと一歩踏み出せない。

 それでも、確かめなければ。

「く、クラウディア?」
「……え?」

 フリーズ。今度はオリービアの番。
 沈黙の時間が流れる。

「う、うそぉ……わ、私の、好きな料理は?」
「オムライス」
「す、好きな本は?」
「グリムの悪戯集」
「「……」」

 オリービアの次の言葉が飛び出ることはなかった。レオンハルトが無言なまま、オリービアを抱きしめたからだ。

「……会いたかった」
「……」
「伝えたいことは山ほどある」
「……」
「でも、その前に……守ってやれなくて、すまなかった」
「う、ううぅぅぅ」

 声を抑えて、涙を流すオリービア。だが、今言わなければならないことがある。

「わ、私の方、こ、こそ、や、約束、破って、ごめんなさい、うわああああんん」

 涙の土手は突き破られ、子供のように泣きじゃくるオリービア。
 それを幸せそうに抱きしめるレオンハルト。
 もう二度と、手放さないために。


 ◆

 泣き止んだオリービアだが、二人とも互いを手放そうとはしない。抱き合ったまま、二人は言葉をかわす。

「……あの時、お前を連れ出さなければよかったと思った」
「……私は、連れ出してくれて、嬉しかった」
「……お前を置いて、戦場に行かなければよかった。すまない」
「……そんなの無理だよ。私、弱いし」
「でも、俺が守ってやればーー」
「それはダメ。足手まといは、いや。だから、強くなった」
「クラウディア……」
「今は、オリービア」
「……そうか」
「話したいことは山ほどある。でも……」
「ああ。あの後どうなったか、教えてくれ」
「うん」


 ◆


 レオンハルトが復活を果たした直後のことだった。

「いてててて。思いっきり殴りやがって。馬鹿力が」
「「「!!」」」

 短いスパンを経て、セベリスはすでに立ち上がれるほど回復した。

「そんな顔すんなって。もう何もしねーよ」
「信用できません」
「ま、そりゃそうか。でも、何もしねーってのは本当だ。死体から首を刈り取るのもいい気はしねーが、首を持ち帰るだけならまあしゃーねーと思ったよ。でも、そいつが生きてたとなっちゃ話は別だ。流石に、殺す気はねーよ」
「そうなの? 父上からの命令でしょ?」
「その命令に、俺も疑問があるってことだ。もう、この戦は収拾がつかねー。三大国は共倒れみてーなもんだし。これから何が起こるわからん。俺はうちの残りの兵士をまとめて、帝都に戻る」
「そう。ありがとう、セベリス」
「いいってことよ」

 そう言って颯爽と立ち去ろうとするセベリスだが、それをシリアは止める。

「お待ちください。元帥閣下」
「あん?」
「兵のまとめについてはご心配なく。すでに、レオンハルト様が手を回しております」
「マジでか? そいつ、さっきまで死んでたんだろ?」
「はい。とは言っても、全員とはいきませんが」
「十分だ。俺はこのまま俺の軍と共に引き上げる。あとは頼んだぞ」
「はい。お任せください」

 今度こそ、セベリスは軍を率いて、去って行ったのだった。


 ◆

 混沌とする戦場から、抜きん出る一団がいた。

 シュヴァルツァー公爵率いる私兵、そして、その中には、総大将ハリス侯爵と彼に従う兵士たちがいた。

「帝国兵め。炎の中を突っ切るとは、イカれてんやがる」
「ハリス侯。どうするつもりだ。指揮官が全滅した今では軍をまとめることは不可能だ」
「わかっております……閣下はこれからどうなさいますか」
「……すまんが、わたしはこのまま領に帰還する。多くの貴族はそうするだろう」
「そう、ですか」
「責めないのだな」
「この状況でどうして閣下を責められよう」

 こうして、二人が言葉を交わしている間に、遠くからさらに大きな一団が近づいてきていた。

「全軍、襲撃に備えよ!!」

 すかさず指示を出すシュヴァルツァー公爵。だが、ハリス侯爵がそれを止める。

「お待ちください閣下。味方です」
「この状況では敵も味方もないだろ」
「いえ、あれは」

 そう言ってハリス侯爵の視線は先頭を駆ける大男に向けられた。

「ドバイラスです」
「凶獣か? なら尚更」
「いえ、奴は状況判断に長けた男。この状況でわしらを襲うようなことはしません」

 その言葉を証明するかのように、先頭をかけるドバイラスは皇国の旗を高く掲げていた。そのまま両軍が出会い、ハリス侯爵はすぐさまドバイラスに話しかける。

「おいドバイラス。貴様、軍議にも出席しないでどこをほっつき歩いておった」
「そう切れんなよ爺さん。おれだってサボってたわけじゃねーよ。退路の確保をしてたんだよ」
「退路だと? まさかお主、この状況を予測しておったのか?」
「おれがそんな賢いように見えるか? レオンハルトのやつだよ。このまま帝都に退却するのは危険だって言って、別のルートを用意してんだよ」
「帝都が危険だと? どういうことだ?」
「さあ。あいつ曰く、嫌な予感がするってさ」
「何じゃそれは……まあ良い、生き残りはこれで全部か?」
「味方はな。シュヴァルツァー領兵3000。うちの兵1500に、ここにいるアルハジオン子爵兵500、テルメア子爵兵500、ローカム伯爵兵1500。そして爺さんに従う1000の国兵。計8000か。残りの貴族兵と正規兵はバラバラっと。3万以上いた軍が、なんてざまだよ」
「それでも、生き残りはおる。このまま撤退する」
「そうだって言いてーけどよ。あれってどう見ても味方じゃねーよな」

 そう言って遠方を指さすドバイラス。そこには、帝国の旗を掲げた大軍がいた。

「ざっと1万か。戦えねー数じゃねーが……」

 そう言って別の方向に目を向けるドバイラス。

「あれはあれで、味方じゃなさそうだな」

 帝国軍とは違う方向からこちらに向かう一団は、皇国の旗を掲げていた。先頭をかけるのは、マーサラ侯爵。

「どういうことだ?」
「マーサラが裏切った」
「ほぇー。そいつはやべーな。アグリル子爵兵までいやがる。ざっと3000ってところか?」

 マーサラ侯爵の裏切りを聞いても、ドバイラスはさほど動揺しなかった。冷静に状況を分析する。

 しかし、マーサラ侯爵が裏切ったのを聞き、穏やかでいられない3人がいた。

「ま、マーサラ侯爵が裏切りだと!?」
「どういうことよ!」
「フレデリックは、フレデリックどうなった?!」

 フレデリックの同級生であるディール、エルサ、バースがたまらず声を上げる。

「状況から見て、裏切ったと思っていいだろう」
「そんな!」
「嘘。な、何か理由があるはずです!!」
「そうだよ! でねーとあのフレデリックが裏切るなんてーー」
 
 そういったバースの脳天に拳骨が降ろされる。バースの父である、テルメア子爵のものだ。

「慌てんなガキども。戦場は冷静さを失った奴から死んでく。覚えとけ」
「そうよ。何か理由があっても、裏切りは裏切り。その理由を考えるだけの余裕は、私たちにあるのかしら」

 それに同調したのは、エルサの母であり、かつて戦乙女とまで呼ばれたローカム女伯爵である。

「マーサラ侯のことは気になるが、今後の身の振り方の方が重要じゃ。ドバイラス。どうするつもりじゃ?」

 ドバイラスに今後の展望を尋ねたのは、ディールの祖父である、前アルハジオン子爵である。

「二手に分かれて逃げた方がいいだろう。シュヴァルツァー公は自分の領地に、おれらはこのままライネル領に。敵も一丸じゃねー。どっちを追うか戸惑うはずだ。それでも……」
「追いつかれるじゃろうな」
「ああ。だからーー」
「殿が必要、か」

 ドバイラスの言葉を遮ったのは、ハリス侯爵だ。

「わしが殿をやろう」
「……死ぬ気か、爺さん」
「もとより、敗戦の責を取らねばならぬ身。ならば、味方を生かすために使おう」

 そう言って、ハリス侯爵は兵に向き直る。

「聞いた通り、これよりわしは殿として、この場に止まる。生き残ることは、まずないだろう。お主らにそれを強要する気は無い。好きな方を選べ」
「ついていきますよ」

 少しの間も開けることなく、一人の兵士が返事した。

「ついていきますよ。俺ら、長年閣下の下で戦ったんです。最後まで、居させてください」
「「「いさせてください!!」」」
「……そうか。ドバイラス。どうやら、わしは部下には恵まれていたらしい」
「ああ。爺さんが泣くぐらいだからな」
「やかましい! 早ういかんか!!」
「ああ……爺さん。世話になった」
「ふん。わっぱが」

 そう言って、二人はすれ違う。互いに背中を向けた。振り返ることは、ない。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...