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帝位・勇気を紡ぐ者
第1話 宣言
しおりを挟む「少し俺の昔話を聞いてくれるか?」
そうレオンハルトは宣言し、語り出した。自分の、大帝としての過去。1000年前、大陸を統一したわけを、徐に語り出す。
それに割って入ろうとするものはいなかった。転生などという突飛押しもない話を、静かに聞いていた。衝撃からなのか、それとも納得からなのか、室内はレオンハルトの声以外に物音は一切しない。誰かが息をのむ音すら。
「以上だ。突飛押しもない話というのはわかる。無理に信じろとは言わん」
「「「「「……(ごく)」」」」」」
一斉に唾を飲み込む音がする。それだけ、皆レオンハルトの話を真剣に聞いていたということだ。
静まり返る室内。この沈黙を破ってはいけないとすら思えた。
当然だろう。知人が急に訳の分からない前世の話を語り出すなど、普通に生きていればまず遭遇しない出来事。こんなことを言い出すやつの頭を疑うのが自然の流れだ。
とはいえ、レオンハルトの妙に真実味のある話し方とそばに居るオリービア皇女の反応を見ると、あながち嘘とも限らない。もし話が本当だというのなら、自分たちの目の前にいるのは、1000年間語り継がれるような偉人。
本当にしても、嘘にしても、反応に困るのはどちらも同じである。
そんな状況だ。当然、誰よりも先に言葉を発したのは、レオンハルトとなる。
「さて、この話は以上だ。会議を続けよう」
「「「「「「……」」」」」」
「お前ーー」
「くくく、ははは、ははははははっは」
ドバイラス伯爵が何かを言おうとした所で、そばから愉快そうな高笑いが響く。
「ローカム?」
声の主はローカム女伯爵。彼女は腹を抱えたまま、大笑いしていた。当然皆は奇異の目を向ける。
「いやぁあ、愉快愉快、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。ありがとうさん」
「おい、ローカム。笑い過ぎだ。あと口調が戻ってるぞ?」
「ん? ああ、悪いねードバイラス」
ローカム女伯爵を窘めるドバイラス伯爵。実はこの二人、古くからの付き合いで、ローカム女伯爵が戦場を駆け回った傭兵時代からよく知っている。伯爵令嬢が傭兵をやるなど、破天荒もいいところだが、そこが彼女の強みでもある。
家督を引き継いてから、多少は落ち着いたが、たまにこうして昔の言葉遣いが出ることもある。
「ったく、何をそんなに笑う事があんだよ」
「だってそうだろ? 1000年前の大英雄がよりにもよって豚公子に転生したっていうじゃないか?冗談にしては、上出来すぎるねぇ」
「お前は本当だと思うのか?」
ドバイラス伯爵も別にレオンハルトを疑いたいというわけではないが、流石に話が大きすぎる。軽々しく信じられるような内容ではなかった。
「さあーね。でも、あたしはどっちでもいいさ。嘘なら嘘で、いい冗談が聞けたと思えばいいし。本当なら本当で、最高じゃんか。歴代最強の皇帝がこっちの味方なんだからさぁ。むしろ悩むべきなのは、あたしらの敵の方だろ?」
「……お前は気楽でいいな。だが、一理ある」
疑う気持ちがないわけではない。しかし、証明しろと言っても証拠など出るはずもない。レオンハルトが法螺を吹く理由がない。こんなことを言い出すメリットもない。ならば、信じてみるのも悪くはない。
ローカム女伯爵が言いたいのは、そんなところだ。
そしてレオンハルトもーー
「別に信じろと言ったわけではない。言うなれば、ただの雑談だ」
「バカかてめー、雑談でこんなを話持ち出すんじゃねー。胃が潰れるわ」
「貴様にバカと言われる日が来るとはな。人生、何が起こるか分からん」
「んなとこで人生語るなや。もっとあっただろうがよ」
ローカム女伯爵のおかげで、だいぶ話しやすい空気が出来上がった。それによって、ドバイラス伯爵も、いつも通りとはいかないものの、遠慮はなくなった。
流石に1000年前の大英雄が目の前にいる、なんて言われたら、タメ口を聞いていいか迷いたくもなる。そもそも、なぜそんな法螺話を信じる気になったのかすら分からない。
そして、取り残された前アルハジオン子爵とテルメア子爵は顔を合わせ、
「「っふ」」
軽く笑い合う。何を深刻になっていたのか、そう言わんばかりである。
そして、レオンハルトは視線をシリアとリンシアの方へと向ける。そこには、いつも通りの二人の姿があった。
「……二人は、驚かないのだな」
「驚いていますよ」
「……うん、びっくり」
「……の割に冷静だな」
「ええ、まあ、その、なんでしょうね」
「……納得、できる」
「そうそう。レオンハルト様は子供の頃から大人びてたっていうか、なんていうか……まあレオンハルト様って感じです!」
「……うん、レオって感じ」
「どういう感じだ、全く……」
レオンハルトはそう言いつつ、小さく笑みを浮かべる。今まで黙っていたことに対しての後ろめたさもあり、二人にどう思われるか心配だったが、杞憂に終わったらしい。
近くへやってきたオリービアは、レオンハルトの手を取り、
「言って、よかったね」
「ああ」
そう言葉をかける。もちろん話の流れで、オリービアがクラウディア王妃であることも知られてしまったが、そこはオリービアの同意を得ている。
先ほどまで重い空気に包まれていた会議室は、いつの間にか明るい雰囲気に包まれていた。
(ローカム女伯には感謝せねばな)
そう思うレオンハルトであった。
話がひと段落付き、やった本題に戻ることができる。とその前に、ローカム女伯爵は
「で、大英雄様は、このことをガキどもに伝えないのかい?」
「どちらでも構わないと思っています。ですが……」
扉の向こうに視線を向ける。
パタン。
扉が開かれる。
レオンハルトの重力魔法により、扉が軽くなり、その奥の者たちの体は重くなる。扉にのしかかっていれば、その重さの違いにより、扉が開くのは自然なこと。
扉の奥から現れたのは、ディール、バース、エルサ、カーティアの四人衆とともに、騎士団長マルクスと執事のセバスチャン、鍛治士のガイアスまでいた。
「「「え、えへ」」」
気まずそうな四人。
「あんたら……」
「お主ら……」
「軍議の盗み聞きなど……」
その保護者たちもまた、気まずそうである。
「マルクス、セバスチャンにガイアス殿まで、何をしている」
「も、申し訳ございません……」
「面目ありません」
「……すまねー」
「はぁ……まあ、もう一度話す手間も省けかことだし、今回は許そう。次はないぞ」
「「「は、はい!」」」
「閣下方もそれでよろしいかな」
盗み聞きされたのは、レオンハルトたちだけではない。当然、貴族たちもフォローも必要となる。
「孫がしでかした事。許して頂けるなら、わしに異論はない」
「エルサ、後で覚えときなさい」
「閣下の度量に感謝を」
保護者たちも、レオンハルトの言葉に安堵する。
「閣下方も、そう言っている。此度の件は、これで終わりだ」
さて、これにて一件落着だが。
「そういえば、マルクス、セバスチャン、ガイアス殿はなんのために来たんだ?」
「は、はい!」
レオンハルトの問いに、先に答えたのはマルクスである。
「使節団の準備が整いました! いつでも出発できます! おそらく、セバスチャン殿も同じ要件かと」
「はい、私も使節として派遣する文官の選出が決まったということで、報告に参りました」
「そうか」
使節団。レオンハルトが領内に目を覚ましてから、準備を進めるように指示したものだ。目的は、味方の確保である。
現時点で、すでにレオンハルトは帝位争いへの参加を決意していた。支持してくれる貴族たちへの根回しとして、使節団を送ることを決意したのだ。
「ガイアス殿は?」
「ああ、オレは例の鉱山の件だ。そろそろ発掘を再開してもいいだろうと思ってな」
「なるほど」
「例の鉱山って?」
「まあ、それは追々」
ローカム女伯爵は疑問を露わにするが、レオンハルトはそれをはぐらかす。まだ、伝えるときではない、そう考えている。
「了解した。下がっていいぞ」
「「「っは!」」」
3人はレオンハルトの命を受けで、下がろうとし、そして、ディールたちもそれに続こうとした。しょんぼりとした雰囲気でチラッと、レオンハルトへ視線を向け、そのまま振り返ろうとする。そこへ、レオンハルトは声をかける。
「ディール、バース、エルサ。話なら、後で聞いてやる」
「「「……う、うん」」」
3人の顔が、一気に喜色に塗れる。
「それとカーティア、ちょっと残れ」
「ん? わかった」
そう言い、カーティアのみを残して、その他のものたちは退散した。これでようやく会議を再開できる。
「さて、会議を再開しよう。目下の問題は帝位争いだろう。今の皇国は、第一皇子、第二皇子、第一皇女、中立派の四つに大きく分けられる。よくない傾向だ。誰も譲る気がない以上、国が割れるのも時間の問題だ。帝国と教国の様子が分からないが、皇国より酷い状況はそうはないだろう」
手始めに、認識の共有をはたるレオンハルト。これに対して、この場の皆は同意を示す。そして、ローカム女伯爵はーー
「でも、大英雄様は考えがあるんだろ? ほら、さっきの使節団ってやつ」
「まあ。だが、その前に、大英雄ってのはやめて欲しいのだが」
「へいへい、じゃあライネル子爵って呼ばせてもらうよ。呼び名なんて、どうせすぐに変わるけどよ」
「まあ、それなら……」
「じゃあ、話を聞かせてもらえるかい?」
「……オルアと相談した結果、帝争いに介入することにした。第四勢力として、名乗りをあげる。そして、俺は」
そこで言葉を区切り、息を吸い込む。
「皇帝になる」
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