Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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帝位・勇気を紡ぐ者

第7話 皇都騒乱

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 シュナイダー率いる一団が、レオンハルトの屋敷へやって来た。シュナイダーは処刑されたと、公にはそうなっている。よって、レオンハルト以外のメンツはもれなく驚愕を示した。

 レオンハルトはシュナイダーの潔白と生存を信じていたわけだが、やはりあのあと一切の音沙汰がないというのは如何ながものかと思い、出会い頭にパンチを一発決め込んだ。

 そして、レオンハルト以外にも一人、シュナイダーの生存を待ち望んだ者がいた。

「お?」

 シュナイダーを目掛けて、一枚のコインが飛んでくる。特に殺傷力があるわけではないし、スピードもそれほど早いわけではない。

 シュナイダーがそのコインをキャッチしようとした途端、コインと一人の女性が入れ替わる。アリスである。

「シュナくん~~うううぅううう、よがっだ、いぎででよがっだ~」
「あー、あはは。僕としたことが、心配をかけてしまったらしい。ごめんね、アリス」
「うううぅううぅ」

 コインと入れ替わった瞬間、シュナイダーに抱きつくアリス。もう離さないと言わんばかりに。胸元に顔を埋めてグリグリする。心配をかけさせたシュナイダーへのせめての仕返しなのだろう。

「お前に女がいたとはなぁ。いや、女がいるのはいつものことだが、お前のために泣く女はそうはいねーんじゃねーか?あぁ?見せつけやがって」

 そうシュナイダーに声をかけた男は、黒マントのフードを捲る。中から現れたのは、真紅の髪を刈り上げた大男。

「か、勘弁してください。元帥殿」
「もう元帥じゃねー。もと元帥だ」

 護国の三騎士の一人、剛剣のセベリスである。

「よう、レオンハルト・ライネル。久しぶり、いや、お前にとっちゃ初めましてか?」
「そうだな。だが、オルアから話は聞いている。世話になったらしいな、セベリス殿」
「世話っつうか、あんたの首を取ろうとしたんだがなぁ……」
「お互い、色々大変だったということだな」
「違いねー、ははは」

 そう会話を交わすレオンハルトとセベリス。

 何か訳があったわけではないが、レオハルトはそのまま視線を下に下げる。そして、ある点に気づき、わずかに目を見開く。

「その腕」
「ん? ああ、これか?」

 セベリスはそう言い、左腕を動かす。しかし、その腕は、肘より先の腕の部分はなく、代わりに包帯が巻かれていた。

「ちょっと、しくじった。それも含めで、色々話したい」
「そうか……わかった。中に入ってくれ」
「ああ、ちょっと待った。その前に紹介しなきゃいかん人がいる」
「初めまして、オルアがいつもお世話なっております」

 セベリスの言葉とともに、一歩前に出るローブを纏った女性。フードを捲った先には、端麗な顔立ちと、神聖み溢れる銀髪、そしてエメラルド色の瞳。歳は幾許か取っているが、それをまるで感じさせない見事な容姿。

 彼女の姿を見た瞬間、反射的にレオンハルトは膝を突いた。

「お初にお目にかかります。王妃殿下」

 オリービアの母である第二王妃も、この場に来ていたのだった。


 ◆


 会議室に集まる一同。一気にメンツが増えてしまったが、手狭とは感じないほど、レオンハルト邸の会議室は広い。

「さて、会議の続きを始めよう」

 この場には第二王妃もいるが、それは彼女が是非とも傍聴したいと言ったからである。彼女曰く、『私に気にせず進めてください』だそうなので、レオンハルトも強くは言えなかった。

「シュナイダー、皇都で何が起こったのか、教えてくれ」
「あー……皇都は今荒れているよ。民は無事だけど、上層部はぐっちゃぐっちゃ」

 そうシュナイダーは語り出す。


ーーーーー

 シュナイダーがアークに首を撥ねられてから、少し時間が経過すると、死体となったはずのシュナイダーは徐に動き出した。

 撥ねられたはずの首もしっかりついていた。しかし、あたりに血溜まりがあることから、シュナイダーが一度首を撥ねられたのは確かである。それでも、彼が生きているのは、

(ふぅー、しっかり発動したようだね)

 彼の魔法の効果である。

 時憶魔法。自身、もしくはある物体の状態を記憶しておくことで、それをいつでも引き出せる魔法。ただし、自身以外の物体の状態を復元するためには、トリガーとして拍手する必要がある。

 今まで、シュナイダーはそれを瞬間移動まがいのことや敵の撹乱でしか使っていなかったが、彼の魔法の真髄はそこにはない。

 今から約5年前に、シュナイダーは自身の魔法に真髄に気づく。彼の魔法は、自身に作用する場合はトリガーを必要としない。つまり、事前に仕込むことで、その魔法は彼の死後でも発動することができる。

 よって、シュナイダーは一度の死を無かったことにできる。

 ただし、魔法は無条件で発動できるほど便利なものではない。何かしらの対価が必要で、もっともわかりやすいものが、魔力である。

 シュナイダーの魔法の性質上、記憶している時間が長ければ長いほど魔力を消費する。自身の状態を長時間記憶しておく事は困難極まりない。

 よって、シュナイダーは対価の払い方を変えたのだ。

 常時使用可能な魔力を半分にする代わりに、余った半分の魔力を自身の死後に当てる。それがシュナイダーが用意していた魔法である。

 一見無敵のようにも見えるその魔法だが、かけるにはそれなりの準備が必要である。つまり、一度蘇生した後で、もう一度殺せば、シュナイダーは死ぬ。

(アークが間抜けで助かったぁ~……にしても)

 彼の脳裏を過るのは、アークの心臓を貫いたシーン。あれで間違いなくアークは一度死んだ。それでも、アークは生きている。自分と同じ魔法を持っているなら話は別だが、アークの魔法は属性魔法であると確認は取れている。

(なんかあるよねぇ……まあ、いいや)

 シュナイダーは今の状況を利用することにした。自分が今、死んだことになっている。それを利用して色々と調べようと、そう思った。





「どういうことだぁ!? アーク!」
「どうもこうも、今話した通りだよ」

 現在、アークの執務室に怒鳴り込んでいるのは、皇国元帥のセベリスである。北の国境へ派遣され、その帰り道で皇帝の訃報が届き、さらに下手人は部下のシュナイダーになっている。これが怒鳴らずにいられるだろうか。

「てめえ、近衛騎士団長の癖に、陛下を守れず、よくそんなケロッとした顔ができんな。その図太さはどこで買えんだ? あぁ?」

 アークに詰め寄るセベリス。しかし、それでもアークは動じない。

「私も無念極まりないよ。だが、相手はあのシュナイダー。君も彼の魔法を知っているだろ?」
「だーかーら! なんであいつが下手人になってんだよ! あいつは腐っても国を裏切るような奴じゃねー。ちゃんと調べもせずに、出鱈目こいてんじゃねーぞ!」
「セベリス元帥。今の発言は大罪人シュナイダーを庇う発言ととっても構わないかね? ただでさえ、君の部下がやらかしているというのに、私を責めるのはお門違いでしょう。ここで君の責任を追求しなかったのは、単に君が国防を担う三騎士の一人だから。本来ならば、シュナイダーとともに縛り首にしてもおかしくないのだよ」
「テメエ!」

 しかし、セベリスも馬鹿ではない。口ではアークに勝てないと踏んだ彼は、怒りを押さえ込み、振り返る。

「どちらへ?」
「シュナイダーを探しに行くんだよ」
「彼なら私が処刑したよ」
「っは、冗談は休み休みいえ。あいつがてめーにやられる訳ねーだろ」
「生きていたとして、探してなんになるだい?」
「事の顛末を聞くんだよぉ」
「それは困りますね」
「!!」

 後ろから強烈な殺意を感じたセベリスは、勘任せに扉とは反対な右前へ飛ぶ。そして、セベリスがいた場所に一閃が通り過ぎる。

 だが、それだけでは終わらない。アークはセベリスを目掛けて、鋭い突きを放つ。体制を崩したセベリスは避けることが叶わず、やむなく左腕で受けた。

「っくう! なんの真似だあ! アーク!」
「察しが悪い元帥だね。君にはここで退場してもらうんだよ」
「やっぱてめーが裏切り者かぁ、アーク!!」

 セベリスとて、状況が読めないようば馬鹿ではない。あえて大きな声を出すことで、見張りの騎士たちの気を引こうとした。

 しかし、待てども待てども騎士はやってこない。思わず視線を扉へ向けるセベリスだが、それを見たアークは、

「無駄だよ。人ばらいは済ませたからね」
「用意周到なこって」

 アークはセベリスの左腕に突き刺さっている剣を振るい、そのまま彼の左腕を切り飛ばす。

「っく!」
(援軍は来ない。こちらは丸腰で、左腕も持っていかれた……詰んだか、これ)

 流石のセベリスといえど、この状況を打開する手段は持っていなかった。

「さようなら。元帥殿」

 その言葉とともに、アークは剣を振るう。セベリスの首を目掛けて放たれる剣撃。

 しかし、それでも無数の死線を潜り抜けてきた猛者のセベリス。斬り飛ばされた自身の左腕を掴み、それを盾にその一撃を凌ぐ。そして、血を目眩しにし、場所を移動する。

 扉を目掛けて走るセベリス。

「逃がすわけないでしょ?」

 しかし、相手はセベリスと同じく三騎士の一人である。逃亡しようにも、簡単にはいかない。今度こそ、と言わんばかりに首を狙い、攻撃を放つ。

 何も起こらなければ、間違いなくセベリスの首は飛ぶ。何も起こらなければ、だが。

「何?」
「あぁ?」

 なんの前触れもなく、執務室の天井は崩れた。

「っち」

 落ちてくる瓦礫を軽やかに交わすアーク。流石に三騎士ともなれば、これしきの瓦礫で傷一つおうことすらあり得ない。

 しかし、目を離した一瞬のすきに、セベリスの姿は消えた。

「っち、やりやがったな」

 そう悪態をつく。とても他の近衛棋士には見せられない姿だが、人払したおかげで、ここには誰もいない。しかし、騒ぎを聞きつけた騎士たちはすぐにやってくる。

「アーク団長! ご無事ですか」
「ああ、僕はなんとも」

 肉体的には無事だが、セベリスを逃した悔しさで胸がいっぱいなアークであった。




「いった!」
「静かにしてください」

 尻もちをついたセベリスは、痛みに思わず声をあげてしまう。

「しゅ、シュナイダーか?」
「ええ、僕ですよ。元帥殿、助けが遅くなり、申し訳ありません」
「いや、いい。助かった。それよりここは?」
「さっきの部屋のちょうど一階下にいますよ。セベリス元帥があそこに動いてくれて助かりました」
「そうか、お前の魔法で」
「はい、あらかじめ切れ込みを入れておき、それ魔法で復元しました。あとは、元帥殿がそこを通った時に魔法を発動して、切れ込みが入った状態に戻す。元帥殿が落ちれば、また魔法で穴を復元すれば見た目はただの床になります。どうです? 僕の完全犯罪は?」
「盗人の方が向いてんじゃねーか」
「いやぁ、元帥殿がそんなに褒めてくれるなんて、今日の帰り道は気をつけねば」
「いてててて、軽口を叩く暇があったら包帯を寄越せ」

 そんなやりとりをしつつ、セベリスとシュナイダーは騎士団本部を抜け出した。

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