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帝位・勇気を紡ぐ者

第8話 聖剣

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「なるほど。やはりアークが裏切り者だったか」
「やはりって、レオくんわかってたの?」
「消去法で消していった結果、残ったのがアークということだけだ」

 シュナイダーの話を聞き、レオンハルトは脳を回転させる。アークが裏切り者だと分かっていたが、裏切った理由まではわからない。やはり情報が圧倒的に足りない。

「シュナイダー続けてくれ」
「まあ、続きと言っても、もう何もないんだけどね。あの後、王妃殿下を救出し、スラムの顔役って人が皇都脱出の手引きをしてくれたって感じ。いやー、まさかレオくんが裏社会でも顔が通るとはねぇ。かわいい顔してやることが悪どいね」
「綺麗事だけで世の中は通らん。あと、かわいい顔は余計だ」
「あら、私はかわいいと思いますよ」
「お、王妃殿下、勘弁してください」
「うふふ、ごめんなさいね。傍聴人が余計な口出して」
「いえ」

 どうやら虎たちは指示通り、皇族の護衛を全うしてくれたようだ。そのことに安堵するレオンハルト。

「報告事項は以上か?」
「いや、あと一個、っていうかこれが1番の問題だけどね」
「なんだ?」

 シュナイダーは真剣な顔つきをし、レオンハルトを見つめる。

「皇宣魔導士が5人殺された」
「「「なあ!?」」」
「どういう事だ?」
「皇都にいる間に皇宣魔導士を味方に取り込もうとしたんだけど、その時点でみんな殺された」
「下手人はやはり」
「アークだろうね。皇宣魔導士と言っても、接近されたらアークに敵うはずがない。死体安置所に行ったら、6人の死体が置いてあった」
「待て、6人? 殺されたのは5人のはずだろ?」
「6人のうち1人の死体に幻術が掛けられてた。高度な幻術だから、本人は多分生きてると思うよ。行方は知らないけどね」
「なるほど。ちなみに公の死因は?」
「僕がやったことになってる。どうやら死亡時刻は、アークと僕が戦った時とよりも早いらしい。全く、とんだ濡れ衣だよ」

 アークの犯行は全てシュナイダーのせいにされてしまった。捜査機関のトップであるアークは、そこら辺の情報も操り放題だ。

「事態は思ったよりも深刻だな」
「そうなねぇ。早急に対策を立てないと。っとその前に、レオくんからの情報共有もして欲しいなぁ」
「ああ、わかった」

 そう言ってレオンハルトも情報を共有する。

 戦場で一度死んだこと、フレデリックが裏切ったこと、帝位争いに参戦したことなど、シュナイダーもすでに知っている情報も多いが、やはり本人の口から聞きたいということで、シュナイダーは静かに聴いていた。

 そして、話は進み、レオンハルトがアレクサンダリア1世の生まれ変わりであることや、勇者を迎え入れたことを話す。

 やはりというべきか、全員がポカーンとした顔で、話を飲み込めずにいた。唯一、シオンだけは落ち着き払っていた。

 勇者であるシオンはこちらの世界の歴史には疎いため、いまいちピンと来ないらしい。召喚があるなら転生もあるものだろう、と言った認識だ。

 そっと小声で隣のシリアに尋ねる。

「アレクサンダリア1世というのは? すごい人物なのか?」
「ええ、とっても凄い人なのですよ。1000年前の乱世を一代でまとめ上げる大英雄。神のように崇めている国すらいるぐらいです」
「へー、レオンハルトは、すごいのだな」

 その落ち着いた言葉とは裏腹に、シオンの目はキラキラと光っていた。その人に抱いているのは憧れ。そんなシオンをそばで見ていたシリアは、柔らかい笑みを浮かべ、静かに見守った。

「はぁー、無茶苦茶いうねぇ、レオくんは」
「信じられんか?」
「さあね。半信半疑ってところかな? まあ、納得できないこともないけど」
「今はそれでいい」

 レオンハルトとシュナイダーはそんな言葉を交わす。

「おいおい、そんな軽く済ませんのかよ。オレ的にはかなりの衝撃だぜ?」

 セベリスにとっては衝撃なことでも、シュナイダーにとっては一言二言で済ませてしまってもいい案件と感じていた。そこは二人の感性の違いと、レオンハルトとの関係の深さによるものだろう。

「って言ってもねぇ。元帥殿はまだ何か?」
「いやいやいや、あるだろ。こう、なんだ、ほら、えーっと……あれ?」
「ねー、何にもないでしょ? これからに響くことでもないし。それよりさあ、僕、勇者の話が聞きたいんだけど」
「お、おー」

 言われてみれば、確かにこれ以上聞くことがないと気づいたセベリス。衝撃で頭が回っていないようだ。

 そんなやりとりをしている三騎士とレオンハルトを他所に、オリービアはさっきからずっとソワソワしていた。チラッチラと、第二王妃の方へ視線を向ける。

 自分の娘が転生者だと告げられた母親の反応が気になるのだろう。もしかしたら、今まで通り接してくれないかもしれない、そうオリービアは心配した。

 その視線に気づいた王妃は、

「なんですか? オルア」
「あ、いや……うぅうう」

 気まずそうなオリービア。しかし、王妃はお構いなし。

「もう一度聞きます。なんですか? 
「っあ」

 今度はわざと、『オルア』の部分を強調するようにいう第二王妃。その意図にオリービアは気づく。

「い、いえ、なんでもありません」
「よろしい」

 口元のニヤケを見せないように、俯くオリービア。それを見て微笑ましく笑う王妃。

『転生者だからなんですか? 偉いんですか?』

 そうな声が聞こえるようが気がしするほど、王妃の気迫は凄まじいものだった。心配していたようなことにはならない、そうオリービアは気づいた。

 さて、世間話も終わり、いよいよ本題に入ることができる。

「こちらが元教国の勇者のシオンだ。今はうちの領の相談役をやってくれている」
「シオンだ。よろしく頼む」

 シオンの自己紹介も終わり、早速シュナイダーが疑問を口にする。それは彼にとって最も重要な疑問である。

「シオン嬢、一つ聞きたいことがあるけど、いいかい?」
「ああ、私に答えられるものなら、なんでも聞いてくれ」
「アークは教国の勇者か?」
「「「!!」」」

 いきなり爆弾発言を投下するシュナイダー。

「おい! シュナイダー! どういうことだ!?」

 シュナイダーの疑問に、真っ先に反応したのはセベリスだ。彼はシュナイダーよりもアークとの付き合いが長いため、彼が勇者だとはとても思えないからである。

「あの時、僕は間違いなくアークを殺した。にも関わらず、奴は生きてきた。魔法ではない何かがあるとすれば、それはーー」
「我々勇者が持っているギフト、ということか」
「そういうこと。シオン嬢、答えてくれるかい?」
「うむ。そのアークという人物を私は知らない。召喚勇者の中には、それらしき能力の持ち主はいない、と思う」
「そうか……」
「だが、今教国には、私があった事がない勇者なら、一人だけいる。素顔も居場所も一切不明だが、枢機卿たちは彼をこう呼んでいた……『勇者マサユキ』と」

「「「!!」」」

 聖剣。その呼び名前にピント来るものは多いだろう。護国の三騎士、のアーク。字こそ違うものの、読み方は同じ。とてもただの偶然とは思えない。

 正剣とは、元々は「正義の剣を振るう者」という意味で、皇帝から授かった名だ。

 つまり、もしアークが勇者なら、裏切ったのは護国の三騎士となった後ということになる。

 より詳しい情報を聞くために、レオンハルトはシオンに尋ねる。

「シオン。勇者の二つ名の命名に法則はあるか?」
「うーん、召喚勇者は能力に応じた二つ名が与えられるというのは聞いた事がある。私の場合は『断界』と呼ばれていた。だが、転生勇者の場合はなんともいえないな。そもそも数が少なすぎる」
「そうか。能力由来の二つ名でない可能性もあるか」
「当て付けでしょ。わざわざ同じ読み方の二つ名をつけて。趣味悪ぅ」
「ああ……にしても死を無かったことにできるギフト。強力だな」
「だね。でも、それなりの条件はあると思うよ」
「だろうな。再発動の手間か、回数制限か……」
「まあ、今ここで考えてもわからないでしょ」
「そうだな。今日のところはこれまでにしよう」

 まだ続けても良かったが、流石に色々な情報が出過ぎている。それぞれに情報を整理する時間は必要だろうと踏んだレオンハルトは、会議を締め括る。

 それぞれが自分の役割を果たすべく、この場から去る。

 その中の一人、シオンの背中を、レオンハルトは見つめていた。

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