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帝位・勇気を紡ぐ者

第12話 大罪

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前書き

 後半突入!
 少し理屈っぽいところもありますが、何かしらの理由付けがないと納得しないタチですのでご容赦を。
 後書きで軽くまとめます。


ーーーーー

 それは、突如やってきた。

「がっは!」

 パタンと倒れるレオンハルト。

 現在レオンハルトがいるのはいつもの執務室。第四勢力として名を挙げたことで膨れ上がった書類仕事をこなしていた。シオンとのちょっとした外出も重なり、仕事が溜まっていた。

 しかし、レオンハルトが倒れるほどの仕事量ではないはず。

「レオ君!?」
「ぐぅうう」

 すぐ近くで仕事をこなしていたオリービアは直ぐに反応し、レオンハルトに駆け寄る。胸を押さえて、苦しみにもがくレオンハルト。

 その胸のあたりに、心臓のような形の黒い影が鼓動していた。ただし、その黒い影には白いヒビが入っており、鼓動を繰り返すたびにヒビが大きくなっていく。

「レオ君! レオ君! しっかりして」
「どうなさいましたか!?」
「……レオ!」
「兄上!」

 騒ぎを聞きつけて、掃除をしていたシリアは影移動でレオンハルトの元へやってくる。さらに、庭で修行していたリンシアとシオンも、窓枠を乗り越えて部屋へ入ってくる。

「レオ君が、レオ君が急に倒れちゃった!」
「部屋へ運びましょう」
「……医者、呼んでくる!」
「私はもいこう!」

 苦しみにもがくレオンハルトのそばで、四人の少女たちが忙しなく動き始めていた。そこで、オリービアは気づく。

(魔力が、減ってる? いや、吸われてる? ……いや、今はいい。まずはレオ君を!)

 そうやって、オリービアたちはレオンハルトの介抱を始めた。


 ◆


 レオンハルトが倒れて5日が経過した。その間、レオンハルトが目を覚ますことはなかった。医者曰く、原因はわからないそうだ。

 そもそも、レオンハルトの体は魔力体。通常の医術では測れない何かがある。よって、医者にもどうすることもできないらしい。

 しかし、息は安定しているため、レオンハルトが死んだわけではないことはわかる。それでも、目をさまさないレオンハルトの身を案じた4人の少女は、ベッドを囲むように座っていた。

「……レオ君」

 意気消沈な四人。最善な処置をしたはずだが、レオンハルトは目をさまさない。それに対して、多少なりとも自責の念がある。

 そんな四人とレオンハルトがいる部屋に、一人の客が訪れる。

「レオくん、目、覚ました?」

 そんなこと言って、入ってきたのシュナイダーである。

 見ればわかるだろ、という視線を四人から浴びせられるシュナイダーは、どこか気まずそうだ。

「いやぁ、違うんだよ。僕の見立てじゃあ、そろそろ目を覚ましてもいい頃なんだ」
「どうして?」
「新情報だ。聞きたいかい?」
「「「「聞きたい(です)」」」」

 勿体ぶるシュナイダーに食いつく四人。それを見たシュナイダーはどこか満足そうだ。

「ケイシリア皇女の勢力とレギウス皇子がぶつかった。まあ、戦争だね。そこで、勢力問わず、大規模な魔力欠乏症が発症したらしい。僕も5日前のあの日、多少魔力を吸われた感じがしたしね」
「っあ」
「オリービア皇女は心当たりがありそうかい?」
「はい。確かにあの日、魔力を吸われたような」

 オリービアはあの日、魔力が吸われたと感じていた。そして、オリービアだけでなく、魔法が得意なシリアも感じ取っていたらしい。ほんのわずかだが、魔力が減ったと。

「でも、それがレオ君とどんな関係が? 減ったにしても微量だったし、レオ君があの程度で倒れるとは思えないけど」
「いやいや、僕らにとっては魔力を吸われただけでも、レオくんには大ダメージでしょ? 体、魔力でできてるし」
「「「「っあ」」」」

 四人は一斉にハッとする。確かに、吸われた魔力量は微量だが、レオンハルの場合全身が魔力である。

 今のレオンハルトの体は、魔力を重力魔法によって無理やり繋げて作られている。ごくわずかとは言え、それに綻びが生じれば、一気に崩れてもおかしくはない。

「……その話、詳しく聞かせろ」

 突然、そんな声が割って入る。

「レオ君!?」
「レオンハルト様!?」
「……びっくり」
「ふぅ、よかったぁ」

 5日ぶりに、レオンハルトが目覚めたのだった。


 ◆

 目を覚まし、軽く食事をとったレオンハルトは、シュナイダーに向き直る。そこにオリービア、シリア、リンシア、シオンも同席していた。

「さて、シュナイダー、話を聞かせろ」
「どの話だい? 正直色々起きてるよ」
「……まずは、ケイシリア皇女とレギウス皇子の戦争の結果だ」
「あぁ~、いきなりきついの聞くねぇ……結果、ねー……結果だけいうならケイシリア皇女の勝利だよ」
「順当だな。して、レギウス皇子側の被害は?」
「全滅。バルフェウス公爵家当主、セオドリック・バルフェウスとレギウス皇子も討ち死にだって」
「「「「えー!?」」」」

 レオンハルト以外の四人の少女は驚きを露わにする。

 レオンハルトはというと、静かな眼差しでシュナイダーを見つめていた。そして、何かを考える素振りを見せながら、次の質問をぶつける。

「理由は? 俺の予想じゃ、そこまでの戦力差はないはずだが?」
「だよねぇ。僕もそう思ってたけど。情報によると、レギウス軍はたった一人の男に全滅させられたらしいよ」
「一人だと? ……シュナイダー、お前も同じことができるか?」
「できないことはないけど、僕、ほぼほぼタイマン専用だから。一人でやるにはちょっと骨が折れるかな?」
「つまり、お前に匹敵するほどの武人ということか。そんなやつ、皇国にいたのか?」
「いんや、三騎士と皇宣魔導師以外にそんな奴はいなかったよ」
「生き残った一人の皇宣魔導師の仕業か?」
「さあねぇ。でも、遠目で見たやつによると、そいつは真っ黒な炎を使ってたらしいよ。心当たりは?」
「「「!!」」」

 レオンハルト、シリア、リンシアの3人が反応する。黒い炎なんてそうそう見ない。

 それこそーー

 ーー煉獄の炎

 帝国皇帝へガンドウルム・ルドマリアが使っていた炎が、黒い炎心をしていた。

「あるらしいね」
「ああ……」
「どういうことですか? なぜ、皇国国内に帝国皇帝が」
「いや……おそらくあの力はーー」
「ちょっとちょっと、僕らにもわかるように説明して欲しいんだけどぉ」
「ああ、そうだったな」

 そう言ってレオンハルトは、シュナイダーやオリービア、そしてシオンに対して、煉獄の説明を行った。

「「「……」」」

 3人ともなんとも言えない表情を浮かべながら、話を聞く。煉獄の炎の破格な能力に驚いているのか、これからこれが敵となることを心配しているのか。

 そして、3人のうちもっとも早く言葉を発したのはシュナイダー。

「はぁ、やってられないねぇ。概念を燃やす炎とか、どうしろと?」

 シュナイダーは大きなため息を零す。

「レオくんも昔は使ってたんでしょ? なんかないの? 対策とか」
「ない。あれの厄介さは身にしみてわかってるからな。ただ……」
「ただ?」
「おそらく、あの力は煉獄の炎ではない。真っ黒な炎だからな」
「「「「???」」」」」

 5人の頭にハテナマークが浮かぶ。その中でも、煉獄の炎を目の当たりにしたシリアは素直に疑問をぶつける。

「どういうことですか?」
「それを説明するためには、まずある種の魔法について説明しなければならない。シュナイダーは心当たりはないのか?」
「うーん、黒い炎でしょ? ちょっと思いつかないかなぁ~。有名なの?」
「国の上層部では有名な話だ。1000年前までは、だがな」

 そう、1000年前まではかなり有名な話だ。なんせ、発現者は現代の比じゃないほど多かったのだから。

「大罪魔法学、そう呼ばれていた」

 
ーーーーーー

 大罪魔法学。

 ある日突然、戦場を駆けていた兵士の身から黒い炎が噴き出て、そのまま焼死した、とか。

 ある日突然、農園で暮らしていた平凡な青年が、魔力欠乏症で亡くなった、とか。

 ある日突然、貴族の子弟が姿を消し、そしていつの間にか巨大な木が生まれていた、とか。

 様々な不可解の現象が蔓延っていた1000年前。この現象は魔法によるものだと説く一団によって広められた学問である。

 度重なる研究のもと、研究者たちはその不可解な事象に答えとなりうる仮説を立てた。

 仮説はこうだ。

 この世界には2種類の魔力が存在し、それぞれ陽魔力と陰魔力と名付ける。自然を満たす魔力の全てが陽魔力であるが、人の身には陽魔力と陰魔力の両方が宿る。

 通常、陽魔力は陰魔力よりも遥かに多い。普通の魔法行使も陽魔力を用いる。

 だが、あるきっかけで陰魔力が陽魔力を上回った場合、大罪魔法なるものが発現する、とういう仮説である。

 陽魔力と陰魔力の存在に関しては、ほぼ間違いないと言われている。実際、性質の異なる2種類の魔力は確認されている。

 例えば、普通の火魔法と黒い炎。

 普通の火魔法は自然と消滅するが、黒い炎はそうではない。

 普通の火魔法は、自然と同じく陽魔力でできているため、時間経過とともに拡散していくが、黒い炎は陰魔力でできているため、周囲の陽魔力に押さえつけられ、拡散することがないからである。

 このように陰魔力をもとにした大罪魔法は、自然に反する魔法ともされている。

 さて、ここまでは大罪魔法の性質を説明してきたが、その発現理由には言及されていない。

 その発現理由はハッキリ言って不明である。サンプルを大量に集めて仮説こそ立ったものの、立証はされていない。

 その仮説とは、大罪魔法は人の特定の感情によって発現すると言うものである。その感情は大きく七つに分けられる。

 傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲。

 それぞれの感情が膨れ上がることで、陰魔力が捻出され、それが陽魔力を上回ってしまうことで、大罪魔法が発現する。

 よって、大罪魔法も自然と七つに分類される。

 ただし、誰しもが大罪魔法を発現するわけではないことがわかっている。それぞれの大罪には、それぞれの属性がある。

 憤怒は火、嫉妬は土、怠惰は水、強欲は風、暴食は闇、色欲は光の属性を持つ。

 傲慢は無属性魔法、現代では非属性魔法と呼ばれる魔法を持つ人間から発現する。レオンハルトやシュナイダーなどがそうだろう。

 つまり、それぞれの大罪に見合う魔法適性がないと、大罪魔法は発現しない。

 例えば、火属性の魔法しか使えない青年が、どんなに嫉妬の感情を拗らせようと、大罪魔法は発現しない。

 火属性の魔法使いが発現する可能性があるのは、憤怒の力のみ。

 とある学説では、属性魔法の適性がその人の性格を表していると言うものもある。例えば火属性の適性がある人は怒りっぽいとか、土属性の魔法を持つ人は嫉妬深いなどである。

 ただし、これは血液型占いの範疇を出ないため、必ずしも当てはまるわけではない。

 閑話休題。

 このような大罪魔法と呼ばれる現象は1000年前の乱世では多く見られていた。大抵のものは扱いきれず、自滅してしまうため、病気のような扱いになっていた。

 しかし現代になると、戦争はあるものの、1000年前とは比べ物にならないほど平和である。人々の感情の揺らめきが1000年前より大分穏やかになったとも言える。よって、自然と大罪魔法の発現率は減っていった。

 ただし、扱いに成功してしまえば、人智を越える力が手に入る。

ーーーーーー

「これが大罪魔法学だ」
「「「「「???」」」」」

 話を聞いても、皆の頭の上にハテナが浮かぶ。唯一、シュナイダーだけは難しい顔をしながらも、納得した風で頷いていた。

「じゃあ、今回はその大罪魔法を上手く扱えたものがいる、と?」
「そうなるな」
「で? その黒い炎の効果は?」
「ただの消えない炎だ。まあ、それが厄介なのだがな」
「ふぅん。まあ、正体がわかっただけよしとするか。今のでなんとなく対策が立ちそうだし」

 そう言ってシュナイダーは一人で納得してしまった。取り残された残りの四人は、相変わらずポカーンとした顔をしている。

 そんな中でも、なんとなく理解できた風のシリアは、レオンハルトにある疑念をぶつける。

「では、レオンハルト様。帝国皇帝が使っていた煉獄の炎はなんですか?」
「ああ、あれな……あれは俺が作ったものだ」
「作った、ですか?」
「まあ、正確に言えば大罪魔法でもあるのだが……かつて、俺に憤怒の炎が目覚めた時に、本能が危険と感じてな。身を焼かないように、無理やり陽魔力を捻出して、黒い炎を閉じ込めたんだ。そしたら、陽魔力と陰魔力境界がせめぎ合って、空間を歪めてしまった。外回りに金色の炎が、内回りに黒い炎となっているが、あれの間には無限の空間が広がっている。いわば、小さな世界だ。煉獄の炎は、この世界のルールに別の世界を被せることで、理そのものを歪めることができる。結果、概念を燃やしているように見せているのだ」
「「「「「……」」」」」

 またしても難しい話となってしまったが故に、5人ともなんとも言えない表情をしている。質問したシリアでさえ、返事を詰まらせていた。

 そして、やはり理解力に長けていたのはシュナイダーである。

「……つまり、ただでさえやばいブツを、さらにやばいブツに作り替えちゃったと?」
「言ってることは間違いじゃないが、その言い方だと俺がやばいやつのようではないか」
「実際そうでしょ? 変態とレオくんは紙一重って誰かが言ってたし」
「お前しか言わないだろ、そんなの」

 そんなやりとりをそばで見ていた他の四人も、いつの間にか釣られて、くすくすと笑っていた。



ーーーーー
後書き
 大罪魔法まとめ

 ・七つ大罪を元にした魔法がある。
 ・それぞれの大罪には属性があって、適正がないと使えない。
 ・例:火属性にしか適正がない人は、憤怒しか使えない。
 ・基本は制御できないので大抵は自滅する。


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