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帝位・勇気を紡ぐ者
第13話 修行開始
しおりを挟む大罪魔法についての情報共有を終えたレオンハルトたち。しかし、最大の問題は解決していない。
それは、レオンハルトがなぜ倒れたか、である。しかし、どうやらレオンハルトはすでに当たりをつけているらしい。
「相手には最低でも二人、大罪魔法の使い手がいる。おそらくもう一人は、強欲の能力者だ」
そうレオンハルトは言い放つ。それに対し、言葉を返したのはオリービアだった。
「その能力のせいで、レオ君が倒れたってこと?」
「ああ、強欲の能力は強制的な魔力の徴収だ。使い手にもよるが、かなり危険な能力だ。特に俺にとってはな」
「レオ君って魔力体だから、魔力を吸収されたらまずいってこと?」
「ああ、ただでは済まないだろう。全く、どんだ天敵だ」
「そんなぁ」
少し吸収されただけで昏倒してしまうほどだ。至近距離で大量に吸収されたら、ひとたまりも無いだろう。つまり、今回の戦でレオンハルトが先陣を切るのが難しいと言うことになる。あまりにリスクが大きい。
それどころか、これほど距離が離れているのにも関わらず5日間昏睡するほどのダメージを受けたのだ。むしろ現在進行形でレオンハルトの身に危険が迫っていると言ってもいい。
何かしらの対策を講じなければ、レオンハルトがライネル領に居続けることすら困難になる。
そのことに頭を悩ませていたシュナイダーだが、レオンハルトからある提案が上がる。
「俺は少し領を空ける。弱点をいつまでも弱点にはして置けないからな」
「なんとかできるの? レオくん」
「ああ、要は体を定着させればいいだろ? 久々に修行をしよう」
「なるほどねぇ……まあ、レオくん抜きで戦うには骨が折れそうな相手だし、強くなってくれるなら文句はないよ。でも、もし向こうが仕掛けてきたとして、その修行は間に合うの?」
「分からん。やってみないとこにはな」
「まあ、それもそうか」
ケイシリア皇女がどのタイミングで仕掛けてくるかわからない以上、レオンハルトが領を空けるのはよろしくない。そうシュナイダーは考えていた。
しかし、すぐに思い直す。強欲の能力者がいる限り、レオンハルトが領にいても仕方ないからだ。
「レオ君頑張ってきて! 領内は私たちがなんとかするから!」
オリービアがレオンハルトに応援の言葉を送る。こう言う時にしっかり後押ししてくれる。そんな彼女たちだからこそ、信頼して任せられる。
「ああ、頼んだぞ」
「「「「うん!(はい!)(うむ!)」」」」
こうして、レオンハルトは修行の旅に出た。
◆
レオンハルトが荷物をまとめて出立した翌日。ディール、エルサ、バース、カーティアの学生四人衆がある人物を訪ねていた。
その人物は、騎士団本部の訓練場で剣を奮っていた。振われる剣は正確なものであり、その実力は確かである。しかし、その動きはどこかぎこちないと感じてしまう。
それもそのはず。その人物には左手がないのだから。
剣を振るっていたのは、護国の三騎士の一人、剛剣のセベリスである。アークとの戦闘で左腕を失ってしまった彼だが、それでもかつての力を取り戻すために、毎日修行に励んでいた。
学生四人衆の気配に気づいたセベリスは、剣を振るうのをやめる。
「なんのようだ? ガキンチョども」
剣を鞘におさめ、振り返るセベリス。そして、その視界に入ったのは深々と頭を下げた4人の姿だった。
「「「「おれ達(私たち)に戦い方を、教えてください!!」」」」
異口同音に発せられたのは、そんな言葉だった。それに対してセベリスは、真剣な眼差しで、
「……なぜだ?」
子供の言うことだからと、軽く見ることはなかった。むしろ子供だからこそ、戦う力を求めるのに覚悟は必要なはずだ。自分に頼ってくるということはそれ相応の理由があると、セベリスはそう考えていた。
「……オレら、フレデリックが裏切ったって聞いても、なんもできなかった」
「……フレデリックが会いにきたのは、結局レオンハルトだけだった。おれらがよえから」
「男どもは脳筋ね。別にそれは強さとは関係ないでしょ? 私はそんなんじゃない。もう一回フレデリックにあって、ぶちのめしてやりたいだけ」
ディール、バース、エルサの順に理由を述べる。どこか子供らしい理由だが、確固たる信念があるように思えた。
セベリスは最後の一人、カーティアに質問する。
「お前はどうなんだ?」
「別に理由はありませんよ。まあ、レオンハルトの言葉を借りるなら……勘、でしょうか」
「勘? 勘で、強さを求めるのか? 茨の道だぞ?」
「いけませんか?」
どこか太々しいその態度は、レオンハルトの真似をしているのかもしれない。セベリスもそれを感じ取ったのか、苦笑いを浮かべる。
「俺も忙しい。その合間なら、手ほどきをしてやっても構わない」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
四人の姿を見て、満足そうなセベリス。
「じゃあ、早速最初の授業だ!さっさと着替えてこい!」
「「「「は、はい!」」」」
こうして、セベリスのスパルタ特訓がはしまった。
◆
そして同時期。
「修行?」
「はい、お願いできませんか?」
オリービア、シリア、リンシア、シオンの四人はシュナイダーに修行の願いを申し出ていた。
「みんなかなりの実力だと思うけど? 僕に教えれること、あるかなぁ」
「いえ、まだまだシュナイダー先生には遠く及びませんよ」
「お立てるのが上手だねぇ。僕調子乗っちゃうよ」
(まあ、レオくんの修行に合わせて、四人も育てておくのは悪くないかもね)
そう考えたシュナイダーはーー
「いいよ。ただし、仕事はちゃんとするように」
「勿論」
こうして、オリービアたちの修行も始まっていた。
◆
レオンハルトが修行のために領を飛び出して、1日が経過した。
その間、全て自分の足で走っていた。能力の確認というのもあるが、シンプルのこちらの方が早いのだ。長い移動をする際は流石に馬に乗らざるを得ないが、こうした一日程度の移動なら走った方が早い。
そして、1日の旅の結果、レオンハルトは目的地に到着した。その場所は、鉱山である。
かつて、鍛治士ガイアスがレオンハルトに再開発の申請をした鉱山だが、結局レオンハルトは再開発の許可を出さずにいた。
原因はここに眠るとある生物。
その生物がこの鉱山を離れている間しか、開発はできない。なぜなら、その生物が住み着いてる間は常に寝ているからだ。
その安眠を妨げようものなら、寝覚の悪さで鉱山ごと破壊されてもおかしくはない。それほどの生き物が、ここに生息している。
しかし、だからこそレオンハルトはこの場を選んだ。魔力の濃度が、尋常じゃないからである。
とんでもない濃度の魔力で蔓延っている鉱山に足を踏み入れるレオンハルト。鉱山内を迷うことなく進み、やがて開けた空間に出る。
そうするとーー
『おお、レオンハルトではないか? しばらく見ない間に随分といい体になったではないか?』
「なんだ、起きていたのか? 蒼龍」
なんとレオンハルトに話しかけたのは一匹の龍であった。見上げるほどの巨体を持ち、神々しいオーラを放っている。
体はトグロを巻いており、その鱗はくすんだ藍色をしていた。しかし、それは汚れによるもので、本来ならば海のような青いな鱗をしている。頭上には水晶のようなツノが一本はえっていた。
この世界では普通の竜種や龍種は最上級の魔物扱いされている。発見すれば、軍での討伐を余儀なくされるほどである。しかし、そんな恐ろしい魔物でも、人間の言葉を発することはない。
人間の言葉を話す魔物。まさに前代未聞だが、実はこの世界にはこのようは生物は、わずかではあるが存在している。人間に討伐されることなく、また種の争いでも淘汰されることなく生き延びてきた太古からの生物。
古くからいるため、彼らは知恵を身につけ人の言葉も身につけた。また、人が彼らを恐れていることも知っている。故に彼らは、無用なトラブルを避けるために、人里離れた場所で暮らしている。
そう、このような廃鉱山のような場所で。
元々は廃鉱山となっていたこの鉱山だが、蒼龍の魔力を浴び続けたことで変質し、今では藍金を産出する一大産地となっている。ライネル領の騎士たちの武器に施されている藍金もここからきていた。
この鉱山をレオンハルトは数年前に発見し、熾龍と交渉した。そして、眠りを妨げないのであれが発掘を許可する、という結果になった。
「修行しにきた」
『うむ、その体、相当不安定だからな』
「少し場所を借りるぞ。あと魔力もな」
『よいぞ。なんなら我が修行を見てやろうか?』
「いいのか?」
『ああ、いい暇つぶしになる』
「……まあ、見てくれるなら文句はないが」
『うむ、任せろ! 今回早起きしてよかった。いいものが見れそうだ。っクックック』
レオンハルトはこうして普通に話しているが、常人ならとうに気絶してる。熾龍が放つ一つ一つの言葉には、大量の魔力が込められている。ただの人間なら、脳が受け止めきれずに弾け飛んでいるだろう。
それはともかく、こうしてレオンハルトの修行も始まろうとしていた。
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