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帝位・勇気を紡ぐ者
第19話 討伐
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前書き
久しぶりの設定が一瞬出るので、軽くおさらいします。
ラインクール皇国は魔獣のレベルを勲章で表している。
上から翼、十字、星でそれぞれ金銀銅の三段階がある。
ちなみにレオンハルトが叙されたのは金十字です。
ーーーーー
ライネルの近くにある鉱山。その奥深くで、一人の人間と一匹の龍の姿があった。本来種としての格は、比べるべくもなく龍の方が上である。
しかし、今そこにいる人間の方が、龍よりも遥かに存在感を放っていた。そして、なぜか龍はげっそりしていた。
『ふう、安易に修行を見てやるなどと言わなければよかった』
「感謝してるよ。予想以上の仕上がりだ」
『当然だ。この我が見てやったのだから』
自身の体に視線を向ける人間。手の握りを繰り返して、様子を確かめる。
「良さそうだな」
『もう行くのか?』
「ああ、いつ戦争が始まってもおかしくないからな」
『だったらその闘気はしまっておけ。人間には強すぎる。再会した瞬間卒倒されたくはないだろ?』
「確かにな」
その言葉とともに、人間の存在感はみるみる消えていった。実は、この龍も人間同様に存在感、もとい魔力を押さえ込んでいる。
「さて、世話になった。行ってくる」
『おう! 行って来い。次来る時には美酒の一つでももってこい!』
「覚えとく」
そう言って黒髪の人間、レオンハルトが鉱山から足を踏み出した。
◆
「ば、化け物だああ!」
「に、逃げろう!」
「い、いやあああ!」
テオハルトを元にした巨大樹は、強欲の力を手に入れて更なる成長を遂げた。戦場に漂う魔力をかき集め、どんどんと大きくなっていた。
あれからわずか15分しかたっていないが、その高さはすでに100mを超えていた。
まだまだ止まることを知らない大樹。地上で暴れ回る根っこたち。逃げ惑う兵士。そんな地獄の中、オリービアたちはドバイラス伯爵やローカム女伯爵たちと合流していた。
「ご無事でしたか!?」
「ええ、私たちはなんともない。お二人こそ無事でよかった」
「ちょっとやそっとでやられるほど柔じゃないですよ」
「それより、あれはなんなんだい? 魔獣にしたってぶっ飛びすぎじゃないかい? 討伐難易度金翼程度じゃすまないよ、あれ」
「……あれはね、レオ君の弟なの」
「「は?(え?)」」
オリービアは敵本陣で起こって出来事をドバイラス伯爵とローカム女伯爵に話す。あまりにショッキングな出来事に、二人とも言葉を失う。
しかし、今はショックを受けている場合ではない。
「ドバイラス伯、ローカム女伯。我が軍の損害を報告してもらえる?」
「お、おう。うちの兵士はあの地響きで落馬なりなんなりで負傷者は多いが、死者は思いほのか少ないです。まあ、こんな状況の割に、ですが」
「こっちも似たような感じだよ。向こうの被害と比べれば軽微なものだけど、それでも無視できるダメージじゃない。まあ、ライネル領の連中は別だけど」
「そうですか……ケイシリア皇女軍に協力を仰ぎましょう」
その言葉に対して、ドバイラス伯爵とローカム女伯爵は肯首で答える。
「ですが、あれが敵の総大将だというのなら、誰が軍のまとめ役を?」
「そうですね……」
そんな風に頭を悩ませているオリービアに、間延びした声が届く。
「あのぉ~。私、この征伐軍の副大将を勤めている者ですが」
開戦前にテオハルトを窘めた副官が声を発する。オリービアたちが敵本陣を制圧した時点で、彼も捕縛されていたのだ。
「そうですか。では、オリービア・ラインクールの名において正式に貴軍に応援要請を求めます。答えていただけますね」
「……あれと、戦うおつもりですか?」
「はい、そのつもりです」
「無理です! あれは人が敵うものではありません! 即刻撤退すべきです!」
「撤退したとして、あれが消えるわけではないでしょ? それに、あの成長速度を見れば、時間をおけばおくほど討伐が困難になるのが目に見えてます」
「だからってーー」
「大丈夫です。きっと勝てます」
「何を根拠にーー」
「レオ君はきっと来る。それまでの時間稼ぎをすればいいのです」
「……は?」
まさかの他力本願に、副官の男は目を丸めた。
◆
赤黒い巨大樹がこの世に誕生してから、1時間もの時間が経過した。その間、オリービア軍とケイシリア軍の両軍が合同で攻撃を繰り返していた。
時間が経過していることもあって、徐々に戦況も安定しつつあった。前衛と後衛に分かれた、着実にダメージを与えていた。
先陣を切るのはやはりライネル軍。暴れ回る大樹の根を切って回っている。その機動力と殲滅力を利用して、他の兵士たちに攻撃が及ばないようにしている。
振り下ろされる大樹の根。そのあまりの巨大さに、普通の兵士ならなす術ばく叩き潰されるだけだがーー
「回避いいいいい!」
「「「っは!」」」
回避の指示を受け、ライネル軍は一斉に散らばる。そして、バトルホースの機動力を利用して素早く距離をとる。この戦法を続けることによって、ライネル軍は前衛としての役割を果たしていた。
「撃てえええ!」
そして、前線でライネル軍が派手に暴れてくれているおかげで、それ以外の兵士たちは魔法や弓を使った遠距離攻撃で大樹を攻撃する。
無数に降り注ぐ魔法は、大樹の巨大する直撃する。しかし、そのあまりの巨大さのせいか、あまり効いている様に思えない。
ライネル軍が切り飛ばしている根っこも、切られたそばから再生を繰り広げるため、討伐は一向に進んでいない。それどころか、空気中に漂う魔力を吸い、さらに成長を遂げていた。
そんな中で、もっとも大樹にダメージを与えているのは、わずか四人の少女たちである。彼女らはライネル領兵よりもさらに先の戦線にいた。
馬で大樹のすぐ側駆け抜けるオリービア。大樹の攻撃を悉く潜り抜けて、根元までたどり着く。暴れ回っている大樹の根に手を触れると、魔法を発動する。
「よし! 乗っ取れた!」
その言葉と同時に大樹の根は舞い上がり、そしてーー自分の幹に攻撃を仕掛けた。その根の巨大さが仇となったか、大樹はよろける。
しかし、オリービアの魔法の束縛力を大樹は一瞬で振り解き、逆にオリービアに攻撃を仕掛ける。
振り下ろされる一撃は、いくらオリービアといえど直撃すればひとたまりもない。
だが、その攻撃は途中で止まる。よく見ると、その根っこには影のようなものがへばり付いていた。シリアの魔法である。
シリアは馬ではなく、自分の足で大樹に向かって駆け出す。人間とは思えないその速さで駆けるシリアは、減速することなく大樹に突っ込んだ。そして、垂直である大樹の幹を脚力のみで登っていった。
瞬く間に登っていくシリア。一定の高さに達すると、体を回転させ、落下していく。そしてその先には、先ほど自分の魔法で止めていた根っこがあった。
両手にある短剣に本を振るい、根っこを切り刻む。その姿はまさに死神のよう。そして、足場を失ったシリアは落下するが、その落下地点にオリービアがいた。
駆けるオリービアの馬に器用に乗るシリア。
「ありがとうございます」
「こっちこそ」
バラバラになった根っこは崩れ落ちるが、その落下の合間を縫って、オリービアたちは進んだ。
その大樹の反対側に、リンシアとシオンの姿があった。
しかし、こちらはオリービア、シリアコンビの様な躍動感はない。リンシアは馬を走らせているものの、回避行動ほとんど取らない。近づく根っこを全て、水の刃で叩き落としているからだ。
「……シオン」
「おう!」
リンシアが走り回っているのには理由がある。大樹の動きを制限するためだ。リンシアの類稀なる駒うちのセンスにより、大樹は追い込まれていた。
追い込まれた大樹の攻撃は、まるで吸い込まれたかのように全てシオンに向かっていった。
「っは!」
迫り来る1番の根っこを刀で両断し、すぐさま納刀する。
カッキン!
納刀する音とともに、迫り来る全ての枝は地に落ちる。その切り口から火が燃え広がり、大樹へと迫る。しかし火勢が弱いため、大樹の幹に届く前に燃え尽きる。
「いずれ、ギフトなどに頼らずともこれぐらいやりたいな」
これほどのことをやってなお、シオンの向上心は満たされなかった。
◆
オリービアたちの健闘により、大樹の成長は遅らせられているものの、それでも成長しているのに変わりはない。
今の大樹の高さは、ざっと500m。とてもじゃないが、人間に相手できる存在とは思えない。テオハルトに変わってケイシリア軍の総大将となった男はそう考える。
(この状況、例えレオンハルト・ライネルがきたところでどうにもならないのでは?)
そして、その男のすぐ近くに馬に乗った金髪の少女の姿があった。
ティーナである。なぜ彼女が戦場にいるかというと、テオハルトの最後を見届けたいという彼女の願いが汲み取られた結果である。
本来であれば、彼女は絶対安全なところにいるはずだが、戦線が下りに下がって今彼女のいるところまで来ていた。
「兄様……」
あの大樹がテオハルトという情報は彼女まで届いていない。しかし、それでも彼女はあの化け物が兄だと感じ取っていた。
(お願い、もうやめて!)
しかし、ティーナのそんな思いを踏み躙るように、戦況はさらに過激化する。
巨大になりすぎた大樹は、ついに地上の根からではなく、上空に生えている枝から攻撃することが可能となった。そして、大樹はわかっていたのだ。後ろにいる奴らは、簡単に蹴散らせると。
オリービアたちの、そしてライネル軍の頭上をも通り過ぎるように、枝での攻撃を放つ。後方にいる他の兵士たちを目掛けて一直線に飛んでいく。
「こ、こっちにくるぞ!」
「回避! 回避いいいい!」
その掛け声も虚しく、大樹の攻撃は討伐軍にダメージを与えることに成功。そして、攻撃したいくつもの枝のうち一本は、なんの偶然か、ティーナの方向を目掛けて飛んできていた。
(まずい! あんなところに少女が!)
退避を図ったケイシリア軍総大将だが、その途中にティーナが取り残されているのことに気づく。
(くそ、間に合わない!)
しかし、大樹の攻撃は空中で突如止まる。
「兄様? ……」
自分のことがわかり攻撃が止まったのか、そう思うのも束の間。すぐさま攻撃は再開し、槍のように鋭い枝がティーナを目掛けた一直線に飛んできていた。
(兄様! やめて)
死の恐怖を目の前に、ティーナは思わず目を瞑ってしまう。その瞑った目から涙が滲み出る。
テオハルトが攻撃を躊躇しなのは一瞬。だが、その一瞬のおかげで間に合った。
「5年ぶりかティーナ。再会早々悪いが、状況を説明してくれ」
そこにはティーナに迫る枝を、腕一本で受け止めたレオンハルトの姿があった。
ーーーーー
あとがき
きたーーーーー!! クライマックス! ド派手にいきます!
久しぶりの設定が一瞬出るので、軽くおさらいします。
ラインクール皇国は魔獣のレベルを勲章で表している。
上から翼、十字、星でそれぞれ金銀銅の三段階がある。
ちなみにレオンハルトが叙されたのは金十字です。
ーーーーー
ライネルの近くにある鉱山。その奥深くで、一人の人間と一匹の龍の姿があった。本来種としての格は、比べるべくもなく龍の方が上である。
しかし、今そこにいる人間の方が、龍よりも遥かに存在感を放っていた。そして、なぜか龍はげっそりしていた。
『ふう、安易に修行を見てやるなどと言わなければよかった』
「感謝してるよ。予想以上の仕上がりだ」
『当然だ。この我が見てやったのだから』
自身の体に視線を向ける人間。手の握りを繰り返して、様子を確かめる。
「良さそうだな」
『もう行くのか?』
「ああ、いつ戦争が始まってもおかしくないからな」
『だったらその闘気はしまっておけ。人間には強すぎる。再会した瞬間卒倒されたくはないだろ?』
「確かにな」
その言葉とともに、人間の存在感はみるみる消えていった。実は、この龍も人間同様に存在感、もとい魔力を押さえ込んでいる。
「さて、世話になった。行ってくる」
『おう! 行って来い。次来る時には美酒の一つでももってこい!』
「覚えとく」
そう言って黒髪の人間、レオンハルトが鉱山から足を踏み出した。
◆
「ば、化け物だああ!」
「に、逃げろう!」
「い、いやあああ!」
テオハルトを元にした巨大樹は、強欲の力を手に入れて更なる成長を遂げた。戦場に漂う魔力をかき集め、どんどんと大きくなっていた。
あれからわずか15分しかたっていないが、その高さはすでに100mを超えていた。
まだまだ止まることを知らない大樹。地上で暴れ回る根っこたち。逃げ惑う兵士。そんな地獄の中、オリービアたちはドバイラス伯爵やローカム女伯爵たちと合流していた。
「ご無事でしたか!?」
「ええ、私たちはなんともない。お二人こそ無事でよかった」
「ちょっとやそっとでやられるほど柔じゃないですよ」
「それより、あれはなんなんだい? 魔獣にしたってぶっ飛びすぎじゃないかい? 討伐難易度金翼程度じゃすまないよ、あれ」
「……あれはね、レオ君の弟なの」
「「は?(え?)」」
オリービアは敵本陣で起こって出来事をドバイラス伯爵とローカム女伯爵に話す。あまりにショッキングな出来事に、二人とも言葉を失う。
しかし、今はショックを受けている場合ではない。
「ドバイラス伯、ローカム女伯。我が軍の損害を報告してもらえる?」
「お、おう。うちの兵士はあの地響きで落馬なりなんなりで負傷者は多いが、死者は思いほのか少ないです。まあ、こんな状況の割に、ですが」
「こっちも似たような感じだよ。向こうの被害と比べれば軽微なものだけど、それでも無視できるダメージじゃない。まあ、ライネル領の連中は別だけど」
「そうですか……ケイシリア皇女軍に協力を仰ぎましょう」
その言葉に対して、ドバイラス伯爵とローカム女伯爵は肯首で答える。
「ですが、あれが敵の総大将だというのなら、誰が軍のまとめ役を?」
「そうですね……」
そんな風に頭を悩ませているオリービアに、間延びした声が届く。
「あのぉ~。私、この征伐軍の副大将を勤めている者ですが」
開戦前にテオハルトを窘めた副官が声を発する。オリービアたちが敵本陣を制圧した時点で、彼も捕縛されていたのだ。
「そうですか。では、オリービア・ラインクールの名において正式に貴軍に応援要請を求めます。答えていただけますね」
「……あれと、戦うおつもりですか?」
「はい、そのつもりです」
「無理です! あれは人が敵うものではありません! 即刻撤退すべきです!」
「撤退したとして、あれが消えるわけではないでしょ? それに、あの成長速度を見れば、時間をおけばおくほど討伐が困難になるのが目に見えてます」
「だからってーー」
「大丈夫です。きっと勝てます」
「何を根拠にーー」
「レオ君はきっと来る。それまでの時間稼ぎをすればいいのです」
「……は?」
まさかの他力本願に、副官の男は目を丸めた。
◆
赤黒い巨大樹がこの世に誕生してから、1時間もの時間が経過した。その間、オリービア軍とケイシリア軍の両軍が合同で攻撃を繰り返していた。
時間が経過していることもあって、徐々に戦況も安定しつつあった。前衛と後衛に分かれた、着実にダメージを与えていた。
先陣を切るのはやはりライネル軍。暴れ回る大樹の根を切って回っている。その機動力と殲滅力を利用して、他の兵士たちに攻撃が及ばないようにしている。
振り下ろされる大樹の根。そのあまりの巨大さに、普通の兵士ならなす術ばく叩き潰されるだけだがーー
「回避いいいいい!」
「「「っは!」」」
回避の指示を受け、ライネル軍は一斉に散らばる。そして、バトルホースの機動力を利用して素早く距離をとる。この戦法を続けることによって、ライネル軍は前衛としての役割を果たしていた。
「撃てえええ!」
そして、前線でライネル軍が派手に暴れてくれているおかげで、それ以外の兵士たちは魔法や弓を使った遠距離攻撃で大樹を攻撃する。
無数に降り注ぐ魔法は、大樹の巨大する直撃する。しかし、そのあまりの巨大さのせいか、あまり効いている様に思えない。
ライネル軍が切り飛ばしている根っこも、切られたそばから再生を繰り広げるため、討伐は一向に進んでいない。それどころか、空気中に漂う魔力を吸い、さらに成長を遂げていた。
そんな中で、もっとも大樹にダメージを与えているのは、わずか四人の少女たちである。彼女らはライネル領兵よりもさらに先の戦線にいた。
馬で大樹のすぐ側駆け抜けるオリービア。大樹の攻撃を悉く潜り抜けて、根元までたどり着く。暴れ回っている大樹の根に手を触れると、魔法を発動する。
「よし! 乗っ取れた!」
その言葉と同時に大樹の根は舞い上がり、そしてーー自分の幹に攻撃を仕掛けた。その根の巨大さが仇となったか、大樹はよろける。
しかし、オリービアの魔法の束縛力を大樹は一瞬で振り解き、逆にオリービアに攻撃を仕掛ける。
振り下ろされる一撃は、いくらオリービアといえど直撃すればひとたまりもない。
だが、その攻撃は途中で止まる。よく見ると、その根っこには影のようなものがへばり付いていた。シリアの魔法である。
シリアは馬ではなく、自分の足で大樹に向かって駆け出す。人間とは思えないその速さで駆けるシリアは、減速することなく大樹に突っ込んだ。そして、垂直である大樹の幹を脚力のみで登っていった。
瞬く間に登っていくシリア。一定の高さに達すると、体を回転させ、落下していく。そしてその先には、先ほど自分の魔法で止めていた根っこがあった。
両手にある短剣に本を振るい、根っこを切り刻む。その姿はまさに死神のよう。そして、足場を失ったシリアは落下するが、その落下地点にオリービアがいた。
駆けるオリービアの馬に器用に乗るシリア。
「ありがとうございます」
「こっちこそ」
バラバラになった根っこは崩れ落ちるが、その落下の合間を縫って、オリービアたちは進んだ。
その大樹の反対側に、リンシアとシオンの姿があった。
しかし、こちらはオリービア、シリアコンビの様な躍動感はない。リンシアは馬を走らせているものの、回避行動ほとんど取らない。近づく根っこを全て、水の刃で叩き落としているからだ。
「……シオン」
「おう!」
リンシアが走り回っているのには理由がある。大樹の動きを制限するためだ。リンシアの類稀なる駒うちのセンスにより、大樹は追い込まれていた。
追い込まれた大樹の攻撃は、まるで吸い込まれたかのように全てシオンに向かっていった。
「っは!」
迫り来る1番の根っこを刀で両断し、すぐさま納刀する。
カッキン!
納刀する音とともに、迫り来る全ての枝は地に落ちる。その切り口から火が燃え広がり、大樹へと迫る。しかし火勢が弱いため、大樹の幹に届く前に燃え尽きる。
「いずれ、ギフトなどに頼らずともこれぐらいやりたいな」
これほどのことをやってなお、シオンの向上心は満たされなかった。
◆
オリービアたちの健闘により、大樹の成長は遅らせられているものの、それでも成長しているのに変わりはない。
今の大樹の高さは、ざっと500m。とてもじゃないが、人間に相手できる存在とは思えない。テオハルトに変わってケイシリア軍の総大将となった男はそう考える。
(この状況、例えレオンハルト・ライネルがきたところでどうにもならないのでは?)
そして、その男のすぐ近くに馬に乗った金髪の少女の姿があった。
ティーナである。なぜ彼女が戦場にいるかというと、テオハルトの最後を見届けたいという彼女の願いが汲み取られた結果である。
本来であれば、彼女は絶対安全なところにいるはずだが、戦線が下りに下がって今彼女のいるところまで来ていた。
「兄様……」
あの大樹がテオハルトという情報は彼女まで届いていない。しかし、それでも彼女はあの化け物が兄だと感じ取っていた。
(お願い、もうやめて!)
しかし、ティーナのそんな思いを踏み躙るように、戦況はさらに過激化する。
巨大になりすぎた大樹は、ついに地上の根からではなく、上空に生えている枝から攻撃することが可能となった。そして、大樹はわかっていたのだ。後ろにいる奴らは、簡単に蹴散らせると。
オリービアたちの、そしてライネル軍の頭上をも通り過ぎるように、枝での攻撃を放つ。後方にいる他の兵士たちを目掛けて一直線に飛んでいく。
「こ、こっちにくるぞ!」
「回避! 回避いいいい!」
その掛け声も虚しく、大樹の攻撃は討伐軍にダメージを与えることに成功。そして、攻撃したいくつもの枝のうち一本は、なんの偶然か、ティーナの方向を目掛けて飛んできていた。
(まずい! あんなところに少女が!)
退避を図ったケイシリア軍総大将だが、その途中にティーナが取り残されているのことに気づく。
(くそ、間に合わない!)
しかし、大樹の攻撃は空中で突如止まる。
「兄様? ……」
自分のことがわかり攻撃が止まったのか、そう思うのも束の間。すぐさま攻撃は再開し、槍のように鋭い枝がティーナを目掛けた一直線に飛んできていた。
(兄様! やめて)
死の恐怖を目の前に、ティーナは思わず目を瞑ってしまう。その瞑った目から涙が滲み出る。
テオハルトが攻撃を躊躇しなのは一瞬。だが、その一瞬のおかげで間に合った。
「5年ぶりかティーナ。再会早々悪いが、状況を説明してくれ」
そこにはティーナに迫る枝を、腕一本で受け止めたレオンハルトの姿があった。
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