Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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帝位・勇気を紡ぐ者

SIDE 諸侯+教国

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 レオンハルトが謁見の間から去って、しばらく経つ。

 あの重圧からやっと解放された貴族たちは、一息つく。無事に謁見を乗り越えたことで、ほっとする貴族も多い中。しかし、納得いかないものも当然いる。

「ふざけるな! このワシが平民じゃと!」
「私も納得がいきませんね。皇国を古くから支えてきた我が家を、あんな子供の一言で平民に落ちてなるものか」
「そうだそうだ!」

 レオンハルトがいなくなったことで、言いたい放題言う貴族たちもいた。膝をつかず、爵位を剥奪された貴族たちだ。上級貴族ばかりだが、それをレオンハルトの前で言う度胸がない小物でもある。

 地団駄を踏む一人の貴族が、呟く。

「こうなったら、国から独立するか、あの皇帝を追い落とすしか」

 その呟きに反応し、爵位を奪われた貴族や不満を募らせた貴族は次々の同意する。

「そうだ! なぜなのような子供に従わねばならん!」
「あの者にわからせてやろう! どちらが上かを」
「どうせ爵位を奪われるのだ。ならば一戦交えるのも悪くない」

 口々に同意する貴族たち。しかし、彼らは貴族の中でもごく一部の過激派である。精々20人程度だろう。約1000人いる諸侯の中では、大した数ではない。

 罰せられたの貴族たちの多くは、レオンハルトが恐ろしくて、罰則を受け入れていた。むしろ、命があることに安堵すらしていた。

 しかし、諸侯たちの目の前で堂々と謀反の話をされては、逆に対応に困ってしまう。この場で捕らえるのが筋だろうが、ここまで堂々としていると、逆にただの鬱憤ばらしにしか聞こえなくなる。それで捕らえていいのかと迷いたくもなる。

 だが、彼らは本気である。本気で謀反を起こそうとしている。そんな中、一人の老人が割って入る。

「やめておけ、お主らでどうこうなる相手ではないわい」
「リングヒル公! 公は納得しておられるのですか? 長年皇国に仕えてきたにも関わらず、あんな童に帝位を奪われ、挙句の果てにあのような暴挙を! 到底許せる行為ではない!」
「わしは納得しておるぞい。むしろ付け入る隙を与えたお主らの方に非があろう。フォッフォッフォ。お主らも馬鹿な真似はよさんかい。陛下の最後の温情を棒にふる気かい?」
「温情? 我らがあのものからなんの温情を?」
「愚か者目が。陛下は領地を没収すると仰っておったが、財産を没収するとは言ってなかろう。さっさと家に帰って、持ち出せる財産を持ち出しておけ」
「しかし! 爵位を奪われることに違いはありません! 今更財宝の一つや二つーー」
「馬鹿もんが!」
「「「!!」」」
「爵位を奪われようと、財産があれば立て直しも容易。上手くやれば、そこそこの商人として今と大差ない生活が送れるはずじゃ。じゃが、反乱を起こしてもみよ。あの皇帝は嬉々として弾圧し、お主らの財産を根こそぎ奪っていくじゃろう。一族郎党縛り首にしてな。その程度のこと、考えればわかるじゃろう」
「「「「……」」」」
「それでも、お主らが反乱を起こすというのなら、わしが相手をしてやろうぞ」
「「「「!!」」」」

 武人ではないはずのリングヒル公爵から凄まじい圧を感じる。これも年の功ということだろう。武はなくとも、その政治的な手腕は決して馬鹿にできるものではない。

 皇国最高位の貴族に完全否定された上に、敵対宣言までされたら、流石に反乱を起こす気にはなれない。そんな雰囲気でげっそりとする貴族たち。

 そこへ、さらに大物がやってくる。レイフィス公爵家当主、コンランド・レイフィスである。

「さすがは、リングヒル公。まだまだ現役ですね」
「レイフィスの童か。お主は暢気よのう」
「ええ、陛下には日頃お世話になっておりますので」

 そう、クリストファー皇子についたコンランドは現在リングヒル公爵家を押し退けて、四大公爵家筆頭となっている。勢力で言えば、リングヒル公爵家とレイフィス公爵家はそれほど変わらないが、皇帝と懇意にしているのが大きい。

 そのことをあえてこの場で、しかも大きな声で吹聴する。

「陛下は、忠義にはちゃんと答えてくださるお方ですよ」
「言われんでもわかっておるわい」
「それはよかった。共に公爵家のものとして、この皇国を盛り上げていきましょう」

 コンランドの意図がわかったのか、ルパートも大きな声でそう返す。それに対して、コンランドは芝居がかった様子締め括る。

 遠目で見ていた残されたバルフェウス公爵家当主は疑問を露わにする。近くにいたティーナに、

「あの二人は何をやっているのだ? わざわざあんな大きな声で」
「陛下の指示でしょう。公爵家は自分の味方だというアピールをしつつ、信賞必罰をついでに訴えさせる。反乱分子の抑圧にもつながりますし、揺れ動く貴族たちの心を自分側に寄せているのでしょう」
「わからんな。なぜそんな回りくどいことを?」
「それが政治というものです。公爵家当主となられたなら、その辺の心得ちゃんと学んでおかないといけませんよ」
「お、おう」

 自分より10歳近く年下の娘に説教されたバルフェウス公爵だが、怒るよりも10歳の子供にこんなことを言わせる貴族界隈におそれを成していたのだった。

 ◆

 神聖アルテミス教国の都、教都にて教皇と枢機卿たちは集まっていた。

「国の安寧を乱した罪で、シャーマン枢機卿を謹慎処分とする。皆のもの異議はないな」

 教皇がそんなことを言い出す。それに対して、枢機卿たちは、

「「異議なし!」」

「異議あり!」

 シャーマン枢機卿を除いた3人の枢機卿のうち、二人が異議なしといい、イブライド枢機卿だけが異議を申し立てた。

しかし、

「2対1で可決だな」
「教皇猊下!」
「今日の会議を終了する」

 教皇は一切取り合わない。残りの二人も、さもこれが当たり前だという風に退室する。残されたのは、シャーマン枢機卿とイブライド枢機卿のみである。

「シャーマン卿! あなたはそれでいいのですか? 訳のわからない罪で謹慎になって」
「いい訳なかろう」
「ではなぜ反発しなかったのですか!?」
「今の猊下は普通じゃない。言っても無駄じゃ」

 そう、今の教皇はかつての教皇ではない。何かに洗脳されたかのような、そんな様子である。

 イブライド枢機卿にとってシャーマン枢機卿は政敵ではあるが、それゆえにシャーマン卿のことを認めてもいた。教皇が狂った今、政敵といえど優秀な人材を潰されるわけにはいかない。

 だからイブライド枢機卿はシャーマン枢機卿のことを庇ったのだが、それも無駄に終わる。

「安心せい。わしもこのまま終わるつもりはない」
「いーや爺さん、あんたはもう終わりだよ」
「「っ!!」」

 会議室には、いつの間にかイブライド卿とシャーマン卿以外の人物が現れていた。

「うぐ!」
「にしても、こういうことばっかだな、俺の仕事は」

 シャーマン枢機卿の心臓に剣を突き立てたその男は、皇国から逃げ帰ったアーク、もといマサユキだった。

「どういうつもりだ、マサユキ!」
「俺に言わないでくれよ。教皇様の指示さ」
「馬鹿な! そんなことあるはーー」

 言葉の途中でイブライド卿もマサユキに昏倒させられる。

「あるんだよなぁ、それが。まあ、教皇様の裏にいる奴だけどね」
「無駄口はやめなさい」
「いたのか? だったら声かけてくれたらいいのに」

 いつの間にか、マサユキの後ろに一人の少女がいた。ピンクの髪を肩まで伸ばした、見目麗しき少女である。しかし、マサユキに気づかれずに侵入できた時点で、実力者であることに間違いはない。

「これでいいか? ミア」

 ピンク髪の少女の正体は、神聖騎士の一員であるミアであった。かつて、三国大戦の時に帝国皇帝の乱入を受けて死んだかと思われたあのミアである。

 あの戦をかろうじて生き残り、やっとの思いで教国に帰還したのだ。その後力をつけ、今では神聖騎士団団長の座までのぼり詰めていた。

「ええ十分よ」

 そう言ったミアはシャーマン枢機卿の死体に近づき、魔法を使う。ミアの手から禍々しい光が放たれ、その光を伴ったまま、ミアはシャーマン枢機卿の頭を鷲掴みにする。

 次の瞬間、シャーマン卿の心臓に空いた穴はみるみる塞がっていき、まるで何もなかったかのように復元した。さらに驚くべきことに、死んだはずのシャーマン枢機卿は立ち上がった。

 しかし、死者蘇生などという魔法は存在しない。歴史上では、復活を果たしたとされる偉人は何人か存在するが、いずれも他者を蘇生できる能力は持っていない。

 ただ一つの魔法を除いて。

「成功ね」
「便利な力なだ。俺も欲しい」
「あなたの属性は水と風でしょ? だったら無理よ」
「まあね。無いものねだりしてもしょうがない。それより、イブライド卿の方はいいの?」
「あっちは洗脳程度に止めるわ。ミアもまだ完全にこの力を制御したわけじゃないから、リスクはなるべく避けたい」

 大罪魔法、色欲。亡くなった者を動かせたただ唯一の魔法。

 しかし、それは果たして蘇生と言えるのだろうか。シャーマン枢機卿の虚な瞳を見ると、とてもそうとは思えない。

 死者を人形に変える魔法。それが色欲の力だ。

「これで教国はミアのもの。ねー、
「そうだ。もう教国はミアのものだ」
「あのにっくき帝国を絶対に滅ぼしましょうね❤︎」

 先ほどまでまともだったミアは、突如妖艶な笑みを浮かべならが、先輩だったものに話しかける。

 それをマサユキは冷ややかな目で見ていた。

(全く、とんだいかれ女だ。自分がすら忘れてやがる。まあいい、精々利用させてもらうよ。あの皇帝への防波堤として)



ーーーーー
あとがき

 実は、ミアは前章の「SIDE 教国」で一度再登場しています。
 気づいた人はいたかな?

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