Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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帝位・勇気を紡ぐ者

SIDE 帝位争い(帝国)

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 神前決闘。

 それはルドマリア帝国で行われる儀式であり、次期後継者を選ぶための試練でもある。世継ぎに困った際に、判断を神に委ねるべく行われる。すなわちーー神前決闘で勝利したものが、帝国皇帝の座を掴み取れる。

 本来ならば、皇帝の前で行われるその決闘だが、残念ながら前帝国皇帝へガンドウルムはすでに亡くなっていた。彼の次男アーシャの手によって殺されたのだ。

 それだけでなく、代々帝国皇帝に受け継がれる煉獄の炎まで奪い取ってしまった。

 もしアーシャが皇帝から後継として認められていたのであれば、それほど問題ではない。アーシャがそのまま皇帝になればいいのだ。

 しかし、前皇帝に後継として指名を受けているのは次男のアーシャではなく、長男のユリウスである。

 そうなると話がややこしくなる。アーシャは煉獄の炎を受け継いでしまったが、皇帝として選ばれていたのはユリウス。どちらが皇帝になるべきか。

 国内でも意見が割れていた。

 煉獄を引き継いでしまった以上、アーシャを殺すことは難しい。むしろ、煉獄を奪い取ろうとすると逆に殺される可能性すらあるのだ。

 だったらアーシャを皇帝として認めた方が自分たちは安全になれる。そう思う貴族たちも少なくない。

 しかし、やはり数が多いのはユリウスを皇帝として推す勢力だろう。ユリウスは幼い頃から目まぐるしい才能を見せており、歴代皇帝の中でもトップクラスだと言われている。彼が煉獄を引き継いだ日には、大陸統一も夢ではない。

 どちらが皇帝になるか、それを決めるためには戦争するしかない。そう誰もが思った。

 しかし、アーシャとユリウス両者の合意のもと神前決闘で決着をつけることとなった。提案者はアーシャの方である。

 その提案に目を丸くしたのは、アーシャ支持派の貴族たち。なぜなら、神前決闘は後継者を決める決闘であり、煉獄の使用は禁止されているからだ。

 つまり、アーシャは自らの力でユリウスを打ち破らなければならない。ほとんどの貴族は、それは不可能だと思っている。

 アーシャも優秀であることに違いはないが、ユリウスの方がはるかに優れているのは言うまでもない。だから、先代皇帝はアーシャではなくユリウスを後継として指名したのだ。

 アーシャが負ければ、自分たちの権力は危ぶまれる。そう考えた貴族たちは、とあるルールをユリウス側に求めた。

 ーー騎士団長たちも含めた一対一の勝ち残り戦ーー

 アーシャ対ユリウスではなく、それぞれの勢力の総力戦に持っていったのだ。

 現在ユリウスを支持しているのは、心眼、無頼の二人。アーシャを支持しているのは、鮮血ただ一人だが、残りの厭世と隻腕はどちらにもついていない。

 この二人を巻き込めば、4対3で数上は有利になる。相手側にユリウスもいるが、それでもアーシャ対ユリウスよりかは万倍マシだと貴族たちは考えた。

 少しでもシリウスの体力を削ってくれれば、アーシャの勝機も増える。なんなら、騎士団長たちがユリウスを倒してくれれば万々歳。その考えのもと、貴族たちは総力戦の提案をした。

 しかし、これには重大な欠陥がある。

 厭世と隻腕の協力が前提条件。あの変わり者二人に全てを委ねる危うい作戦。そんな作戦が成功するはずもなく、

「クッソ! あのジジイども余計な真似を!」

 神前決闘の控え室で怒りを露わにしているのは、トレードマークである赤髪を後ろでまとめた女性、鮮血の騎士団長である。

「あの変人二人が予定通り動いてくれるわけないでしょ!」

 そう、結局厭世と隻腕は中立を貫き通した。その結果、神前決闘はユリウス、心眼、無頼対アーシャ、鮮血となった。

 ただでさえ不利なのに、数上でも劣るなんて悪い冗談としか思えない。

「落ち着け、落ち着くのよ私。そう、私が全員倒せばいいだけの話。心眼厄介だけど、無頼と私の相性はいい。勝機は十二分にあるわ」

 そう言ってなんとか自分を落ち着かせた鮮血は、決闘の場へと向かった。


 ◆

 決闘場に立つ二人。

 対峙する二人は鮮血と、灰色の髪の毛と無精髭をはやした気怠そうな男、無頼である。

「では、これより神前決闘を執り行う。両者構え!」

 その合図を受けて鮮血は、剣を構える。ただし、その剣はただの剣ではない。

 その剣の両側には幾つもの窪みが等間隔に刻まれており、その窪みを繋ぐように刀身にはいくつもの切り込みが入っている。その様子はまさに蛇腹。

 一度振るえば、中心部のワイヤーによって剣が遠くへと伸び、まるで鞭のようにしなる。俗にいう鞭剣、もしくは蛇腹剣である。

 それに対し、無頼の剣は至って普通だった。その髪と同じ色をした鈍い灰色の長剣を手に、棒立ちする。それが彼の構えなのだ。

 それをわかっている審判は、両者の準備が整ったと判断し、合図を下す。

「はじめ!」

 その合図と同時に、鮮血が動く。蛇腹剣の特徴を活かし、その場から動くことなく無頼を狙う。精密な剣捌きによって、伸びた剣先は無頼を捉える。

 普通の人間ならここで終わり。しかし、相手は同じ騎士団長である無頼。この程度でやられるはずがない。

 無頼は、体を横にひねり最小限の動きで攻撃を交わす。そして、軽快なステップを踏んで鮮血の間合いから外れる。

「おう、こわいこわい」

 そんな軽口を叩きつつ、無頼は鮮血の攻撃を避ける。

 それに対し、鮮血は剣を鞭のように振るい、無頼を捉えようとする。しかし、それは尽く交わされていく。

 壇上を縦横無尽に振われるその剣は、まるで隙がないように見えるが、無頼はその針の穴のような隙間を縫っていく。

 本来ならそれでもいい。なぜなら、このまま続けば無頼も鮮血を攻撃できないからだ。常に攻める側でいられるため、無頼がミスを犯すまで待てば、自然と勝利はやってくる。

しかしーー

(っち! ちょこまかと! この後に心眼とユリウス殿下が残ってるんだから、体力はなるべく温存したい。くそ!さっさとやられないさよ!)

 鮮血は焦っていた。すでに目の前の無頼ではなく、先の試合のことを考えていた。よほど実力が離れていれば、それもありかもしれないが、相手は同じ騎士団長である無頼。その油断は命取り。

(うっ!! まずい! 見失った!)

 焦って攻撃のスピードを速めた鮮血。激しく降り注ぐ剣の雨によって、会場は破壊されていく。その時に巻き起こる砂煙で、鮮血は無頼を見失った。

「焦ったな」
「!!」

 すぐ後ろから無頼の声が響く。そこに無頼がいると判断した鮮血は、手首のスナップを使って、剣先を引き戻す。振り向くことなく、背後へ攻撃を放つ。

 キン。

 そんな音とともに、剣が空中を舞う。

 その剣はーー

 ーー鮮血の蛇腹剣である。

 次の瞬間、砂煙るの中から現れたのは喉元に剣を突きつけられた鮮血と剣を突きつけている無頼の姿があった。

 その光景を見た審判は、

「第一試合、無頼団長の勝利!」

 観戦している貴族の多くが歓声をあげる。残りの貴族たちは、悔しそうな表情で下唇を噛む。これでシリウス側の勝利は決定した、そう思っているのだろう。

「っち、やってくれたわね」
「こっちも負けられないのでね」

 短い会話を交わす二人。鮮血は怒りの籠った視線で無頼を睨むが、無頼はどこ吹く風である。そんな二人の間に割って入るようにこの決闘の発起人、アーシャが姿を表す。

「鮮血、よく戦ってくれた。あとは僕に任せて」
「……お役に立てず、申し訳ありませんでした」
(このガキ! 偉そうに。大体あんたのせいでこうなってんでしょうが!)

 心で思っていても、言ってはいけないことはある。今まさに、鮮血はアーシャに対して不満を募らせていた。

 しかし、無頼はアーシャの余裕な態度に違和感を感じた。そんな無頼を気にする様子すら見せないアーシャ。ただ審判に向かって、

「さあ、次の試合にいこうか」


 ◆


 沈黙。そう形容するしかない。

 なぜなら、目の前の事象があまりにも非現実的だからである。決闘の壇上にいるのはユリウスとアーシャ。まずこの時点で異常である。無頼は? 心眼は? そう疑問を募らせるのは自然だろう。

 その疑問の答えは、ただ一つ。アーシャが全て打ち倒したからだ。それも一撃のもとで。

 そして、今のこの状況。地に膝をつき、両手をも地につけるユリウス。それに対し、アーシャはさも当たり前かの如く立ち続けている。

 汗滴るユリウスに対して、アーシャはーー

「僕の勝ちでいいかな? 兄上」

 そのあまりに異常な光景に、アーシャ支持派ですら、無言を貫き通すしかない。

 かくして、帝国皇帝はアーシャ・ルドマリアに決定した。

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