3 / 15
3話目 天才で謎の青年
しおりを挟む
「はぁー!?なにこれ、スッゲーうっまいんですけど!!!」
連れてこられた六畳ほどの個室に、藤村の嬉しい悲鳴が響き渡った。
遊んだ女とはだいたい外食がメインだったし、普段はテキトーにコンビニ弁当暮らしをしてきた。
そこまで食事に執着してこなかった人間でも唸るほど、出された料理は直感的に美味しかった。
「これ、カイトが作ったのか?」
「へへへ、すごいでしょ?」
「この子は色々と問題児ですが、才能に関しては一級品なんですよ」
得意げな表情をするカイトの横で、何故か絹川までもが鼻高にふんぞり返っている。
まるで、大会で優勝した息子を自慢する父親のようだ。
テーブルに並べられたのは、いたってシンプルなうな重と、みつばとあさりのお吸い物。あとはウサギ柄の小鉢に入った柴漬けが横に添えてある。
「それにしても、たかが治験にこんな高級な食事用意して、赤字になんねぇの?」
「ええ。費用対効果は十分ですので、お気遣いなく」
にっこりと笑う絹川の笑みにはどこか怪しさが滲んでいたが、食事に夢中な藤村は絹川に目もくれない。
それでは、と配膳時に腰へ巻いていたエプロンをカイトに渡し、絹川は部屋を出て行った。
数分後。一粒一滴残さず食べ終え、藤村は珍しく両手を合わせた。
ふと見ると、カイトの分の料理は用意されておらず、彼はただニコニコと頬杖をついてこちらを眺めている。
「カイト、お前は食べないのか?」
「うん。ボクはいらない」
「腹、減らねぇの?」
「大丈夫。昔から、一週間ぐらい食べなくても平気なんだ。あ、でも、水とか塩分は摂るよ」
「なんだそれ。蛇みてぇだな」
「蛇って、あんまり食べないの?」
「あぁ。確か、一週間から二週間くらいに一度食べて、ゆっくり消化するんだったかな」
「ユーサクさん、物知りだね」
「大げさだな。これくらい、誰でもちょっと調べりゃ分かるだろ?」
「ボク、疑問にすら思わなかったよ」
何気ない会話をしながら、藤村は密かに眉をひそめた。
目の前の青年は本当に、さっき藤村の首を絞めてきたのと同じ人物なんだろうか。
今のカイトはただ無邪気で、料理が上手くて、まるで無垢な青年のように思える。
「そういえばさっき、カイトがセックスしたのは一人だけって言ってたよな。それって誰なんだよ。あれか?学校の先輩か?それとも、バイト先の店長とか?」
言ってすぐ、失言だと気づいた。
藤村にとっては下ネタの延長だった。男同士だし、別にこういう話題はよくあるだろ。
ただし、どうやらこいつにとっては違ったようだ。
また、カイトから表情が消えた。
笑顔が脱皮したみたいに抜け落ちて、表情がまるで人形みたいに動かなくなる。
ヤバい雰囲気だ。
まるで落ちる寸前の雷みたいに、静かだけどピリピリした空気が部屋に充満してる。
こういう時、女だったら耳元で甘い言葉を囁いて、そっと腰を抱いてやればイチコロだった。
だが、カイトは男だ。どうすれば機嫌が戻るのか、まったく見当がつかない。
「あー……えっと、俺みたいな奴が好みだってんなら、てっきり年上好きなのかと思ってだな。……悪い、嫌なら答えなくていいから」
言ってて、内心舌打ちをした。
なんで俺が、こんなガキのご機嫌取りしなきゃならないんだ?
しかし藤村にそうさせるほどの凄みが、カイトにはあった。
それに、また首とか絞められたらイヤだというのもある。
心の中で言い訳しつつ様子を窺うと、カイトはいきなり自分で自分の左ほおをぶん殴った。
ドゴッ…と鈍い音がして、我に返ったカイトと真っすぐに視線がぶつかる。
「なっ……⁉」
「……ごめん、なんの話だっけ?」
カイトの能天気な声を聞いて、ようやく藤村は数十秒ぶりの呼吸をした。
「あぁ。……なんでもねぇよ」
食事を片付けると、カイトは何事もなかったかのように藤村をプライベートルームへと案内した。
シャワーやインターフォンなんかの設備説明を終え、ルームキーと施設案内の資料を手渡される。
「明日の九時まで自由時間だから。それじゃ、また明日」
顔が腫れているというのに、カイトはまるで痛みを感じていないように見えた。
「……なんなんだよ、あいつ」
どっと疲れが出て、寝室に備え付けられたベッドへ横になった。
しかし無性に喉が渇いて、どうしてもこのまま寝られそうにない。
「ちょっと、散歩でもするか」
壁のデジタル時計を見ると、二三時と表示されている。
心労とか色々で気怠い体をなんとか立ち上がらせ、藤村はさっきカイトがくれた施設内案内を片手に、部屋を出て薄暗い廊下へ歩き出した。
簡易照明が灯るだけの薄暗い廊下に、藤村と、もう一人の足音が鈍く響いていた。
連れてこられた六畳ほどの個室に、藤村の嬉しい悲鳴が響き渡った。
遊んだ女とはだいたい外食がメインだったし、普段はテキトーにコンビニ弁当暮らしをしてきた。
そこまで食事に執着してこなかった人間でも唸るほど、出された料理は直感的に美味しかった。
「これ、カイトが作ったのか?」
「へへへ、すごいでしょ?」
「この子は色々と問題児ですが、才能に関しては一級品なんですよ」
得意げな表情をするカイトの横で、何故か絹川までもが鼻高にふんぞり返っている。
まるで、大会で優勝した息子を自慢する父親のようだ。
テーブルに並べられたのは、いたってシンプルなうな重と、みつばとあさりのお吸い物。あとはウサギ柄の小鉢に入った柴漬けが横に添えてある。
「それにしても、たかが治験にこんな高級な食事用意して、赤字になんねぇの?」
「ええ。費用対効果は十分ですので、お気遣いなく」
にっこりと笑う絹川の笑みにはどこか怪しさが滲んでいたが、食事に夢中な藤村は絹川に目もくれない。
それでは、と配膳時に腰へ巻いていたエプロンをカイトに渡し、絹川は部屋を出て行った。
数分後。一粒一滴残さず食べ終え、藤村は珍しく両手を合わせた。
ふと見ると、カイトの分の料理は用意されておらず、彼はただニコニコと頬杖をついてこちらを眺めている。
「カイト、お前は食べないのか?」
「うん。ボクはいらない」
「腹、減らねぇの?」
「大丈夫。昔から、一週間ぐらい食べなくても平気なんだ。あ、でも、水とか塩分は摂るよ」
「なんだそれ。蛇みてぇだな」
「蛇って、あんまり食べないの?」
「あぁ。確か、一週間から二週間くらいに一度食べて、ゆっくり消化するんだったかな」
「ユーサクさん、物知りだね」
「大げさだな。これくらい、誰でもちょっと調べりゃ分かるだろ?」
「ボク、疑問にすら思わなかったよ」
何気ない会話をしながら、藤村は密かに眉をひそめた。
目の前の青年は本当に、さっき藤村の首を絞めてきたのと同じ人物なんだろうか。
今のカイトはただ無邪気で、料理が上手くて、まるで無垢な青年のように思える。
「そういえばさっき、カイトがセックスしたのは一人だけって言ってたよな。それって誰なんだよ。あれか?学校の先輩か?それとも、バイト先の店長とか?」
言ってすぐ、失言だと気づいた。
藤村にとっては下ネタの延長だった。男同士だし、別にこういう話題はよくあるだろ。
ただし、どうやらこいつにとっては違ったようだ。
また、カイトから表情が消えた。
笑顔が脱皮したみたいに抜け落ちて、表情がまるで人形みたいに動かなくなる。
ヤバい雰囲気だ。
まるで落ちる寸前の雷みたいに、静かだけどピリピリした空気が部屋に充満してる。
こういう時、女だったら耳元で甘い言葉を囁いて、そっと腰を抱いてやればイチコロだった。
だが、カイトは男だ。どうすれば機嫌が戻るのか、まったく見当がつかない。
「あー……えっと、俺みたいな奴が好みだってんなら、てっきり年上好きなのかと思ってだな。……悪い、嫌なら答えなくていいから」
言ってて、内心舌打ちをした。
なんで俺が、こんなガキのご機嫌取りしなきゃならないんだ?
しかし藤村にそうさせるほどの凄みが、カイトにはあった。
それに、また首とか絞められたらイヤだというのもある。
心の中で言い訳しつつ様子を窺うと、カイトはいきなり自分で自分の左ほおをぶん殴った。
ドゴッ…と鈍い音がして、我に返ったカイトと真っすぐに視線がぶつかる。
「なっ……⁉」
「……ごめん、なんの話だっけ?」
カイトの能天気な声を聞いて、ようやく藤村は数十秒ぶりの呼吸をした。
「あぁ。……なんでもねぇよ」
食事を片付けると、カイトは何事もなかったかのように藤村をプライベートルームへと案内した。
シャワーやインターフォンなんかの設備説明を終え、ルームキーと施設案内の資料を手渡される。
「明日の九時まで自由時間だから。それじゃ、また明日」
顔が腫れているというのに、カイトはまるで痛みを感じていないように見えた。
「……なんなんだよ、あいつ」
どっと疲れが出て、寝室に備え付けられたベッドへ横になった。
しかし無性に喉が渇いて、どうしてもこのまま寝られそうにない。
「ちょっと、散歩でもするか」
壁のデジタル時計を見ると、二三時と表示されている。
心労とか色々で気怠い体をなんとか立ち上がらせ、藤村はさっきカイトがくれた施設内案内を片手に、部屋を出て薄暗い廊下へ歩き出した。
簡易照明が灯るだけの薄暗い廊下に、藤村と、もう一人の足音が鈍く響いていた。
1
あなたにおすすめの小説
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる