クズ男を完堕ちさせるまで【BL小説】

片羽セイ

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3話目 天才で謎の青年

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「はぁー!?なにこれ、スッゲーうっまいんですけど!!!」

 連れてこられた六畳ほどの個室に、藤村の嬉しい悲鳴が響き渡った。

 遊んだ女とはだいたい外食がメインだったし、普段はテキトーにコンビニ弁当暮らしをしてきた。

 そこまで食事に執着してこなかった人間でも唸るほど、出された料理は直感的に美味しかった。

「これ、カイトが作ったのか?」

「へへへ、すごいでしょ?」

「この子は色々と問題児ですが、才能に関しては一級品なんですよ」

 得意げな表情をするカイトの横で、何故か絹川までもが鼻高にふんぞり返っている。

 まるで、大会で優勝した息子を自慢する父親のようだ。

 テーブルに並べられたのは、いたってシンプルなうな重と、みつばとあさりのお吸い物。あとはウサギ柄の小鉢に入った柴漬けが横に添えてある。

「それにしても、たかが治験にこんな高級な食事用意して、赤字になんねぇの?」

「ええ。費用対効果は十分ですので、お気遣いなく」

 にっこりと笑う絹川の笑みにはどこか怪しさが滲んでいたが、食事に夢中な藤村は絹川に目もくれない。

 それでは、と配膳時に腰へ巻いていたエプロンをカイトに渡し、絹川は部屋を出て行った。

 数分後。一粒一滴残さず食べ終え、藤村は珍しく両手を合わせた。

 ふと見ると、カイトの分の料理は用意されておらず、彼はただニコニコと頬杖をついてこちらを眺めている。

「カイト、お前は食べないのか?」

「うん。ボクはいらない」

「腹、減らねぇの?」

「大丈夫。昔から、一週間ぐらい食べなくても平気なんだ。あ、でも、水とか塩分は摂るよ」

「なんだそれ。蛇みてぇだな」

「蛇って、あんまり食べないの?」

「あぁ。確か、一週間から二週間くらいに一度食べて、ゆっくり消化するんだったかな」

「ユーサクさん、物知りだね」

「大げさだな。これくらい、誰でもちょっと調べりゃ分かるだろ?」

「ボク、疑問にすら思わなかったよ」

 何気ない会話をしながら、藤村は密かに眉をひそめた。

 目の前の青年は本当に、さっき藤村の首を絞めてきたのと同じ人物なんだろうか。

 今のカイトはただ無邪気で、料理が上手くて、まるで無垢な青年のように思える。

「そういえばさっき、カイトがセックスしたのは一人だけって言ってたよな。それって誰なんだよ。あれか?学校の先輩か?それとも、バイト先の店長とか?」

 言ってすぐ、失言だと気づいた。

 藤村にとっては下ネタの延長だった。男同士だし、別にこういう話題はよくあるだろ。

 ただし、どうやらこいつにとっては違ったようだ。

 また、カイトから表情が消えた。

 笑顔が脱皮したみたいに抜け落ちて、表情がまるで人形みたいに動かなくなる。

 ヤバい雰囲気だ。
 
 まるで落ちる寸前の雷みたいに、静かだけどピリピリした空気が部屋に充満してる。

 こういう時、女だったら耳元で甘い言葉を囁いて、そっと腰を抱いてやればイチコロだった。

 だが、カイトは男だ。どうすれば機嫌が戻るのか、まったく見当がつかない。

「あー……えっと、俺みたいな奴が好みだってんなら、てっきり年上好きなのかと思ってだな。……悪い、嫌なら答えなくていいから」

 言ってて、内心舌打ちをした。

 なんで俺が、こんなガキのご機嫌取りしなきゃならないんだ?

 しかし藤村にそうさせるほどの凄みが、カイトにはあった。

 それに、また首とか絞められたらイヤだというのもある。

 心の中で言い訳しつつ様子を窺うと、カイトはいきなり自分で自分の左ほおをぶん殴った。

 ドゴッ…と鈍い音がして、我に返ったカイトと真っすぐに視線がぶつかる。

「なっ……⁉」

「……ごめん、なんの話だっけ?」

 カイトの能天気な声を聞いて、ようやく藤村は数十秒ぶりの呼吸をした。

「あぁ。……なんでもねぇよ」

 食事を片付けると、カイトは何事もなかったかのように藤村をプライベートルームへと案内した。

 シャワーやインターフォンなんかの設備説明を終え、ルームキーと施設案内の資料を手渡される。

「明日の九時まで自由時間だから。それじゃ、また明日」

 顔が腫れているというのに、カイトはまるで痛みを感じていないように見えた。

「……なんなんだよ、あいつ」

 どっと疲れが出て、寝室に備え付けられたベッドへ横になった。

 しかし無性に喉が渇いて、どうしてもこのまま寝られそうにない。

「ちょっと、散歩でもするか」

 壁のデジタル時計を見ると、二三時と表示されている。

 心労とか色々で気怠い体をなんとか立ち上がらせ、藤村はさっきカイトがくれた施設内案内を片手に、部屋を出て薄暗い廊下へ歩き出した。

 簡易照明が灯るだけの薄暗い廊下に、藤村と、もう一人の足音が鈍く響いていた。
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