勇者パーティーの賢者、女奴隷を買って無人島でスローライフする

黒須

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一章

第29話 奴隷に噛み付く犬を調教した

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 俺の拳一発でドクバックは白目をむき泡を吹いておねんねした。

「いやぁああああああッ!」
「あひぃいぃぃいいいッ!」
「助けてぇえええええッ!」

 部屋にいた女達が悪魔や幽霊でも見たかのように俺を見て悲鳴を上げている。
 続けて扉からぞろぞろ近衛兵らしき男達が部屋に突入してきた。

「大きな音が聞こえたぞ!?」
「どうしたッ!?」
「何事だッ!?」

 彼等は気絶したドクバックを見てぎょっとし、続けて俺を睨む。

「貴様がやったのかぁああああッ!?」
「む、無限魔力の悪鬼ですよ!」
「なにぃ!?大賢者ゴロウ・ヤマダなのか!?もっと子供ではなかったか!?」
「間違いありません!」

 何?俺ってそんなに有名人?
 しかし、こいつ等ちょっとうるさいな。

「第五位階精神魔法、服従音吐ふくじゅうおんと

 奴隷紋の上位互換である魔法を発動させた。
 この魔法はわざわざ奴隷紋を貼らなくても、声に出すだけで奴隷紋と同じ効果を与えられる。

 俺は部屋にいる者達に向かって。

「ひれ伏せ」

 するとこの場から逃げようとしていた女達やザワザワとうるさかった兵士達は一瞬で口を噤み、地面に膝を付ついて俺に向かって首を垂れた。

 この命令は俺が解除するまで有効だ。

 ついでにウィスタシアも平伏している。俺は彼女に掛かった催眠を解いてあげた。

「あれ?私何を……、それよりゴロウっ!怪我してないか!?」

「問題ないよ」

 ウィスタシアは俺の頬に手を伸ばし、優しく触れる。色白で枯れ枝のように細い指なのに温かい手だ。

 と、その時、気絶していたドクバックが飛び跳ねるように起き上がり、バックステップで俺から距離を取った。
 さっき殴ったときの衝撃波で上半身の服が破けている。

「ぜはぁー ぜはぁー ぜはぁー、許さねぇーッ!俺の全てを賭けてぇー!貴様を殺すぅうううッ!」

 わかってはいたけど、本当に話の通じない奴だ。こいつ、自分の欲望を満たしてくれる言葉は素直に受け入れるんだよな。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すごろずぅうぅうううううッ!変身ッ!ギャングウルフッッ!!」

 体に纏う闘気が膨れ上がりイッヌの肉体も肥大化していく。全身から黒い毛が生え、顔は変形し狼の姿に変わっていく。

 狼族の中でも一部の優秀な戦士のみ可能な変身、ギャングウルフ。
 使い手によっては数倍の強さになるという。

 ドクバックが全身に青筋を浮かせ殺気と唾液と撒き散らしながら変身する最中、俺はそれを無視してウィスタシアの手を握る。

「あっ、そうだ、コレ渡しとく」

 彼女の手にラブホのキーホルダーような細長い長方形の赤い水晶を渡した。

「か、回廊魔石ッ!!どうして!?」

「盗んどいたよ」

「ゴロウ!ドクバックがっ!」

 変身を終え身長3メートル程に巨大化したイッヌは完全な犬になっていた。全身に毛を生やし、口からは生暖かい息を吐き、唾液を垂らす。充血した目で犬顔が俺達を睨み付けている。

「な、なぜ持っているぅうううううう!?」

「ん?回廊魔石?さっきお前の寝室の金庫から盗んだからだけどぉ?」

「ごろずぅうぅうううううッ!!」

 俺に向かって疾走するイッヌ。
 ゼロ距離まで駆け寄ると、俺に拳の連打を撃ってきた。一発一発の攻撃が早くて重い。

「ガッガッガッガッガッガッガッガッ!!よけるだけかぁあああああッ!!」

 しかし、躱せない攻撃ではない。
 俺はマシンガンのように飛んでくる拳を全ていなし、躱す。

「ガァアアアアアアアッ!!!」

 イッヌの右ストレート。それを躱しながらヤツの顔にカウンターのストレートを撃ち込む。

 パンッ! ――ヤツの顔は弾け上半身が後ろに仰け反った。
 が、直ぐに顔を上げる。

「こんなものか?あ゛ぁあ゛ぁ!?」

 このまま打ち合っていても勝てるだろうが時間が掛かる。
 そろそろ子供達が起きる頃だ。早く帰って皆と朝食を食べないと。

 まぁただ、魔法だと秒殺だからな。二度と俺に歯向かわないよう調教しておくか。

「第一位階肉体強化魔法」

 そう呟くと、俺の体は魔力を纏う。第一位階肉体強化魔法は通常時の2倍、己の肉体を強く早くしてくれる。

「消えたッッ!!」

 俺はイッヌの頬に再び拳を入れる。

「よっ」――パンッッ!!

 今度は後ろに倒れた。直ぐに上半身を起こしたイッヌの首は横に曲がっている。

「ガハッ!な……何をしやがった……?」

「頑丈だな。では……、第二位階肉体強化魔法」

 俺の纏う魔力の量が膨れ上がる。この状態で第一位階肉体強化の2倍、通常時から比べると4倍強くなっている。

「また消えたッッッ!」

「ほいっ」――ボフンッッッ!!!

「グハッ!!」

 起き上がろうとしたイッヌの腹を蹴り飛ばした。
 吹っ飛ばされたイッヌは巨大な石柱に激突し、石柱は割れて崩れる。

「ガハッ、ゲホッ…ゲホッ……な、なんてパワーだ……」

「ふむ、じゃ次……第三位階肉体強化魔法」

 俺の纏う魔力が更に膨れ上がり禍々しさを増す。これで通常時より8倍強くなった。

 イッヌにゆっくり歩み寄り、起き上がろうとしている奴の腿に蹴りを入れる。

 ――パンッッッッ!!!!

 太腿は複雑骨折でがおかしな方向に曲がりイッヌは地べたに倒れ足を抑える。

「ぎゃぁあああああッ!足がッ!足がぁあああああッ!」

 さて、まだまだ第四、第五と上げていくか。

「も、もう……むり……、ゆ、許してくだざい……、俺が悪かった……。もう戦えない……です。お願いします、殺さないでぇええええっ!」

 と地べたに額を擦り付けてきた。ウィスタシアにやれと言っていたことを自分がやる嵌めになるとはな。

「おいおい、大六天魔卿が命乞いかよ。まぁ……残念ながらお前は殺す」

「ひぃいぃぃいいいいい!どうかお許しをぉおおおおおッ!」

「これから回廊魔石を解除して、ヴォグマン一族の封印を解く、お前はそこで大人しくしていろ」

 そう言って身を飜えした瞬間、イッヌは残った片足で地面を蹴り、俺に噛み付くべく飛びかかってきた。

「ごろずぅうぅうううううッッ!!」

「第四位階氷魔法、絶対零度アブソリュートゼロ

 イッヌの体は地面から飛び上がる前に、一瞬で手足が氷付き地面に張り付いた。

「魔法、だとッ!?」

 そして前に出ようとした運動の力が加わり氷は手足ごと粉々に割れる。

 四肢を失い頭と胴体だけになったイッヌは地面を舐めながら俺を憎しみの籠もった目で睨みつけた。

「魔法なんて、あり得ねぇーッ!」

 そう思うのも無理はない。普通魔法発動には数秒から数分かかる。だがしかし。

 無限記憶書庫アカシックレコードはハードディスク等ではなく、異次元空間に実在する百兆個の脳のレプリカ。それが記憶保管だけでなく魔法演算をも並列処理する。

「俺の魔法発動速度は0秒だ。さて、もう余り時間はない。とっとと終わらせよう」








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