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第1章
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しおりを挟むダイナミクスの診断があるのは高校1年生の終わりごろ。高校生くらいにはダイナミクスが確立されると言われていて、診断誤りなどはほとんどないらしい。だからその時期に大体の学生は診断を終え、自分のダイナミクスを知ることになる。
例にもれず枢もその時期に診断を受けた。あれは確か12月、冬休みに入る前だったと思う。その時に知った自分のダイナミクスは『Dom』。自分の中に『誰かを支配したい』という感情が眠っていることに、純粋に驚いた。支配したいとか凶暴な感情だけではないということは、大人になるにつれて知ったのだけれど。
ただ、あの時の自分はDomだと診断されて絶望したのを覚えている。自分のような人間がDomならば、陽は更に『選ばれた人間』だろう。だから陽はDomで、どう転がっても枢とは恋人はおろかパートナーにだってなれやしない。
そんな思いがあって、陽への気持ちを諦めたのである。
「どうしておれをDomだと?」
「え?いや、それが自然だというか…そうなのかなって勝手に…」
「おれ、Subです」
「………え?」
「Subなんです。星先生の期待を裏切りましたかね」
多分、全校生徒が一度は恋をしたであろう完璧な彼、朝霧陽。完璧なビジュアルと天使のような優しい性格に、きっと誰もが恋をする。あまりにも完璧すぎるDomの中のDomだといっても過言ではないような、彼が、まさか。
「ほ、本当に朝霧先生がSubなんですか……!?」
「そんなに驚くことですか?」
「いや、だって、そりゃ……っ」
「おれ、命令されたいんです。躾けられたいし、褒めて欲しいし、甘やかして欲しい。Subだから」
そう言って、陽はとろんとした瞳を細め、にこっと微笑んで見せる。Domは公表する人も多いが、Subを公表している人は多くはない。なぜかと言えば『支配されたい側』なので『支配したい側』のDomにいいように扱われる――即ち、奴隷のように扱われるSubも未だに一定数存在するのだ。
それにダイナミクスの話はデリケートで、近しい人にしか話さないものだろう。アルコールが入ったのもあり、ついポロっと言ってしまったのだろうが、これは陽の沽券に関わる。正直に言うと陽がSubだという話にものすごく興味はあるし、暴きたい。でも不本意な告白だったとしたら、明日アルコールが抜けた後の陽が可哀想なので、枢は聞かなかったことにしようと決めた。
「きょ、今日はもうお開きにしましょう!」
「え?」
「なんか眠たくなってきました!じゃ、じゃあまた週明けに……っ」
「待って、ほしせんせ」
今まで聞いたことがない甘い声。
きゅっと服を引っ張られて反射的に振り向くと、陽が瞳を潤ませながら見上げていた。自分は何とも単純な男なので、陽のそんな顔を見ると心臓が鷲掴みにされてしまう。そして、ごくり、生唾を飲み込んだ音が静寂に包まれている部屋の中に響き渡った。陽があまりに妖艶すぎて腰が抜けそうになったが、枢は陽の目を見つめたままフリーズした。
「ねぇ、ほしせんせい……」
「え、な、なんですか……?」
「星先生って、Domなんですよね」
低く、甘い声がねっとり響く。そうだ、しまった。先ほど陽も同じDomだと思っていたから話したことで、必然的に枢がDomだとバレてしまったのだ。陽からくんっと服を引っ張られると、またストンとソファに逆戻りしてしまう。
そしてあろうことか、陽の手が枢の太ももに這った。
そんな彼の仕草に『誘われている』のが分かる。ただ、枢は頭を振ってそんな邪念を追い払った。勝手に『誘われている』と思っているだけなのだから、勘違いしてはいけないのだ。ずっとずっと、一度捨てても大切にしまってきたこの想い。再会してからまた溢れ出した『好き』という感情を持っているからこそ、酔った勢いでなんて、最低なことをしたくない。
「ほしせんせいは、どーゆー人が好みなんですか?どんなパートナーがほしいって、思ってるんですか?」
「あ、朝霧先生……っ」
「パートナーがいないストレスで寝不足って、辛いですよね……」
おれも、よく分かります。
甘い声でそう言いながら顔を覗き込まれ、また思わず唾を飲み込むとバカみたいに大きい音が部屋に響いた。隣同士でソファに座る陽がぎしっと音を立てながら顔を近づけてきて、その瞳に吸い寄せられるように枢も顔を近づけてしまう。
あぁ、どうしよう。
間違いを犯して、しまう。
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