【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る−

社菘

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第4章:運命の番

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 突然ヴェルデシア村にやってきた青年・ヴラドが本当はアルバディア帝国の皇帝・バルドだと知ってから数日後、エリアスとシャロンも帝都に向かうため村を出ることになった。

「村長。エリアスから忘却魔法をかけるとは聞いたが、まだかけないでもらえると助かる」
「それは……」
「エリアスはもしかしたら、今後またこの村に帰ってくる可能性もある。それか、俺がそのほうが安全だと判断した場合だ。その時のために、俺たちの記憶は残したままでいたい」

 エリアスとシャロンが村を出る話は村長であるアイオンと、今までお世話になったエイデンには経緯を説明した。ヴェルデシア村を出る住人には忘却魔法をかける村の掟があるが、エリアスの境遇を考慮してアイオンは渋々了承した。

「……まさか、本当にシャロンが金持ちの子供だったとはな」
「多分、だけどね」
「皇帝ってことは純白竜だろ? 混血のエリアスとの間に白銀竜が生まれるなんて、奇跡としか言いようがないな」
「確かに……」
「幸せにな、エリアス。もうこの村に戻ってくることがないように」
「……ありがとう、エイデン。本当に本当に、感謝しかないよ」

 これからどうなるのかエリアスにも分からないが、今はただ昔の記憶を全て思い出すことだけをエリアスは考えている。

 バルドとの関係も気になるし、瀕死になったときの状況や理由なども、全てを思い出さないといけないような気がしているのだ。

 バルドには以前、昔のことを思い出すのは怖いとエリアスは話したことがある。でも自分がアルバディア帝国の皇后だと聞いたら、忘れていてはいけないことではないかと恐ろしく思った。

「いいか? エリアスは出産のために安全な場所に身を置いて過ごし、シャロンがある程度育ったから帝都に帰還した。一方俺は古代竜の魂に乗り移られ我を忘れて戦を仕掛けて回った愚かな皇帝、という設定だ」
「バルドがそれでいいなら合わせるけど……」
「お労しや、陛下……」
「うるさい。俺の悪行を正当化できる理由が見つからないんだ、仕方ないだろ」
「信頼と名誉を回復しなくちゃいけませんね、陛下。これからお忙しくなりますよ」
「ああ、分かってる」
「ねぇ、シャロンは? シャロンはなにしたらいいの?」
「お前は……ただニコニコして、毎日よく寝てたくさん食べて、ととさまとかかさまの側にいてくれたらそれでいい」
「わかった!」
「いい子だ」

 シャロンを褒めながら銀色の頭を優しく撫でているバルドの指を、エリアスは無意識に目で追った。バルドから『いい子だ』と褒めてもらえるシャロンを羨むくらいには、彼との行為プレイが足りないと感じている。

 ここ数日はそんな余裕もなく、プレイをする雰囲気でもなかったから仕方がない。シャロンを褒める言葉を自分に言われたように都合よく解釈しながら、エリアスは自分の中にある『欲』を鎮めた。

「でも、俺が王宮や帝都を離れて安全に出産をする必要があったことは、周りの人たちは納得できるものなの?」
「……納得するだろうな」
「第一皇妃様がいらっしゃいますから……」
「第一皇妃?」
「不本意だが、そういう存在がいる。仕方がなかった」
「第一皇妃のアベル様はもともとバルド様の婚約者でありました。運命の番という、強い結びつきのあるお方で……」
「運命の番って本当にいるんだ……」

 話には聞いたことがある。アルファとオメガの強い結びつきのことで、目が合った瞬間にお互いを番だと認識するような、特別な繋がりだと。

 エリアスは心の片隅で『もしかしたらバルドと俺は……』と思ったこともあったけれど、どうやらバルドの『運命の番』は別にいるらしい。その事実がなぜかエリアスの心が鉛のように重くなり、足が止まってしまうかと思った。

「あいつの人生を半分以上、俺の婚約者として過ごさせた。婚約を白紙に戻し、他所へ行けと言うのも酷でな……」
「そう、だよね」
「アベルのヒートの期間にしか床は共にしていない。子供ができないように配慮もしていた」
「……そういう関係があったんだ」
「今のお前に言っても仕方のないことだが、エリアスが言ったんだぞ。アベルが苦しんでいる時は側にいてやっていいと」
「い、言ってない!」
「そりゃあ、今のお前は覚えていないからだ。怒るくらいなら最初から言うな、全く」
「別に、怒ってないし……」

 バルドの話や態度から、『皇后』のエリアスのことをひどく愛していたように感じていた。エリアスに軽々しくパートナーの提案をしてきたので軽い性格なのかと思っていたのだが、バルドは意外と一途なのだなと思ったものだ。

 だが、蓋を開けてみると第一皇妃という存在がいると言う。昔の俺はなんてバカなことを言ったんだ!とエリアスは自分に怒鳴りたくなった。

「とにかく、アベルは基本的にはいい奴だ。でも、皇后の座は諦めていないように見える」
「もしかして、俺のことを邪魔に思ってた?」
「……その可能性は十分ある。だから、お前が安全な場所に身を隠して出産したと言っても、大体の者は信じるだろうな」

 ――俺はもしかして、とんでもないところに行こうとしているのでは?

 そうは思ったが、時すでに遅し。帝都へ足を踏み入れると、もう後戻りはできなかった。


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