22 / 56
第4章:運命の番
1
しおりを挟む突然ヴェルデシア村にやってきた青年・ヴラドが本当はアルバディア帝国の皇帝・バルドだと知ってから数日後、エリアスとシャロンも帝都に向かうため村を出ることになった。
「村長。エリアスから忘却魔法をかけるとは聞いたが、まだかけないでもらえると助かる」
「それは……」
「エリアスはもしかしたら、今後またこの村に帰ってくる可能性もある。それか、俺がそのほうが安全だと判断した場合だ。その時のために、俺たちの記憶は残したままでいたい」
エリアスとシャロンが村を出る話は村長であるアイオンと、今までお世話になったエイデンには経緯を説明した。ヴェルデシア村を出る住人には忘却魔法をかける村の掟があるが、エリアスの境遇を考慮してアイオンは渋々了承した。
「……まさか、本当にシャロンが金持ちの子供だったとはな」
「多分、だけどね」
「皇帝ってことは純白竜だろ? 混血のエリアスとの間に白銀竜が生まれるなんて、奇跡としか言いようがないな」
「確かに……」
「幸せにな、エリアス。もうこの村に戻ってくることがないように」
「……ありがとう、エイデン。本当に本当に、感謝しかないよ」
これからどうなるのかエリアスにも分からないが、今はただ昔の記憶を全て思い出すことだけをエリアスは考えている。
バルドとの関係も気になるし、瀕死になったときの状況や理由なども、全てを思い出さないといけないような気がしているのだ。
バルドには以前、昔のことを思い出すのは怖いとエリアスは話したことがある。でも自分がアルバディア帝国の皇后だと聞いたら、忘れていてはいけないことではないかと恐ろしく思った。
「いいか? エリアスは出産のために安全な場所に身を置いて過ごし、シャロンがある程度育ったから帝都に帰還した。一方俺は古代竜の魂に乗り移られ我を忘れて戦を仕掛けて回った愚かな皇帝、という設定だ」
「バルドがそれでいいなら合わせるけど……」
「お労しや、陛下……」
「うるさい。俺の悪行を正当化できる理由が見つからないんだ、仕方ないだろ」
「信頼と名誉を回復しなくちゃいけませんね、陛下。これからお忙しくなりますよ」
「ああ、分かってる」
「ねぇ、シャロンは? シャロンはなにしたらいいの?」
「お前は……ただニコニコして、毎日よく寝てたくさん食べて、ととさまとかかさまの側にいてくれたらそれでいい」
「わかった!」
「いい子だ」
シャロンを褒めながら銀色の頭を優しく撫でているバルドの指を、エリアスは無意識に目で追った。バルドから『いい子だ』と褒めてもらえるシャロンを羨むくらいには、彼との行為が足りないと感じている。
ここ数日はそんな余裕もなく、プレイをする雰囲気でもなかったから仕方がない。シャロンを褒める言葉を自分に言われたように都合よく解釈しながら、エリアスは自分の中にある『欲』を鎮めた。
「でも、俺が王宮や帝都を離れて安全に出産をする必要があったことは、周りの人たちは納得できるものなの?」
「……納得するだろうな」
「第一皇妃様がいらっしゃいますから……」
「第一皇妃?」
「不本意だが、そういう存在がいる。仕方がなかった」
「第一皇妃のアベル様はもともとバルド様の婚約者でありました。運命の番という、強い結びつきのあるお方で……」
「運命の番って本当にいるんだ……」
話には聞いたことがある。アルファとオメガの強い結びつきのことで、目が合った瞬間にお互いを番だと認識するような、特別な繋がりだと。
エリアスは心の片隅で『もしかしたらバルドと俺は……』と思ったこともあったけれど、どうやらバルドの『運命の番』は別にいるらしい。その事実がなぜかエリアスの心が鉛のように重くなり、足が止まってしまうかと思った。
「あいつの人生を半分以上、俺の婚約者として過ごさせた。婚約を白紙に戻し、他所へ行けと言うのも酷でな……」
「そう、だよね」
「アベルのヒートの期間にしか床は共にしていない。子供ができないように配慮もしていた」
「……そういう関係があったんだ」
「今のお前に言っても仕方のないことだが、エリアスが言ったんだぞ。アベルが苦しんでいる時は側にいてやっていいと」
「い、言ってない!」
「そりゃあ、今のお前は覚えていないからだ。怒るくらいなら最初から言うな、全く」
「別に、怒ってないし……」
バルドの話や態度から、『皇后』のエリアスのことをひどく愛していたように感じていた。エリアスに軽々しくパートナーの提案をしてきたので軽い性格なのかと思っていたのだが、バルドは意外と一途なのだなと思ったものだ。
だが、蓋を開けてみると第一皇妃という存在がいると言う。昔の俺はなんてバカなことを言ったんだ!とエリアスは自分に怒鳴りたくなった。
「とにかく、アベルは基本的にはいい奴だ。でも、皇后の座は諦めていないように見える」
「もしかして、俺のことを邪魔に思ってた?」
「……その可能性は十分ある。だから、お前が安全な場所に身を隠して出産したと言っても、大体の者は信じるだろうな」
――俺はもしかして、とんでもないところに行こうとしているのでは?
そうは思ったが、時すでに遅し。帝都へ足を踏み入れると、もう後戻りはできなかった。
184
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ(新作についてお知らせ)
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで
Q矢(Q.➽)
BL
僕、吉田 嵐太はレッサーパンダの獣人である。
しかもアルファの勝ち組だ!
どんな女の子やオメガだって、僕の前ではめろめろだ!!
そんな僕がある日、におい惚れした相手とは…。
※本作品は獣人DKカップルのゆるラブオメガバースです。大学生になる終盤まで本格的なえちちシーンは出てきません。
*吉田 嵐太 (α)
私立 岩清水男子高等学校1年 Sクラス
獣種 レッサーパンダ 160/50→??
★さりげなく自己評価が高い傾向あり。
*壱与 瑞希 (ハイスペチートΩ)
私立 岩清水男子高等学校1年 Cクラス
獣種 グリズリー(ハイイログマ)
189/72 →192/74
★嵐太に盲目、育てたい俺のアルファ。
★前提
*純人類と動物の特性を持つ人類が混雑する世界。
*そのうえでオメガバースというα、 β、Ωという性別に別れています。
※オメガバース独自設定含みます。
※スローでゆっくり成長していくレッサー吉田とグリ壱与の恋を、基本ゆるく、時にはヤキモキしながら見守ってくだされば幸いです。
※11/30、本編完結。
多くの皆様にご覧いただき感謝に堪えません。最後まで楽しく書けましたのは皆様のお陰です。
嵐太と瑞希を愛して下さって本当にありがとうございました。
近々、卒業後の2人の生活を描いた短いお話を書きたいと思っております。
本当にありがとうございました(*^^*)
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる