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第5章:皇后と皇妃
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しおりを挟むそれからはバルドと共にエリアスは部屋へ帰ると、突然力が抜けてベッドに倒れ込んだ。
「かかさま! だいじょうぶ? どうしたの?」
「ごめんね、シャロン……少し疲れちゃって」
「後のことは明日からに回そう。少し眠ったほうがいい」
シャロンはエリアスの隣に寝転がると手を握ってくれて、バルドはベッドに腰掛けてエリアスの頭を優しく撫でた。
バルドの手の体温や感触が心地よく、エリアスは自分からも大きな手に擦り寄ってしまう。するっと目元を撫でられ、額に口付けられると甘い吐息が漏れた。
「……行かないで」
バルドの手が離れていくのに気がついてエリアスが呼び止めると、少し驚いたような顔をした。「お願い」と懇願するとバルドもベッドに入り、シャロンを挟んで三人とも一つのベッドに寝転がった。
エリアスの頭の下にバルドの腕が差し込まれるとグッと引き寄せられる。シャロンと鼻先がぶつかってしまうほどぎゅうぎゅうに抱きしめられ、真ん中に挟まれているシャロンはきゃっきゃっと楽しそうな声を上げた。
「つぶれちゃうよぉ」
「ふふ。かかさまはシャロンといっぱいくっつけて嬉しいよ?」
「ととさまにもくっついてくれ、シャロン」
エリアスとバルドがシャロンの両頬にそれぞれキスをすると、可愛らしい声で嬉しがった。シャロンが見ていない隙にバルドはエリアスの唇に口付けて、それをエリアスも心から受け入れた。
唇が離れるとバルドはこつんとエリアスの額に押し付けて優しい眼差しで見つめていた。そんなバルドの目を愛おしく思ったエリアスがそっと目元に触れると、一度ゆっくりと瞬きをしたバルドはエリアスの細い指に唇で触れた。
「……まさかアベルがあんなことをするとは思っていなかった。俺の落ち度だ、すまない」
「謝らないで。自分の意思でついていったのは俺だし、みんなを騙しているのは間違いじゃないから……早く記憶を取り戻したいよ」
「記憶が戻っても戻らなくても、俺にはお前しか……この国の皇后はエリアスしかいない」
「バルドはそう思っていても、俺がみんなに認められる皇后にならないと意味がないから。もし記憶が戻らなくても、バルドと一緒に国を導く皇后として頑張りたいって思ってる」
「……そうか。お前は本当に変わらないな」
エリアスとバルドに挟まれてすっかり眠ってしまったシャロンの寝顔を眺めながら、バルドは優しい顔で呟いた。今までも何度か『変わらないな』と言われたことがあったが、記憶を失っていてもやはりエリアスはエリアスらしい。きっと前の自分もそう思っていたのだろうなという根本的な部分は変わっていないようで、少し安堵した。
「アベルに関して、調査を行おうと思う」
「調査?」
「ああ。たかがお前の嗜好一つで牢に放り込むとは考えにくい。どことなく、何かを焦っているようにも見えた。まるでエリアスが皇后として玉座にいることで、アベルにとって不都合がありそうなように見えたんだ」
「……実は温室でカリーナと話していたことで、嘘をついた」
「嘘?」
「うん。実はカリーナに、俺が失踪した時期のアベルの行動を探ってもらうように頼んだんだ」
「そうだったのか。何か思うところが?」
「思うところというか……最初から敵意剥き出しだったから、そういう可能性もあるのかと思っただけ」
アベルがエリアスの失踪や記憶喪失の関与について調べたいと申し出たらバルドはいい顔をしないかと懸念していたが、この一件によってバルドも気持ちを固めてくれたらしい。どんな結果になるか分からないが、調べてみる価値はあるだろう。
「……もしもアベルが関与してたらどうする?」
「今日の一件でアベルは第一皇妃から廃位させようとは思っている。ただ、お前の失踪や記憶喪失に関与していることが分かったら、アベルだけではなく族誅になるだろうな」
「族誅……」
「反逆心を生まないためだ。そういうものだと割り切るしかない」
罪人だけではなくその家族も殺してしまうというルールの話だ。なかなかに重たい罪だと思うが、皇帝や皇后の命を脅かす行為は自分の命の重さと同等である。身をもってその罪を償うというのがアルバディア帝国の法律なのだ。
「お前とシャロンだけは何があっても守る。心配するな」
「俺のことはいいから、シャロンと自分の身を守ってほしい。自分の命を俺のために粗末にしないで」
「……お前のおかげで生きた命だ。お前のために使わせてくれ、エリアス」
エリアスはもう、バルドを知らなかった前までのエリアスには戻れない。それほど今の生活やエリアスの隣にはバルドがいてくれないと違和感があり、もう彼がいない生活は考えられないのだ。
「(俺、バルドのことを……)」
バルドに生きていてほしいと願うくらいには、自分の命よりもバルドの命のほうが大切だと思うようになっている心をエリアスはやっと受け入れられた。
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