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第6章:記憶と選択
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しおりを挟む不安を感じたエリアスがバルドにぎゅっとくっつくと、大きな手が優しく抱きしめ返した。
「……早急に調査を進める。だから〈落ち着け〉、エリアス」
「んん……」
急に心地のいいコマンドを出されると、エリアスの体はより一層脱力してバルドに身を預ける体勢になった。
「コマンドがほしいか?」
「うん……でもここじゃ嫌、シャロンがいるから……」
「そそるな、それは」
「は?」
「〈キスしてくれ〉」
普段、プレイをするときは隣にある皇后の部屋に移動していた。それが今、バルドが意地悪く微笑みながらキスのコマンドを出す。エリアスの細い腰を押さえつけているので、彼は隣室に移動する気がないようだった。
バルドを最低だと思う気持ちと、シャロンが起きたらどうしようという不安、それにほんの少しの背徳感を覚えた。恐る恐るバルドの顔に近づいて少しだけ触れると、エリアスも止まれなくなった。
「ふぁ、ん……っ」
エリアスが夢中で口付けると静かな室内にはシャロンの規則正しい寝息と、その合間にちゅくちゅくという卑猥な水音が混ざって耳を塞ぎたくなった。エリアスが薄く目を開けるとバルドが欲情した顔で見つめていて、どくんっと心臓が大きく跳ねる。それが合図とでもいうように、バルドの手が腰より下に這った。
「んあっ、そこは駄目!」
「なぜ?」
「なぜって……! そんな意地悪、言わないで!」
「ふ。俺は本当に分からないから聞いてるだけだ。なぜ、ここに触れたら駄目なんだ? 〈教えてくれ〉」
「うぅ……っ」
バルドがなんども指で上下になぞっているのは、エリアスの秘部だ。服の上からなぞられ、ぐるりと円を描くように触れられると体が跳ねる。とんとんっと優しくタップされるとゆらりと腰が揺れた。
「っ、ほしくなるから、やめて……!」
「〈何を〉」
「バルドの……もうやだ、これ以上はやめて、お願いだから」
きっとエリアスの説明はバルドのコマンドの通りにはできていないだろう。エリアスが顔を真っ赤に染めるとバルドは小さく笑い、頭に唇を落としながら「意地悪を言った。〈いい子だったな〉」と言って、秘部から指が離れていった。
やめてほしいと言ったのはエリアス自身だが、ソコからバルドの熱がなくなると何だかもどかしくて変な気持ちになる。
むうっと唇を尖らせながらバルドの胸元に顔を埋め、厚い胸板にかぷっと噛み付いた。
「ふはっ、なんだ? 子竜の攻撃か?」
「子竜って言うの、嫌い」
「そうか。俺の皇后はえらくご機嫌ななめだな」
バルドが馬鹿にしたように笑うので、頬を撫でている太い指にエリアスは噛みついた。エリアスには竜のように鋭い牙はないのでこれもまた子竜の攻撃だと言われそうだが、バルドは何故か満足そうな笑みを浮かべていた。
「バルドのせいだし……この前、発情期が来た時は駄目だってそっちが言ったくせに」
「あの時は、熱に浮かされたまま衝動的な行動をするなと言っただけだ。俺と本当にしたいなら、言わないといけないことがあるだろう?」
「言わないといけないこと?」
「俺は“心も体も追いついていないのに、俺に抱かれるのはやめておけ”と言ったんだ」
「それが……?」
「だから、俺に抱かれたいのなら、言うことがあるだろう?」
そこでエリアスは、ハッと気がついた。
バルドからは何度か『愛』を口にされたが、エリアスはそれについてバルドに言ったことはない。言う機会がなかったというわけではなく、今の『エリアス』自身の気持ちが曖昧だったからだ。
無意識のうちにバルドを求めてしまうこの気持ちが本当にエリアスのものなのか、確信がなかった。それをバルドも分かっていたから、3年ぶりに訪れた発情期の際に体を重ねるのを諌めたのだろう。
エリアスがその言葉をきちんと口にしない限り、バルドとは本当の意味で『パートナー』にはなれないと悟った。
「えっと、あの……」
「うん?」
「俺、は……!」
「ああ」
「バルドのことを、あ――」
そこまで言いかけて、今まで大人しく眠っていたシャロンが泣きながらエリアスとバルドを探して起きてきた。
「……また今度〈聞かせてくれ〉」
「っ!」
耳元でそう囁いたバルドはベッドの上で泣いているシャロンの元へ歩みを進め、ソファに取り残されたエリアスは顔を赤くしたまま囁かれた片耳を押さえて固まった。
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