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第7章:聖なる証人
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しおりを挟むアベルは一瞬エリアスを睨みつけるようにしたが、すぐに元の表情に戻り「虚偽の映像では?」と取り繕った。
「こんな映像、ましてや記憶なんていくらでも作れます。アレクシスたちに皇后陛下が命じて演技をさせ、シャロン皇子に見せたのだとしたらどうでしょう? これが正式な証拠だとは言えないと思いますが……」
「お言葉ですが、実際に襲われて死傷者が出ています。自作自演ではできません」
「先ほど皇后陛下がおっしゃっていたように、口封じのために襲わせたのでは? ご自分に不利な証言をされないためにそうしたとも考えられます」
「……この国の皇后である俺が、自ら民の命を手にかけたと言いたいのですか」
「だって、あなたがアルバディア帝国の皇后だと知る者はほとんどいませんから、そういうことも可能ではないかと思ったまでです」
思い切り嫌悪感を表すアベルがくすくす笑いながらエリアスを煽り、ナイフが胸に刺さった痛みを感じた。確かにアベルの言う通りではあるが、今までのどんな言葉よりも腹が立った。
「確かに、陛下の寵愛を賜ったが故に皇后としての役目は果たしていなかったかもしれません。そして、その代わりを第一皇妃が務めていたというのも事実としてあるのでしょう」
「そうですよ。あなたが皇后としての務めを果たさないので、陛下に命じられた私が行っておりました」
「皇帝陛下は第一皇妃を人として信頼していたと思います。長年連れ添った婚約者だったようなので、それは俺にも分かります」
「何が言いたいのですか?」
「不正に皇后の権限と名を使い、国庫金に手を出していましたね」
「は……」
「あなたは俺が教会や孤児院へ寄付金を送っていると知っていて、俺が死んだと思っていた上で……着服していたようですね」
「な、何を言い出すんですか!?」
「こちらも証拠ならあります。この3年間、寄付という名目で使われたお金は一度たりとも教会や孤児院には渡っていないことが分かりました。調べたらすぐに分かることです」
国庫金の着服については、被害の大きい地域への支援をする話をバルドとしていた時に、アレクシスから過去の寄付に関しての話をエリアスは聞いていたのだ。
今度はバルドの許可も得たので皇后の名前で寄付や支援をしようと考え、過去の支出を調べていた際に空白の3年間に加え、それより前から大量のお金がなくなっていることに気がついた。それを洗い出していたら、寄付という名目で皇后の名前を使って支出されている闇を知ったのである。
それと同時に、アベルに浪費癖があったことがカリーナの聞き込みで分かった。バルドがエリアス探しに盲目だった時期、アベルのことまで構っていられなかったからか、彼も知らない事実だったのだろう。
隠し部屋から大量の宝石や豪華な服などが見つかっているので、今頃全てを押収されているはずだ。
「私を嵌めようとしているだけではありませんか!? 仮にも皇后とあろう方が何を……っ」
「あなたは皇后の地位や名誉、名前がほしかったわけじゃない。着服していることを知った俺を始末したかったから、使用人たちの弱みを握って殺害を命じたのでしょう?」
「私は誇り高き純血であるウィリントン家の者ですよ!? そんな私をいつまで愚弄する気ですか! 名前のない皇后のくせに、烏滸がましい混血竜め!」
アベルの言うように、エリアスはバルドの側にいるだけの皇后だったかもしれない。民の前に姿を現さず、アルバディア帝国のために何かをした実績もなければ、むしろ情勢を悪化させた張本人でもある。
ただ勘違いしてほしくないのは、前からエリアスは決して民のことを考えない皇后だったわけではない。教会や孤児院に匿名の寄付を行ったり、負傷した騎士たちの治療にも手を貸し、名前のない皇后なりにできることをやってきたつもりなのだ。
「陛下と同じ名を賜る皇后として、俺は自分のことを烏滸がましいとは思いません。エリアス・ストックデイル・アルバディアとして、この国の皇后として、誠意ある行動と真実の言葉しか持ち合わせておりません」
エリアスは姿勢を正してアベルを見据え、きっぱりとした口調で言い放った。裁きの間にはその瞬間に窓から太陽の光が差し込み、まるでエリアスに後光が差しているかのようにその背中を照らす。
あまりにも神々しい佇まいに、大臣の一部からは感嘆の声が漏れた。
「……俺のいないところで、勝手に話を進めないでくれ」
裁きの間に響き渡る低い声に全員が入口に顔を向けた。そこには左目に包帯を巻き、厳格な服をきっちりと着たバルドが立っている。周りのどよめきをよそに裁きの間に足を踏み入れると、周りの空気が一瞬にして揺らめいた。
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