静かに眠る前に

さかき原枝都は

文字の大きさ
1 / 9

第1話 × バツ 罰?

しおりを挟む
スマホが鳴った。
「緊急の役員会? な、なんで今時期。どうしても出なきゃいけないんですか?」

分かりました。出席いたします。

緊急の役員会。私の会社では珍しい。
誰か飛んでもない不祥事を起こしたのか?
業績だって悪くはない、むしろ上がっているじゃない。
何が不服だって言うの? まったくうちの役員にはましな人物はいないんじゃない?
ま、その中に一人だけはいるんだけどね。ちょっとましな奴。

3時からか……。もう時期じゃん。
クライアントとの打ち合わせ、伸びちゃったからなぁ。
タクシー拾わなきゃ。
視界に入ったタクシーに手を上げ、乗車をアピール。
止まってくれると思ったタクシーは、ス―と私の前を通り過ぎた。
空車じゃなかった。
「ちぇっ!」
いつもは空車のタクシーがこの駐車スペースに2台は止まっているのに、今日に限って1台もない。それになんだろうやたら空車のタクシーにあたらない。
月末、年度末でもあるまいに、今日は付いていない。
「はぁ。」
ため息が漏れる。

「La misère(厄日)」
呟いたその一言が私の運命を物語っていたとは、今はまだ知らなかった。

「まったくこの『Tokyo』ていう街は忙しすぎる」
ま、でも手を上げれば止まってくれるタクシーに出会えるのは、この『Tokyo』ぐらいのもんだ。
フランスじゃ、流しのタクシーなんかには絶対に乗らないし利用なんかしない。
怖くて、何されるかわかったもんじゃない。メトロ(地下鉄)の方がよっぽど便利がいい。
それだけこの街は安全でもあるんだけど、タイミングが悪いとほんとうに困る。

また目に入ったタクシーに手をあげた。ウインカーを点滅しながら私の前で停車した。ドアが自動で開く。
初めてこの『Tokyo』でタクシーを使った時、ドアが勝手に開いたのには驚いた。
自動ドアだったなんて予想もしていない動きに、ポカンとしていたのを思い出す。

あの頃は、希望に満ちていた。
何でも出来ると思っていた永遠に。
始めは本当に小さなものだった。私だけの想いが形になり、人が集い、一つの会社としてその姿は変えていった。
たった一人から立ち上げた小さな仕事は今や、従業員数300名を誇る企業となった。
Pays de reve ペイドゥリーヴ社。私はその会社の代表として今仕事をしている。
代表、つまりは『社長』と呼ばれるようになった。
来年には株式上場をする計画がすでに本決まりになっている。
そうなればまた多くの資金を調達できるようになり事業の幅も拡大できる。

前途は明るい。
怖いものなど何もない。

止まったタクシーに乗り込み行き先を告げ、車が動きだしたと同時にスマホがまたなりだした。
耳にかぶる長い金髪を軽く寄せ、スマホを耳にする。
「はい、スレイユです」
私のスマホに直接かかってくる電話は会社からか、もしくは親しい友人位のものだ。いちいち着信番号なんかは確認しない。

「あのぉ、スレイユ・ミィシェーレさんの携帯でよろしかったでしょうか?」
ちょっと控えめな感じのいい声の男性だった。
「はい、そうですけど……」
「あ、よかった。私、城環越大学病院、医師の上原と申します」
城環越大学病院。その時はっと思い出した。

今日はその病院で、この前行った検査の結果を訊くことになっていた。

「スレイユさん今日ご予約日だったんですけど、ご来院されませんでしたので、失礼とは思いましたがご連絡をさせていただきました。お忙しいところ申し訳ありません」

「あ、いえ。私の方こそすみません。すっかり忘れていました」
「忘れてた?」呟くように思わず出したであろうという言葉に、その医師の苦笑いの顔が浮かび上がる。

「すみませんスレイユさん。これからでもよろしいので、こちらにお越しいただくことは出来ないでしょうか」

前に受けた健康診断で、再検査項目に該当した私は、あの大学病院で再検査を受けた。
その検査結果が今日出ることになっていた。

「これからですか?」
「ええ、できれば」
「すみません、私これから緊急の役員会がありまして、今、会社に戻るところなんですけど、済みませんけど、この電話で検査結果お聞きするわけにはいきませんか?」

検査結果。どうせ異常なし。まぁ、何かあったにせよ、軽いもんだと私は思っていた。

だって、どこも異常はないんだもの。痛かったり苦しかったりなんて何もない。
いつも通り、私は元気。

私の問いにその医師は渋るように
「そうですか。お忙しいのは十分にわかっています。ですが、お電話ではなかなか説明が難しく、直接説明を聞かれた方がよろしいかと思います。それに出来ることならば、早急にお聞きしていただきたいのですが」

電話では難しい? しかも早急に?
何かいやな予感がする。
そんな時、ふと感じた。今向かっている私の会社でも、いやなことが待ち構えているような。そんな感じがした。
その医師は電話口で柔らかな感じで言った。

「ご理解いただけますでしょうか?」

彼のその声に引き込まれるように
「仕方がありません。短時間でお願いいたします」
「わかりました。できるだけ要点だけをお伝えできるように準備させていただきます」
その言葉を聞き、通話を切った。

「すみません。行き先を変更してください」
「はい、どちらまで?」
「城環越大学病院へ」

その時一瞬。私の目に幼いシスターの姿が流れ、その姿は視界から消えていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...