異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

文字の大きさ
35 / 201
第1章 国盗り始め

第32話 進物

しおりを挟む
「サイトー殿? そのお姿は?」

 寝台の上に身体を起こした辺境伯が不思議そうに尋ねた。

 ミナや奥方にも同じことを聞かれたが、俺が今着ているのはいつもの小袖《こそで》ではない。

 斎藤家の家紋である撫子なでしこを染め抜いた直垂ひたたれに身を包み、頭には折烏帽子おりえぼしを被って懸緒かけおで留め、腰には太刀をき、脇差わきざしを差している。

「侍の正装にござります。本日はお礼に伺いましたので」

 左馬助に目配せすると、部屋の外から次から次へと長櫃ながびつが運び込まれた。

 あっという間に辺境伯の寝室は長櫃で一杯となる。

 辺境伯は目を丸くし、同席した奥方とベンノ殿は呆然としている。

 ミナが額に手を当てながら俺を見た。

「シンクロー……。加減してくれと言っただろう? 何なんだこの量は?」

「辺境伯は、我らがこの地に住まうことをお許し下されたのだ。ならば相応の返礼をせねばならん」

「ちょ、ちょっとお待ちください!」

 辺境伯が寝台から身を乗り出すように声を上げた。

「サイトー殿らがこの地に住まうことを許したのは事実。ですが、それも魔物退治という条件付き。いわば契約ではありませんか。ここまでの返礼を求めるつもりは……」

「条件があろうとなかろうと、辺境伯がお許し下さらねば我らは完全に寄る辺を失いました。この恩義には報いねばなりませぬ。忘れたとあっては侍にとって末代までの恥にござる。どうか心置きなくお受け取り下さい」

 長櫃の横に控えた家臣達が一斉に蓋を開ける。

 さらに、長櫃には収まり切らなかった品も運び込まれる。

 左馬助が目録を読み上げ始めた。

 まずは太刀を一腰。

 打刀うちがたなと脇差の大小二本。

 朱塗りのやり弓胎弓ひごゆみと弓具一揃い。

 赤糸でおどした甲冑一領――――。

「これは……ホーガン様がお持ちだったとされる武具の数々では?」

「判官の時代のものと姿形は異なりましょうが、当代の侍が使うものでござります」

「この剣……カタナと言いましたか? 本当にいただいてもよろしいのですか? 帝国では国宝級の代物なのですよ?」

「結構です。美濃国は鍛冶が盛んでござってな、刀鍛冶も多い。差し上げても、また作ればよいだけにござります」

「カタナをまた作る……」

 辺境伯は絶句してしまった。

 再現不可能だったはずの品が己の手に入り、無ければまた作ればよいと言われては当然か。

 代わって声を上げたのは奥方だ。

「サ、サイトー殿? こちらの陶器もいただいてよろしいのですか?」

「はい。美濃国では焼き物も盛んに作られております。先日の地震で数多く割れてしまったと伺いましたので持参いたしました。色や形がお気に召せばよろしいのですが」

「お気に召すなんてとんでもない! ちょうど困っていたところだったんです! 陶器は良い粘土と豊富な燃料が無ければ作れない高価な品ですから……」

「ようございました。今回は既に作り終えたものを持参いたしましたが、お好みの色や形があればお申し付けください。職人たちに作らせましょう」

「え? つ、作っていただけるのですか!?」

「お任せを」

 奥方が手に持った皿を抱き締め、あたかも初恋が成就した乙女のような顔をしている。

 忍び衆からの報告では、異界では木で作った器が主で、焼き物は貴重品とは聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。

 さらにベンノ殿も続いた。

「し、失礼ですが、こちらの陶器を包んでいるのは紙ではありませんか?」

「左様にござる。それが何か?」

 わざと知らぬふりをして問い返すと、ベンノ殿は信じられと首を振った。

「この手触り……この丈夫さ……草や羊の皮ではありませんが……」

「おや? こちらでは左様なもので紙を作るので?」

「異世界は違うのですか!?」

「我らはこうぞ三椏みつまた雁皮がんぴなどと申す木を使って紙を作っておりまする」

「木!? 紙が木で!?」

「ちなみ俺が被る烏帽子えぼしも紙を元に作ったものでござるな」

「紙で帽子を!? と、ところでサイトー様の懐に見えるのも……」

懐紙かいしと申します。書き付けに使うこともあれば、小さな物を包むこともあれば、鼻をかむこともある。何にでも使えます」

「か、紙で鼻を……」

「こちらでは使いませぬか?」

「使いません! そもそも紙はそれなりに値が張るのです。おかげで納税の記録を取るにも難儀しておりまして……」

「ならばこの長櫃ながびつ一杯に紙を入れてお届けしましょう。案ずる事はありませぬ。我が領内では紙も作っております故」

 ベンノ殿だけでなく、辺境伯と奥方まで目を剥く。

 京や大坂に出荷するはずだった紙や焼き物が行き場を失っておるからな。

 領民達の生活の為にも売り先を確保せねばならなん。

 焼き物も紙も、辺境伯家で大いに使っていただき評判を広めて欲しいところだ。

「おい、シンクロー……」

「どうしたミナ?」

「このような品をもらっておいて厚かましいのだが、その……例のものは?」

「任せておけ」

 左馬助に目配せをすると、ミナの言う『例のもの』――――畳が数枚、室内に持ち込まれた。

 奥方やベンノが肌触りに目を見張ると、耐え切れなくなった辺境伯も寝台からおり、足先で感触を確かめた後にゆっくりと畳の上に腰を下ろした。

 ミナが微笑を浮かべて俺を見る。

「シンクロー――――」

「礼を言うのはまだ早い。これと別に十枚ほど用意した。お主の部屋で好きに使え」

「――――! あ、ありがとう……」

 相好そうごうを崩しつつ、声を詰まらせて礼を言うミナ。

 最後の方は消え入りそうな声だったが、よろこんでもらえてなによりだ。

 この後も酒、米、野菜、果物と、三野郡の産物は続き、魔物討伐で獲得した魔石も披露する。

 最後に、漆塗りの小箱が一つ残った。

 蓋を開けると、中には五十ばかりの薬包やくほうが整然と詰め込まれている。

「『すらいむ』の核を粉末にしたものでござります。どうぞお納めください」

「なんと! 貴重品ではありませんか! しかもこの数……」

「東の荒れ地で『スライム』を五百匹ばかり討ち取ったのでござります」

「ご、五百!? 退治するのが困難極まるスライムを!?」

「父上、シンクローの言ったことは本当です。この目で確認しました。信じられないことですが……」

「ミナとクリスから体に良いものと伺いましたので持参したしました。是非お使いください」

「……かたじけなく思います。ありがたくいただきましょう……」

 クリス曰く、この小箱一つで最低でも金貨五十枚は下らぬ貴重品らしい。

 あの気色悪い生き物が左様に高価だなどと、俺達日ノ本の人間には信じられぬが、効能の高さが値に現れているそうだ。

 その証拠に、辺境伯は大事そうに小箱を手で包み、奥方やベンノ殿も口元に手を当てている。

 辺境伯の病に多少なりとも効けばよいのだがな。

 こうして進物のお披露目は幕を閉じた。

 その日の夜、俺は一人で辺境伯に呼び出された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

処理中です...