魔術戦隊ができるまで~アイデンティティーの5人組~

ザクロ

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魔術、習得したい!

右目の独眼竜

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 あごひげを蓄えた男性は、よく見るとジェットエンジンのようなもので浮いている。俺の常識にあるものより静かだ、噴射する音が小さい。

「静かなジェット……!」
「ん、お前これがわかるのかー。ということは、結構科学に精通した魔術師だな。知ってるぞ、そういうのは厄介で強い!」

 それはそうと、と男性はその右目で敵を見る。その目は紫色に輝いたかと思うと、すぐにその光は消えた。あれを見ると、右目に違和感がある。これも魔眼なのか?
 ジャンプを続ける俺を、またライチが抱える。耳元で「掴まれ、気をつけろ」と囁かれたが、ライチはあの人を警戒しているのか。
 ……悪い人には見えない……よなぁ。

「結果は曲がり、書き換えは完了っと。あれは仲間を呼んで爆発するぞ」
「仲間を呼ぶの、あれ機械でしょ?」
「あー、科学は一対一で襲ったりはしない。確実に勝つためなら、仲間とか応援を呼ぶ……とか、アルトが言ってたな」

 そんなことを言っていると、遠く彼方からファルコンが3体やってきた。なんだか、この侍が言ったとおりになっているのか。

「事実を曲げる……それはある種の過去改変、未来予知……こんなやつがまだいたのか、それは神眼しんがんの領域だぞ 」
「お、スケボー少年、やっぱりが違うな。お前もずいぶん不思議じゃねぇか」
「────何、見抜いた!?」
「まぁな、当たるように結末をずらした。そういう意味では、あのレーゼンと似ているなー」

 ライチの眉間にしわが寄る。ライチは苦手なのか、はたまた相当マズイことなのか。俺にはわからないが、珍しい表情だ。頭を曲げて見ていたのだが、ライチに脇でガッチリホールドされてしまったので、もう見ることはできないな。
 この男性はお構いなしといったところで、4体集まったファルコンを眺めている。

「さーて、結末は決まったんだが、勝手に爆発はしないなー。やっぱり手を加えるかぁ」

 そして、刀に手をかける────

「────秘技・独眼竜。一天抜刀いってんばっとう 」

 ……唱えただけだった。男性はその場に浮いたまま、動くことはない。何が起こったかは見えなかったが、脇のホールドが強くなる。ずいぶん警戒しているみたいだ。

「こいつ、魔法使いか……?」
「これにて仕舞い。そんなしっかり固めず、俺の剣技を見てくれよー」

 ────瞬間、大爆発────
 一体のファルコンの爆発に巻き込まれ、ほかの機械兵も爆発していく。理解が追い付かず、俺は何とか動かせる目でその爆発を焼き付けていた。

「はっはー、大成功だねー。これでエリア・サムライは守られたとさ」

 男性はリストバンド型のリモコンで、ジェットを調整すると、そのまま地面へ降りていく。ライチもそれについていき、俺を下ろしてくれた。

「科学軍ではないようだな。自分の見方を爆発させるような、非効率なことはしない。だからといって、魔術師でもないみたいだ」
「スケボー少年、やっぱり目がいい。なんか弟に似てる気がするわ。その全部お見通しですよーみたいなの」
「弟……? そのジェットの製作者か。お前たち何者だ」
「お前らこそだろう。ここには旅人が来るが、お前らみたいなのはお呼びじゃない。あのファルコンはお前たちにくっついてきたんだ。ケンカでも吹っ掛けたのかー?」

 それはそうだ。人工衛星があるならば、科学軍にいつも追い掛け回されて当然だ。振り切れたのが運がよかっただけで、本来ならどこかで殺されている。物騒なことは、確かに俺たちが持ってきた。

「その、ありがとう。俺たちの問題を、ここの人に解決させてしまった。ごめんなさい」
「ん、勇者サマは素直だな。ちゃんと状況が見えている。えー、こいつも弟っぽいところあるわー」

 嫌そうにしている様子は見えず、むしろ笑顔なこの人。さっきから弟の話をしているな、俺たちに似ているみたいだ。

「そうだな、危害を加えるなら殺せばいいし……できそうだな。弟のアルトに、お前たちを見せてから考えるわ!」
「俺も、その弟を見ておきたい。その目はその後でよさそうだ」

 うん、この二人、絶対すれ違っているよね。論点が違うんだ、この人とライチは。お互い意地を張ってるから、変なところ噛み合わないよなぁ。
 この人の紫の目か、俺たちが何者か。どちらもはっきりさせたほうが、お互いのためだ。

 こうして俺たちは、この男の人についていくことになった。木で建てた小屋や、簡易的なテントが目立つこのエリア。周囲の人の冷たい目を浴びながら、俺たちは人込みを進んでいく。
 人は何も言わない。俺たちを罵倒することも、陰口も言わない。不思議な気分だ、珍しいものは噂して共有するんじゃないのか?

「武家屋敷……場違いだね」
「カガリの言う通り、これは特殊な建物だ。武家屋敷に見えるのが幻影だよ」

 ポツンと一軒ある武家屋敷の中へ、この人に続いて入っていく。使用人一人いてもいいけど、屋敷の中には誰もいない、気配がない。

「入るぞー」

 一番奥の部屋を、男性は中の返事を待たずに開ける。そこではメガネをかけた少年が、部屋の隅で何かを作っていた。

「エリア・サムライ上空の謎スケボー。君たちか」
「こいつら、アルトみたいなんだよ。そもそも科学軍に追われてるみたいで、さっき来たファルコンはこいつらのセット! 物騒だろ」
「物騒と思った兄貴が殺さないんだ、特殊なんでしょ、この人たち」
「あぁ、そうだなぁ────こいつら、目を持ってるぜ。アルトの目にはちょうどいいかなって」

 目────? ライチのことか、魔眼限定開放とかの。しかし彼の目?

「いいよ、魔眼は集めてない。これ以上を求めたって、視力は上がらないよ。それよりこの二人、それ以上に……」

 少年は目を細めると、ライチに近づく。目がよく見えないようだ。

「君の名前は、片目を隠した君だよ」
「……ライチだ。アルト、だったか」
「なるほど、やはり違うが聞いておこう。君にとってとは何だ」
「期待通りかわからんが、答えておく。忘れられないことと、存在し続けることだ」

 少年の顔が曇る、ライチはそれを見てニヤリと笑った。

「……体はどうでもいいのか」
「お前だって、そうじゃないのか」

 すると少年の顔がみるみる笑顔になっていく。くーっ、と声をあげると、ライチに会えたことを噛みしめるように、拳を握り締めた。

「くくっ、はははっ! これは傑作だな! 昔と全く違う、だが君だ。君は今もあり続けている!」
「お互い様だろ、こんなになって生きてるんだから。目は大丈夫か、少しなら治療してやれるが」
「そうだな、そうだったな! いい、気にするな、ただの限界だよ。でもせっかくの君だ、ちょっとやってくれるかい?」

 なかなかの意気投合に、俺と男性はドン引きである。

「えぇ、仲いいじゃん。何だよー、変に気を使って損だったじゃねぇか。悪いな、勇者サマ」
「いや、そこはお互い様でしょ。俺たちも問題を運んできたわけだし。むしろ感謝しなくちゃ」
「やっぱいいやつだなお前! 名前は?」

 初めてだ、ライチ以外に名乗る相手ができるなんて。

「カガリだ、そっちは?」
「トキナガだ。おぉ、お互い、旧日本って感じの名前だな! 篝火なんて、粋だねぇ」

 トキナガ、いい名前だな。確かに旧日本っぽい。漢字は時と長だろう。

「そこのライチにつけてもらった。俺には記憶がないんだ、もちろん名前もわからない。いつの時代かの常識は持ってるんだけどね……」
「あー、さっきのジェットって……だとすると、アルトはS・S大戦前とか詳しいんだよ。オタク、ギーク? とかいうらしいぜ」
「大戦前、か。そのあたりかな」
「うーん、まぁあの二人仲良さそうだし、大戦前に詳しいのが3人いるでいいっしょ! あ、俺ってば仲間外れ? やだなー」

 それぐらいの曖昧ゾーンでいいのか。こう見ると、珍しいことでもないのかな。ここ最近がすっぽり抜けた、それで何とかなりそうだ。
 そうしている間に、ライチとアルトは治療に入っている。アルトが座って、ライチが肩をもむ……マッサージの孫みたいだな。

「アルトも話すだろうし、この目の話でもしようか。これは曲筆きょくひつの魔眼。事実を歪め、書き換える能力だ」
「それって、過去も未来も思い通りってこと?」
「うーん、そうなんだけど、限度があるな。完全に書き換えると、世界のバランスが崩れるからできないんだ。ほんの少しずらす、先にくぎを打っておく。それぐらいだよ」

 はははっ、と軽く笑い飛ばすトキナガに、ライチは「そんな優しいものじゃない」と言い放った。

「少しずらすを続ければ、いずれ完全な書き換えができる。即効性がないだけで、この目は奇跡を起こす「魔法」の域に達する」
「世界の書き換え、下から2番目の魔法か。だが……ライチも驚くだろう。トキナガはそれだけじゃない」

 厳しい目をしたライチの手を、アルトは軽くたたく。聞いて驚けと言わんばかりの笑顔だ。

「剣技は見たか?」
「……あぁ、それもだ。見たよ、彼は時を止めた!」

 あの時、剣を抜いていないように見えたけど、ひょっとして止めている間に切っていたってことか。時、俺の撃たれそうだった時は何だったのかな。

「ぶわっはっはー! 天の魔法、下から4番目の魔法だ。俺はそれを再現しているだけで、使い手じゃない。時は止めたように見えるけど、俺が早くて時が遅いだけなんだよなぁ!」
「世界と天の魔法を、一部でも再現する。とんでもない男だぞ、魔術師もドン引きだ。」
「誉め言葉ありがとう、スケボー魔術師」

 トキナガはライチの危機感を気にしない。だがライチはめちゃくちゃ気にしている、目が不機嫌だ。

「お互い? 明かしたことだし、この武家屋敷もどきでゆっくりしていけ! アルトの知り合いならどんどん来いよ」

 茶を出そう、と言ってトキナガは席を外す。部屋には3人だけになった。アルトは俺を見ると微笑む。

「記憶がないのか、ぼんやりだが見た目も違う。しかし声が若いだけで同じだ」
「どういう、こと?」
「……なるほど、訳ありだね。話さないのはそういうことだ。僕から言えるのは、いつかわかるよ」
「うん……なるほど……」

 よくわからないがライチが目を背けるのも、いつか必ずわかること。ライチを知るだろう彼ならば、信じるべきなんだろう。
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