泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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人間

漂流者

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魔法の練習を始めて半年、カクカミから報告があった。

東の海岸に見たことの無い生き物が現れたらしい。

『昨晩の嵐でこの島に流れ着いた様です』
「どんな様子なの?」
『小さな怪我はしていますが命に別状はありません。ゴブリンやコボルトの様に二足で歩き、石や木ではない道具を使っていました』

それはもしかしたら……

「容姿は私や颯太に似ていなかった?」
『そう言われれば……いえ、精霊ではありませんでした』

カクカミは人間を見た事はない。一度見てみたいところだけど《実体化》までして会いにいく必要があるだろうか?

「母さんはその生き物に心当たりがあるの?」
「そうね……ある意味で待ち望んでいた生き物かしら」

この世界を終わらせた者でもあるから複雑な心境でもある。

「それなら会いに行った方がいいよ。カクカミ、僕も行くから準備して」
『承知しました』

カクカミは一度泉を離れて行く。
以前の戦いの時の様に私達が泉を離れる時はカナエとヤトを護りとして置く事が決まりになっていた。同時に泉の周りに住むケリュネイア達にもその旨を伝え、何かあれば直ちに私達に知らせられる様に万全の態勢をとる。

暫くしたらカクカミがヤトを連れて戻ってきた。

『お気を付けていってらっしゃいませ』
「ありがとう。留守を頼みます」
「泉の事は任せてください!」

カナエとヤトが居てくれるのだから心強い。

私と颯太は《実体化》を行いカクカミの背中に乗ると東の海岸へと出発した。
以前までは私の前に颯太を乗せていたけど、颯太の方が身体が大きくなってしまったので今では私が前で颯太が後ろだ。

「しっかり捕まっていてね」
「大丈夫よ。子供じゃないのだから」

初めてカクカミの背中に乗った時は大はしゃぎしていたのに、今では私の気遣いまで出来る好青年だ。

今回は私と颯太とカクカミとメトだけで行く。

東の海岸まではカクカミの脚で一時間程度、南の海岸の倍くらいの距離だ。
巨大な木々を縫う様にしてカクカミは進む。かなりの速度で走っている筈なのに全く揺れない。
こんな事まで気配りができるなんて偉いわ。

『カクカミ様!少し速すぎやしませんか?』
『メトよ、お前最近太ったのではないか?これしきの速度について来れんとは』

そもそもメトはこんな長距離を走る身体をしていない。足の速いカクカミについてきているだけでも凄い事なのだ。カクカミはそれを知っていてわざと言っている。

「カクカミ、慌てなくて大丈夫だから少しペースを落としてあげて」
『はい』
「ハル様ありがとうございます!」

途中一度休憩を入れて、東の海岸に到着する。

東の海岸は外海に面していて、真っ直ぐな海岸線が遠くまで続いている。
暫く北側に向かって進んで行くと、木の破片の様なものが大量に打ち揚げられている所があった。

よく見るとその木々は加工されていて、どうやら船の残骸の様だった。

「やはり人間みたいね」
「母さんの目当ての生き物なんだね?どこに行ったんだろう?」

周りを見渡しても人の姿はない。
水や食料を求めて森に入ったのだろう。
確かこの辺りはトロールの住処だった筈。

『喰われてなけりゃいいですね』
『そうだな。メト、臭いから後を追えないか?』
『やってみます』

木の破片や辺りに散らばっている残骸の匂いを嗅いで、ゆっくりと森の方へと歩いて行くメト。私達は黙ってそれに続く。

暫く森を進むと叫び声の様なものが聞こえてきた。

『不味いな、トロールと出遭ったのかもしれません』
「急ぎましょう」

声のした方へと急いで向かう。
そこは小さな広場になっていてトロールが五人、焚き火を囲んでいた。
その内の一人が捕まえていたのは紛れも無く人間だった。

か細い足を掴まれて逆さまにぶら下げられているのは、金髪の青年だった。
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