泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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人間

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「あ、ハル様」
「ハル様、この生き物何ですかね?」
「食べていい?」

トロール達は初めて見る人間に戸惑っている様だった。見た目は白人の男性、年齢は二十歳~三十歳くらいだろうか。

「やめろ……!離せ!!」

必死に抵抗している青年。手にはナイフを握っている。

「危ないわ、その人を離してあげて」

あんな無造作にナイフを振り回していたらトロールが怪我をしてしまう。

私の指示に従いトロールは青年を離した。そのまま地面に頭から落ちる。

慌てて起き上がりナイフを構えてトロールを睨む青年。しかしその姿は弱々しく、足も震えている。

「驚かせてごめんなさい。私は泉の精霊のハルです。あなたは人間ね?」

カクカミから降ろしてもらい青年に話しかける。

青年は私の姿を見て驚いている。

「精霊……?」
「そうだよ。僕は世界樹の精霊のソータ。君は何処から来たの?」

青年は返事をしない。青い瞳がしきりに動いて私と颯太、カクカミとメトを見ている。
驚きのあまり声が出ないのか、それとも警戒しているのか。

「俺は頭が狂ってしまったのか……こんな所に人が居るわけない……こんな化け物達と……あり得ない、夢だ」

現実逃避しているのかしら。

「あなた、大丈夫?」
「お嬢さんこそこんな所で何をしているんだい?……いや、俺は何で幻覚に返事を……」

頭を抱えて蹲る青年。本格的に混乱してるわね。
さっき頭を打ったからではないわよね?
だとしたら大変、念の為泉の水を掛けておこう。

「な、なんだよ……」

私が近付くと、それに気付いて転げる様に後ずさる青年。

「じっとしていて」

両手を合わせて器を作ると泉の水を溜めて頭に振りかける。

「うわっ!?な、何をするんだ……」

突然水をかけられて驚く青年。

「どう?私が幻ではないと分かったかしら?」

目の前にしゃがんで頭に怪我が残っていないか確かめる。髪を分けながら丹念に調べてみたけど外傷は残っていないみたいだ。初めはビクついていたけど、今は大人しくされるがままになっている。

「あ、ありがとう……君は本当に精霊なのか?」

青年の顔が赤い。白人は日光に当たるとすぐに赤くなるって聞いた事があるけど大丈夫かしら。

「ええそうよ。そろそろあなたの名前を教えてもらえないかしら?」
「俺はアイン。船乗りだ」

やっぱりあの残骸は船だった。

「船乗り?あなたの船はどうなったの?」
「嵐にやられて沈んだらしい。教えてくれ、他の奴を見なかったか?」

私の両腕をガッチリと掴んで聞いてくる。仲間の安否が心配なのね。

「今の所見ていないわ」
「そうか……」

ガクリと項垂れるアイン。

『ハル様、この生き物は何て言ってるんです?』

トロールの一人が聞いてきた。そうか、人間の言葉は分からないんだ。

「彼は人間という種族。船という海を行く乗り物に乗っていた所を嵐に襲われてこの島に流れ着いたみたいなの」
『そうでしたか。それじゃあ水と食い物に困っているでしょう。我らの蓄えを分けてやりますよ』

そう言うと一人のトロールがこの場を離れてすぐに戻ってきた。
手には兎とヤシの実の様な丸い大きな実を持っていた。

『ほれ、やる』

両手の食料を目の前に差し出すトロール。それを見て困惑するアイン。

「え?お嬢さん……ハルだったか、これは何て?」
「お腹が空いているだろうからって、自分達の食べ物を分けてくれたのよ」

言葉が分からないって不便ね。

「ありがとう。ハル、お礼を伝えてもらえるかな?あと、さっきの非礼も謝りたい」

トロール達に感謝と謝罪の言葉を伝えると、「困った時は助け合うのがこの島の掟だから」と言って笑っていた。

「生のままでは食べられないでしょう。私が捌いてあげるわ」

アインから兎を受け取りナイフを借りると、近くにあった平たい石をまな板代わりに調理を始める。

……昔飼っていた兎を留守の間に兄に食べられた事を思い出した。

酷いわ、あの子とても可愛がっていたのに。

「ハル?自分でやるよ」
「……そう?それじゃお願いね」

アインは巧みなナイフ捌きで兎を解体していった。
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