泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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人間

破壊

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隕石の落下は津波を引き起こして甚大な被害を全世界に与えているだろう。

そして私達の住むこの島も例外では無かった。

泉のある高台に避難していた者は軽傷者が少しあっただけで全員無事。しかしそれより下側にいた者達は跡形もなく流されてしまっていた。

カクカミ、メト、ヤトが破壊され尽くした島内を隈無く探索してくれたが、誰一人として見つける事はできなかった。

そして、更に悪い事は続く。

地鳴りの様な爆発音が聞こえてくる。

「空が……燃えています」

カナエが私の肩に掴まり、呆然としながら言う。

遠くの山々が火を吹き上げていた。火山が噴火しているのだ。空は噴煙に覆われて昼の筈なのに暗くなっていった。

この災害は隕石と津波だけでは終わらない。これからが更なる被害をもたらすのだと世界がそう告げているかの様だった。

☆★☆★☆★☆★

あの日から太陽を見ていない。
夜は完全な闇に包まれ、昼間でも薄暗い。火山の噴火も二ヶ月程で収まったようだ。しかし気温はどんどん下がっていて、今日は雪が降り始めた。

「アイン、あなたの住んでいた町はどっちの方だったかしら?」
「それならあっちの方だよ」

丘の上から水平線の方を指差して教えてくれた。

「どれくらいの被害が出ているのかしら」
「恐らく殆どが死んだんじゃないかな」

アインは目を細めながら水平線を見つめていた。
彼にも親しい人は居ただろう。

「もしかしたら生きているかもしれないわ。会いに行ける日がくるかも」
「ありがとう、ハル。君は大丈夫か?」

アインは私の事を心配してくれていた。
あれから生き残った僅かな者達と何とか暮らしている。
乏しい食糧を巡って諍いが起こる事は何度もあった。その度に私や颯太が諫めて来たが、状況は悪化する一方で皆には不自由を強いてしまっている。

「ええ、大丈夫よ。私がしっかりしなくちゃ、みんなを護って約束したのだから」
「ハル、無理に背負わなくていいんだ。今の状況も君の所為じゃない」
「でも……」

アインが私の髪を撫でる。

「君が誰よりも長生きなのは知っている。だからこそ、この状況は辛いだろう。ハルは偉いよ。誰にも弱った所を見せないのだから」

アインは真っ直ぐ私を見つめて言った。

「今くらい泣いていいんだ」

そう言われて、堰を切った様に涙が溢れてきた。

「何も無い所からここまで命が芽吹いたというのに……一瞬でみんなが……あんまりだわ……」
「ああ、辛かったな」

泣き噦る私をアインは抱きしめてくれた。子供をあやす様に背中をさすってくれる。

「みんなを護るって言ったのに……私は無力で……このままじゃみんなが……みんなが……」
「ハルは頑張っているよ。君は何も悪くない」

私は今の自分に出来そうな事を話していく。

《植物生成》を使って若芽を生やして草食動物達の食べ物にする……これはポイントを大量に消費してしまう為長続きはしない。
《天候操作》で晴れ間を作る……局所的に雲を無くしてもすぐに覆われてしまうだろう。
《過剰分泌》で今ある食物の栄養価を上げる……これも絶対数が少ない為長続きはしない。

「私にはみんなを護る力がないのよ……どれだけ頑張っても一年位しか延命できない……」
「いいんだ。ハル、君一人で頑張らなくて良いんだよ」

私が何を言ってもアインは受け止めてくれた。

最後の方は何を話したのか覚えていない。ただの愚痴だったかも知れない。今まで誰にも言えなかった不安を全てアインにぶつけていたのだと思う。
彼は否定することなくただ、「そうだな」と言いながら包み込んでくれた。

吐く息が白く、アインの温もりを感じながら時を過ごした。

この時の私は自分の事しか見えていなくて、あんな事になっているなんて知る由もなかった。
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