泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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養育

西の魔族の国

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話してくれた男は項垂れたまま言う。

「俺が知っているのはそれだけだ。殺してくれ」
「あなた達ダークエルフはディアブレルの国民ではないの?」
「我らは元々ディアブレルよりもずっと北方に住んでいた。魔物の軍勢に住処を追われて流れてきて、あの国の者に捕らえられ命じられるままここに来た。」

私達を襲った事以外にも聞きたい事が幾つもある。

「あなた達の一族はディアブレルでどの様な扱いを受けているの?」
「奴隷だ。魔族達に何もかもを踏み躙られた。こんな事ならあの時、死ぬまで戦えば良かった……」

彼は悔しさを滲ませながら呟いた。

奴隷。地球にもかつてあった風習だ。他国の者を捕まえて労働を強いる。
賃金は支払われる事なく、生きる最低限の食料を与えられるだけ。古代における奴隷はそんな感じだっただろうか。
目の前にいる青年はそれよりも酷い状況にあるのだろう。
何とかしてやれないだろうか。

「私があなたの家族を助けると約束したら、私達を手伝ってくれる?」
「ハル様!その様な事は……」

青年騎士が止めてくる。私は構わず褐色の青年を見つめる。

「家族を助けてくれるのなら俺の命は要らない。何でもする」
「分かったわ。私があなた達ダークエルフを助けます」

彼は私を真っ直ぐ見つめながら力強く答えた。私は彼と固く約束を交わした。

「どうされるおつもりですか?」
「ディアブレルに行って話をつけてきます。彼らダークエルフを解放する様に」
「そんな事が出来るのですか?」

騎士の青年は聞いてくる。

「私達はかつて、あの国と戦った事があります。あなた達の父祖と共に」
「存じております。ですがそれは遥か昔の話です。当時の事を知る者はおりませんよ」
「関係ありません。私達は今の話をしているのです。今、統治しているものと話をしなければならない」

私が騎士を見上げながら言うと、彼は一歩下がり暫く沈黙の後に意を決して言う。

「ならば私もお供致します。ウルゼイドの中で起こった事でありますし、何より大事なお客様であられるハル様達を襲われたのです。我らとしても思う所はあります」
「分かりました。確かにあなたは……」

何度か名前を聞いていたわ。フルネームは長かった様な気がするのだけど……

「アルベルトと申します。ハル様の御息女のメイ様とは闘技場で剣を合わせた事がございます」
「ええ、見ていました。娘の為に加減してくれていましたね。ありがとう」

急遽ではあるけれど、ディアブレルへ行く事になった。

遺体の収容は兵士達に任せて私達は屋敷へと帰ることに。
馬車に戻ると芽依が私に抱きついてきた。その小さな身体は震えていた。

「もう大丈夫よ。怖い事は全て終わったわ」
「お母さん……何処かに行くの?」
「ええ、今回の様な事が二度と起こらない様にしないとね。すぐ戻ってくるから芽依はお留守番していてね」
「やだ!お母さん一緒に居て!」

ギュッと抱きついて顔を埋めてくる芽依。本当に怖かったのだろう。それは自身が危険に晒されたからではない。私や颯太、此処にいる関係者が怪我をしたり死んだりしないかが恐ろしかったのだろう。

「大丈夫よ。お母さん達は強いもの。もう芽依に怖い思いはさせないわ」
「大丈夫だよ芽依。少しだけお留守番していてくれるかい?」

颯太も芽依の頭を撫でながら言う。

「うん……」

目に涙を溜めながら頷く芽依。

「偉いわ芽依」

私も芽依を抱きしめる。

「カナエ、明日森に戻ります。芽依と留守番していてね」
「分かりました!」

ギョクリュウと馬車の連結が完了してゆっくりと走り出す。
アルベルト達も警護の為並走している。

屋敷に戻り、着替える時も芽依は私から離れなくてメアリーが困っていた。
あんな事があったのだから仕方ないわね。
ジョゼットも今日ばかりは何も言わなかった。
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