泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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冒険者

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「いきます!」

ミラが矢を放つと、ヴァーシュのお尻に矢が突き刺さる。
突然の痛みに悲鳴のような鳴き声を上げて逃げようとする。

「追うぞ!」

セロが走り出し、私達はそれに続いた。

「もう一本いきます!」

ミラが次の矢をヴァーシュの背中に命中させた。

逃げ惑っていたヴァーシュは少しずつ動きが鈍くなっている。

今の内に脚を攻撃して逃げられない様にしよう。
私は地面から石の槍を出現させて左後脚を貫いた。

「よくやった!」

セロが追いついて右後脚を斬り付ける。
立っていられなくなってその場に倒れるヴァーシュ。

「仕留める!」

激しく頭を振り回して抵抗するヴァーシュに剣を振り上げて近づくセロ。

「危ない!」

リンが叫ぶ。頭の角がセロを掠めて、衝撃で吹き飛ばされた。

「私がやるよ!」

芽依が素早く後ろに回り込んで体の上に飛び乗った。そのまま両手の小剣を首に突き込む。

更に激しく暴れるので芽依は剣から手を離して飛び退いた。

ヴァーシュの抵抗は弱々しくなっていき、動かなくなった。

「メイさんありがとう。いてて……」

座ったまま角の掠めた腹部を摩っている。幸い革の鎧を削り取っただけで血は出ていなさそうだ。

「油断しすぎよ。手負いの動物は死に物狂いで対抗してくるんだから気を付けないと」

リンがセロのそばで神聖魔法を使う。手をかざすと柔らかい光が灯り傷を癒した様だ。

「神聖魔法は治療もできるのですね」
「ハルさんの水の様に大怪我は治せないけどね。はい、完了」
「ありがとうな、リン」

立ち上がって鎧の様子を見ているセロ。

「買い直すの?」
「いや、これくらいなら補修してまだ使えるよ」

無駄遣いはしない様に徹底しているのね。

「さあ、早く解体をしましょう」

ミラに言われて全員でテキパキと作業を始める。
弱いとはいえ毒を使ったので、放置していると肉質が悪くなるらしい。

一時間掛けてヴァーシュの巨体を解体して指輪に格納した。

「ヴァーシュの内臓は埋めてしまうの?」
「食べられないからね」

この世界の人達は牛の内臓は食べないらしい。穴に埋めてしまった。

「ねえみんな、あそこにステップサーペントがいるよ」
「えっ……どこどこ?」

蛇は苦手なのよ……つい芽依にくっついてしまう。

「ハルさんはステップサーペントが苦手なんだね」

リンに笑われた……仕方ないのよ。
少し離れた所にいたらしいが見えなくなったそうだ。

「こちらに来ないなら戦わなくて済みそうですね」

ミラはそう言うが、姿が見えなくなるとどこに行ったか気になる。
突然出てきたら悲鳴を上げてしまいそう。

「大丈夫だよお母さん。私が守ってあげるからね」
「うん……」

芽依は笑いながら言っている。

「ステップサーペントって地面に潜ったりするの?」
「いや、穴を掘ったりはしない筈だけど」
「じゃああの辺りに何かあるのかな?」

指差した所は普通の草原に見える。

「調べるの……?帰りましょうよ」
「少しだけだから。お母さんはここで待ってて」

私を置いてステップサーペントを見失った所に近付く芽依。セロとミラも一緒に行ってしまった。

「穴があるな。入り口は狭いけど中は広そうだ」
「巣穴じゃないの?」
「ステップサーペントは巣穴は作らない筈だよ」

穴があるという場所を三人で覗き込んでいる。
蛇が飛び出してきたら危ないわ。そろそろ戻ってきて欲しい。

心配していたら最悪の事態が起こった。

三人のいた地面が沈み込んだのだ。

「セロ!ミラ!メイちゃん!」

三人に声を掛けながら駆け寄るリン。

一体何が起こったの?ステップサーペントの攻撃には見えなかったけど……

走り寄ると地面が抜けて急な坂になっていた。三人は壁面にしがみついていて落下は免れていた。

「しっかり!」

リンがメイを引っ張りあげる。
私もミラを助けて、最後にセロを引っ張り上げた。

「危なかったな……しかしこれは何だろう?」

ポッカリと空いた穴を覗き込んでセロが言う。

「こんな所に穴が空いていたら危ないわね。降りてみよっか?」
「そうだな……埋めるにしても何があるか確認してからでもいいだろう」

どうやら調査する様だ。
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