泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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竜の国

ファディア王国

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ファディアの島が見えた。あと一回で上陸出来るだろう。

「浸水が止められません!」
「この船は沈むぞ……」
「退船指示を、早く!」

何やら騒がしい。
どうやら浸水が食い止められなかった様だ。

とにかく島の海岸にでも転移してしまおう。

《瞬間移動》で海岸に乗り上げる。これで沈まないわ。

「た、助かったのか……?」
「私は国王に会いに行ってきます。あとは好きになさい」

船から飛び降りて砂浜に着地。

ここから街へは歩いてもすぐだろう。
ワダツミ、シナツ、カナエを連れて街を目指す。

海岸を出て林を抜けると街道があったので街の方へと歩く。
気候は少し暑いくらいだろうか。植生はほとんど変わらない。

「ファディアの国王は何て言うでしょうね?」
「私が直接来たと知って驚くかも知れないわね」

森に対してやっていた事が全て国王の命令ならば慌てて弁明をするだろうか。
これ以上手出しをしてこないならこちらとしては何もするつもりはない。

もしも私を捕らえようとするならば、その時は……

「穏便に済むといいわね」

そうは言ったが、私は穏便に済まなくても構わない。今後敵対してくる勢力が減るならばこの場で殲滅も致し方ないと思っている。

「ハル様、他の者も呼びましょう!」
「いいえカナエ、今はこの人員で行きます」

カナエはライアッドの王都に初めて入った時の様にするべきだと思っているのだろう。今回はその必要もない。

街道をしばらく歩いていると向こうから騎兵が6騎かなりの速度で走ってくる。

私達は道の端に避けて騎兵をやり過ごす。どうやら海岸に打ち上げられた船を誰かが見て通報したのだろう。

私達は構わず先を進む。

街の入り口までやって来た時、先程の騎兵達が戻って来た。

「そこの少女、止まれ!」

騎兵は左右に3騎ずつ分かれて私達を包囲する様にして止まる。
金属製の鎧に兜。騎士ではなさそうだが装備は充実している様だ。

「泉の精霊ハルで間違いないな?」
「ええ。私はファディア国王に話があって来ました」

門を護っていた兵士達にもこのやり取りは聞こえた様で、慌てて兵士を集め始めていた。

「いきなりやって来て陛下に会わせろとは……」

兵士達は馬上から私を見下ろす。どうやら泉の精霊なのは信じた様だ。

「取り次ぐつもりが無いなら直接会いに行きます」
「仕方がない。この者達を捕縛する」

鞍に下げられていた剣を抜いて馬から降りる兵士達。

「母上、排除します」
「シナツ、少し待って。よく聞きなさい。私達に剣を向けるのならあなた達を殺さなければならない。ここからは覚悟を持って行動しなさい」

私が言い放つと兵士達は動揺する。このまま剣を引いてくれれば良いのだけど。

「ええい!ただのこけ脅しだ!全員、かかれ!」

隊長と思しき者が声を張り上げると、それに呼応して兵士達が剣を構えて近付いてくる。

私の指示を待たずにワダツミが動いた。

隊長の頭に人差し指を向けると、高速で水弾が放たれる。
一射目で兜が跳ね飛ばされ、二射三射と宙を舞う兜を撃ち抜いていく。

穴だらけになった兜が地面に落ちるまで兵士達は誰一人動けなかった。

「鎧も兜も無意味ですよ。私だけでもあなた達を瞬殺できます。次は本当に頭を撃ち抜きますから覚悟してください」

ワダツミは人差し指を立てて周りを見渡す。兵士達は水弾の威力を目の当たりにして恐れ慄いていた。

「へ、閉門!閉門ーー!!」

守備の兵士達は者の内側に駆け込んで落とし格子を作動させて門を閉じる。

「よ、良くやった!我々は、この者達を……」

兜を吹き飛ばされた隊長は明らかに動揺していた。

説得でどうにかできそうだが、あまり時間を掛けたくない。あまり気は進まないが《精神支配》で無力化してしまおう。

「聞きなさい。私はあなた達とは戦いません。今すぐ武器を収めなさい」
「……はい」

全員素直に武器を収めてくれた。
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