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竜の国
王
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周囲の兵士達とは戦闘を回避出来た。
彼らの《精神支配》を解除するにはどうすれば良いかは分からないが、全て済んだら泉の水を掛けて治してしまうのも一つの手だ。
「ファディア国王に話があります。取り次いでもらえませんか?」
「分かりました。暫くお待ちください」
門の内側の兵士は城の方へと走っていく。街はライアッドの王都程ではないが広く、城に行くだけでもかなり時間がかかりそうだ。
太陽は傾き、日没が近づいて来ている。
自分で直接乗り込んだ方が早かったが、無用な戦闘を繰り広げる事になるだろう。この場で待つ事にした。
日が落ちて辺りが暗闇に包まれる頃、兵士が馬車を連れて戻って来た。
「お待たせしました。国王陛下はお会いになるそうです。どうぞ馬車にお乗り下さい」
「ありがとう」
門を開けてくれたので私達は馬車に乗り込む。
王族が使う物だろうか、内装は美しくクッションも良い。
『ハル様、罠ではないでしょうか?』
「罠だった場合はそのまま戦うだけよ」
カナエは心配しているが、かえってその方が手間が省ける。
馬車は大通りを抜けて上り坂を登って行く。その先に幾つもの尖頭を持つ立派な城が見えてきた。
城門は解放されており騎士が控えている。馬車は止まる事なく進み、城の入り口までやって来た。
城の入り口付近にも大勢の騎士が立っており、私達を出迎えている。
馬車の扉が開いて立派なマントを身に付けた騎士が声を掛けてくる。
「どうぞ、陛下がお待ちです」
「ありがとう」
街の入り口での兵士達とのやり取りは何だったのかと言いたくなる様な態度の代わり様だ。騎士の後について城の中を進んで行く。
明らかにこちらを油断させようとしているのが分かる。
城の中には何が待っているのか。
私達は堂々と、しかし注意深く周囲を確認しながら奥へと進む。
「こちらが謁見の間です」
両開きの扉を両側に控えていた兵士が開けるので私達は室内へと入る。
「ようこそ泉の精霊」
玉座には誰も居らず、部屋の中程に一人の女性が立っていた。黒く長い髪の妖艶な女性だ。
「あなたは国王ではないわね。何者です?」
「妾は海竜の長メリーゼハーヴ。泉の精霊が遠路遥々来たと言うので見ておこうと思うてな」
彼女は人の姿をしているが自分を海竜だと言う。
「あなたが国王の代わりに話を聞くの?」
「否、妾はお前を殺す為にここにいる。どれ程の力を有しておるか、妾自ら確かめてやろう!」
そう言うとメリーゼハーヴは右手をこちらに向けてくる。
「お母様!」
ワダツミが私の前に立ち、大量の水を湧き上がらせて壁を作る。
メリーゼハーヴの手からは魔力の塊が放たれて水の壁を跡形もなく吹き飛ばした。
その衝撃でワダツミも吹き飛ばされる。
「なんじゃその程度か?泉の精霊の眷属なのだろう?」
「くっ……!」
余裕の笑みを浮かべているメリーゼハーヴ。彼女の実力は確かな様だ。
「調子に乗るな!」
シナツが風を巻き起こしてメリーゼハーヴにぶつけるが、右手を横に一振りするだけで掻き消されてしまった。
「涼しいのう。つまらぬわ」
「なにを……!これなら!」
「シナツ、下がりなさい」
「はい……母上」
彼女の相手は私がしよう。
「仲間の力は借りぬのか?」
「ええ。あなたは強いから。この子達を怪我させたくないもの」
「自分が死ぬよりも眷属が大事か?面白い」
「いいえ、私は死なないわ」
メリーゼハーヴは右手を翳す。
私も同じ動作で魔力を圧縮、メリーゼハーヴに向けて放つ。
撃ち出したのはほぼ同時、中間点で魔力同士がぶつかり合い爆発した。
「ほお、互角とな。面白い、だがこれはどうじゃ?」
メリーゼハーヴは私目掛けて突進する。
かなりの速度だ。近接戦闘にも自信があるのだろう。
右手の指先にかなりの魔力が集中している。あれで突かれればただでは済まないだろう。
だが敢えて真正面から受ける事にした。
彼らの《精神支配》を解除するにはどうすれば良いかは分からないが、全て済んだら泉の水を掛けて治してしまうのも一つの手だ。
「ファディア国王に話があります。取り次いでもらえませんか?」
「分かりました。暫くお待ちください」
門の内側の兵士は城の方へと走っていく。街はライアッドの王都程ではないが広く、城に行くだけでもかなり時間がかかりそうだ。
太陽は傾き、日没が近づいて来ている。
自分で直接乗り込んだ方が早かったが、無用な戦闘を繰り広げる事になるだろう。この場で待つ事にした。
日が落ちて辺りが暗闇に包まれる頃、兵士が馬車を連れて戻って来た。
「お待たせしました。国王陛下はお会いになるそうです。どうぞ馬車にお乗り下さい」
「ありがとう」
門を開けてくれたので私達は馬車に乗り込む。
王族が使う物だろうか、内装は美しくクッションも良い。
『ハル様、罠ではないでしょうか?』
「罠だった場合はそのまま戦うだけよ」
カナエは心配しているが、かえってその方が手間が省ける。
馬車は大通りを抜けて上り坂を登って行く。その先に幾つもの尖頭を持つ立派な城が見えてきた。
城門は解放されており騎士が控えている。馬車は止まる事なく進み、城の入り口までやって来た。
城の入り口付近にも大勢の騎士が立っており、私達を出迎えている。
馬車の扉が開いて立派なマントを身に付けた騎士が声を掛けてくる。
「どうぞ、陛下がお待ちです」
「ありがとう」
街の入り口での兵士達とのやり取りは何だったのかと言いたくなる様な態度の代わり様だ。騎士の後について城の中を進んで行く。
明らかにこちらを油断させようとしているのが分かる。
城の中には何が待っているのか。
私達は堂々と、しかし注意深く周囲を確認しながら奥へと進む。
「こちらが謁見の間です」
両開きの扉を両側に控えていた兵士が開けるので私達は室内へと入る。
「ようこそ泉の精霊」
玉座には誰も居らず、部屋の中程に一人の女性が立っていた。黒く長い髪の妖艶な女性だ。
「あなたは国王ではないわね。何者です?」
「妾は海竜の長メリーゼハーヴ。泉の精霊が遠路遥々来たと言うので見ておこうと思うてな」
彼女は人の姿をしているが自分を海竜だと言う。
「あなたが国王の代わりに話を聞くの?」
「否、妾はお前を殺す為にここにいる。どれ程の力を有しておるか、妾自ら確かめてやろう!」
そう言うとメリーゼハーヴは右手をこちらに向けてくる。
「お母様!」
ワダツミが私の前に立ち、大量の水を湧き上がらせて壁を作る。
メリーゼハーヴの手からは魔力の塊が放たれて水の壁を跡形もなく吹き飛ばした。
その衝撃でワダツミも吹き飛ばされる。
「なんじゃその程度か?泉の精霊の眷属なのだろう?」
「くっ……!」
余裕の笑みを浮かべているメリーゼハーヴ。彼女の実力は確かな様だ。
「調子に乗るな!」
シナツが風を巻き起こしてメリーゼハーヴにぶつけるが、右手を横に一振りするだけで掻き消されてしまった。
「涼しいのう。つまらぬわ」
「なにを……!これなら!」
「シナツ、下がりなさい」
「はい……母上」
彼女の相手は私がしよう。
「仲間の力は借りぬのか?」
「ええ。あなたは強いから。この子達を怪我させたくないもの」
「自分が死ぬよりも眷属が大事か?面白い」
「いいえ、私は死なないわ」
メリーゼハーヴは右手を翳す。
私も同じ動作で魔力を圧縮、メリーゼハーヴに向けて放つ。
撃ち出したのはほぼ同時、中間点で魔力同士がぶつかり合い爆発した。
「ほお、互角とな。面白い、だがこれはどうじゃ?」
メリーゼハーヴは私目掛けて突進する。
かなりの速度だ。近接戦闘にも自信があるのだろう。
右手の指先にかなりの魔力が集中している。あれで突かれればただでは済まないだろう。
だが敢えて真正面から受ける事にした。
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