泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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竜の国

海竜

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メリーゼハーヴは魔力を纏った右手を胸に目掛けて突き込んでくる。

流石に速度が速く避け切ることはできなかったが急所は外す事に成功した。

代償として右腕を肩から持っていかれたが。

左手でメリーゼハーヴの腕を掴むと《栄養吸収》で一気に生命力を吸い上げる。

逃れようとして私の手を振り解こうとするがもう遅い。彼女の右腕はあっという間に枯れ木の様に痩せ細り粉々に砕け散った。

「くぅ……中々やりおる……」

私は《過剰分泌》させた泉の水を右肩に振り掛けて超速再生させる。それを見て唖然とするメリーゼハーヴ。

驚いたのは彼女の生命力だ。私は全力で吸収したのだが片腕を破壊するに止まっている。

メリーゼハーヴは海竜だ。本来の姿は竜であるのは間違いないだろう。
人の姿である内に殺してしまった方が良いか。様子を見る限り相当体力を消耗している。

私は魔力を圧縮させて左手に溜めると、もう片方では魔法の詠唱を行う。

魔力を放ってくるなら左手で迎撃して詠唱している魔法で討ちとる。
突進してくるなら左手で牽制しながら詠唱を破棄。《栄養吸収》で止めを指す。

竜に変身するなら、変身が完了する前に全力で攻撃を加えて殺す。

詠唱しているのは《フィルトルーク》。城ごと吹き飛んでしまうが構うことはない。ここは敵国なのだ。

さて、どう出てくるか?

「ま、待つのじゃ!降伏する!」
「……本気で言っているのですか?」
「本当だとも!この通り」

左手を上げて必死の形相で言っている。
嘘は吐いていない様だが。

「まさか私の実力を試していたなどと言わないわよね?そんなくだらない事でワダツミに怪我を負わせたのなら降伏は認めないわ。全力で殺しにいくから抗いなさい」

詠唱を再開する。

メリーゼハーヴは顔面を蒼白にして固まっていた。

……図星だったか。

「お母様、私は平気です。怪我と言っても大したものではありません。あの者の話を聞いてはいただけませんか?」

ワダツミが駆け寄ってくる。

「……あなたがそう言うならいいでしょう。メリーゼハーヴ、何故この様な事をしたの?」

詠唱中の魔法を破棄して左手の魔力を手の中で散らせる。
それを見てその場に座り込むメリーゼハーヴ。

「ルドガイアと戦うのに際して、手を組むに足る者かを測らせてもらった……のじゃ」
「あなた達はルドガイアの者ではないの?」
「従っておるフリをしておる。我らはルドガイアの中でも一、二を争う勢力だが魔竜王には敵わぬのじゃ。力をつけて反撃の機会を伺っておる」

ファディア王国を攻め落としたのはルドガイアからの命令で、ファディアがライアッドを攻めたのもその命令に含まれていたそうだ。

「お主ほどの力があれば魔竜王とも渡り合えるかもしれん。我らと手を組んでは貰えぬか?」
「虫のいい話ね」

自分達が力をつける為に言いなりになったフリをしてファディア王国を攻め落とし、ライアッドに差し向けて甚大な被害を出している。
自分達の為に他の者の命を軽く扱った、そこまではまだ許せるが、相手が強者と判ると擦り寄ろうとする姿勢が許し難い。

その行為を行う者が完全なる弱者ならば仕方が無いと思えただろう。しかし海竜は大きな戦力を有している。

「妾は一族を守る為にこの様な道を選んだ。それについては弁解の余地はない。お主の気が済むのがあればこの命を差し出そう。だが他の者は許してやって欲しい。そして願わくば共に魔竜王を討っていただきたい」

そう言って頭を下げるメリーゼハーヴ。

彼女も私と同じ、家族を守る為に必死だったのだ。
私が彼女だったらどうだろう。同じ事をしただろうか?

それしか家族を守る方法が無いとしたら……

「お母様……メリーゼハーヴさんを助けてあげませんか?」
「何を言っているです?ワダツミ、ハル様に意見するなんて百万年早いです!」

ワダツミは私に提案する。それを聞いたカナエが怒り出す。

「カナエ、いいのよ」
「ハル様がそう仰るなら……」

カナエは引き下がってくれる。
私はメリーゼハーヴに告げる。

「分かりました。手を結びましょう」

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