転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄

文字の大きさ
808 / 826
特別編3:異世界

反撃の狼煙

しおりを挟む
レイアさんは私に気遣って走る速度を随分と抑えてくれていた。
私には余裕があるしもっと速度を上げてくれても良いのだけど、何も言わずについて行こう。

見慣れた村の大通りは既に大勢のニンゲンが陣取っているので、私達は裏通りを走っている。
今は夜だけど村の何もかもに火を付けられていて空を赤々と染め上げていた。
この辺りに生存者はいないのだろうか。

角を曲がった時に敵兵に出会す。

「な──」

レイアさんは声を上げようとした兵士の首を一太刀で刎ねる。
血を吹き出しながらゆっくりと倒れる兵士の横をすり抜けて速度を落とさずに走る。

レイアさんも強いんだ。

そんなに強いならここに来たアイツらを倒せるのではないか?

「レイアさん、あの「静かに」

声を掛けようとしたら立ち止まり手で制される。

「嫌…!やめて!」
「うるせえ!」

乾いた音が一度響いた。

生存者がいる…?

「この道は駄目だ。別の道を探そう」
「助けないのですか?あんなに強いのに」
「数が多過ぎる。可哀想だが今は君を守る事を優先する」

そんなのないよ。
私だって戦える。

「助けよう」
「無理だ。目の前の兵を倒しても騒ぎが大きくなればすぐに他の兵らが集まってくる。包囲されてはどうしようもなくなる」
「それでも…レイアさんは私を助けてくれたでしょう?今度は私があの人を助ける番です」

レイアさんの制止を振り切って路地から飛び出す。
正面には同族の女性を囲んだクズどもが3匹。
全員鎧を外している。これならやれる。

「なんだ?おま──」

力任せに左から右へと剣を振るう。
グシャリと嫌な音を立てて一匹が吹き飛ぶ。驚いて動きを止めた一匹の頭に剣を振り下ろして粉砕する。

「このやろう!」

飛び掛かってくるもう一匹に対応する為に剣を手放して右の拳を顔面に叩き付ける。首から嫌な音がして地面に落ちて痙攣していたので、近くに置いてあった剣を背中に突き刺しておいた。

「なっ!?て、てき──」

不意に燃え盛る民家の方から声が聞こえたがすぐに静かになる。レイアさんが始末してくれた様だ。

「何て無茶をするんだ君は…」
「でも助けられたでしょう?」

レイアさんにお礼を言って襲われていた人の所へ。近所のお姉さんだった。

「ルミ…ちゃん…?」
「お姉さん大丈夫ですか?」
「その力、もしかして勇者に覚醒したの…?」

勇者?

「話している暇はないぞ。今すぐここを離れないと敵兵に気付かれる」
「…私は置いていってください」
「何で?」
「私は足手纏いにしかならないから。それに…みんな殺されちゃって私だけ生き残ったってどうしようもないから…」

説得しようと座り込んでいるお姉さんの目の前にしゃがんで目線を合わせる。
お姉さんは力無く項垂れる。その目には生気が無かった。

「そんな事言わないでよ…一緒に行こう?」
「もういいの…この村から出たって頼れるところもない。惨めに生きるのならここで死んだ方がずっといい。放っておいて…」

いつも明るくて元気だったお姉さんはもう目の前には居なかった。

小さな頃からいつも優しくしてくれたお姉さん。何の罪も無い彼女が生きる事を諦めるほど苦しんでいる。

「行こうルミ」
「いいえ」
「このままでは全員見つかってしまうんだ。ここは一度退いて援軍が来たら村を取り戻す。それが最善なんだよ」

私の肩を掴んで立たせようとするレイアさん。

「それでは遅いんです!」

手を振り払って立ち上がる。

「今だって苦しめられている人がいる。それを見捨てて逃げるなんて私には出来ません」

頭に叩き付けた剣を引き抜こうとしたけど剣がボロボロだ。他の得物はないだろうか?

三匹目に突き刺した剣もよく見れば刃こぼれしている。脱ぎ捨てられた鎧の近くで盾と金属製の短い槍をみつけた。

これだ。これならやれる気がする。

盾を左手に、短槍を右手に持つと不思議としっくりくる。どちらも手に持つのは初めてなのに。

勇者…私が勇者として覚醒したから?多分そうに違いない。
死んだってすぐに生き返るのなら何度でも害獣を叩き殺せる。

「ルミ…」
「レイアさん、私は勇者になったみたいです。死んでも生き返るから大丈夫、今から村にいる害獣を全て駆除しますからお姉さんを見ていてください」

レイアさんは引き留めようとするけど私は振り返らない。通りを逆方向に歩き始めた。

ーーーーー

少し歩いたら奴らはいた。
殺した村人達から身に付けていたものを奪い取っている所だった。

「なんだぁ?女が歩いてくるぞ」
「向こうには小隊長がいた筈だが…おい、あの女が持っている盾、小隊長の物だぞ」
「コイツ…タダじゃおかねえ」

ただでは置かないのはこちらの方だ。

相手は3匹。今度は鎧を着ているが今ならやれる気がする。

得物は3匹とも長剣。私は死んでも生き返る。死ぬ前にこの3匹は必ず始末する。

奴らは剣を振りかぶりにじり寄ってくる。

隙だらけだ。私は一番右の奴に狙いをつけて間合いを詰めると短槍を突き出す。
避けようとしているが遅い。喉に穂先を突き刺してすぐに引き抜く。傷口をを押さえながらのたうち回っているがトドメは刺さない。

すぐ隣の奴が剣を振り下ろしてくるが盾で弾き返すして槍を一閃。鎧に防がれたけど後ろに大きく吹き飛ばした。

何故だか分からないけど短槍と盾の扱い方がわかる。不思議な感覚だ。

最後の一匹が背後に回って剣を振り下ろしてくる。避ける事が出来ずに背中を斬られた筈だけど痛みは無い。

振り返りざまに盾を水平にしてスイングしたら鎧の胸元を切り裂いて血が吹き出す。それを蹴り飛ばしておいた。

「ひ、ひぃ…!ま、待ってくれ!」

吹き飛ばした奴は剣を捨ててはいないが命乞いを始める。

「そう言われて一度でも手を止めたのか?」

私は盾を前に構えて突進する。剣を立てて抵抗するが凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
その場には刀身が折れた剣が残されていた。

近くに転がる2匹にトドメを刺して吹き飛んでいった最後の一匹を確認すると既に息をしていなかった。
しおりを挟む
感想 1,520

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。