【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ

文字の大きさ
58 / 81
3章 スイユ編

58 あなたを追って

しおりを挟む
「アンテ城、って言ったらわかるかい?」

 フレデリク王太子が口にした名に、ノルマンは怪訝そうに頷いた。

「幽霊城、と呼ばれることもある廃城だろ? 統治者不在の地だったな」
「ああ。罪人がついに口を割ってね、そこに魔物を何度も運び込んだそうだ。その魔物は死骸がほとんどだったが、時には生きたまま、拘束魔法をかけて運び込んだこともあったそうだよ」
「で……俺にそこを調べろと言いたいんだろ?」

 そうしてフレデリクの命を受けたノルマンは、副官のステファンをはじめとした数人の騎士を伴い、アンテ城の中に足を踏み入れた。
 この長年放棄され、朽ちかけた古城にまつわる伝承はよく知られている。濃い瘴気に満ちていたのは、はるか昔のこと。
 だがこれは……。

「公爵様、これは聞いていた話と異なるようですね」

 最初にその疑念を口にしたのは、フレデリクが伴としてつけてくれた王宮魔法師だ。

「魔法師殿は、どう思ったんだ?」
「ええ……」

 ノルマンに聞かれて、その魔法師は眼鏡のフレームを中指で軽く押し上げた。

「ここには確かに、魔法の痕跡があります。しかもあの石にかけられていたのと同種の禁制魔法の。ですが……妙ですね……というより、素晴らしいです!」
「素晴らしい?」

 魔法師の予想外の答えに、ステファンがつい声を上げる。
 ノルマンもその思いもしない一言に、目を丸くした。
 魔法師はまた、眼鏡のフレームに触れた。

「ああ……誤解なきよう。私が素晴らしいと言ったのは、その禁制魔法の効力を完全に失わせるほどの浄化が精霊力によって行われた気配を感じ取れるからです。それを素晴らしいと表現したのです」

 ノルマンも不思議に思ったのは、ここに足を踏み入れて真っ先に感じた、気の乱れと残響。
 それはルキュレ鉱山で感じたのと同じだと気づいた。けれど、それとは決定的な違いも感じたのだ。一帯の空気が完全に浄化され、見えない光の粒を浴びたかのようなこの感覚――これには覚えがある。

「これほどの完璧な浄化は、並の精霊と精霊師では行えません。高位精霊と上級精霊師以外ではありえません。ですが、王室で把握している上級精霊師の方々がここの浄化にあたったという報告は聞いておりませんね」

 ノルマンにはその言葉で十分だった。
 届いた手紙に認められていた、短い謝罪と「探さないでほしい」の無情すぎる一文。

 だが、その彼女に近づいている――。

 確信を得て、胸に希望が灯った瞬間だった。

 ◆◆◆

 ベレニスがドレスを用意してくれると聞いて、少し嫌な予感はしていたのだけれど……。

「ねえ、本当にこれを着て行かないといけない?」

 大きく胸元が開き、体のラインがはっきりとわかるドレス。加えてふんだんに使われている高価なレースが、華やかさを際立たせている。
 でも、こんなドレスを今まで着たことはないし、自分で選ぶなら、絶対にありえないものだ。

「私には派手すぎると思うんだけど……それに、これでは探るどころか、目立ってしまわない?」
「何言ってるのさ。ロッテはこれから、自分がどこに行くと思ってる? 地下遊技場だよ。ここぞとばかりに毒々しく着飾ったレディばかりだから、それくらいじゃ目立たないよ。むしろ、派手じゃないほうが目立つって」

 慣れない姿の気恥ずかしさに、置かれた姿見をちらりと見ただけで顔が赤くなった。

「ベレニス、ロッテ、支度は済んだ?」

 そこへノックの音がして、アルの声がした。

「ロッテもできてるよ。さあ、エスコート、よろしくなっ!」

 ベレニスに背中を押されて、扉の外へ押し出された私は、そこに立っていたアルの姿に、目を見張った。

「アル……すごいわ、童話の中の貴公子みたい!」

 もともと端正な容姿なのは知っていたが、華やかな衣装に身を包んだアルは、生まれながらにそれを着慣れているかのような違和感のなさだ。

「ははは……ロッテにそう言ってもらえると嬉しいよ。だけど、ロッテも別人だね。すごくきれいだよ」
「え……そんな冗談言わないでよ……初めて着たから、恥ずかしいしかなくて」
「ひどいなあ、正直に言っただけなのに。自信持っていいと思うけどな」

 アルの屈託のない笑顔に、少しだけ緊張が解けた。
 そう、これはお仕事なんだから、と気分を切り替えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...