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11話 パパ、うざい
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娘に好きな人ができました。
……たぶん。
てか、絶対そう。
あんな瞳、好きな相手にしかしない。
ついに、この時が来てしまった。
いや、いつかは来ることなんだけど。
でも早くない?
数日で好きになるの?
一体、何が…。
「陽介さーーーん」
リズが向こうから駆けてきた。
「そんなに急いで、どうしたんだ?」
「お渡ししたいものが……」
膝に手をついて、肩で息をしている。
どうやら、全力疾走してきたらしい。
息を整えたリズが、俺を見て瞬きをした。
「あれ?なにやら思案顔ですね」
「いや、ちょっとな」
「悩みごとですか?よかったら聞きますよ」
「うーん、リズに話してもなぁ」
「ちょっと!意外に頼りになるんですからね!」
「そういうことじゃないんだよな…」
「悩みは誰かに話すと楽になりますから」
リズなら葵のパーティーのことも知ってるかもしれない。
ダメ元で聞いてみるか。
「うーん…じゃあ、聞いてくれるか」
「もちろんです」
「これからのご予定は?」
「教えてもらったケーキ屋、行くけど」
「じゃあ、ケーキ屋さんに向かいながら、聞きましょう!」
「ケーキ食べたいだけじゃ?」
「ドキッ」
ドキッじゃねぇ。
何も誤魔化せてないからな。
「…まぁ、行くか」
「はい!」
一歩踏み出すと、街の音が遠のいた気がした。
◇◇◇
「なるほど、葵さんに好きな人が…」
「まだ好きと決まったわけじゃないから」
「認めない気だ…」
「だって、まだ確定してないもん」
急すぎて、まだ受け入れられないだけなんだもん。
別に恋人ができるのも反対してるわけじゃないし。
……ちょっぴり寂しいだけで。
「葵さんのパーティーは、リーファさん、ガンウさん、レクスさんですね」
「よく知ってるな」
「敏腕受付は全てを把握しています!」
「全て、ねぇ」
「お相手はレクスさんっぽいんですよね?」
「たぶんな」
「レクスさんは……」
「頼む」
「天才ですね!」
「天才?」
「十歳で“剣聖”の職業、持ってますし」
「……剣聖?」
「はい、剣士の上位職です」
はい、強い。
十歳で上位職とか、チートじゃん。
前世でどんな徳を積んだんですか。
「次に“覚醒”すると勇者になります」
もう選ばれし者じゃん。
俺なんか封印されし者だよ?
手札に五枚じゃなくて、息子含めて六枚必要だからね。
難易度上がっちゃってるからね。
何が封印されてるのか知らんけど。
「最強じゃん…」
「すごいですよね」
「でもさ……なんで葵が、そんなすごいやつとパーティーを?」
「葵さんも才能ありますから、大丈夫ですよ」
「そうなの?」
「そうです!魔力もすごいですし!」
「お母さん譲りですかね?」
はいはい、お父さんから受け継がれるものは何もないですよね。
プラスが増えるくらいですか?すいませんね。
「あっ……ごめんなさい」
「謝らないで、逆に辛いから」
ケーキの甘い匂いが徐々に近づいてくる。
それを喜ぶ顔をこれまで、何度も見てきた。
──でも、いつか。
俺じゃない誰かが、用意する日が来る。
「で、渡し忘れた物って?」
「そうでした、これです」
「これは?」
「封魔の護符です」
「魔法から守ってくれる的な?」
「結界のようなイメージですね」
「もっと早くくれよ」
「すみません」
「いや、ごめん」
「使いそうな時ありました?」
「まぁ、もう──」
「もう?」
「なんでもないや」
「一回しか守ってくれませんからね、耐えれる限度もありますし…」
「まぁ、十枚もあれば足りるでしょ」
「陽介さん、面倒なことに全力で首を突っ込みそうなので」
「そんなことないです~」
「……使われないことを祈ります」
「まぁ、ありがとな」
「じゃあケーキ買いに行きましょうか!」
「お待ちかね、のな」
「それじゃあ、私が最初からケーキ目的だったみたいじゃないですか」
「そうでしょ、さっきから目輝いてるもん」
「ち、違いますよ」
「ほら、行くぞ」
「待ってくださいよー」
ドアを開くと鳴る鐘の音。
異世界のケーキ屋は、見たことないフルーツのケーキが並んでいる。
それでも、甘い匂いは変わらなくて。
それがあるだけで、まだここにいれる気がしてしまう。
◇◇◇
ケーキ、買いました。
今日は、何にもない普通の日。
だけど、こんな日があっても良いよね。
みんなで同じテーブルを囲んで、一息つけるだけで、充分じゃないか。
「お父さん、ケーキを買ってまいりました!」
「いぇーい!」
湊がテーブルの前で飛び跳ねる。
小さな拍手がリビングで弾んだ。
「早く食べよ!ねぇ、早く!」
「はいはい」
理沙がナイフを入れる。
甘い匂いが広がって、みんなの顔が自然と緩んだ。
久しぶりだな、この景色。
「じゃあ、いただきまーす」
甘っ。
美味いんだけど、一口で十分だな…。
まぁ、みんな喜んでるからいいか。
葵がフォークを持ったまま呟いた。
「ねぇ、ママ」
「なに?」
「冒険ってさ、楽しい?」
「うーん……大変なことが多いかなぁ」
「国からは出てるの?」
フォークを持つ手が止まった。
「そんな遠くに行ってないよ、今は近場だけ」
「そっか」
葵は頷くと、少し考えているみたいだった。
「“最果て”は、まだなんだ」
……ん?
ニューワード出てきた。
なんだ、めちゃくちゃ遠そうな場所は。
「最果て?」
「冒険者がいつか辿り着きたい場所」
「そんなとこ、行かなくていいだろ」
やばい、思ったより口調が強くなってしまった。
葵は一瞬だけ、こちらを見た。
少しの嫌悪感が混ざった目だった。
「どうして?」
「危ないよ」
「それだけ?」
「それだけで十分だ」
「冒険者なのに?」
「近くの魔物を倒すとか、誰かを護衛するとかでもいいだろ」
「別に、行きたいって言ってるわけじゃない」
「だったら──」
「行けたら、すごいなって思っただけ」
その言い方は、やけに落ち着いていた。
葵は俯く。
「葵は冒険者になりたいの?」
理沙が聞く。
「選べるなら、選びたい」
「そっか」
「……まぁ、まだ決めなくていいさ」
その言葉で、終わったはずだった。
でも、葵は視線を落としたまま、しばらく黙っていた。
「……じゃあ、またパパが、全部決めるんだ」
「そういう意味じゃ──」
「あたし、習い事もランドセルも、全部パパが決めたこと、許してないから」
その言葉に返す言葉が見つからない。
「……もういい」
椅子を引く音が、静寂を裂く。
「パパ、うざい」
言葉が出なかった。
「こら、葵、言いすぎ」
葵は何も言わず、背を向ける。
そのまま、足音が遠ざかっていく。
階段を上る音。
二階のドアが閉まる音。
「ケーキいらないのー!?」
理沙の声に返事はない。
「置いとくからねー」
それでも二階は静かなままだ。
湊は気にせず、フォークを動かしている。
クリームを口すくって、いっぱいに頬張った。
「うまーい!」
その声だけが明るい。
テーブルには、ほとんど手つかずのケーキが残る。
その一角が欠けているけど、崩れないまま。
今日は何にもない、普通の日のはずだった。
俺は、フォークを持つ手を止めたまま、動けずにいた。
……たぶん。
てか、絶対そう。
あんな瞳、好きな相手にしかしない。
ついに、この時が来てしまった。
いや、いつかは来ることなんだけど。
でも早くない?
数日で好きになるの?
一体、何が…。
「陽介さーーーん」
リズが向こうから駆けてきた。
「そんなに急いで、どうしたんだ?」
「お渡ししたいものが……」
膝に手をついて、肩で息をしている。
どうやら、全力疾走してきたらしい。
息を整えたリズが、俺を見て瞬きをした。
「あれ?なにやら思案顔ですね」
「いや、ちょっとな」
「悩みごとですか?よかったら聞きますよ」
「うーん、リズに話してもなぁ」
「ちょっと!意外に頼りになるんですからね!」
「そういうことじゃないんだよな…」
「悩みは誰かに話すと楽になりますから」
リズなら葵のパーティーのことも知ってるかもしれない。
ダメ元で聞いてみるか。
「うーん…じゃあ、聞いてくれるか」
「もちろんです」
「これからのご予定は?」
「教えてもらったケーキ屋、行くけど」
「じゃあ、ケーキ屋さんに向かいながら、聞きましょう!」
「ケーキ食べたいだけじゃ?」
「ドキッ」
ドキッじゃねぇ。
何も誤魔化せてないからな。
「…まぁ、行くか」
「はい!」
一歩踏み出すと、街の音が遠のいた気がした。
◇◇◇
「なるほど、葵さんに好きな人が…」
「まだ好きと決まったわけじゃないから」
「認めない気だ…」
「だって、まだ確定してないもん」
急すぎて、まだ受け入れられないだけなんだもん。
別に恋人ができるのも反対してるわけじゃないし。
……ちょっぴり寂しいだけで。
「葵さんのパーティーは、リーファさん、ガンウさん、レクスさんですね」
「よく知ってるな」
「敏腕受付は全てを把握しています!」
「全て、ねぇ」
「お相手はレクスさんっぽいんですよね?」
「たぶんな」
「レクスさんは……」
「頼む」
「天才ですね!」
「天才?」
「十歳で“剣聖”の職業、持ってますし」
「……剣聖?」
「はい、剣士の上位職です」
はい、強い。
十歳で上位職とか、チートじゃん。
前世でどんな徳を積んだんですか。
「次に“覚醒”すると勇者になります」
もう選ばれし者じゃん。
俺なんか封印されし者だよ?
手札に五枚じゃなくて、息子含めて六枚必要だからね。
難易度上がっちゃってるからね。
何が封印されてるのか知らんけど。
「最強じゃん…」
「すごいですよね」
「でもさ……なんで葵が、そんなすごいやつとパーティーを?」
「葵さんも才能ありますから、大丈夫ですよ」
「そうなの?」
「そうです!魔力もすごいですし!」
「お母さん譲りですかね?」
はいはい、お父さんから受け継がれるものは何もないですよね。
プラスが増えるくらいですか?すいませんね。
「あっ……ごめんなさい」
「謝らないで、逆に辛いから」
ケーキの甘い匂いが徐々に近づいてくる。
それを喜ぶ顔をこれまで、何度も見てきた。
──でも、いつか。
俺じゃない誰かが、用意する日が来る。
「で、渡し忘れた物って?」
「そうでした、これです」
「これは?」
「封魔の護符です」
「魔法から守ってくれる的な?」
「結界のようなイメージですね」
「もっと早くくれよ」
「すみません」
「いや、ごめん」
「使いそうな時ありました?」
「まぁ、もう──」
「もう?」
「なんでもないや」
「一回しか守ってくれませんからね、耐えれる限度もありますし…」
「まぁ、十枚もあれば足りるでしょ」
「陽介さん、面倒なことに全力で首を突っ込みそうなので」
「そんなことないです~」
「……使われないことを祈ります」
「まぁ、ありがとな」
「じゃあケーキ買いに行きましょうか!」
「お待ちかね、のな」
「それじゃあ、私が最初からケーキ目的だったみたいじゃないですか」
「そうでしょ、さっきから目輝いてるもん」
「ち、違いますよ」
「ほら、行くぞ」
「待ってくださいよー」
ドアを開くと鳴る鐘の音。
異世界のケーキ屋は、見たことないフルーツのケーキが並んでいる。
それでも、甘い匂いは変わらなくて。
それがあるだけで、まだここにいれる気がしてしまう。
◇◇◇
ケーキ、買いました。
今日は、何にもない普通の日。
だけど、こんな日があっても良いよね。
みんなで同じテーブルを囲んで、一息つけるだけで、充分じゃないか。
「お父さん、ケーキを買ってまいりました!」
「いぇーい!」
湊がテーブルの前で飛び跳ねる。
小さな拍手がリビングで弾んだ。
「早く食べよ!ねぇ、早く!」
「はいはい」
理沙がナイフを入れる。
甘い匂いが広がって、みんなの顔が自然と緩んだ。
久しぶりだな、この景色。
「じゃあ、いただきまーす」
甘っ。
美味いんだけど、一口で十分だな…。
まぁ、みんな喜んでるからいいか。
葵がフォークを持ったまま呟いた。
「ねぇ、ママ」
「なに?」
「冒険ってさ、楽しい?」
「うーん……大変なことが多いかなぁ」
「国からは出てるの?」
フォークを持つ手が止まった。
「そんな遠くに行ってないよ、今は近場だけ」
「そっか」
葵は頷くと、少し考えているみたいだった。
「“最果て”は、まだなんだ」
……ん?
ニューワード出てきた。
なんだ、めちゃくちゃ遠そうな場所は。
「最果て?」
「冒険者がいつか辿り着きたい場所」
「そんなとこ、行かなくていいだろ」
やばい、思ったより口調が強くなってしまった。
葵は一瞬だけ、こちらを見た。
少しの嫌悪感が混ざった目だった。
「どうして?」
「危ないよ」
「それだけ?」
「それだけで十分だ」
「冒険者なのに?」
「近くの魔物を倒すとか、誰かを護衛するとかでもいいだろ」
「別に、行きたいって言ってるわけじゃない」
「だったら──」
「行けたら、すごいなって思っただけ」
その言い方は、やけに落ち着いていた。
葵は俯く。
「葵は冒険者になりたいの?」
理沙が聞く。
「選べるなら、選びたい」
「そっか」
「……まぁ、まだ決めなくていいさ」
その言葉で、終わったはずだった。
でも、葵は視線を落としたまま、しばらく黙っていた。
「……じゃあ、またパパが、全部決めるんだ」
「そういう意味じゃ──」
「あたし、習い事もランドセルも、全部パパが決めたこと、許してないから」
その言葉に返す言葉が見つからない。
「……もういい」
椅子を引く音が、静寂を裂く。
「パパ、うざい」
言葉が出なかった。
「こら、葵、言いすぎ」
葵は何も言わず、背を向ける。
そのまま、足音が遠ざかっていく。
階段を上る音。
二階のドアが閉まる音。
「ケーキいらないのー!?」
理沙の声に返事はない。
「置いとくからねー」
それでも二階は静かなままだ。
湊は気にせず、フォークを動かしている。
クリームを口すくって、いっぱいに頬張った。
「うまーい!」
その声だけが明るい。
テーブルには、ほとんど手つかずのケーキが残る。
その一角が欠けているけど、崩れないまま。
今日は何にもない、普通の日のはずだった。
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