家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕

文字の大きさ
13 / 16

13話 お父さん、人間のまま強くなりたい。

しおりを挟む
子どもの成長を実感した時、親はどう感じるのか。

俺は、涙が止まらなくなるタイプです。


みなさん、葵の戦い、見ました?
最後の一閃、ずるくね?



震えたね。


歩いてるだけなのに、視界がやたらとぼやける。


きっと、この数日で、この世界で生きる術を必死に学んだんだろう。




強いよ。
ほんと、強くなった。



さすが、我が子。



俺、もういらないやん。



理沙も葵も強い。
大きくなれば、湊や希だって、きっとすごい力を手にするはずだ。


確かに俺には、職業なんていらないのかもしれない。


でも、だからこそ、いざという時、誰かを守れる力が欲しい。

もし、みんなの心が折れる時があったとして、立ち尽くしたまま、何もできないのは、嫌だ。



そんな決意を胸に、俺の学校へ向かった。

石畳の通りを抜ける風がやけに冷たい。
さっきまでの熱が嘘みたいに削ぎ落とされていく。


葵が守った世界は、すでに日常に戻っていた。


──その途中だった。


「ちょっと、アンタ」

この声は、なんだか偉そうなあいつ。

足を止めると、白い壁に寄りかかる赤い髪。

「マリィ、どうしたんだ?」

「約束よ」

マリィは俺の腕を強引に引こうとする。

「こっちに来なさい」

「何すんだよ」

「それ、見せるって言ったでしょ」


マリィが指差したのはベビーカー。

見せる約束、してたな。
ほぼ強制だけど。


「悪い、俺、学校に……」

「無駄だから、来なさい」

なんだよ、無駄って。
どういう意味だ。

本当に自分勝手、親の顔が見てみたいわ。



抵抗も虚しく、異質な白を纏う研究所へ引きずり込まれてしまった。


石造りの通路を進む。
奥に進むにつれて、音が死んでいく。


一番奥の部屋。
そこがマリィの研究室だった。

中に人の気配はない。

机の上には、たくさんの本。
積まれているというより、放り出されている。

開いたままのページ。
書きかけのメモ。
よくわからない器具。

椅子も引かれたまま、戻されていない。



あるのは、思考の痕跡。



「じゃあ、見せてもらえるかしら?」

「希、寝てるし、やだよ」

「抱っこしたらいいでしょ、ほら」

そう言いながら、もう腕を伸ばしている。

意外にも希を抱く所作は優しかった。



「壊すなよ」

返事はない。

ベビーカーの隅から隅まで視線を走らせる。

一通り観察を終えると、次には車輪を外そうとしていた。

「おい、分解するな」

手首を掴んで止めた。

マリィは一瞬だけ、こっちを見て舌打ちをした。


いや、人の物は分解しないだろ、普通。


「この素材は?」

「プラスチック」

「ぷらすちっく?」

「人が作った素材だな」

「マッドクラブの甲殻に似てる」

魔物なんだろう。
響き的には、カニ系か。

「素材から作るなんて、考えたこともなかった」

マリィは唇を噛み締めた。
視線は落ちたまま、しばらく動かない。

頭の中で、何かを構築している。
そんな沈黙だ。


俺は、その空気を邪魔しないように、少し間を置いた。

「なぁ──」

そして、ずっと思考の隅にあった発想をぶつけた。


「無職でも戦えるようになる方法ってないか?」

「ないわよ」

即答だった。

「武器に魔法を組み込むとか」

「無理」

「難しいのか?」

「魔法の武器への応用は禁止されてるわ」


禁止、ねぇ。
じゃあ、作れるには作れるんだ。


「なぁ、マリィ」

「なによ」


「禁忌……おかしてみたくないか?」


「嫌よ、それやった研究者、何人消えたと思ってるの」

「研究したその先に、何があるか知りたくないのか?」

マリィは唾を飲み込んだ。
机の端に視線を逸らす。



この反応は知りたいねぇ。
気になりますよね、研究者だもん。



「表向きは便利な道具を作ってることにしておくんだ、ただ……」

「ただ?」

「魔力の出力をほんの少し、高めにするだけでいい」

「すぐばれるわよ」

「いや、故意じゃない、間違ってしまうんだ」

「失敗はつきものだろ?」

「アタシ、失敗しないわよ?」

うるせぇ、失敗しろ。

「その失敗が、偉大な一歩さ」

マリィは、ほんの一瞬だけ笑った。

楽しい、じゃない。
危険に踏み込むような、好奇心を抑えられないような、そんな表情。



「それに、金もある」

金貨を二枚、ちらつかせてみた。

「こんな大金、どうしたのよ!?」

「……王、だ」

「王って国王?」

「ああ、俺の後ろには国王がいる」

「どうして?」

「それは、俺が、異なる者だからだ」

異なる者って、なに?
テキトーに話してるけど、変に説得力あるのが自分でも不思議。


マリィは何も言わない。

ただ、金貨を一枚だけ取り上げ、じっと眺めている。

「……この重さ」

それ以上は言わなかった。



「これだけの金があれば、好きに研究できるんじゃないか?」

「そう、だけど……」

「誰もやったことない研究ができる、滅多にないチャンスだぞ?惹かれないか?」


好奇心を抑えられないだろ?

知的好奇心に抗える研究者など、存在しないのだ。



マリィは何も言わず、研究室の鍵をかけ直した。

金属の軽い音がして、この部屋だけが世界から切り離される。



「……いいわよ、作ってあげる」

マリィは本の山を崩すように模造紙を引き抜いた。

ペンを掴むと、躊躇なく一本の線を引く。


──計画通り。


「そんなに言うってことは、条件も考えてるわよね?」

条件?何の?

「あ、当たり前だろ」

「じゃあ、魔力の位相はどうする?」

魔力の位相?
初耳というか、その言葉が示す方向性がわからない。

どうすると、どうなるのか。
皆目見当もつきません。

だけど、この選択がすごく重要なことだけは、伝わってくる。

知ってる体の方が良いの?
それとも、正直に言うべき?

でも、なんか怒りそうじゃん。

「どうするって聞いてんの」


ええい、どうにでもなれ。


「……正相で」

マリィは返事を聞くより先に、すでに次の式を書いていた。

「妥当ね」

当てずっぽうで答えたけど、妥当なんだ。

マリィは何かの式を書き始めた。

「共鳴核は?」

核。
パソコンでいうコア数みたいなこと?

「二重型に決まってるだろ」

「それが無難」

なんか、通じたぞ。

無難って、どの辺が無難なんだ。

「でも、できれば、四重とか八重とか……」

「死ぬ気?」

「やっぱ二重で」

え、死ぬの?
二重も大丈夫なのかよ。

シングルにしとくべきなのか?


「魔力術式はどうする?」

術式は……展開するしかなくね?

「それはあれだろ、展開して、ざばっといきたいよね」

マリィは術式の記述を進める。


「あと魔力圧縮率は?」

「極限まで高めてくれ」

高めた方がいいの?低い方がいいの?

どうなるか誰か教えてください。

「最後に、起動条件は?」

「……俺の、意思だ」

だって、なんか、かっこいいだろ。

マリィは静かにペンを置いた。

「欠損が心配だけど……なんとかなるか」

欠損って上手く発動しないとか、そういうことだよね?
体がどうこうするわけじゃないよね?

体だったら、流石に言うよな。

「……アンタ、意外に分かってるのね」

何にも分かってないよ。
何が出来上がるのか、すでに心配。


めっちゃ怖い。


「その代わり、体は鍛えておきなさいよ」

「分かった」

「まぁ、体が吹き飛ぶくらい、分かってるか」

体だー。
欠損って体持っていかれるってことじゃん。

“真理”に触れてしまうやつじゃん。

研究してた人が消えたって、消されたんじゃなくて爆散したってことかよ。

「順番に、じゃないわよ」

体が吹き飛ぶ順番ってなに。

ふざけんなよ、このマッドサイエンティスト。



「本当に、作っていいのね?」



ふと落ちた静寂。

マリィは念を押すように、じっと俺を見る。
その目は冗談も逃げ道も許さない色をしていた。

きっと最終確認だ。
完成してしまったら、後戻りはできない。

……今なら、まだ引き返せる。
やっぱやめとく、でなかったことにできるかもしれない。


でも、意識の奥に、ずっと居座っているものがある。



あの日、理沙と交わした約束。
忘れたことなんて、一度もない。



逃げる理由はいくらでも作れる。
だけど、逃げない理由は、これ一つで十分だった。


「頼む」


これで、もう戻れない。



それでも。
あの約束から逃げるより、ずっとマシだ。


「囚われてる顔ね」

図星だった。

「じゃあ、後戻りはなしよ」



引き返さない覚悟だけは、もう決まってる。



これが俺の“選択”だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...