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13話 お父さん、人間のまま強くなりたい。
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子どもの成長を実感した時、親はどう感じるのか。
俺は、涙が止まらなくなるタイプです。
みなさん、葵の戦い、見ました?
最後の一閃、ずるくね?
震えたね。
歩いてるだけなのに、視界がやたらとぼやける。
きっと、この数日で、この世界で生きる術を必死に学んだんだろう。
強いよ。
ほんと、強くなった。
さすが、我が子。
俺、もういらないやん。
理沙も葵も強い。
大きくなれば、湊や希だって、きっとすごい力を手にするはずだ。
確かに俺には、職業なんていらないのかもしれない。
でも、だからこそ、いざという時、誰かを守れる力が欲しい。
もし、みんなの心が折れる時があったとして、立ち尽くしたまま、何もできないのは、嫌だ。
そんな決意を胸に、俺の学校へ向かった。
石畳の通りを抜ける風がやけに冷たい。
さっきまでの熱が嘘みたいに削ぎ落とされていく。
葵が守った世界は、すでに日常に戻っていた。
──その途中だった。
「ちょっと、アンタ」
この声は、なんだか偉そうなあいつ。
足を止めると、白い壁に寄りかかる赤い髪。
「マリィ、どうしたんだ?」
「約束よ」
マリィは俺の腕を強引に引こうとする。
「こっちに来なさい」
「何すんだよ」
「それ、見せるって言ったでしょ」
マリィが指差したのはベビーカー。
見せる約束、してたな。
ほぼ強制だけど。
「悪い、俺、学校に……」
「無駄だから、来なさい」
なんだよ、無駄って。
どういう意味だ。
本当に自分勝手、親の顔が見てみたいわ。
抵抗も虚しく、異質な白を纏う研究所へ引きずり込まれてしまった。
石造りの通路を進む。
奥に進むにつれて、音が死んでいく。
一番奥の部屋。
そこがマリィの研究室だった。
中に人の気配はない。
机の上には、たくさんの本。
積まれているというより、放り出されている。
開いたままのページ。
書きかけのメモ。
よくわからない器具。
椅子も引かれたまま、戻されていない。
あるのは、思考の痕跡。
「じゃあ、見せてもらえるかしら?」
「希、寝てるし、やだよ」
「抱っこしたらいいでしょ、ほら」
そう言いながら、もう腕を伸ばしている。
意外にも希を抱く所作は優しかった。
「壊すなよ」
返事はない。
ベビーカーの隅から隅まで視線を走らせる。
一通り観察を終えると、次には車輪を外そうとしていた。
「おい、分解するな」
手首を掴んで止めた。
マリィは一瞬だけ、こっちを見て舌打ちをした。
いや、人の物は分解しないだろ、普通。
「この素材は?」
「プラスチック」
「ぷらすちっく?」
「人が作った素材だな」
「マッドクラブの甲殻に似てる」
魔物なんだろう。
響き的には、カニ系か。
「素材から作るなんて、考えたこともなかった」
マリィは唇を噛み締めた。
視線は落ちたまま、しばらく動かない。
頭の中で、何かを構築している。
そんな沈黙だ。
俺は、その空気を邪魔しないように、少し間を置いた。
「なぁ──」
そして、ずっと思考の隅にあった発想をぶつけた。
「無職でも戦えるようになる方法ってないか?」
「ないわよ」
即答だった。
「武器に魔法を組み込むとか」
「無理」
「難しいのか?」
「魔法の武器への応用は禁止されてるわ」
禁止、ねぇ。
じゃあ、作れるには作れるんだ。
「なぁ、マリィ」
「なによ」
「禁忌……おかしてみたくないか?」
「嫌よ、それやった研究者、何人消えたと思ってるの」
「研究したその先に、何があるか知りたくないのか?」
マリィは唾を飲み込んだ。
机の端に視線を逸らす。
この反応は知りたいねぇ。
気になりますよね、研究者だもん。
「表向きは便利な道具を作ってることにしておくんだ、ただ……」
「ただ?」
「魔力の出力をほんの少し、高めにするだけでいい」
「すぐばれるわよ」
「いや、故意じゃない、間違ってしまうんだ」
「失敗はつきものだろ?」
「アタシ、失敗しないわよ?」
うるせぇ、失敗しろ。
「その失敗が、偉大な一歩さ」
マリィは、ほんの一瞬だけ笑った。
楽しい、じゃない。
危険に踏み込むような、好奇心を抑えられないような、そんな表情。
「それに、金もある」
金貨を二枚、ちらつかせてみた。
「こんな大金、どうしたのよ!?」
「……王、だ」
「王って国王?」
「ああ、俺の後ろには国王がいる」
「どうして?」
「それは、俺が、異なる者だからだ」
異なる者って、なに?
テキトーに話してるけど、変に説得力あるのが自分でも不思議。
マリィは何も言わない。
ただ、金貨を一枚だけ取り上げ、じっと眺めている。
「……この重さ」
それ以上は言わなかった。
「これだけの金があれば、好きに研究できるんじゃないか?」
「そう、だけど……」
「誰もやったことない研究ができる、滅多にないチャンスだぞ?惹かれないか?」
好奇心を抑えられないだろ?
知的好奇心に抗える研究者など、存在しないのだ。
マリィは何も言わず、研究室の鍵をかけ直した。
金属の軽い音がして、この部屋だけが世界から切り離される。
「……いいわよ、作ってあげる」
マリィは本の山を崩すように模造紙を引き抜いた。
ペンを掴むと、躊躇なく一本の線を引く。
──計画通り。
「そんなに言うってことは、条件も考えてるわよね?」
条件?何の?
「あ、当たり前だろ」
「じゃあ、魔力の位相はどうする?」
魔力の位相?
初耳というか、その言葉が示す方向性がわからない。
どうすると、どうなるのか。
皆目見当もつきません。
だけど、この選択がすごく重要なことだけは、伝わってくる。
知ってる体の方が良いの?
それとも、正直に言うべき?
でも、なんか怒りそうじゃん。
「どうするって聞いてんの」
ええい、どうにでもなれ。
「……正相で」
マリィは返事を聞くより先に、すでに次の式を書いていた。
「妥当ね」
当てずっぽうで答えたけど、妥当なんだ。
マリィは何かの式を書き始めた。
「共鳴核は?」
核。
パソコンでいうコア数みたいなこと?
「二重型に決まってるだろ」
「それが無難」
なんか、通じたぞ。
無難って、どの辺が無難なんだ。
「でも、できれば、四重とか八重とか……」
「死ぬ気?」
「やっぱ二重で」
え、死ぬの?
二重も大丈夫なのかよ。
シングルにしとくべきなのか?
「魔力術式はどうする?」
術式は……展開するしかなくね?
「それはあれだろ、展開して、ざばっといきたいよね」
マリィは術式の記述を進める。
「あと魔力圧縮率は?」
「極限まで高めてくれ」
高めた方がいいの?低い方がいいの?
どうなるか誰か教えてください。
「最後に、起動条件は?」
「……俺の、意思だ」
だって、なんか、かっこいいだろ。
マリィは静かにペンを置いた。
「欠損が心配だけど……なんとかなるか」
欠損って上手く発動しないとか、そういうことだよね?
体がどうこうするわけじゃないよね?
体だったら、流石に言うよな。
「……アンタ、意外に分かってるのね」
何にも分かってないよ。
何が出来上がるのか、すでに心配。
めっちゃ怖い。
「その代わり、体は鍛えておきなさいよ」
「分かった」
「まぁ、体が吹き飛ぶくらい、分かってるか」
体だー。
欠損って体持っていかれるってことじゃん。
“真理”に触れてしまうやつじゃん。
研究してた人が消えたって、消されたんじゃなくて爆散したってことかよ。
「順番に、じゃないわよ」
体が吹き飛ぶ順番ってなに。
ふざけんなよ、このマッドサイエンティスト。
「本当に、作っていいのね?」
ふと落ちた静寂。
マリィは念を押すように、じっと俺を見る。
その目は冗談も逃げ道も許さない色をしていた。
きっと最終確認だ。
完成してしまったら、後戻りはできない。
……今なら、まだ引き返せる。
やっぱやめとく、でなかったことにできるかもしれない。
でも、意識の奥に、ずっと居座っているものがある。
あの日、理沙と交わした約束。
忘れたことなんて、一度もない。
逃げる理由はいくらでも作れる。
だけど、逃げない理由は、これ一つで十分だった。
「頼む」
これで、もう戻れない。
それでも。
あの約束から逃げるより、ずっとマシだ。
「囚われてる顔ね」
図星だった。
「じゃあ、後戻りはなしよ」
引き返さない覚悟だけは、もう決まってる。
これが俺の“選択”だ。
俺は、涙が止まらなくなるタイプです。
みなさん、葵の戦い、見ました?
最後の一閃、ずるくね?
震えたね。
歩いてるだけなのに、視界がやたらとぼやける。
きっと、この数日で、この世界で生きる術を必死に学んだんだろう。
強いよ。
ほんと、強くなった。
さすが、我が子。
俺、もういらないやん。
理沙も葵も強い。
大きくなれば、湊や希だって、きっとすごい力を手にするはずだ。
確かに俺には、職業なんていらないのかもしれない。
でも、だからこそ、いざという時、誰かを守れる力が欲しい。
もし、みんなの心が折れる時があったとして、立ち尽くしたまま、何もできないのは、嫌だ。
そんな決意を胸に、俺の学校へ向かった。
石畳の通りを抜ける風がやけに冷たい。
さっきまでの熱が嘘みたいに削ぎ落とされていく。
葵が守った世界は、すでに日常に戻っていた。
──その途中だった。
「ちょっと、アンタ」
この声は、なんだか偉そうなあいつ。
足を止めると、白い壁に寄りかかる赤い髪。
「マリィ、どうしたんだ?」
「約束よ」
マリィは俺の腕を強引に引こうとする。
「こっちに来なさい」
「何すんだよ」
「それ、見せるって言ったでしょ」
マリィが指差したのはベビーカー。
見せる約束、してたな。
ほぼ強制だけど。
「悪い、俺、学校に……」
「無駄だから、来なさい」
なんだよ、無駄って。
どういう意味だ。
本当に自分勝手、親の顔が見てみたいわ。
抵抗も虚しく、異質な白を纏う研究所へ引きずり込まれてしまった。
石造りの通路を進む。
奥に進むにつれて、音が死んでいく。
一番奥の部屋。
そこがマリィの研究室だった。
中に人の気配はない。
机の上には、たくさんの本。
積まれているというより、放り出されている。
開いたままのページ。
書きかけのメモ。
よくわからない器具。
椅子も引かれたまま、戻されていない。
あるのは、思考の痕跡。
「じゃあ、見せてもらえるかしら?」
「希、寝てるし、やだよ」
「抱っこしたらいいでしょ、ほら」
そう言いながら、もう腕を伸ばしている。
意外にも希を抱く所作は優しかった。
「壊すなよ」
返事はない。
ベビーカーの隅から隅まで視線を走らせる。
一通り観察を終えると、次には車輪を外そうとしていた。
「おい、分解するな」
手首を掴んで止めた。
マリィは一瞬だけ、こっちを見て舌打ちをした。
いや、人の物は分解しないだろ、普通。
「この素材は?」
「プラスチック」
「ぷらすちっく?」
「人が作った素材だな」
「マッドクラブの甲殻に似てる」
魔物なんだろう。
響き的には、カニ系か。
「素材から作るなんて、考えたこともなかった」
マリィは唇を噛み締めた。
視線は落ちたまま、しばらく動かない。
頭の中で、何かを構築している。
そんな沈黙だ。
俺は、その空気を邪魔しないように、少し間を置いた。
「なぁ──」
そして、ずっと思考の隅にあった発想をぶつけた。
「無職でも戦えるようになる方法ってないか?」
「ないわよ」
即答だった。
「武器に魔法を組み込むとか」
「無理」
「難しいのか?」
「魔法の武器への応用は禁止されてるわ」
禁止、ねぇ。
じゃあ、作れるには作れるんだ。
「なぁ、マリィ」
「なによ」
「禁忌……おかしてみたくないか?」
「嫌よ、それやった研究者、何人消えたと思ってるの」
「研究したその先に、何があるか知りたくないのか?」
マリィは唾を飲み込んだ。
机の端に視線を逸らす。
この反応は知りたいねぇ。
気になりますよね、研究者だもん。
「表向きは便利な道具を作ってることにしておくんだ、ただ……」
「ただ?」
「魔力の出力をほんの少し、高めにするだけでいい」
「すぐばれるわよ」
「いや、故意じゃない、間違ってしまうんだ」
「失敗はつきものだろ?」
「アタシ、失敗しないわよ?」
うるせぇ、失敗しろ。
「その失敗が、偉大な一歩さ」
マリィは、ほんの一瞬だけ笑った。
楽しい、じゃない。
危険に踏み込むような、好奇心を抑えられないような、そんな表情。
「それに、金もある」
金貨を二枚、ちらつかせてみた。
「こんな大金、どうしたのよ!?」
「……王、だ」
「王って国王?」
「ああ、俺の後ろには国王がいる」
「どうして?」
「それは、俺が、異なる者だからだ」
異なる者って、なに?
テキトーに話してるけど、変に説得力あるのが自分でも不思議。
マリィは何も言わない。
ただ、金貨を一枚だけ取り上げ、じっと眺めている。
「……この重さ」
それ以上は言わなかった。
「これだけの金があれば、好きに研究できるんじゃないか?」
「そう、だけど……」
「誰もやったことない研究ができる、滅多にないチャンスだぞ?惹かれないか?」
好奇心を抑えられないだろ?
知的好奇心に抗える研究者など、存在しないのだ。
マリィは何も言わず、研究室の鍵をかけ直した。
金属の軽い音がして、この部屋だけが世界から切り離される。
「……いいわよ、作ってあげる」
マリィは本の山を崩すように模造紙を引き抜いた。
ペンを掴むと、躊躇なく一本の線を引く。
──計画通り。
「そんなに言うってことは、条件も考えてるわよね?」
条件?何の?
「あ、当たり前だろ」
「じゃあ、魔力の位相はどうする?」
魔力の位相?
初耳というか、その言葉が示す方向性がわからない。
どうすると、どうなるのか。
皆目見当もつきません。
だけど、この選択がすごく重要なことだけは、伝わってくる。
知ってる体の方が良いの?
それとも、正直に言うべき?
でも、なんか怒りそうじゃん。
「どうするって聞いてんの」
ええい、どうにでもなれ。
「……正相で」
マリィは返事を聞くより先に、すでに次の式を書いていた。
「妥当ね」
当てずっぽうで答えたけど、妥当なんだ。
マリィは何かの式を書き始めた。
「共鳴核は?」
核。
パソコンでいうコア数みたいなこと?
「二重型に決まってるだろ」
「それが無難」
なんか、通じたぞ。
無難って、どの辺が無難なんだ。
「でも、できれば、四重とか八重とか……」
「死ぬ気?」
「やっぱ二重で」
え、死ぬの?
二重も大丈夫なのかよ。
シングルにしとくべきなのか?
「魔力術式はどうする?」
術式は……展開するしかなくね?
「それはあれだろ、展開して、ざばっといきたいよね」
マリィは術式の記述を進める。
「あと魔力圧縮率は?」
「極限まで高めてくれ」
高めた方がいいの?低い方がいいの?
どうなるか誰か教えてください。
「最後に、起動条件は?」
「……俺の、意思だ」
だって、なんか、かっこいいだろ。
マリィは静かにペンを置いた。
「欠損が心配だけど……なんとかなるか」
欠損って上手く発動しないとか、そういうことだよね?
体がどうこうするわけじゃないよね?
体だったら、流石に言うよな。
「……アンタ、意外に分かってるのね」
何にも分かってないよ。
何が出来上がるのか、すでに心配。
めっちゃ怖い。
「その代わり、体は鍛えておきなさいよ」
「分かった」
「まぁ、体が吹き飛ぶくらい、分かってるか」
体だー。
欠損って体持っていかれるってことじゃん。
“真理”に触れてしまうやつじゃん。
研究してた人が消えたって、消されたんじゃなくて爆散したってことかよ。
「順番に、じゃないわよ」
体が吹き飛ぶ順番ってなに。
ふざけんなよ、このマッドサイエンティスト。
「本当に、作っていいのね?」
ふと落ちた静寂。
マリィは念を押すように、じっと俺を見る。
その目は冗談も逃げ道も許さない色をしていた。
きっと最終確認だ。
完成してしまったら、後戻りはできない。
……今なら、まだ引き返せる。
やっぱやめとく、でなかったことにできるかもしれない。
でも、意識の奥に、ずっと居座っているものがある。
あの日、理沙と交わした約束。
忘れたことなんて、一度もない。
逃げる理由はいくらでも作れる。
だけど、逃げない理由は、これ一つで十分だった。
「頼む」
これで、もう戻れない。
それでも。
あの約束から逃げるより、ずっとマシだ。
「囚われてる顔ね」
図星だった。
「じゃあ、後戻りはなしよ」
引き返さない覚悟だけは、もう決まってる。
これが俺の“選択”だ。
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