最後の大太刀 ―柳生左門友矩―

いわん

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其之九:左門の帰郷

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柳生の里の山門で、左門を出迎える柳生又十郎宗冬。事実上の「柳生の庄」の責任者であった。
「お勤め、ご苦労様でした。事情は伺っております。十分に静養してください」又十郎は言った。
「何を他人行儀な。これまで通りで良いのじゃ、又十郎」左門が答えた。左門と又十郎は母親は違えど、同い年の兄弟であった。幼少の頃から、互いに気の置けない相手であった。
「……そうか。であれば、左門。今は無理をせず、ゆっくりと病を治して、また将軍家に仕える準備を頼みますぞ」
「いや、もう、江戸に戻る気はない。あの世界は、私には合わん。政での権謀術数は父上に任せるよ」
「おやおや、これは親不孝な」又十郎は笑った。「我ら兄弟の中で、政に最も向いているのは、左門、おぬしだと思ったのだがな」
「又十郎の方が得意に見えるが?」
「わしの才では、この柳生の里で手一杯でござるよ。江戸になど詣でたくもない」又十郎は笑って答えた。

「左門」又十郎の背後から、女性の声が聞こえた。「お帰りなさい」
それは、幼馴染のお栄だった。あの頃と変わらない笑顔で左門を見つめていた。その胸には赤子を抱いていた。左門は、それで全てを察した。自分の唯一の想いが絶たれたことを。
「……お栄さん……お久しぶりです」
左門は、落胆する気持ちを表に出すことなく、お栄に向かって微笑んで見せた。江戸で身につけたこの所作に、この時ばかりは左門は感謝した。

長旅の疲れか、お栄の事実を知ったことによる疲労からか、左門の病状は悪化した。
帰郷早々、倒れるように左門は寝込んでしまった。食事も喉を通らない。
――帰ってみれば、あの人は、もう、私の手の届かない人になっていたか……
横になり、天井を見ながら、左門はそんなことを思うのだった。
――江戸での七年は、私にとって、一体、なんだったのだろうな……
左門は、やりきれない虚しさを感じていた。
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