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✦ 書かれた物語 ― 選択 ―
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※この章は作中作です。
読んだあとで、同じ場面が違って見えます。
本編だけでも追えます。
本編は第十話から再開します。
『ルビー・イモータル、時を奪われる前に』
✦✦✦ 選ばせるために ――ゼット
初めて刻砂の儀を見てから、三年が過ぎた。
ゼットは、アンセルには何も言わずに動いていた。
表の立場を保ったまま、ルビーを逃がす道を探っていた。
知られれば、叱責では済まない。
その覚悟は、すでにあった。
声をかける相手は限られていた。
王都に潜んでいた、国外から来た仲間たちだ。
刻砂の儀を見たのは、自分だけだ。
信じるかどうかは、相手に委ねた。
応じるかどうかも、同じだった。
三度目の刻砂の儀が終わった夜、ゼットは検閲のために本を読んでいた。
その中で、一冊だけ違和感を覚えるものを見つけた。
古い本だった。
だが、その古さに見合う傷みがなかった。
保存のための術が使われている。
それだけは、確かだった。
こうした術を使えるのはイモータル家の人間だけだ。
題名は、『泣いた子と砂の王国』だった。
言い伝えでしか知らなかったその本を、ゼットが実際に目にするのは、これが初めてだった。
独断で扱っていい類の本ではない。
ゼットは、その一冊を抱え、アンセルの部屋へ向かった。
彼女は、それを受け取った。
指先で頁をなぞり、しばらく黙っていた。
「まだ、残っていたのね」
そう言って、本を閉じた。
「ルビーは、泣いていないでしょう」
問いではなかった。
アンセルは、砂時計の子に施している情動抑制の術について話した。
感情の振れ幅を抑え、涙に至るまでを遠ざけるものだということ。
それが、いまも続けられている選択だということ。
そのやり方は、儀式も制度も定まる以前から続いている。
そして、その始まりにいたのが、アンセルの姉だった。
この人は、苦しみながら、ここにいる。
だからこそ、積み上げてきた計画を、いま明かした。
アンセルは、すぐには何も言わなかった。
その計画が、この家に何をもたらすかは、分かっていた。
それでも、否定はしなかった。
「……手を貸すわ」
「その代わり、ルビーに本を読ませて」
ルビーが、自分で真実に辿り着けるか。
辿り着いた上で、それでも選ぶか。
アンセルが知りたがったのは、その一点だった。
「刻砂の儀の日、王都巡行に紛れなさい。その日は、私の側の護衛を減らすわ」
巡行には、ゼット以外にも目がある。
遠巻きに見張る者たちだ。
アンセルは、指輪を自分の指から外した。
ルビーを逃しても、また次の砂時計の子が生まれる。
そのことは、アンセルには最初から見えていた。
指輪は、遥か昔から、アンセルの手によって幾度も試されてきた。
意味も告げぬまま、一度だけルビーの指にも通した。
だが、何も起きなかった。
寿命を持っていても、永遠の中心にいるかぎり、永遠を拒むことはできない。
アンセルは、そう考えるようになっていた。
それでも、可能性を捨てきれなかった。
永遠の外に出たルビーが、自ら拒むなら――
そのとき、指輪は応えるかもしれない。
「ルビーが外を選んだなら、その手に渡して」
ゼットは、祖先の手記を思い出していた。
「外には、拒むべき永遠そのものがない――祖先は、そう考えていたようです」
アンセルは首を振った。
「砂時計の子だけは、外に出てもなお、永遠と向き合い続ける。そういう気がしてならないの」
指輪が、ゼットの前に差し出された。
ゼットは、受け取った指輪の重さを確かめるように、掌を閉じた。
次の刻砂の儀までは、もう近い。
その日までに、道筋をすべて整える。
与えられた運命の中で生きるか、国の外へ出るか。
選ぶのは、ルビーだ。
読んだあとで、同じ場面が違って見えます。
本編だけでも追えます。
本編は第十話から再開します。
『ルビー・イモータル、時を奪われる前に』
✦✦✦ 選ばせるために ――ゼット
初めて刻砂の儀を見てから、三年が過ぎた。
ゼットは、アンセルには何も言わずに動いていた。
表の立場を保ったまま、ルビーを逃がす道を探っていた。
知られれば、叱責では済まない。
その覚悟は、すでにあった。
声をかける相手は限られていた。
王都に潜んでいた、国外から来た仲間たちだ。
刻砂の儀を見たのは、自分だけだ。
信じるかどうかは、相手に委ねた。
応じるかどうかも、同じだった。
三度目の刻砂の儀が終わった夜、ゼットは検閲のために本を読んでいた。
その中で、一冊だけ違和感を覚えるものを見つけた。
古い本だった。
だが、その古さに見合う傷みがなかった。
保存のための術が使われている。
それだけは、確かだった。
こうした術を使えるのはイモータル家の人間だけだ。
題名は、『泣いた子と砂の王国』だった。
言い伝えでしか知らなかったその本を、ゼットが実際に目にするのは、これが初めてだった。
独断で扱っていい類の本ではない。
ゼットは、その一冊を抱え、アンセルの部屋へ向かった。
彼女は、それを受け取った。
指先で頁をなぞり、しばらく黙っていた。
「まだ、残っていたのね」
そう言って、本を閉じた。
「ルビーは、泣いていないでしょう」
問いではなかった。
アンセルは、砂時計の子に施している情動抑制の術について話した。
感情の振れ幅を抑え、涙に至るまでを遠ざけるものだということ。
それが、いまも続けられている選択だということ。
そのやり方は、儀式も制度も定まる以前から続いている。
そして、その始まりにいたのが、アンセルの姉だった。
この人は、苦しみながら、ここにいる。
だからこそ、積み上げてきた計画を、いま明かした。
アンセルは、すぐには何も言わなかった。
その計画が、この家に何をもたらすかは、分かっていた。
それでも、否定はしなかった。
「……手を貸すわ」
「その代わり、ルビーに本を読ませて」
ルビーが、自分で真実に辿り着けるか。
辿り着いた上で、それでも選ぶか。
アンセルが知りたがったのは、その一点だった。
「刻砂の儀の日、王都巡行に紛れなさい。その日は、私の側の護衛を減らすわ」
巡行には、ゼット以外にも目がある。
遠巻きに見張る者たちだ。
アンセルは、指輪を自分の指から外した。
ルビーを逃しても、また次の砂時計の子が生まれる。
そのことは、アンセルには最初から見えていた。
指輪は、遥か昔から、アンセルの手によって幾度も試されてきた。
意味も告げぬまま、一度だけルビーの指にも通した。
だが、何も起きなかった。
寿命を持っていても、永遠の中心にいるかぎり、永遠を拒むことはできない。
アンセルは、そう考えるようになっていた。
それでも、可能性を捨てきれなかった。
永遠の外に出たルビーが、自ら拒むなら――
そのとき、指輪は応えるかもしれない。
「ルビーが外を選んだなら、その手に渡して」
ゼットは、祖先の手記を思い出していた。
「外には、拒むべき永遠そのものがない――祖先は、そう考えていたようです」
アンセルは首を振った。
「砂時計の子だけは、外に出てもなお、永遠と向き合い続ける。そういう気がしてならないの」
指輪が、ゼットの前に差し出された。
ゼットは、受け取った指輪の重さを確かめるように、掌を閉じた。
次の刻砂の儀までは、もう近い。
その日までに、道筋をすべて整える。
与えられた運命の中で生きるか、国の外へ出るか。
選ぶのは、ルビーだ。
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