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第一章 大迷宮クレバス
プロローグ
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「こんなのは間違っている……!!」
薄暗い部屋の中で一人の老人が悔しそうに呟く。
「こんなモノが魔法の発展に役立つはずがないッ!」
老人は筒状の道具らしき物を忌々しげに掴み、無造作に部屋の片隅に投げ捨てる。
それによって部屋中に積み重なった蔵書の山の一部が激しい音を立てて崩れ落ちるが老人はそれを気にした様子もない。
「なぜあいつらも俺の話を聞いてくれないんだ……」
数少ない『友』と呼べる彼らの顔を思い浮かべ、老人は怒りに染っていた表情を段々と悲しみに変えていく。
男は世界最強の魔法使いだった。
気がついたらそう呼ばれていた。
男はただ自身の魔法を我武者羅に研鑽してきただけだった。
ただ我武者羅に、気が狂ったかのように。
世界のほとんどの人間が彼を理解できなかった。
誰もが彼を尊敬すると共に恐れた。
故に男に恋人や家族と言った類のものは存在しなかった。
いつしか男は暗い洞窟に自分の研究室を作り、そこに閉じこもって魔法の研鑽をするようになった。
男は次第に他人と関わることをやめたのだ。
そんな男にも唯一『友』と呼べる七人の同志がいた。
互いに切磋琢磨し、より良い魔法の発展を願った。
しかし同じ志を持ったと思っていた友たちにも今男は裏切られた気分だった。
魔導具。
それが全ての元凶だった。
誰もが才能など関係なく、自由に魔法を使えるようになる道具。
男はこの道具に酷く懐疑的だった。
別に、誰もが自由に魔法を使えるようになるのが嫌だとかそういう訳では無い。それ自体はとても素晴らしいことだと男も思っていた。
しかし男はこの『魔導具』という存在を認識した時、根本的に何か大事なものを失ってしまうような気がしたのだ。
その直感を話したところで友たちに理解はされなかった。
だから男は自分の直感が正しかったと証明したかった。
「……ゔッ……ゴホッゴホッ……!! 時間が足りない……」
だが男は年老いたせいか、その時間が十分にはなかった。
「未来に託す他ないか……」
まだ男にはやらねばいけないことが山ほどある。
「成功するかは分からないがやらないよりはマシだ」
男は自分で作り上げた魔法陣をみて呟く。
それは不可能だと言われ続けていた『転生魔法』の魔法陣だった。
自身の記憶と魔法の適正、能力を引き継いで新しい命として生まれ変わる。
それは魔法使い……いや、意思のある生き物ならば誰もが一度は夢見る魔法。
男はその魔法陣を我流で編み出したのだ。
「理論上はこの構築で間違いないはずだ。俺の影魔法ならこの秘術をも可能にできる……!」
成功する確証なんてない、むしろ失敗する可能性の方が高い。
それでも男は転生してまでも自分の直感を証明したかった。
「後悔はない……」
男は机の上にある一つの短剣を手に取る。
「絶対にこんなものは間違っている……!」
男はその短剣の剣先を自身の向けると、一思いに胸の中心に突き刺す。
「あ…………」
トスっ。と乾いた音ともに男は声を漏らす。
その瞬間に短剣に込められた『転生魔法』の魔法陣が起動する。
男はその事に安堵して両手で顔を覆う。
「神よ……どうか……どうか……」
普段、その存在を信じない男も今ばかりは祈るようにそう呟いた。
青白い魔法陣が輝く、薄暗い部屋で何度も、何度も祈る。
その中で段々と男の視界は黒く染まっていく。
そうして男は誰も居ない部屋で静かに息絶えた。
・
・
・
成功したのか?
次に意識が目覚めたのは闇の中だった。
やった……のか?
視界ははっきりしないが、意識があるということは転生は成功したのだろうか。
「あら~ファイクちゃんどうしたの~?」
女性の声が聞こえる。
『ファイク』それが新しい俺の名前だろうか?
「あ~ば~!」
次に赤ん坊の声が聞こえる。
ん?赤ん坊の声?どういうことだ?
今俺は声を発した覚えはないぞ?
というか起きているのならば視界が明るくなってもいいだろうに……どうなっている?
「あらら~お腹が空いたんでちゅね~。ママのおっぱい飲みまちょうね~」
……全く状況が理解できない。
俺は転生に失敗したのか?
なら、今この状況はどういうことだ?
なぜ意識や聴覚はあるのに視覚や触覚、嗅覚が無い?
薄暗い部屋の中で一人の老人が悔しそうに呟く。
「こんなモノが魔法の発展に役立つはずがないッ!」
老人は筒状の道具らしき物を忌々しげに掴み、無造作に部屋の片隅に投げ捨てる。
それによって部屋中に積み重なった蔵書の山の一部が激しい音を立てて崩れ落ちるが老人はそれを気にした様子もない。
「なぜあいつらも俺の話を聞いてくれないんだ……」
数少ない『友』と呼べる彼らの顔を思い浮かべ、老人は怒りに染っていた表情を段々と悲しみに変えていく。
男は世界最強の魔法使いだった。
気がついたらそう呼ばれていた。
男はただ自身の魔法を我武者羅に研鑽してきただけだった。
ただ我武者羅に、気が狂ったかのように。
世界のほとんどの人間が彼を理解できなかった。
誰もが彼を尊敬すると共に恐れた。
故に男に恋人や家族と言った類のものは存在しなかった。
いつしか男は暗い洞窟に自分の研究室を作り、そこに閉じこもって魔法の研鑽をするようになった。
男は次第に他人と関わることをやめたのだ。
そんな男にも唯一『友』と呼べる七人の同志がいた。
互いに切磋琢磨し、より良い魔法の発展を願った。
しかし同じ志を持ったと思っていた友たちにも今男は裏切られた気分だった。
魔導具。
それが全ての元凶だった。
誰もが才能など関係なく、自由に魔法を使えるようになる道具。
男はこの道具に酷く懐疑的だった。
別に、誰もが自由に魔法を使えるようになるのが嫌だとかそういう訳では無い。それ自体はとても素晴らしいことだと男も思っていた。
しかし男はこの『魔導具』という存在を認識した時、根本的に何か大事なものを失ってしまうような気がしたのだ。
その直感を話したところで友たちに理解はされなかった。
だから男は自分の直感が正しかったと証明したかった。
「……ゔッ……ゴホッゴホッ……!! 時間が足りない……」
だが男は年老いたせいか、その時間が十分にはなかった。
「未来に託す他ないか……」
まだ男にはやらねばいけないことが山ほどある。
「成功するかは分からないがやらないよりはマシだ」
男は自分で作り上げた魔法陣をみて呟く。
それは不可能だと言われ続けていた『転生魔法』の魔法陣だった。
自身の記憶と魔法の適正、能力を引き継いで新しい命として生まれ変わる。
それは魔法使い……いや、意思のある生き物ならば誰もが一度は夢見る魔法。
男はその魔法陣を我流で編み出したのだ。
「理論上はこの構築で間違いないはずだ。俺の影魔法ならこの秘術をも可能にできる……!」
成功する確証なんてない、むしろ失敗する可能性の方が高い。
それでも男は転生してまでも自分の直感を証明したかった。
「後悔はない……」
男は机の上にある一つの短剣を手に取る。
「絶対にこんなものは間違っている……!」
男はその短剣の剣先を自身の向けると、一思いに胸の中心に突き刺す。
「あ…………」
トスっ。と乾いた音ともに男は声を漏らす。
その瞬間に短剣に込められた『転生魔法』の魔法陣が起動する。
男はその事に安堵して両手で顔を覆う。
「神よ……どうか……どうか……」
普段、その存在を信じない男も今ばかりは祈るようにそう呟いた。
青白い魔法陣が輝く、薄暗い部屋で何度も、何度も祈る。
その中で段々と男の視界は黒く染まっていく。
そうして男は誰も居ない部屋で静かに息絶えた。
・
・
・
成功したのか?
次に意識が目覚めたのは闇の中だった。
やった……のか?
視界ははっきりしないが、意識があるということは転生は成功したのだろうか。
「あら~ファイクちゃんどうしたの~?」
女性の声が聞こえる。
『ファイク』それが新しい俺の名前だろうか?
「あ~ば~!」
次に赤ん坊の声が聞こえる。
ん?赤ん坊の声?どういうことだ?
今俺は声を発した覚えはないぞ?
というか起きているのならば視界が明るくなってもいいだろうに……どうなっている?
「あらら~お腹が空いたんでちゅね~。ママのおっぱい飲みまちょうね~」
……全く状況が理解できない。
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