調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
28 / 126
幼少編

第27話 大決断

しおりを挟む
 アリスが目覚めてから3日が経った。最初こそ全員が大号泣して状況を掴めていない彼女であったが、その後の医者の検診や状況整理によって現実が明るみになった。

 やはり、アリスの視力は〈影龍〉の呪いによって失われ、爺さんと同じように魔法まで扱えない体になってしまった。この事実にアリスは相当なショックを受けていたが、まだ6歳とは思えない胆力と精神力で毅然とした態度を取った。

『あの天災と遭遇して命があるだけ感謝です』とは彼女の言であり、本当に彼女は俺と違って強い。そんな悲しい事実確認もありながら、それでも屋敷は以前の活気を取り戻しつつあった。

「これはどこに持っていく!?」

「あれ、カンナさんは??」

「おーい、こっち手伝ってくれ!!」

 少し前までどんよりとしていた雰囲気が今では無くなりつある。両親や爺さん、使用人はもちろんのこと、俺の精神的不安はかなり緩和され、以前のような鬼気迫るほど心は焦っていなかった。

 それでも彼女の前で誓ったように、俺にはアリスと爺さんに呪いを刻んだ元凶────〈影龍〉を殺すという目的がある。それを果たすには今回のことで安堵して気を抜いている暇はなかった。本日もカンナの監視のもと一人で朝の鍛錬を終えて、食堂に向かう。その途中でアリスと鉢合わせた。

「おはよう、アリス」

「あ!おはようございます、お兄様!!」

 彼女は声のした方向から俺の位置を割り出して、身体をゆっくりと振り返らせた。

「大丈夫か?食堂まで一緒に行こう」

「ありがとうございます」

 アリスの側まで寄って彼女が転ばないように侍女に変わって手を取り、ゆっくりと食堂に向かう。その間でアリスは楽しそうに話し始める。

「聞いてくださいお兄様!」

「うん、なんだ?」

「今日の朝ですね────」

 まだ目が見えなくなったと分かってから3日、彼女は本当に頑張っている。新しい生活に慣れるための努力と、周りを心配させないために普段通りに振舞っている。

 ────本当に強い子だ。

 そんな彼女の姿を目にするたびに胸中から込み上げてくるものがある。それを何とか抑え込んで、俺も普段通りに彼女に接した。食堂へ辿り着けば既に父様と母様が席について出迎えてくれる。二人は中に入ってきたアリスを見てほっと胸をなでおろしている。

「おはようございます!」

「ああ、おはようアリス」

「おはようアリスちゃん」

 やはりと言うべきかそこに爺さんの姿はない。アリスが目を覚ましてからは一層忙しそうにしているから仕方がない。そもそも本来はそれが当たり前なのだが、今までが今までだったので違和感が凄い。

「今日も叔父様はいないのですね……」

「まあ普段からいすぎたくらいなんだけどな」

 残念そうなアリスを励まして席に着く。俺としても彼がいないのはここにきて色々と不便あった。

 ・
 ・
 ・

 そんな考えを読んだかのようにその老兵は午後の鍛錬中に突然姿を現した。

「お、今日も励んでるなレイ!!」

「この時間に顔を出すのは珍しいな……どうしたんだ爺さん?」

 素振りを止めて、俺は爺さんを見た。つい最近までは死んだ魚のように生気を感じず、やつれ具合に拍車がかかっていた爺さんであるが、ここ最近で随分と顔色は良くなり、いつもの調子に戻りつつあった。

 しかし、依然として〈影龍〉の件や騎士団がらみで忙しそうな彼はこちらの鍛錬に顔を出せていなかったのだが……今日久しぶりに姿を現した。

 ────いったい、どういう風の吹き回しなのだろうか?

 内心、疑問を抱きつつもこちらとしては色々と聞きたいことがあったのでちょうどよかった。俺は鍛錬を一旦中止して爺さんの元へと行く。すると彼は開口一番い聞き捨てならないことを宣った。

「レイよ、大事な話がある」

「なんだよ?」

「俺、騎士団辞めてきた」

「……は?」

 いつになく真剣な様子なものだから何を言うのかと身構えていると予想外の言葉が飛んできて困惑する。そんな俺の反応を見て、クソジジイは同じ言葉をもう一度言った。

「だから、俺、騎士団辞めてきた」

「はああああああああああ!!?」

 今度はその言葉の意味をしっかりと嚙み砕き、そして驚きのあまり大きな声が出てしまう。続けて俺は詰め寄った。

「辞めたって……はあ!? また、いきなり……なんで!?」

「おお、いい反応するな」

 俺の詰問を意に介さず眼前のクソジジイは呑気に笑う。面白がられていることを自覚して、俺が恨めしく半目を向けると爺さんは素直に事の顛末を語った。

「別にそんなに驚く話なんかでもない。なんなら当然ともいえる。俺はこれ以上、騎士団にいても何の役にも立たん、だから辞めてきた」

「役に立たないなんてそんなことは……」

「そんなことあるさ。自分の右腕と、魔法もまともに扱えないジジイがいつまでも騎士団の指南をするっていうのは無理だ。適任は俺以外にもいるしな────」

「……」

 説明した爺さんは納得しているみたいだが、どこか哀愁を漂わせる。この一カ月で相当な葛藤があったのは容易に察せられた。

「それにこれは以前から決めていたことなんだ。集中してやりたいこともできたしな」

「やりたいこと?」

 首を傾げると爺さんは俺を指さした。

「お前だよ、レイ。お前、あの龍を殺すつもりなんだろう? なら、師匠の俺もそれ相応の覚悟を決めなくちゃならん」

「なっ────」

 まさかの理由に驚く。爺さんに〈影龍〉のことを話した覚えはない。まるで思考を盗み見られたような気分だった。

「お前のその張り詰めた顔を見れば嫌でも分かるさ。だから俺は残りのクソみたいな生涯をかけてお前を鍛え上げると決めた」

 これはもう決定事項だと言わんばかりの爺さんの態度には懐かしさすら覚える。この爺さんはいつも「やる」と言ったら絶対にやるし、違えることはない。

 ────ほんと、いつも急なんだよ。

 騎士団を止めると言う大決断を無断で決行して、しかもその理由がなし崩し的に取った弟子の面倒を見るからなんて────

「本当に、どうかしてるぞアンタ……」

「わはは!褒めても何も出ないぞ!!」

 ────褒めてねえよ……。

 突っ込むのも億劫なので流す。何でもかんでも反応していたら気疲れしてしまう。一つ深呼吸をして気を落ち着けていると、爺さんは一転して真面目な顔つきになる。

「しかし、レイの言いたいことも分かる」

「は?」

「つまりあれだろう? なんか当然のように師匠面している俺が気に食わないのだろう?」

「いや、違────」

「分かる! 分かるぞ! 俺でも、右腕が使い物にならず終いには魔法も碌に使えないクソジジイなんかに教わることなんてないと思う!」

 何故か自身を卑下して熱弁するクソジジイ。

 ────こいつほんと人の話聞かねぇな……。

 それも今に始まったことではないのだがどうかとは思う。クソジジイはなおも言葉を続けた。

「だから、これから証明しようではないか!!」

「何を?」

「もちろん! 俺がまだまだレイより強くて、師事を仰ぐのに足る人間であるということをだ!!」

 声高らかに言い放つボケ老人。つまりこのクソジジイは何が言いたいのかと言うと────

「これから俺と決闘だ!!」

 直接戦って見極めろと言うことらしい。

「……」

 本当にこの爺さんはいつも唐突でメチャクチャすぎる。しかし、俺に拒否権はなかった。実際、気になっていたことである。

 今の俺がこの爺さんと比べて、どれほど強くなれたのか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...