剣戟世界〜悪意蔓延る地下迷宮にて奴隷サムライは最強を求め続ける〜

EAT

文字の大きさ
14 / 16

第13話 2度目の

しおりを挟む
 迷宮探索を始めてから数時間。目下、ハヤテ達の目標は下の階層、地下2階層と続く連絡通路へと辿り着くことである。

「……」

 ゆらゆらと揺れる松明の明かりは儚げで、何時それが闇に飲み込まれても可笑しくは無い。彼らは慎重に地下迷宮の探索を進めていく。

 物語や吟遊詩人が語る地下迷宮の冒険譚というのはそれはもう壮大で、さもドキドキと胸を踊らせる出来事の連続であるが、実際の冒険というのは傍から見ればとても地味に写る。

 松明や〈光源〉の奇跡がなければ周囲の様子なんて全く分からないし、迷宮に生息するモンスターは想像以上に気持ちが悪い。そしてずっと代わり映えのしない単調な風景に道が続く。かと思えば次の瞬間に死んでいても可笑しくないことが平気で起こり、それが罷り通る。

 別の意味でハラハラ、ドキドキ、生きた心地なんてしない。今のところ、モンスターとの戦闘は一回。今回は人数もいたので相当安全に立ち回ることが出来た。魔法と奇跡の温存できている。

「いやはや、あの鋭い剣技には驚いた~。ハヤテは強いんだな~」

「……どうも」

「本当にまだ二回目の冒険なんですよね?」

「……ええ」

 隊列はハヤテとフォルタが前衛、後衛をマリネシアとアイネが務める。


 先を進む中で会話は時々起こるが、直ぐにそれは途切れる。それはまだ関係値の浅い間柄ということもあるだろうが、それよりも緊張が勝っていると言った感じだ。

「……」

 普段はお喋りなマリネシアも一度迷宮に入ると随分と口数が随分と減ってしまう。
 それは以前の苦い経験がそうさせるのか、それとも真剣に向き合っているからこその集中の所為か。真意は彼女本人にしか知り得ない。

 不気味な静寂の中、先を進んでいると、突然にそれが破られる。

「※※※※※※※ッ!!」

 耳馴染むことの無い薄気味悪い声。それはモンスターのものであり、戦闘の合図であった。

「ッ───明光よルクス!」

 途端にハヤテ以外の三人の顔が強ばる。修道女───アイネの光の奇跡によって松明を持たずとも視界は良好だ。

 それでも敵の全貌をはっきりと捉えることは適わない。しかし、大まかな数と距離感は分かる。ハヤテにとってはそれだけで十分であった。

 ───識別不明のモンスターが3体……。

「さあ、今度はどんな理不尽だ?」

 無意識に笑みを浮かべていたハヤテは嬉々として影に突っ込む。それに少し遅れてフォルタが続いた。

「こ、今度は俺も戦う!」

 今までの間延びした余裕ある雰囲気は何処へやら、上擦った声をハヤテは背後に認めた。

 彼の専門は罠の看破や解呪、そして地図開拓マッピングなどと、大まかなに言ってしまえば雑用だ。本来ならば率先して戦闘に出る役柄では無いが、メンツ的にはハヤテの補助ぐらいの役は果たす必要があった。

「グルウギャッ」

「※※※※※※」

「グウギャギャ」

 ハヤテの予測通り敵は全部で4体。背後ではマリネシアが魔法の準備、そしてアイネは敵の正体を識別しようと目を懲らす。

 これは予め決めていた手筈。戦闘に入っていきなり即興で指示を出し合いながらの戦闘など新人ニュービーには不可能。ならば、最初からそれぞれのやることを限定することにした。

「やるぞ……やるぞ……!!」

「────」

 不安げなフォルタを一瞥して、ハヤテはモンスターと一足一刀の間合いに入る。暗闇に鈴の音がなった。

「グルウギャッ!?」

 次いで黒い影の首が宙を浮いた。そこでようやくそのモンスターの正体を把握する。もう何度も倒したことのある大鼠だ。

 ───聞き取れた鳴き声からして、もう一体もネズミだろう……。

「ひ、ひぃっ!!」

 ハヤテが冷静に予測を立てる中、無常に転がる生首にフォルタの情けない声がする。

 ───はやり無理強いだったか?

「……いや───」

「クソッタレがぁあ!調子に乗るなよこのネズミ!!」

「ゲギャギャっ!」

 やはり盗賊のフォルタには荷が重いかと思ったが、思いのほか良い動きでモンスターの攻撃を受け止めて引き付けている。

「上出来だ」

「グギャッ!?」

 その隙を付いて背後からハヤテはモンスターを一刺しする。そいつも大鼠だ。

 ───残るは1体。

 未だ黒い影で姿を眩ませるモンスター。警戒するようにハヤテ達との間にはそれなりに距離がある。もし、残る1体が魔法を行使できるモンスターだった場合、対処が難しいところだ。

 ───初撃で決めるならまだしも、十分すぎるほどの余裕を与えてしまった。

 もし仮に眼前のソイツが魔法の準備を完璧に整えていた場合、ハヤテにはそれに対処できる手札は無い。

「さて、どう責め崩すか……」

 勿論、ハヤテの警戒は杞憂の可能性もあるが、ここは悪意蔓延る地下迷宮だ。どんな可能性も考慮するべきだろう。

 逡巡する。しかし、結局のところハヤテの選択肢は一つだけだ。

 ───悩んでも仕方がない。どんな理不尽が来ようと望むところだ。

「ッふ───!」

「※※※※※※ッ!!」

 一気に飛び出す。それに合わせるように気味の悪い声が叫んだ。途端に目の前の闇が不自然な明るみに晒された。

「魔法です!!」

 マリネシアの声。ハヤテの予想は的中していた。眩い光に思わず目を伏せる。急激に迫る熱量、それは以前見たことのある〈小焔パルフラマ〉と同じものだ。

「……くっ!」

 反射的にハヤテは回避を試みる。しかし、完全に躱しきることは不可能。横腹がやられた。肌が焼ける不快感が彼を襲う。

 何とか受身を取って即座に体勢を立て直す。そこでようやく姿不定のモンスターを捉えることが出来た。

「───奇妙な絵面だな……って、今更か?」

 そのモンスターはボロボロに草臥れた外套そのもの。羽織る主は存在せず、ただ空を着て宙を佇む。空虚な外套は既に次の魔法を詠唱しようとしていた。

「※※※※※───」

「させるかッ!」

 痛みで疼く腹を無視してハヤテは飛び出す。フォルタは既に満身創痍、追随は無い。しかし、今度は別の方向から援護が飛んでくる。

「燃え、猛ろ───〈小焔パルフラマ〉」

 再び肌を焦がさんばかりの熱量。しかし、それはハヤテに向かうのではなく、空虚な外套へと真っ直ぐ飛んだ。

「───助かります」

 それがマリネシアが行使した魔法だと確認するまでもない。ハヤテはその火球に勝機を見出し更に疾く駆ける。

「ッ!? ※※※※※!?」

 マリネシアの魔法は予想外だったのか、空虚な外套は不安げに揺れる。即座に宙を舞って回避しようとするが、それをハヤテは許さない。

「ボロ同然の布切れだ。さぞよく燃えるだろうな」

「ッ!!?」

 回避方向に先回りし、一刀。刃は空を斬るが当たる必要は無い。

 ───締めはお嬢様に飾ってもらおう。

 マリネシア渾身の〈小焔〉は何にも拒まれる事無く、確かに空虚な外套へと直撃した。

「※※※※※※ッ!!?」

 後は呆気ないものだ。奇妙に宙を浮く外套も炎の前にはただの布切れ。その姿はよく燃えて、瞬く間に炭へと成った。

 そこで、戦闘は終了する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる
ファンタジー
 剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...