森の中で偶然魔剣を拾いました。

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9話 旅立ち

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 10分ほど2人で騒ぎまくっていただろうか、肩で息をしながら俺とシスカは椅子に座っていた。


 やばい、途中から変に興奮して後半なんてほとんど関係ないことで騒いでいたし、めっちゃ疲れた。
体は酸素を求め続け吸って吐いてを繰り返す。


「本当におめでとうレイル」
 息を整えながらシスカは口を開く。
「うん、ありがと……」
 まだ心臓がバクバクと脈打ち、息が整わない。


「そういえばなんかあんたの天職、変な名前だったのよね~」
「変な名前?剣士じゃないの?」
「うーん剣士は剣士なんだけどね、って言う名前なのよ。私小さい頃から父さんの儀式とか鑑定で色々な天職を見てきたけどそんな名前初めてなのよね~。まあ、剣士ってついてるし戦闘系の天職のはずだから大丈夫よ」
「魔剣士……か」


 まあ、そんな名前が付いてもおかしくはない……よな?アニスは普通の剣じゃないし、俺の天職が変わった理由はアニスが大きく関係してるだろうし。
 さすが魔王に作られた剣とでも言うべきか、人の天職を変えてしまうなんて聞いたことないぞ。


「なに難しそうな顔してんのよ! そんなに気にすることないわ。それより早く行った方がいいんじゃない?」
「行くってどこに?」
シスカの言葉の意図がつかめず聞き返す。


「あんたはバカか天職が変わって自分の夢が叶いそうなのよ、ステラおばさんを説得しなくていいの?」
 呆れた顔をしながらシスカは椅子から立ち上がる。
「あ!忘れてた、あの分からず屋を説得しなきゃ騎士になれない。喜んでる場合じゃない!」
 俺も椅子から立ち上がり急いでステラのところへ向かおうとする。


「そうだ、はいコレ」
 シスカはいつ書いたのか、鑑定結果の書かれた紙を教会から出る前にくれた。
「シスカ姉ありがとう!」
 シスカに礼を言って教会をあとにする。
「いいってことよ、可愛い弟のためですもの」
 満面の笑顔でシスターは少年を見送った。

 ・
 ・
 ・

 目的地へ着くとそこはまだ酷い有様だった。
 地面は抉れて畑も踏み荒らされている。近くにあった家も人が住めるものではなく。一刻も早く元の生活を取り戻すために村の人達は忙しく動き回っていた。


「手伝う前に、母さんとアニスはどこにいるんだ?」
 辺りを見渡し二人の姿を探す。
「こちらですマスター」
 すると後ろからよく通る綺麗な声が聞こえてくる。
「うお!ビックリした~。脅かさないでくれよアニス」
 驚いて後ろを向くとそこにはアニスの姿があった。


「申し訳ございません、おいたがすぎました」
 悪戯が成功した子供のようにアニスはクスクスと笑う。
「母さんは?」
「お母様ならあちらの方で畑の修復を行っております」
 アニスの手の指す方を見るとステラが凄まじい速さで鍬を動かし畑を直していた。


「やっぱり流石だな~」
「本当だぜ、同じ農民とは思えないぐらい早くて正確で素晴らしい鍬捌きだ」
「いよっ! 畑の女神様!!」
 村の人達のそんな声が聞こえてくる。


 いやいや畑の女神ってなんだよ、暴君の間違いじゃないか?
 頭の中で本人にバレれば殺されるであろうツッコミをする。


「よーし、みんな休憩だ!」
 太陽の上り具合から見て時刻は昼頃。復旧作業の指揮をしているガーディアが作業をしている人達にそう伝える。


「あらレイル、いつここに来たの?」
 ステラも高速に動かしていた鍬を止めて畑からでてきた。
「ついさっきだよ」
「そう、それでどうだったの?」
「うん、これ」
 先程シスカからもらった鑑定結果の紙をステラに見せる。


「……そう、変わってたのね」
 鑑定結果を見て落ち着いた声で言う。
「あの、母さん、俺……」
「行くって言うんでしょ?」
ステラは俺の言葉を先に当てる。
「うん……。その、いい……かな?」
「あんたの小さい頃からの夢だもの、ダメって言っても行くんでしょ? 好きにさない」
「いいの? もっとなんかこう反対とかしないの?」
 思った反応と違いあっさり許可が貰えたので変なことを聞いてしまう。


「これも神様の決めたことだもの私は何も言わないわ」
「そ、そう」
「それよりお腹減ったでしょ? お弁当作ったから食べましょう、アニスちゃんも」
「は、はい!」
 ステラは何かを誤魔化すようにアニスと一緒に休憩場所へと行ってしまう。
「………」


 その後俺も作業の手伝いをして夕日が落ち始めた頃に今日の作業は終わった。


 次の日俺は村長ラインとガーディアのところに行き王都バリアントにあるバルトメア魔法騎士学園の試験を受ける話した。ラインとガーディアは寂しそうな顔をしながら応援すると言ってくれた。
 来年の春に入学試験があるということなのでそれまでガーディアに剣術や雑学などを習うことになった。3ヶ月と時間がかなり少なかったのでガーディアの指導はとても厳しいものだったが毎日が楽しく充実していた。


 ステラとはそれから、ろくに話しておらず家の空気はどこかギクシャクしていた。


 村の復興は着々と進み年が明ける前にボロボロになっていた畑や家は元通りになり、予定よりかなり早くに作業は終わった。


 それからは剣術や雑学、アニスのおかげで魔法も使えるようになったので魔法の練習をよりいっそう頑張った。


 3ヶ月はあっという間に過ぎてゆき、気がつくと出発のときを迎えていた。


「寂しくなるの~」
 ラインが目頭に涙をためながら別れを惜しむ。


「大丈夫さこの3ヶ月、お前は見違えるように成長した向こうに行っても苦労はするだろうがやっていける!」
 ガーディアからお墨付きをもらい自信が湧く。


「あんた1人でも大丈夫? 私もついて行きましょうか!?」
 シスカが泣きながら心配してくる。


「寂しくなるなあ~」
「大丈夫、レイルならできるわ」
「レイル兄ちゃん! お土産よろしくね!!」
 村の人達と一人一人別れの挨拶をする。
「うん、頑張るよ」
 その中にステラの姿はない。


「全くどうしたのじゃステラのやつは息子の旅立ちじゃぞ!」
 ラインと村の人達がそわそわした様子でステラが来るのを待っている。


「すみません、そろそろ出発しないと……」
 御者の人が申し訳なさそうに言ってくる。
「もう少し、もう少しだけ待ってくれんか!」
 ラインが何とかステラが来る時間を稼ごうとするが。
「もういいよ爺ちゃん、別にもう会えなくなるわけじゃない」
 俺はラインを止める。


「それに試験に絶対受かるってわけじゃないしすぐ帰ってくるかもしれないんだ。こんな大勢で見送りなんてよかったのに……」
これで、はい落ちましたと帰ってくるのはかなり恥ずかしい。
「何を今からそんな弱気なことを言っておるか!! お主は絶対に受かる! 自信をもて!」
 俺の弱気な発言にラインは喝を入れる。


「あの~、そろそろ……」
 これ以上は駄目なようで御者の人が馬車に乗るように言ってくる。
「すみません、今乗ります。アニス行こう」
「はい、マスター」
「あ、これレイル!」
「行ってくるよみんな、元気で」
 別れの言葉を告げ馬車の荷車に乗り込む。御者の人が乗り込んだことを確認すると馬車はゆっくりと走り出し出発する。


 結局、何も言えなかったな……。
 胸の奥が抉られるような感覚になり今更になって後悔してきた。


「レイルーーーー!!!」
 するとそこに小さい頃から聞いてきたよく通る大きな声が聞こえてくる。
「母さん!?」
 後ろの方を見るとステラが小いさな布袋を持って走ってきていた。
「な、何してんだよ母さん!」
「これを!!」
 ステラは物凄い肩の力で小さな布袋を俺の方へと投げてくる。


「自分でやるって決めたんだ! 信念曲げずにあんたの正しいと思う道を突き進みなさい! 試験に落ちてすぐに帰ってきたらタダじゃ置かないからね!!」
 投げられた袋を受け取りなんともステラらしい激励の言葉が聞こえる。


「あんたが立派な騎士になって美味しいもの沢山食べさせてくれて、でっかい家建ててくれるの楽しみにしてるからね!!!」
 そしてどこかで聞いたことのある言葉も叫ぶ。


「っ!! クソ、覚えてたのかよ……」
 何も言わず前の方を向き投げつけられた布の袋を強く握る。
「何も言わなくてよろしいのですか?」
 アニスが聞いてくる。
「ああ、別に今生の別れってわけじゃない。それにこのまま後ろ向くと気が変わっちゃいそうだからやめとくよ」
「……そうですか」
 納得した顔でアニスも前の方をむく。


 馬車はさらにスピードを上げて村から遠ざかって行く。


「体には気をつけるんだよ!!!!」


 鼻水混じりの大きな大きな優しい声を背に俺は王都へと旅だった。
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