森の中で偶然魔剣を拾いました。

EAT

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37話 今の地点

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 強制的に昼食は終わり空腹の中、午後の実技授業を受けることになった。


 まあ、仕方ないと自分に言い聞かせて気持ちを切り替えよう。いい機会だ、これからに行けばこんなことも珍しくないだろう。


 Aクラスに与えられた専用の運動場に鉄の剣を持って向かう。
 なんでも今日は実戦形式の授業とのことで武器が必要らしい、俺はアニスがいないのでただの鉄の剣を借りてきた。


 イマイチ手に馴染まない剣に少し不満を覚える。仕方の無いことなのだが……。
 しかし今日はちょうど良かった。一応これで今日ここに来た甲斐があったというものだ。


 "起きろリュミール"
 頭の中で今日の朝から惰眠を貪る精霊の名前を呼ぶ。
 "ん?なんだい、やっと私の出番かな?"
 大きな欠伸をしながら精霊は返事をする。


 こんな感じでアニスの時と同様、口に出さずともリュミールとの会話は可能なようだ。
 アニスとはほとんどこの形での会話だったので大して違和感はなく会話することが出来る。


 "いつまでも寝てるつもりだ、サボってないで自分の仕事をしっかりしてくれよ"
 "別にサボってるつもりはないさ。ただ最近眠くてね~、これでも寝足りないほうさ"
「……」
 自信満々にまだ寝かせろと言うダメ精霊の言葉に少しイラッとくる。


 "まあまあ、そんなに怒るなよ。しっかりと仕事はするさ、安心してくれたまへ"
 腹ただしいことにリュミールがエッヘンとない胸を張る姿思い浮かぶ。
 "おい、今失礼なこと想像しただろう"
「……いいえ」
 あさっての方向を見ながら知らないふりをする。


「なんか言った相棒?」
「いや、なんでもない」
 最後の言葉が無意識に漏れたようでローグに変な顔をされる。


 "やーい、いきなり独り言言って変な顔されてやんの~、恥ずかし~"
 ……うるさい。
 駄目だ、こいつに話しかけると無駄に疲れる。


「おーし、全員揃っているな。それでは始めるか、今日もいつも通り実戦形式で対人戦の訓練を行ってもらう、各々武器は持ってきたな?」
 リュミールとの不毛なやり取りをしているとタイラスが来て授業が始まる。
 今日も、と言うことはココ最近はずっと対人戦の訓練ばかりをしていたのだろう。


「準備運動は終わっているな?それじゃあ俺が適当に対戦相手を決めて呼ぶから、呼ばれなかったやつらは少し離れて自分の番が来るまで見学な。よし、まずは………」
 説明を手短に終わらせてタイラスが適当に生徒の名前を呼ぶ。


 合同訓練から三ヶ月が経ったのだ、俺が授業に出ていなかった間でどれほどみんなの技術が上がったのかと思ったが想像以上のものだった。
 もともとレベルは高かったのだがさらに良くなっている。
 みんな平然とした顔をしているがここまでできる学生はそういないと思う。
 やはり指導者がいいと教わっている方も伸びが良くなるのだろうか。


 かなりハイレベルな戦闘を見せられて正直焦っている。
「よーし、それじゃあ次は………」
 そろそろ半分の生徒が終わっただろうか、タイラスが次の人選に悩んでいると……。
「よし、それじゃあレイルとガヨウ、次はお前達だ」
「はい!」
 俺ともう一人の生徒の名前が呼ばれて前に出る。


 今、元気な声で返事をしたガヨウという生徒は田舎出身でそれほど身分が高くなく、家もあまり裕福ではない、と色々と似ているところがあり好感の持てるやつだ。


 くせっ毛のクルクルの髪と目が隠れるほどの前髪の長さが印象的。身長は俺より少し小さいぐらい、使用する武器は槍だ。


「久しぶりの模擬戦だろうけど手加減はしないよ!」
 見た目に反して元気がよく、無駄なく槍を構える。
「お手柔らかに頼むよ……」
 苦笑いをしながら俺も剣を抜く。


「珍しいなレイル、今日は剣を借りてきたのか?」
 タイラスが俺がいつもと違う剣を使っていたので不思議な顔をして質問してくる。
「……ええ、まあちょっと入用で……」
 雑に誤魔化して目の前の相手に集中する。


「そうか……野暮なことを聞いた。気を取り直して始め!!」
 タイラスの掛け声でお互いに動き出す。


「はあああ!!」
 ガヨウはこちらが想定した速さより素早くこちらとの距離を詰めて、槍の長さを活かした俺の剣が届かない距離で鋭い突きをしてくる。


「あぶね!」
 それを間一髪でいなして反撃に移ろうとするが直ぐに次の攻撃が飛んでくる。
 攻撃をなんとか防ぎつつ、反撃の機会を伺うがガヨウは疲れた様子もなくむしろ攻撃が研ぎ澄まされ手がつけられなくなってくる。


 圧倒的に攻防は俺の劣勢だ。
 どんどん早くなっていく攻撃に防御が追いつかなくなっていく。


 前までの俺だったらなんの問題もなく対処出来ただろうが今は無理だ。
 理由は明白、やつが戦闘系の天職を持っていて、俺は天職持っていないからだ。


 天職とはそれ一つでその人の能力を何倍も変化させる。俺はリュミールと契約をしてまた魔法を使えるようになったがただそれだけの事だ、アニスのように天職を変えることもその人の能力を変化させることなんてできない。
 別にリュミールが弱いんじゃない、あいつのお陰で俺は闇魔力の力を抑えれて、光魔法も使えるようになった。ただアニスと言う魔剣が異質過ぎたのだ。


 今の俺はこのクラスで最弱はもちろんのこと、この学園で一番下に位置するGクラスの生徒達にも歯が立たないだろう。今の俺は農民だった頃より確実に弱い。


 しかしそんなこと最初から解っていた。解ってはいたがやはりしっかりと確認をしておかなくてはいけないことだ。
 この身に受け止めておく必要があった。


 そうだ、俺は弱い。
 少し、誰かの力を借りて良い気になっていただけなの未熟者だ。


 今だってそうだ、俺は一人じゃあ立つことすらできない、それほど弱いのだ。


 それでも俺は決めたのだ、彼女アニスを助けるために地獄へ赴くと。


 ここで立ち止まっていたら、いくら時間があって足りない!!


「……ふっ!」
 止めどない槍の連撃の中に無理やり剣を薙いでガヨウを大きく後ろに仰け反らせる。
「リュミール……」
 小さく石の中にいる精霊を呼ぶ。
 "全く、君は随分とめんどくさい性格なんだね"
 俺の声に精霊は呆れたように反応する。


「そうだな、そうかもしれない。でもそれが俺だ」
 何だかおかしくなってきて腹から笑いが溢れてくる。
「な、何がおかしいんだ!!」
 俺の突然の笑い声にガヨウは不審な顔をする。


「クソっ!馬鹿にするなよ!!」
 自分が馬鹿にされたのだと勘違いしたのだろうガヨウは怒気のこもった声で激しく突進してくる。
 "あーあ、君がふざけるから彼が怒ったじゃないか"
「うん、悪いことをしたな」
 頭を掻きながら反省する。


 "ほら、このままじゃあ君死ぬよ?何もしなくていいのかい?"
 何が来ても任せろと言わんばかりに精霊は自信満々にどうするか聞いてくる。
「お前との初陣で早速死ぬのは困るな~。まあ、色々とあったがこれから宜しく頼むよ相棒二号」
 "君がそんなに素直だとなんだか調子が狂うな……まあいいさ、君の行く末を見せてもらおうじゃないか!!"
 頼もしくリュミールは答えて、俺の体に光の粒子が集まってくる。


 今、俺はどんな顔をしているだろうか。
 きっとこんなに笑ったのはいつぶりかと思うぐらいに頬が釣り上がっているだろう。


 こんなに楽しいと、気分が高揚しているのが胸の奥から感じる。


 この感覚はあの時に似ている。
 よく、母さんと父さんに毎日のように自分の夢を語っていたあの時に……。


 今まで俺はそんな大事なことさえ忘れていたのだ、全く進歩がない。修行が足りていない証拠だ。


 まあ切り替えて行こうか、ここからが新しい出発点だ。
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