森の中で偶然魔剣を拾いました。

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67話 剣術大会本戦第四回戦

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「なるほどお前か」

「……何がだよ?」

 後ろから低い頭に響く声が聞こえてくる。

 振り返って声の主を確認するとそこには今ラミアと戦っていた、深くフードを被りいまいち表情の掴めないベルゴがいた。

 こいつ、さっきラミアと何か話してたよな?なんかラミアの様子も変だったし……。

「あんた、ラミアと何を話してたんだよ?」

「お前に教える必要があるのか?」

 挑発するようにフードを深く被った男は素直に教えてはくれない。

「今戻ってきた時と、さっきあんたと戦ってる時ラミアの様子が変だった。アンタが何か変なことラミアに言ったんじゃないか?」

 色々とさっきの戦いは気になるところがあった。

 ラミアは調子が悪そうだったし、降参の時も体を震わせてとてもおびえたようだった。
 短剣を首元に当てられていた時に何か言われたのではないだろうか?

「そうだな、簡単に教えるのもつまらない。もしお前が勝ち上がって俺と戦うことになったら教えてやる」

 考えるふりをしてベルゴは言う。

「つまらないってお前、ふざけたこと……!!」

「そろそろ出番なじゃないか? お前が戦えるのを楽しみにしてるぜ、王子様」

 言葉を遮り、俺を欺くかのように強く背中を押してくる。

「おい! まだ話は……」

「それでは第四回戦に参りたいと思います!」

 直ぐに外から実況の声が聞こえてきて話は強制終了させられる。

「さて、四回戦は茨のナタリー対レイルという組み合わせです! レイルはナタリーのに耐えることは出来るのでしょうか!? それでは入場です!!」

「アレ?」

 実況が気になることを言い残して入場となる。

 大きい歓声が聞こえてくるが今までのものと少し違う。

「ナタリー!!」

「結婚してくれー!!」

「今日も綺麗だな!!」

「おい小僧、ナタリーを傷つけたら許さねぇぞ!!」

 大体の男の観客どもがナタリーにそんな暑い声援を送り何とも俺の肩身が狭く感じる。

「うふふ、ありがとみんな!」

 ナタリーは波打つ長い紫髪をかきあげなげながら笑顔で声援に答えている。

 "マスター、あの女を殺りましょう"

 わざとらしく男どもに可愛らしく手を振りながら媚を売るナタリーを見てアニスの声が少し暗くなっていく。

 "穏やかじゃないねアニス"

 少し引き気味なリュミールの意見に同意だ。

 位置についていつも通り中段にアニスを構える。

 ナタリーは無数の棘がついた鋼の鞭を波のようにしならせてこちらに微笑みかける。

 "とりあえず人が沢山いるし魔弾は使わないようにしよう。リュミールはいつも通り回復と錯乱、アニスは魔法の援護よろしく頼む"

 あまり魔弾は人目につけたくないので今回は滅多なことがない限り封印する、外したりしたら危ないし。

 "お任せ下さい"

 "りょうかーい"

 二人に役割を確認したところで銅鑼が鳴るのを待つ。

「騎神祭剣術大会本戦第四回戦、開始致します!!」

 銅鑼が鳴り試合が始まる。

 まずは真正面から切り込んでみるか。

 トンっ、と地面を軽く蹴って一瞬でナタリーとの距離を詰める。

 そのままナタリーの左肩から袈裟斬りをする……はずだった。

 しかし………。

「きゃああああああああ! やめてええええ!!」

「え?」

 ナタリーの甲高い悲鳴が聞こえてピタリと俺は動きを止めてしまう。

 その一連の流れを見ていた男達は俺に罵詈雑言を浴びせてくる。

 "おい、罠だ!!"

 そこで俺は一瞬の隙を作ってしまう。

「フッ……」

 ナタリーは俺を馬鹿にしたように鼻で笑うと鋼の鞭を近距離で打ち付けてくる。

「うぐっ!」

 勢いをつけて飛んでくる鞭は腹を抉りとるかのように襲い掛かり、同時に大きく距離を取ったナタリーは器用に鞭を操り茨の鞭を俺の右腿に巻き付ける。

「馬鹿ね! やっぱり子供は簡単に引っかかってくれるからいいわぁ!」

「出ました! ナタリーの十八番、騙し討ちです! 男性はナタリーの悲鳴を聞くと咄嗟に動きを止めてしまいそれに漬け込んで攻撃をするという何ともずる賢い作戦です! でも可愛いから許せる!!」

 実況の熱い説明が入る。いや許せねえよ。

「いったっ……」

 鞭を引っ張りさらに俺の足を締め付ける。

「この鞭は特別な鉱石で作られる鋼をふんだんに使用したもの、剣で鞭を斬ることは不可能よ!!」

 "大丈夫ですかマスター!? ……あの糞女!"

 怒りでアニスの歯が軋む音が聞こえてくる。

 うん……心配してくれるのは嬉しいんだけどその汚い言葉使いは辞めような?

 "ほんとに君は甘いよな~"

 "……すみませんねリュミールさん。回復をしてもらっていいですか"

 言い返すことも出来ないのでここは素直に認めるしかない。

 "はいはーい"

 軽い返事が聞こえてきて、右腿に光魔力の粒子が集まっていき痛みが少しづつ引いていく。

「さあこれでおしまいよ!! 我が炎は全てを射抜く………」

 鞭で俺の動きを制限して魔法でトドメを刺すつもりか。

 "マスター、魔法ですか? 超振動ですか? それとも魔弾ですか?"

 アニスの声からはひたすらに怒りが感じられる。

 "いやさっき魔弾は使わないっていたよね?
……まあ超振動は悪くないな"

 詠唱が終わる前に引き金を引いて刃が音速に振動する。

 硬い金属で作られたこの鞭も超振動の加わった剣の前では無力。

 以前悪魔の腕を斬り落としたことで威力は実証済み、簡単に鞭は斬れ右腿が開放される。

「え? ちょっまって、なんで斬れるの!!?」

 まさか自慢の鞭が切られるとは思わなかったナタリーは間抜けな声を上げて詠唱を途中で止める。

「あ、あははは、じょ、冗談よ冗談! ナタリーお姉さんがそんな酷いことするわけないじゃない!!」

 素早い手の平返し、さっきまでの威勢は何処へやらといった感じでナタリーは両手を出して俺を制してくる。

 あそこまでやっといてそれは無いでしょ……。

 その図太さに呆れを通り越して関心さえ覚える。

 "…………殺っちゃいましょうマスター"

 "殺したら失格なんだよな~"

 言葉の端々が怖いですよアニスさん。

「えっと、降参します?」

 とりあえずナタリーに剣先を向けて確認をしてみる。

「はい! 負けを認め………」

 良かった、どうやら負けを認めてくれるようだ、鞭を地面に落として……。

「認めるわけないでしょうが!!」

 大人しく鞭を手放し降参したかと思いきや、意地汚くナタリーはまたも俺が油断したところを狙って、予備で腰に携えていた短剣を構えて懐に飛び込んでくる。

「いやいや、殺気駄々漏れですよ」

 しかし、二度も同じ手は食わない。

 ナタリーから殺気を感じ取り軽く短剣をアニスで弾く。

 カラン、と短剣が地面に落ちる乾いた音がする。

「で、続けます?」

「ま、負けました!!」

 もう一度確認してみるとナタリーは土下座までして直ぐさま負けを認めた。

「決まりましたー! 第四回戦はレイルの勝利です!!」

 銅鑼が響いて試合終了を告げる。

 何とも見どころのない盛り上がりにかける試合になった。

 ナタリーは負けて悔しかったのか、はたまた同情を誘うための演技か号泣する。

 それを見た男性観客からの声援ではなくとてつもない避難の声を浴びながら俺はテントの中に戻っていく。

 "アハハハハハハ! 勝ったのに野次られてやんの!!"

 いつもの如くリュミールは楽しそうに笑っている。
 ……なんか最近こんなのばっかりな気がする。

「これで全ての初戦が終了しました! 少しの休憩を挟んで準決勝の方に移りたいと思います。皆様しばしお待ちください!!」

 実況の案内で休憩へと入る。

 勝ち上がったのはこの四人。
 タイラス、アラトリアム、ベルゴ、俺。
 順番で行くとタイラス対アラトリアム、ベルゴ対俺の順番で準決勝は行われる。

 空を見上げると陽は完全に落ちかけようとしていた。
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