ボーイミーツメイト

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約束

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「生徒会の...、って、またお前だけか」
白いカーテン越しに差し込んでくる、昨日よりも少し弱い日光が、石膏やカラフルな雑巾を謙虚に照らしていた。絵になりそうな背景を台無しにする、安っぽいゲーム音。
「また借り物?…今いい所だから、ちょっと待ってよ」
「ゲーム如きで生徒会長を待たせるなよ。そもそも校則でスマホ利用は禁止になって」
「ああもう、うるさいなあ。パワハラやめろよ。あと少しで終わるからさ」
そう話しながらも彼の指は忙しなく動いていて、止まる気配がない。横打ちのホチキスを借りたいだけなのに。
「なあ、ここにいて暑くないのか?」
部屋の入口にかかっている温度計を見ると30℃近い目盛りを示している。実際に数値で見てしまうと、いても立ってられなくなり、俺は思わず机に寝そべった。金属部分がひんやりと心地良い。
「ははは、会長、スライムみたい」
「いいからさっさとゲーム終わらせろよ、あと役職で呼ぶな」
彼は再び視線をスマホの画面に落とした。返事をするか否かは、彼の気まぐれらしい。
「なあ、ゲームなんかして楽しい?」
そんな俺の問いに
「そっちこそ生徒会なんか入って楽しいの?」
と眉ひとつ動かさず機械的に答える彼。
「生徒会は…手段だよ」
「なんの」
「友達を作るための」
彼の眉が少し動いた。
「別に生徒会に入らなくても、友達は作れるだろ」
不思議そうに彼は言う。ゲームをしながら会話をしているのに、きちんと内容は聞いているらしい。
「でも肩書きがあった方が名前は広まるし、広い関係が築きやすい」
少し間が空いた。ゲームのクリア音が響いて、古川がこちらを見る。
「効率がいいってこと?」
「その通り」
再び沈黙が流れ、扇風機の乾いた羽音だけが鳴り響く。満たされない、とでも言うように。
「そんな薄っぺらい友情、必要ある?」
ずっと考え続けていた事を呆気なく言葉にされて、俺は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。古川の方を見ると、意地悪く口角をあげている。
「...分からない。けど、一人にはなりたくない」
そういうと彼は軽蔑するような目で僕を見つめ、けれど少し嬉しそうな表情をした。
「古川はいるの?深い友情で繋がれた親友」
まぁいないだろうけど。と付け加える。
「は…?なにそれ、普通に失礼で草」
「いないんだ?」
古川がぐっと言葉に詰まって、今度は俺がにやりと笑う。さっきと立場が逆転して、何だか楽しくなってきた。
「俺は作れないんじゃなくて、作らないんだよ」
ほんの少しの怒りを交えて放つ声が、それが虚勢であることを教えてくれる。本人も嘘だという自覚があるのだろう、満足気な俺を見て苦々しい顔をした。
「なあ、親友ってなんだと思う?」
「俺に分かるわけないだろ」
俺が聞かせておくれとばかりに頬杖をついて微笑んでいると、彼は嫌々少し考えて、
「気兼ねなく、なんでも言える人の事じゃないかな」
と呟いた。
「ふうん」
...最後に気兼ねなく会話をしたのはいつだったか。その時、ふと妙案が降りてきた。俺は思わず起き上がった。
「その理論でいくなら、俺たち親友ってことだよな」
世紀の大発見をしたような顔で、俺がお互いを指差すと、彼は目を丸くした。
「は?いやいや、冗談きついよ。阿呆か」
「気兼ねなく阿呆とか言うじゃないか」
「違う違う。待ってくれよ、なんで俺なんだよ」
冷静に跳ね除けようとしていたのに、俺がずいと押すと、彼は分かりやすく慌て出した。
「だってほら、気が合うんだ。俺分かるんだよな、そういうの」
「お前、何か借りに来たんじゃなかったのか」
押しても押しても彼は否定してきて、俺の素晴らしい立案は通る見込みが薄くなってきた。
「お前はそのままでいいのか?親友も恋人も家族も無く、一生一人で生きて行くのか?引きこもりの廃人と化すのか?」
「か、関係ないだろ俺の未来は...」
「いつも一緒にいるゲーマー達と話してて、虚しくなる時あるだろ。顔に出てるんだよ」
「え、嘘」
「うん、嘘。お前楽しいフリは上手いよな。俺と話す時もしてくれていいのに」
「からかうなよ...」
「友情なんか環境が変わればすぐに壊れる。関係が深いほど嫉妬したり腹が立ったり、面倒なだけだ」
「相手に踏み込んで傷つくくらいなら、最初から踏み込まないのが一番だろ。僕はもう人を信用しないって決めてるんだよ」
「それじゃあ契約しよう、俺と。とりあえず卒業するまでは、お互いの親友であること」
「…それ親友って言うのか」
「仕方ないだろ、もう俺、付き合い以外のコミュニケーションも親友の始め方も分からなくなってるし。それにお前も、契約って形なら安心じゃん」
「そういうことじゃ...。ああ嫌だ、どうして僕の身にばかり面倒事が降りかかるんだ」
心底嫌そうな顔で、わざとらしく俺から離れる。
「じゃあ、よろしく」
変な顔で微笑んでも、彼は返事をしなかった。
明日学食行くから、お前も来いよ。そう言っても、もう言葉が返って来ることは無かった。
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