上 下
35 / 93
3,呪術系バトルドッジボール!!編

3-3「呪術系バトルドッヂボール」後編

しおりを挟む
「もう俺達はチームが揃っているぜ」

 そう言ったのは、ワイルドヘアーの黒栖 漣季だ。
 気づけば漣季の周りには九人の生徒が集まっていた。
 勝ちへの嗅覚に優れた者達は、漣季を選んだ様だ。
 勇ましく、筋骨が発達した者ばかりである。

 振り返った慎之介の前には、桃眞と春平を除き、体の線が細い生徒や背の低い生徒ばかり。
 呪術学科の生徒は二十人なので、この時点でチーム分けは終わっていた。

「じゃあこれでチームは完成だな」と言った慎之介を前に、漣季が嘲笑う。

「ヘへッ。降参しても良いんだぜ。頭の良いお前なら一目瞭然だろ。個の力のレベルがそもそも違うんだ。お前達に勝目はねぇよ」

 桃眞が慎之介の横に並んだ。

「いや。勝目なら十分にあるさ」と鋭い目付きで漣季に言った。

「何だと?」
「俺はお前に勝ったんだぜ。怪伐隊の試験でさ。それも圧倒的に」

 その言葉を聞いた漣季は怒り、顔を真っ赤にして歪ませる。

「くっ……だ、黙れ。四課がぁ。参課に向かって偉そうな態度を取るんじゃねぇッ!!」と吐き捨てる。

「前から言おうと思っとったんやけどなぁ。おどれお前、兄貴に頼んで不正に参課に上げてもろた貰ったんとちゃうんやろな? なんで負けたおどれが参課で、勝った鬼束が四課やねん?」

 そう言いながら春平が前に出る。

「知らねぇよ。試験官がそう評価したんだ。文句があるなら試験官に直接言えばいい。それにお前が勝ったのはマグレだ。実力では俺の方が遥かに上だ」と、漣季は春平の顔から桃眞へと視線を移し、人差し指を突きつけた。

「マグレも実力の内だろ。お前のその人を見下したような態度が隙を生んだんだよ」
「黙れゴミクズの一般人がッ!! 今度やったら俺が絶対に勝つ!!」
「面白いね。やれるモンならやってみろよ。また返り討ちに合わせてやらぁ。四課を舐めんなよッ」


 二つのチームの間に橘が割って入る。

「もうその辺にしてさっさと帝を決めろ。お前達の因縁の話しはもう…………ヒーッヒーッヒーッ……」



「こっちは既に決まっている。俺だ」と漣季が挙手した。

 話し合いは無くとも、阿吽の呼吸の如く漣季のチームメンバーが頷く。

 それを聞いた慎之介が、「じゃあこっちも決めないとな」と言った時、桃眞と春平が同時に挙手した。

「はいッ!!」「はいはいッ!!」

 二人の声が重なり、向かい合い、そして睨み合う。

「何だよお前? 俺はアイツと戦わなくちゃならねぇんだよ」
「何ぬかしとんねん言ってるんだ。ワシにもたまには花を持たせんかい。櫻子ちゃんにエエとこ見せるチャンスやろがい」
「お前は根拠が下心しかねぇじゃねぇか」
「おどれもしょーもないくだらない子供の喧嘩みたいな理由とちゃうんかい?」
「何だとッ!?」
「何やねんッ!?」

 桃眞と春平のいがみ合いを前に、深い溜息をついた慎之介はすっと挙手した。

「はい。俺が帝をします」

 唐突な慎之介の言葉に、思考停止した桃眞と春平が固まり、「え?」と言う言葉が重なる。

「おどれ……何勝手な事してくれてんねん?」

 放心状態から先に訊ねたのは春平だ。

「今のお前達じゃ帝は任せられない。さっきから自分の事ばかりだ。残りのメンバーは帝の為に壁となり守るんだ。ちょっとは頭を冷やせ」

 慎之介の冷静な言葉に、二人は言葉を飲み込んだ。

「帝は陰陽師の事を思い。陰陽師は帝の事を思う。その関係性が無ければ黒栖のチームには百パーセント勝てない」

「だったら、慎之介は俺達から思われる帝に値するってのか?」と桃眞がひねくれた様子で訊ねる。

「さぁな。でもお前らよりはマシだし。総合的に状況を判断した結果、俺であるべきだと判断した」

 残りのメンバーが慎之介の言葉を聞いて頷いた。
 自分達以外のメンバーの総意を得られては反論のしようがない。
 桃眞と春平は強く握っていた拳を解いた。



「ほな。だれが外野の鬼をするんや」と春平が慎之介に訊ねる。

「鬼束だ」

 感情が籠る事も無く、冷淡な言葉が慎之介の口から発せられた。
 言葉を失う桃眞の横にいた春平も流石に驚く。

「正気かいな? 一応コイツも戦力やで。ワシより遥かに劣るけどなぁ」

「…………遥かには余計だろ」と桃眞が突っ込む。

「その首飾りをしてちゃ、まともに術を使う事もままならんだろ」と慎之介が言った。

「だから、外して戦うさ」
「何分持つ? せいぜい五分程だろ? その後はどうする気だ?」

 慎之介の言葉を聞いて桃眞がニヤニヤと笑みを浮かべる。
 眉を潜め、怪訝な表情をした慎之介に、桃眞は両手を突き出し指を七本立てた。

「七分持つようになったぜ」
「……そうか」
「なんだよ。もっと驚けよ」
「まだまだ質問が来そうだから、先に言ってやる。先生が言ってたが、漣季チームと戦って勝ったら次は女子チームとの連戦になる。つまり、お前のその力を温存しておく事が俺の考えだ」

「ワシらにとったら女子なんて楽勝やろ」と、春平が短パンの腰の位置を調整しながら言った。

「だったらお前は、櫻子相手にボールが投げられるのか?」
「…………ム……ッ……無理や。プレゼントしてしまう……。いや、むしろワシが向こうに寝返るかも知らんッ」

 慎之介は女子チームを眺めながら分析を始める。

「言っておくが、恐らく法力値の平均スコアで考えた場合。女子チームがトップだ」
「嘘だろ?」

 桃眞が驚く。

「素質が有りすぎる猛者が多い。特に秋瀬 蓮水あきせ はすみ狩麻姉妹かるましまい……。術での力比べなら確実に劣る。そうなったら鬼束のフルパワーに賭けるしかない」
「狩麻姉妹って、あのゴスロリの双子かいな……」

 春平がそう言った時、橘の声がグラウンドを突き抜けた。

「作戦会議終了だー」



 外野に移動する桃眞に、漣季が下卑た笑い声をあげた。

「ダセぇ。ダセぇよお前。戦力外通告かよ」
「……うるせぇ」

 漣季チームの鬼は、メンバー内で一番非力な者の様だ。
 とは言っても、慎之介チームなら十分に活躍が期待できるレベルではある。

 漣季チームの内野では、帝の漣季を中心の前列四人、後列四人の陰陽師が菱形ひしがたの陣形で囲む。
 慎之介チームも、帝である慎之介を中心に菱形の陣形を形成した。
 前後左右からの攻撃に対する最もベーシックで順応性の高い陣形である。



 太極図が刻印されたゴムボールを手に、橘がコートの中央にある陰陽陣へと進む。
 陰陽陣の中心にボールを置くと、円陣の中の白い半円と、黒の半円が高速で回転を始めた。
 橘の合図でボールが空中に飛び、どちらかのメンバーが手にした瞬間に攻守が決まり、攻撃開始だ。

 一同がボールに意識を集中し、腰を低くする。

 菱形の先頭にいた一名が、陰陽陣の前へと歩み寄り、ジャンプへの溜めを作る。
 漣季チームからは、坊主頭の田丸。
 慎之介チームからは春平が前に出る。
 そして、二人が睨み合いをした。

「おどれ、ワシより先にボール奪ったらギッタンギッタンにしたるからのぉー」
「エセ関西人が。調子に乗るんじゃねぇ」
「エセちゃうわい。生粋の浪速なにわっ子じゃい」

 橘がホイッスルを吹くと同時に、回転するボールが真っ直ぐに飛び上がった。
 春平と田丸も飛び上がる。

 二人の手の平が空中で交差した。
しおりを挟む

処理中です...