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3,呪術系バトルドッジボール!!編

3-4「慎之介チームVS漣季チーム」前編

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 ボールを掴んだのは田丸だ。
 その途端に、コート中央の回転する陰陽陣がピタリと止まり、ボールを所持している漣季側に黒、慎之介側が白となった。
 つまり、攻撃側が黒で防御側が白となる。

 現在の攻撃側:漣季チーム
 現在の防御側:慎之介チーム


「おどれッ!! ワシよりも先に取りやがったなぁ」と空中で田丸を睨み付ける春平。

 地上では攻守が決まった途端に戦況が動き始めた。

「行けッ!!」と叫ぶ漣季の言葉と同時に、内野のメンバーが体操服の首元から呪符を取り出し、慎之介チームの内野に投げ飛ばす。

 慎之介チームの内野メンバーを一気に外野に葬り去り、防御を弱める為だ。

「皆、防御だッ!!」と叫ぶ慎之介の言葉と同時に、内野のメンバー全員が防御結界を展開した。

 金色の五芒星が浮かび上がる蜂の巣模様の円陣が、前方を埋め尽くす。
 呪符が防御結界に直撃し爆散した。
 衝撃で仰け反る慎之介チームのメンバー目掛け、地上に着地した田丸がボールを投げる。
 ボールに当たれば即外野行きだ。

 田丸が投げたボールは、空かさず前方を遮った春平に受け止められた。

「アホが」と不敵な笑みを浮かべる春平。

「ナイス春平ぇ」と外野から見守っていた桃眞が叫んだ。

 中央の陰陽陣の白黒柄が入れ替わる。

 現在の攻撃側:慎之介チーム
 現在の防御側:漣季チーム


「俺を守れッ!!」と漣季が叫ぶ。

 防御側のリーダーである帝がボールに当たれば即負けとなるからだ。
 それを聞いた内野側メンバーが防御結果を展開。

 春平にボールを受け止められた事で、虚を衝かれた田丸は防御に転ずるのがワンテンポ遅れた。
 そこに、春平が投げたボールが炸裂。
 田丸を外野に送る。
 衝撃で跳ね返ったボールが再び春平の手に戻った。
 この場合は続けて攻撃側となる。

「おぉー。流石だ春平ッ!!」と桃眞が春平のナイスプレーを称える。

「ウシャーッ!! ワシを舐めとったらアカンでぇーー。櫻子ちゃん見たかぁーー」と、振り返り雄叫びをあげる春平に対して慎之介が叫んだ。

「春平。気を付けろッ」
「何やて?」

 攻撃側には認められず、防御側には認められているルールがある。
 それは、防御側は中央ラインを超えて、相手の攻撃側陣営に侵入する事ができるのだ。
 春平が気付いた時には、四人の漣季チームメンバーが中央ラインを飛び越え、呪力を纏った拳を振りかぶっていた。

「こっちの陣地に入ってくるとはエエ度胸しとるやないかい。どっちが有利か教えたろやないか」
「ダメだ春平。パスを回せ」

 慎之介がそう声をかけたが、春平の耳には届いていない。

 ――(ダメだ。このスポーツはチームワークが重要なんだ。独断専行じゃ勝てない)と慎之介が心の中で呟く。

 漣季チームの内野に残った四人のメンバーが指で手刀を作り、唇に当てる。
 術を呟き、同時に地面を手の平で叩きつけると、土が盛り上がり地面を真っ直ぐに突き進んだ。
 それは、今まさに向かい来る敵に対して身構えていた春平の足元に食らいつく。

「おわっ。何やコレ?」

 盛り上がった砂が春平の脚に絡みつき、慎之介チームの内野に地割れを発生させた。
 一同がバランスを崩し、陣形が乱れる。

 中央ラインを飛び越えてきた漣季チームのメンバーの、拳や蹴りが春平の体に直撃。
 その弾みでボールを手放してしまった。

「しもたっ」

 ボールは空かさず漣季チームが奪取。
 この場合、陣地にボールを持ち帰ってから攻守が入れ替わる。

 ボールは漣季チーム内のメンバーへとパス。
 またも攻守が入れ替わる。

「最低だ春平ッ!!」と桃眞が春平にブーイング。

 現在の攻撃側:漣季チーム
 現在の防御側:慎之介チーム


 ひび割れた地面が元に戻り、ボールに当てられない内に春平が陣形に戻る。

「落ち着け。まだこっちの方が数では勝っている。落ち着いて作戦を練るぞ」と慎之介。
「せやけど、そないにゆっくりと議論してる暇ないで」

 春平の言葉に、チームメンバーが頷いた。

「恐らく相手は、次こそはボールを中々手放さない。攻撃側でいる時は帝は無敵だからな」
「やったらさっきのアイツらみたいに、中央ライン飛び越えてボールを奪いに行くしかあらへんって事かいな」
「いや、まだ方法はある」



 外野から戦況をじっと眺めていた桃眞は、退屈そうに手を頭の後ろで組んで片足立ちしていた。

「いいなぁ。楽しそうで。外野って暇だな」

 そう言いながら、少し離れた場所で談笑している女子チームに目をやった。
 男子チームの対戦を誰ひとり見ていない。
 全く別の話題で盛り上がっている様だ。

 その向こう側では、ベンチに座った皇と吉樹が、お茶とお菓子を食べている。

 吉樹は、狩衣の袖から取り出した縞模様の巾着を開け、ピンク色のドーナツを取り出すと皇に勧めた。

「どぞー」
「何ですか? コレは」
「吉樹お手製のスペシャルドーナツだよん」

 自慢気に紹介する吉樹に、ニコリと笑顔を返した皇。

「吉樹さん、お菓子なんて作れるのですね」
「まぁ、食べてみてよ。美味しいからさ」

 パクリとドーナツをかじる。

「どう?」と、吉樹が皇の顔を覗き込む。

「悪くないですね」
「でしょ。吉樹特製の人参ドーナツだよん」
「…………吉樹さん、吉樹さん」
「何だい? 浩美っち」
「私が、人参嫌いなの……知ってますよね?」
「うん」

 キョトンとした表情で頷いた吉樹。
 丸い眼鏡が太陽の光を反射した。

「何で入れたんですか? 人参」
「だって。美味しかったでしょ?」
「悪くないとは言いましたが……なんで嫌いなモノを食べさせるのか。いささか理解に苦しみます」

 そう言うと、皇はほうじ茶をゴクリと飲んだ。

「浩美ッチの健康の為だよ。嫌いな食材でも調理次第では気付かれずに食べて貰えるって事さ」
「気持ちは嬉しいですが……別に今じゃなくても」


「で。浩美ッチにはどう見える? 一年生の動き」

「うーん。そうですねぇ」と皇は、顎をさすりながら思案を始める。

「だいたいこんなモノじゃないでしょうか。法力の差はあれど皆さん素質は十分あると思いますよ」
「だよね。僕もそう思うよ」



「おーい。ビビってないでかかって来いよ。雑魚ども」と漣季が挑発を始めた。

 ボールを奪いに、陣地に侵入してくる事はお見通しだと漣季がほくそ笑む。
 それは相手にとってチャンスではあるが、同時にピンチでもある。
 ボールに当てられる危険性もあれば、術で倒されてしまう可能性もあるからだ。
 どちらかと言えば、侵入は分が悪い。

 慎之介チームは、菱形の陣形から微動だにせず、漣季チームの出方を伺っていた。
 全員で連携すればガードは崩され難いが、逆にいつまでも攻守が入れ替わらない。
 個の力では、確実に漣季チームの方が上である。
 であるならば、戦況をひっくり返すには意表を突いた作戦が必要不可欠である。

 そして、その作戦は既にチーム内で共有できている。
 あとは…………。
 慎之介が外野にいる桃眞を見た。

 ――(鬼束には作戦を伝える事が出来なかったが。頼む……気づいてくれ)

「作戦開始だ」

 慎之介がそう言うと、菱形の陣形が変化した。
 今までは、帝である慎之介を守る為の陣形だったが、コレはそうではない。
 メンバーが二列となり、中央の慎之介が丸見えだ。
 まさに無防備である。

 その光景に、漣季達は訝しげに眉を潜める。

「何の真似だ? 降参か?」

 そう思ったのは、桃眞も同じだった。

「ありゃりゃ。俺の出番無しかよ」

 そして、次の行動に桃眞は目を疑った。
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